予想外に迷惑をかけてしまったパグ崎君は、女の子のお願いを聞くお礼行脚の旅に…
パグ崎君メモ、パグ崎君にも性欲はあるものの生徒達は守る対象でそういう対象として見ていない。なので甘える子は勝利に遠く、押せ押せの子の方が勝利の可能性がある。さて、今回の子達はどのタイプ?
「今のところ順調ですね」
ヘルメットを被ったリン君がそう言いながら一息つく。目の前に広がるのは建築途中の高層ビルに大量の重機に働く人たち。
原作でもそうだったが、色彩によって特に被害を被ったD.C地区は壊滅的な状況だった。そのため修復するよりも新たに作る方が効率的だったため、現在D.C地区は建造ラッシュなのだ。キヴォトスのよく分からない作業効率で復興は進んでいるんだけど、それはそれで問題があって。
「それにしても、まさかカイザー相手にあそこまで要求を飲ませるとは。パグ崎外部顧問、先日の問題を帳消しにはできませんが大手柄ですね」
「いや、そこは素直に褒めて欲しいんだけどね…」
復興するための大きな問題、それはそれを最速で行えるのがカイザーしかなかったことだ。元々グレーで色々問題のあるカイザーだったが、最終編での行動は大きな問題となった。連邦生徒会の物理的な掌握に暫定トップだったリン君の拘束。普通に考えて免許剥奪や諸々で倒産は免れないはずなのだが、裏で繋がっているカヤくんの陳情や巨大企業故の失業者の問題などもあり責任を追及できないでいたのだ。
だけど、
「褒めてはいますよ、私たちでは出来ない視点での落とし所を探る。今回はそれに助けられましたから、その能力をいつもは何処でお使いになっているか気になる所ではありますが」
「ははは…」
俺は1%の称賛と99%の追求に苦笑いしながら、あの時のことを思い出す。
※※※
「我々も騙されていた被害者だと思うのだが?」
「そ…いえ、続けてください」
その言葉と表情に全く悪びれた様子のないプレジデント、その言葉に反射的に言葉を返しそうになるリン君の袖を引いて自制させる俺。
今は今回の件でのカイザーの責任について会合が行われているのだけど、ハッキリ言ってアチラが優勢だ。連邦生徒会的にはカイザーに責任を取らせ、ブラックマーケットの主導権まで手に入れたいと思っているのだろうけど。それはあまりにも欲張りすぎなんだよね。
前々から思っていたけど、今の連邦生徒会の子達は0か100に近い判断で物事を決めることが多すぎる。キヴォトスの中心であると言う驕りなのか、それともまだ未熟な子供だからなのか。交渉で言う妥協や駆け引きがあまりにも無さすぎるのだ。
だからこそ、俺という実力不足がここに居られる理由でもあるんだけどね。
「被害者だとしても、あなた方は我々に被害を及ぼした。しかもプレジデント、貴方の直属のジェネラル殿がだ。これについての責任はあるのでは?」
「…確かに、だがアレはジェネラルの個人的な判断によるものだ。そして、我が社として彼には処罰を下している。それ以上何を求めるのかな、パグ崎外部顧問?」
「貴方が言うように個人の暴走だとして…それで被害者は納得しますかね?それに自分の直属すらもマトモに制御出来ないとお認めになられるのですか、プレジデント?」
「…」
プレジデントからの視線に鋭さが増す、甘い甘いこちっとら常日頃からリン君やアオイ君に睨まれまくりなんだ。その程度の睨みでビビるもんか…あのリン君、なんで俺の太ももを抓るのですか?
「ならば我々にどうすればいいと言うのかね?確かに行動に問題が有ったとしても我々も被害者だ、責任の全てを我々に負えなどと言う非道な事は言うまいな?」
「確かに、なのでペナルティは負って貰わなければ納得はしないでしょう」
「連邦生徒会がかね?」
「いえ、キヴォトスが。それ以上にあなた方の商売仇がね」
「…ちぃ」
※※※
「カイザーを解体などは出来ませんでしたが、建築費用などはほぼ儲けなしでカイザーが受けることで今回の禊。更に下請けなど他の企業にも振り分けすることを義務付け、更に…」
リン君が視線を向ける先には、汗水流し労働に従事する生徒の姿。
「不良生徒などを労働力として雇うとは、細かい点で言いたいことはありますが。パグ崎外部顧問、今回の件はお見事でした」
「後は資材や資金の流れをチェックすれば不正は防げると思うしね、まぁこれが今のベターな選択だと思うよ」
不良生徒を雇うことにリン君たちから反対意見もでた、彼女達に資金を渡せば装備を整え被害が拡大すると言う意見だ。まぁその意見は珍しく俺の反論で消失した。そんなことしなくても、何処かで企業とかが横流して問題になるのだ。アビドスで既に起こったことだ。
それに、彼女達は元は学校に通っていた生徒たちなのだ。そんな彼女達が諸事情で学校を辞め、非行に走ったのは一重に経済的な問題が大きいだろう。衣食住足りて礼節を知ると言うが、更に悪い大人がそれに乗じて騙そうとするのだ。一度踏み外したらそう簡単に抜け出せなくなる状況を放置している状態なのだ。
だからチャンスを与えないといけない、今回のことで労働による資金を稼ぐ実績を与え、更に転籍を含めた学校への復帰を手助けする人員も用意した。これで全てが解決するわけじゃないけど、こういう実績は連邦生徒会も積み上げないといけないんだ。そこら辺がね…ホント評判悪いんだよ。
これで一息つける、はずだったんだけどね…
「それではパグ崎外部顧問ご苦労様でした、分かっていると思いますがご自分のお立場を十分に理解した節度ある行動を心がけてくださいね」
「いや、リン君。私を何だと思っているのさ…」
「分かっているから注意してるのではないですか、私だって仕事がなければ(小声)」
リン君に小言を聞きながら俺は今後のスケジュールを考えてため息をつく、これから数日俺はお礼行脚でキヴォトスを駆け回らないといけないのだ。
※※※
自由気ままに駆け回る子もいれば、気持ち良さそうに寝転がる子。ここにいる猫達は幸せそうに自由を謳歌している。その姿に心が癒されながら注文していたカプチーノを飲む、騒がしい毎日に…
「えーと、カヨコ君?」
私の思考を遮るようにパグ崎のおじさんが声をかけてくる。
「何?おじさんも飲みたいの?」
「いや、そうじゃなくて…この体勢どうにかならないかな?」
おじさんに言われ今の体勢をもう一度確認する。私は人をダメにしそうなクッションにおじさんを抱き抱えながら座っている。
「…何も問題ないね」
「いや問題だらけだよ!」
そう言われてもこの時間はおじさんが私の要望を出来る限り叶えてくれると約束した時間なのだ。その発端はあの事件が解決し、そのご褒美を浦和ハナコがおじさんに強請ったことだった。おじさんは少し困り顔で了承し、ハナコ以外にもお願いを聞くと言い出してその場空気が一変した。一部の子達は遠慮して逃げ出したけど、主席行政官にノノミ、美食研にミレニアムの生徒会長は目が変わった。そしてそこから始まる主導権争い、一度は決着寸前まで行ったのにC &Cや風紀委員長、正義実現委員会の奴まで話を聞きつけて乱入してきたせいで更に大揉めになった。
多分話を持ち越ししたら更なる参加者が出てたかもしれないと全員が理解していたのか、牽制をしながらも早期に決着をつけることができた。
そうそれが今日、私は1番最初の権利を手にしたのだ。
「おじさんはいつも頑張り過ぎなんだし、今日ぐらいは休むべきだよ」
「いや、休みはとってるよ。それに今日はカヨコ君へのお礼で」
「なら、今のままを維持して」
「…はい」
我ながら安易で少しおバカな行動だけど、こうしているとおじさんが無事に帰ってきてくれたことを実感できるのだ。こんな小さい体でおじさんは人の何倍も頑張っている、それと同時にその何倍も危険な目にも遭っているはず。今回の様に命に関わることも何度も有ったはずだ。危ないことはやめてほしい、そう思うんだけど多分おじさんはやめないだろうし、無理にやめさせてたらおじさんはおじさんじゃなくなる気がする。
「おじさんはさぁ…」
「何かな、カヨコ君?」
「…ううん、何でもない」
おじさんは誰かの幸せのために頑張っている、ならおじさんの幸せって何なんだろう?それを聞こうとしてやめた、多分聞いてもはぐらかされそうだし。おじさんにとって私、いや子供は守る対象だから今のままじゃ駄目なんだろう。
でも一年もしないうちにその対象から私は外れる、ならその時は…
ねぇ、おじさん。大人になる覚悟を決めた責任はとってくれるよね?
※※※
「委員長、今日はご機嫌ですね。何かいいことでもあったのですか?」
「そんなことはないけど…」
アコの言葉に動揺しそうになった心を取り繕い返事を返す、いい事はこれから待っているのだ。だから今日はどんな手を使っても早く仕事を終わらせなければいけない。
なのに、
『緊急連絡、温泉開発部が無許可の採掘を始めています。数が膨大で至急応援を!』
「委員長!」
なんでこんな日に限って、でも仕事はしないいけない。だけど…ならば。
ダン
「…問答無用で速攻で鎮圧する」
「…い、委員長?」
私は銃を片手に執務室の窓から飛び出す、私の癒しの時間は絶対に守ってみせる。
問題児を無力化し、書類整理を終わらせた私は小走りで自分の部屋へと向かう。いつものただ寝るだけのことが多い静かな部屋だけど、今晩だけはそこには暖かく優しい匂いに包まれていた。
「た、ただいま」
「お帰りなさい、ご苦労様。今日も大変だったみたいだね」
エプロンを着たパグ崎のおじさんが優しい笑顔で迎えてくれる。そうこれが私がおじさんにお願いしたこと、前におじさんが部屋に来てくれた時は私は怪我をしていたし、それに作ってくれたおかゆは半分以上冷めてしまったから。
おじさんが今回のことでお礼をしたいと言ってくれたから、勇気を出してお願いしたら笑って受け入れてくれた。時間の制限もあって夕飯だけになったけれどそれでも嬉しい。
「夕飯はもうちょっと時間がかかるけど、お茶でも飲む?」
こういう時どんなアピールをすればいいんだろう?私は小柄であまり男の人にとってあまり魅力的ではないだろうし…そういえば、前に不良から押収した漫画に…
「えっと…その…先にお風呂に入るから…」
恥ずかしいけどそう言うと、
「あっ、そうか…そのごめんね。うん、時間はその調整するからゆっくりでいいからね」
少しは意識してくれたかな?
お風呂から上がり、おじさんが用意してくれた夕飯を食べる。ちょっと恥ずかしかったけど、前みたいにあーんと口をあけおねだりしたらおじさんはしょうがないねと苦笑しながら食べさせてくれた。
おじさんと出会うまでは誰かに甘えるなんて想像もしていなかったけれど、おじさんはそんな私に優しく甘えさせてくれる。おじさんがいるからまだ頑張れる、だからおじさんが攫われたと聞いた時は怒りで狂いそうになった。
私の支えを居場所を奪うなんて許せない、すぐにでもおじさんを救いに行きたかったけれど私の実力とアコ達の頭脳から導かれた私の役割は救出ではなかった。でもそれがおじさんを救う最善だとして我慢した、だからもう少し甘えてもいいよね。
「ねぇ、おじさん。私が眠るまで頭を撫でて貰っても…いいかな?」
「構わないよ、いい夢が見れるといいね」
おじさんの手が心地よくてもう少しお話したかったのに、私の意識は静かに落ちていった。
私が眠りにつき見た夢は、お気に入りのおじさんのぬいぐるみを抱きゆっくりとした時間を過ごすものだった。ただ…いつもより人形が暖かくて抱きご心地が良かった気がしたんだけど…あの人形は何処かに売ってないかな?
「…や、やっと抜け出せた。あーまた手が…えっとはい、代わりのこれを抱いて」
※※※
「やっと来たっすね、おじさんこっちっすよー」
今日は待ちに待ったおじさんと過ごせる日、何処に行こうか色々悩んでいたんっすけど。
「やぁイチカ君お待た…ってなに?」
おじさんが近くに来た瞬間不快な匂いを感じ、ちょっと失礼承知で鼻を鳴らしおじさんの周りを一周する。確かに感じる、微かだけどおじさんとは違う別の女の匂いが。
おじさんはそういうエチケットはかなりしっかりしている人っす、そんなおじさんが匂いを隠しきれていないと言う事は…
「おじさん、今朝はどちらに居たっすか?」
「えっ!?今朝は、昨日帰りがちょっと遅くなってね。睡眠確保のために余裕のある範囲内で家に居たよ」
おじさんの言葉に嘘はないだろう、確か昨日の割り当てはゲヘナで最後は風紀委員長と会っていたはず。まさか風紀委員長と…いやおじさんは朴念仁でまともの性癖の持ち主っす。何処かの生徒の足を舐めたりする異常性癖者とは訳が違うっす。ならあの堅物そうな風紀委員長が何かしたってことっすか。それに私の次は、あの変態が控えているのもあるし。
「おじさん、時間も惜しいので行くっすよ」
「えっ、ちょっとイチカ君。惜しい気持ちは分かるけどって…なんでみんな私を持ち上げるかな」
勿論、それは縄張りの主張っす。
「えっと…流石にこれは似合わないんじゃないかな」
試着室から出て来たおじさんは、いつもと違う若者ファッションを纏っていた。自分でも微妙とは思ったけど、オシャレは色々試すのもんすから。まずは1番遠いところから攻めて見たっす。
「んー流石に攻めすぎっすかね。なら次はこっちっす」
次はもう少しシックな服を渡しおじさんを試着室へと押し込む。あの堅物そうなゲヘナの委員長が攻めて来たっす、その前の便利屋の人も色々考えてそうで油断はできない。ならこっちも趣向を変えて攻めるべきっすよね。
おじさんは大半の時間を私たち生徒に振り向けてる分、自分の事は最低限なとこがあるっす。なら身の回りを私の色に染めるのも難しい事じゃない、少ないから埋めるスペースはある。だけどそのスペース有限で早い者勝ち、なら他の相手を待つ必要なんてないっす。
「んーこれはいい感じかな、でも色的に黒ばかりってのも」
「!?」
試着室から出て来たおじさんは、黒のスーツに黒の帽子。まさにちょい悪ファッション、そんなおじさんに思わず衝撃を受けたっす。確かに色は何通りか考えたけど、やっぱり私がいつも着てる制服が黒なんでそっちに寄せてみたっすけど。ありっす、大ありっす。
そうなると、あとは小物っすね。ここは差を見せつけるために、トリニティ感を出すのがいいすね。後、それに…
「えっと、お手柔らかにお願いね」
おじさんを私好みに染め上げて見せるっすよーーーー
※※※
「えっと、時間は…」
もう何度目か、数えるのも忘れるくらい時間を確認する。約束の時間まで1時間をきっている。私は緊張を隠すように、これも何度となく見た手鏡で自分の顔をチェックする。
うん、いつも通り問題ない。なのに、落ち着かない。パグ崎さんにおねだりして、少し困らせようと思っただけなのに。
あの時はそう思っていたのに、その日の夜に気づいてしまった。これってデートなのでは?いや、相手はあのパグ崎さんですよ。でも意外とパグ崎さんを慕う子は結構いるし、それに年齢差があるとはいえ、愛にそんな物は関係ないと本などには書いてありましたし。それに私、今までにデートの経験が…。
そんな考えに振り回されぱなしで、今日まで準備をしてはやり直す日々だった。後、もう少しでパグ崎さんが来る。大丈夫、いつも通りの冷静に。あの人を一杯困らせていればいいんだ。
「あっハナコ君、待たせてしまったかな」
突然のパグ崎さんの声に心臓が跳ね起きる、私は冷静を装い顔をあげ…
「いえ、私も来たばかり…」
私の前に立っていたパグ崎さんは、いつもと違うシックな大人の装いで。
「今日はとてもオシャレなんですね…」
「あはは、少し気合い入り過ぎたかな」
ええ、そうですね。とてもよく考えた装いでとてもお似合いですよ、ねぇイチカさん。ご自身が着せたいスタイルでここまでコーディネートするのは大変でしたでしょうね。
今まで自分の中にあった熱が一気に冷めていくのが感じる、これはなんでしょうか。あーそうかこれは、挑戦状を叩き付けられたことに対する怒りなんですね。自分の物を貸してやる、そんなことなんでしょうか。ええ、いいでしょう。貴方がその気なら私にも考えがあります。
「今日は楽しみにしてたんですよ、覚悟してくださいね」
「あはは、お手柔らかにお願いするね」
「どうですか?」
私は試着室のカーテンを開けパグ崎さんの前に立つ。
「んーハナコ君には珍しくシックな色合いだけど、やっぱりハナコ君には明るい色が似合うかな」
「そうですか、それじゃ次はそちらから探してみましょうか」
私はそう言ってカーテンを閉める、私からしてもこの色合いは選ぶ方じゃない。そしてパグ崎さんは質問すればちゃんと答えてくれる人だ。だから、まずはこの色を試した。次に選ぶのは私に似合う色、そして最後は私に着せてみたい服を選ばせる。
イチカさんはパグ崎さんをコーディネートして自分の物だと主張したいみたいだけど、パグ崎さんはこれで結構強かだ。だからパグ崎さんの好みをしっかり把握するのだ、だけど染まるわけじゃない。それを使いこなしてパグ崎さんの視線を独占するのだ。
「うん、とても可愛いよ」
その目論見は成功した、最後に選んだ服を着てパグ崎さんはとてもいい笑顔で私を褒めてくれた。でもまだ終わりません、1番重要な好みを把握していませんから。
「じゃ、次に行きましょうか」
「次は何処に行くのかな?」
ええ、それは勿論。
「ランジェリーショップですよ!」
※※※
今日はおじさんと過ごせる日、そうだったのに…
「いらっしゃいませー」
入って来たお客にカウンターから声をかけるおじさん、そしていつもと違うメイド服を着て接客を始める私。
おじさんが合流してさぁ出かけようとした時に緊急の任務が入った、最初は誰かの妨害かと思ったんだけど。全く関係のない事案で、運の悪いことに他のC&Cのメンバーが他の任務に出ていて私に連絡が来たらしい。断りたい、折角のおじさんとの時間なのに。でも任務は大事で、これを放置するのは問題で。
そんな板挟みの私におじさんは、
「それじゃ私も手伝おうか」
そう言ってくれた、そして私とおじさんは違法改造銃の売人がやってくるという店に店員として潜入することになった。いつもと違うメイド服で少し恥ずかしかったけど、おじさんが褒めてくれたので良しとしよう。
そして、意外だったのがおじさんのカフェマスターのハマり具合だ。
「どうぞ、ダージリンです」
自然な動きで紅茶をいれ提供する姿は、熟練のカフェのマスターに見える。そう言えばおじさんは学生の時色んなアルバイトを経験してたっけ、多分こういうバイトもしていたんだと思う。
それによく考えてみたら、この状況は…その…ふ、ふ…家族で経営する喫茶店みたいな感じでいいかもしれない。
私がおじさんと言ったのを聞いたお客さんも、
「マスターやるね、こんな可愛い子をゲットするなんて」
うん、いい事言うお客さんだ。見る目がある。
「ははは、可愛い子には違いないですけど。私には勿体無いというか役不足ですよ」
そんなことはないのに…
おじさんは優しくて私のことを理解してくれてるけど、恋愛に関してだけは鈍ちんだ。もっとアピールをした方がいいんだろうけど、おじさんの中では私は昔から知っている女の子のイメージがこびりついてるだろうな。…結構育ったのに。
そんな悶々な気持ちで行った潜入捜査だったけれど、売人は呆気なく確保することができた。でもその時間は結構かかり、これから何処かに行くほど時間は残っていなかった。
あ〜あ、折角のおじさんとの時間だったのに。そんな時、甘い匂いがしているのに気づく。
よく見ると、おじさんがキッチンで何かを焼いているようだ。あれは…
「今日は大変だったね、はいこれは私からのご褒美」
そう言って私の前に置かれたは綺麗に焼けたパンケーキとハーブティー。…そういえば子供の頃おじさんにおねだりしたことあったけ。
「あの時は焼き具合が微妙だったよね」
「そうだね、あれから何度も練習してマトモに焼けるようになった時には、カリンくんの方が上手くなっちゃったんだよね」
あの事は今も覚えてる。不器用なおじさんが四苦八苦してるのがおかしくて、途中からは見てられなくて一緒に何度も練習したんだよね。そして、どんどん上手くなるのが嬉しくて、そしておじさんと一緒に食べて美味しいと言って貰えるようになって。
そうだよね、私の夢はいつもおじさんと一緒にあって、そしてこれからも。
「ねぇ、おじさん。これからも一緒にいてくれるよね」
「そうだね、カリン君がお嫁さんに行くまでは必ずいると思うよ」
うん、それは大丈夫。だって私をお嫁さんとして貰ってくれるのは…
※※※
薄暗い部屋、壁には無数のモニターがあり、その片隅に一部生活に必要な最低限の設備があるだけの寂しい部屋。前はそれに何も感じなかった、それにやらなければならない事があったから、その感じるはずのない気持ちの名前さえも気づかずにいた。
だけど今は、
「…おじさん」
今私はベッドの上でおじさんの膝に頭を乗せ撫でて貰っている。
何かの衝動に駆られもぎ取ったおじさんとの時間、だけど1つ問題があった。今の私には外を出歩くには問題がある。ミレニアムは問題外だし、区外でも私を知ってる人間はいる。だからおじさんをここに招待した、ただ何をすれば。
こういう時何をすればいいか知識はあるけど、経験はない。部屋に男女がいるわけで、もしものこともあるかもしれないけど。おじさんはそんな人じゃないし、それにもし何かあったしてもそれは…その、ね。
だからおじさんにお茶を振る舞った後、おじさんがベットに腰かけ横に座るように促された時はドキッとしたわ。まさかおじさんがそんな、嫌悪感はなかったけれど今まで1番ドキドキしたのは間違いないわね。
でも、
「リオくん、今回の件。ありがとうね」
そう言って頭を撫でて褒めてくれる。ベッドに座った私におじさんは自分の膝をポンポンと叩く。その意味をよく分からなかったのだけど、おじさんが。
「褒めてあげたいから、私の膝に頭を乗せて貰えるかな?」
そう言ってやりたい事は分かったけど、理解はまったく出来なかった。なんで褒めるのに膝に頭を乗せないといけないのだろう?でもおじさんの言う事だから何か意味があるんだろうと、その小さな膝に頭を乗せた。
そして、
(まずい、まずい、まずい)
私は人生の中で1番のピンチを迎えている。おじさんが頭を撫でてくれる手はとても優しくて、かけてくれる声は耳から脳に入り幸せホルモンの分泌を最大量にしている。そして感じるおじさんの体温はとても暖かくて、心臓と…その下腹部に温かい熱を生み出してくる。
いけない冷静になるのよリオ、私にはやらなければならない使命が。アリスや他にも迷惑をかけた人に償いを…
「君は許されていいんだ、アリス君もそうだしユウカ君やノア君も君を心配している。だからね、リオ君。君は幸せになっていいんだよ」
あ〜駄目〜もう無理〜私、おじさん無しじゃ生きられな〜い
※※※
生きることは辛いこと、この世の全てに意味はなく、全ては虚しいだけ。
「はむはむむ…おいひ、こんな幸せ。今日が私の命日になるんじゃ」
「美味しいね、でもまたさっちゃんは食べ損ねたね。人の話聞かないから…」
隣で勢いよくご飯をかき込むヒヨリに、綺麗に食べてるけど箸は止まることのない姫。ほんと全く完全に餌付けされてる、そんなんじゃあの大人に言いように使われるだけなのに。
「ミサキちゃん、その高菜のお漬物を…」
「ダメ!」
「あぅ〜」
これは労働の対価として私が勝ち取った物、ヒヨリはヒヨリで貰ったものがあるんだから。
全く、ヒヨリを制した私は長めに切った高菜の漬物にご飯、その上に昆布の佃煮を乗せて丸める。そしてそれを一気に齧り付く。これがあの大人の作ったものなのが少し減点だけど、味としては悪くない。
「ミサキはおじさんの高菜が好きだね」
「そんなことはない、ただ生きるには食事が必要なだけ」
「そ、そうなんだ」
そうこれは仕方がないこと、サオリ姉さんはまた自分探しに出かけたし。ヒヨリは放置できないし、近頃は姫もなんかあちらこちらで動くから目が離せない。早くこの苦痛の世界から解放されたいのに、人生はなんてままならない。
「ねぇ姫ちゃん、ミサキちゃんの後ろの大量の漬物壺。あれ全部食べるんでしょうか?」
「流石に無理じゃないかな、一応おじさんが保管場所は確保してくれてるみたいだから。傷むことはないと思うけど」
「でも、すでに一つ空けちゃいましたよ」
「…また今月の食費が嵩むな〜。おじさんにいい仕事紹介して貰った方がいいかな?」
姫とヒヨリが何か話しているけど…あ〜ほんとこの世はなんて虚しい事ばかりなんだろう。
「…次は食べるラー油を」
「昔のミサキちゃんよりはマシですが、今は今で目が離せないですよね」
「うん、だけど大丈夫。何かあればおじさん呼べば何とかなると思うし」
あ〜どうしておにぎりはこんなに美味しいのだろう…
※※※
「ふんふ〜ん」
「ご、ご機嫌だね、ノノミ君」
隣で歩くおじさまが私に語りかけてくる。当たり前じゃないですか、今日は待ちに待ったおじさまとのお出かけの日なんですから。おじさまの時間争奪戦に参加したまでは良かったけれど、イチカさんに出鼻を挫かれ、カヨコさんやリオさんの知略に押され気づけば順番が最後になってしまいました。ですが残り物には福がある、それにおじさまを思う気持ちは誰にも負けていませんし会う時間もリンさんには負けますが多い方ですから。
そんな私がおじさまにお願いしたのは、普通にデートをすることです。多分、先におじさまにお願いをした人たちは自分の欲望に任せたお願いをしていたでしょうが、甘い甘過ぎます!おじさまはしっかりとされていますが、適度な甘えには普通に答えてくれる方なのです。そんなおじさまに甘えたところで、それは自分をまだ子供だと言うイメージを強固にさせてしまうだけ。ですから、私は大人のデートを演出して。もう子供ではないとおじさまに分かって貰うつもりだったのですが…
「こ、これは…」
最初にウィンドショッピングをしていた時に、イベント会場で開かれていたフリーマーケットでそれに出会ってしまったのです。
「企画した会社が謎の組織の襲撃によって立ち消えした、トレーニング用パ○崎君人形!?」
「えっ、何それ!」
限定数20で販売された等身大パ○崎君人形を皮切りに、パ○崎君目覚まし時計やキーホルダーなど全て数量限定で入手困難な物の中で、企画中に頓挫してしまい噂ではテスト品が1セットだけ存在したと言うトレーニング用パ○崎君人形がこんなフリーマーケットに出品されているなんて。これは是が非にでも手にれなけばなりません。
すぐに値段交渉に入ったのですが、
「お前さんに、これを買う資格はあるのかい?」
この人はこの商品の素晴らしさを理解している!?それなのにこれを手放すと言うことは…資金が必要?いえ、それならばもっと値段を釣り上げようとするはず。資格…そうパ○崎君シリーズを何故求めているか…それは愛。好きでも推しでもない、愛があるからこそそれを手にしたいと思うのです。いいでしょう、その勝負受けて立ちましょう。
そして、その熱き戦いは…
「いいだろう、この商品への思いしかと感じた。これはお前のものだクイーン」
「こちらこそ、貴方の思いも全て私が受け継ぎましょう」
店主と握手し健闘を讃えあう、私は1段階高みへと上り詰めたのです。
「いや、全く何のことか分からないんだけど!?」
と予想外のことが起きましたが、気を取り直してデート再開です。と言っても特別変わったことはしません、おじさまとお出かけするのは初めてではありませんし。お互いの好きなものを一緒に見て回ったり、新しく興味を持ったことを2人で分かち合ったり。そういう積み重ねが大事なんだと私はおじさまから学びました。
昔おじさまが言っていました、これからのことを考えるのも大事だけど今も大事にして欲しいと。借金を返すことに追われている私たち、少しでも学生らしい生活を送れように支援してくれるおじさま。そのおかげもあって、前よりもみんなの笑顔が増えた気がします。
でも…私は一度だけ見たことがあります。おじさまが何処か遠くを見つめている姿を。
その時のおじさまは、いつもの頼り甲斐のあるおじさまではなく。何処か弱々しく、今にも崩れ落ちそうな雰囲気で…
あの時は、なんでそんな目をしてるのか。何を思っていたのか。でもこの前の事件で同じ目をした人を見ました、別の世界のシロコちゃん。あの人の目は、あの時のおじさまの目と一緒だった。そしてホシノ先輩が言っていた、昔の私の目と一緒だと。
つまり、おじさまは亡くした誰かを思い出していたのかもしれない。でも誰を?おじさまはまだ心に傷を負ったままなのでしょうか?
話して欲しい、そう思うのは私の我儘なのでしょうか?そしてそれを話して欲しいとおじさまに伝えるのは怖い、今の関係が壊れてしまうかもしれないから。おじさまを傷つけてしまうかもしれないから。
だから、その不安を打ち消すように私はおじさまの隣にいます。おじさまを守れるように、もっともっと幸せになって、おじさまをそれで包んであげたいから。
「ねぇおじさま」
「なんだいノノミ君?」
「…ふふふ、なんでもないです」
いつまでも一緒にいてくださいね、私を置いて何処かに行かないでくださいね。
※※※
これ以外の湿度メンバーは?
カズサ、情報を手に入れるのが遅れ争奪戦に参加できず。落ち込んだものの、それを見たアイリがパグ崎君に連絡したことで、一緒にスイーツ巡りをすることができた。
百鬼夜行の子、ストレス爆発させスッキリしたところ争奪戦があったことを聞いてまたストレス増。素直じゃないことが原因でパグ崎君に電話をするかしないか未だ葛藤中。
山海経の商会の子、漬物指導をお願いした、近々くる約束を取り付け商会メンバーも大喜び。
山海経の偉い子、妾が呼び出すにはそれを相応の理由が必要じゃろ?一つ貸し、まぁ妾の貸しは軽いものではないぞ?
ハルナ、おじさまが全霊を込めたお漬物を漬けて頂きました!
アオイ、私は今回は関係ないもの…(パグ崎君にハーブティを強請りました)
リン、いいご身分ですねパグ崎外部顧問(素直におねだりできないリンちゃん、帰ってきたパグ崎くんを残業に付き合わせました)