今回は幕間としてハルナとおじさんの出会いの話。
一部飯テロがありますのでご注意ください。
パグ崎君メモ、パグ舘漬物店の従業員は知り合いの某狂犬が推薦しハルナが教育して、パグ崎君の漬物に感銘を受けた元スケバン生徒達。
無料ガチャ、2日連続ですり抜けカリン。そこで主張するのはやめて…
「ん〜格別ですわ〜」
お漬物をおかずにご飯を頬張る、この幸福のために生きていると言っても過言ではありませんわね。
「それにしても貴方も好きよね、まぁその道楽で私も助かってるんだけど」
私の前に座るフウカさんがそう言ってくる。
おじさまのお漬物、それ単体でも至高の一品ですがそれでも食べたくなるのはご飯でしょう。そしてそれにお味噌汁と焼き魚があれば最高と言うもの。おじさまは残念ながらお漬物とおかゆ以外は苦手なそうなので、私が知る中で1番の料理の腕を持つフウカさんに協力を依頼したのですが問題がありました。
給食部の設備があまり褒められた物ではなかったのです。少ない部費でやりくりしているのでしょうがないと言えばそうなのでしょうが、おじさまのお漬物と並べるにはこれでは不十分。なので、おじさまから取り分と強引に渡された資金を使い給食部の設備を一新。こうして一月一回の至福の時間を手に入れることができたのです。
ナスのお漬物を一口、少しはしたなくはありますがご飯を。口に広がる至福の饗宴、しっかりと味わい咀嚼した後は余韻が惜しい気もしますがお味噌汁を。豆腐とわかめのシンプルなお味噌汁ですが、流石はフウカさん。しっかりと取られた出汁がお味噌をしっかり受け止め残っていた余韻を引き立たせ最後まで楽しませてくれる。
ほっと一息ついたところで、口直しにかぶのお漬物。かぶの甘さを塩が引き立て口の中が爽やかさに包まれます。
そして、焼き魚。今回は塩鮭、厚みのある身が塩をしっかりと受け止めた一品。箸で切り取り口に入れると塩味が丁度いい脂の乗った鮭の旨さをしっかりと引き立てているのが分かります。これはまさにご飯のために生まれてきたも同然、そのままご飯を口に入れ楽しむ。
そして今度はきゅうりのお漬物を…
「ふぅ〜ご馳走様でした。至福の時でしたわ」
楽しい時間というのはあっと言う前に過ぎて行くもの、用意された食事は綺麗に完食し残っているのはお茶とお茶請けのパパイヤのお漬物。他のメンバーもアカリさん以外は食べ終わったご様子、ちょっとアカリさんゆかりは多めにあるとは言え規定量以上はダメですからね。
「それにしてもお漬物一つにここまで拘るの?確かに美味しいのは認めるけど」
フウカさんは私にそう聞いてきます、パパイヤのお漬物を食べお茶を飲む。
お漬物一つですか、確かに周りから見ればそうかもしれませんね。
「確かにフウカさんの言う通りこの世界には美味しい物は沢山あります、でも私にとってこのお漬物は美食の原点であるのです」
そう私の美食道はこのお漬物と出会って始まったのです。
※※※
おじさまのお漬物と出会ったのは私がまだ中学の時でした。
その時の私にとって美食と言うものは、高級な食材を腕を持ったシェフが最新の機材を使って調理する物そう考えていました。実際それらの料理は大変素晴らしく私はそれが正しいと本当に思っていたのです。
ですが、それを根本的に破壊する出来事が起こったのです。
「暑いし、今日は最悪ですわね」
その日私はアビドスに赴いていました、珍しい素材を取りたてで食べる食事会に参加したのですが突然の砂嵐で中止に。しかも砂嵐の影響か車が壊れ最寄りの駅まで歩くことになったのです。
後少しで駅に着くと言ったところで一つの香りが漂ってきました。そこに目を向けると、
「らーめん…確か安価な食材を使った麺とスープの料理でしたわね」
今は違いますが、あの時の私は確実にスルーするカテゴリの料理でした。ですが食事にあり付けなかったための空腹と歩き疲れたこともあって、味は二の次と自分を納得させ入ることにしたのです。
「おう、らっしゃい」
その店は飲食店としてそれなりに清潔感を保っており、一応問題はないように見えました。
「えっと、私こういうお店は初めてなのですが。シェフ、ここのオススメは何になりますか?」
「あはは、シェフなんて俺はそんな行儀のいいもんじゃないさ。みんなからは大将って呼ばれてるかそう呼んでくれ。んでオススメなら、うちの看板メニューは柴関ラーメンさ」
シェフもとい大将が見せてくれたメニュー表にそのラーメンはありました、その時はラーメンに詳しくありませんでしたがとてもスタンダードなラーメンでした。私は期待もせず、
「それではそれを一つお願いします」
「あいよ、柴関ラーメン一丁!」
景気の良い声が響きます、そして運命はやってきたのです。
「はい、これお通しね」
「これは香の物?」
「また渋い言い方だね、これはある意味でうちの看板メニューの一つでね。すまないが数に限りがあるから食べ放題じゃないんだ」
私の前に置かれたお漬物、きゅうりに大根それににんじん。とてもシンプルなもの、これが看板メニュー?この店の底の浅さが見えるそう思いました。ですが、空腹もあり仕方なくきゅうりの漬物を口に入れ。
カリ
「!?」
一口噛んだとき広がる程よい食感ときゅうりの味と塩気に驚愕し私は立ち上がります。
「えっと、どうかしたかい?」
「こ、この、お、お漬物は」
口に残る衝撃に言葉が上手く出てきません。
「あー君もこの味に驚いたクチか、心配しなくてもこれはサービス品だからお金は取らないよ」
大将の言葉に私は驚愕します、
「これにお金を取らない、そんなこと有り得ません。これはその価値に見合った対価を払う物です!」
このお漬物は一流料亭に並ぶ、いえそれを凌駕する物。それをサービス品などと。
「まぁ落ち着きなって、まぁ言いたいことは分かるよ。なんせ最初は取り放題のサービス品だったしな」
「取り放題!?」
さらに恐ろしい事実を伝えられます。
「だけど、漬物ばかり食う連中が増えちまってな。仕方なく数量限定のメニューに切り替えた訳さ」
確かに、こんな一品が食べ放題なんてありえませんもの。
「この漬物は俺の親友が作ったレシピでね、開店祝いで譲り受け漬けた物なのさ。そしてその時約束したんだ。この漬物と一緒に美味いラーメンをみんなに食わせてやるってな。だからどんなに評価されようが材料と手間から計算した一般的な値段でしか提供はしないんだ」
「そんな…」
このお漬物、この一皿にどれほどの価値があるか私には分かります。ですがそのレシピを開店祝いで譲る?どんな精神をしているのだろう。この漬物を販売すれば大枚を持って人が押し寄せるに違いない。そんな一品なのだ。
私は席に座り残りの漬物を頂く、カブは瑞々しさを失わず人参はさらに甘みを増している。この漬物を生んだ人に会ってみたい、そして何故これを表に出さないのか問いただしたい。その時私は決めました、
「大将、是非この漬物の生みの親にお会いしたいのですが!」
「ごめん、それは無理」
あっさりと断られてしまいます。その後も何度お願いしても断られてしまいました。そして流石に今日は無理と感じその日は退くことにしました。
それとこの後柴関ラーメンと追加注文したお漬物はしっかり堪能致させて頂きました。
※※※
あれから1週間、色々考えましたが誠意が1番と思いまたもや件のラーメン屋にやって参りました。お願いに対し周りの配慮も考え昼のピーク時を避けた時間にきたのですが、
「いらっしゃい、君は確かこの前の」
「ええ大将、また寄らせて頂きましたわ」
店にはカウンターにおひとりいましたが仕方ありませんね。何故か大将が一瞬お客を見ましたが如何したのでしょうか。
「今日は何にするかい?」
「柴関ラーメンとお漬物の盛り合わせを」
決まっていたメニューを伝えます。
「漬物はお通しで出すが?」
「ええ構いません、ラーメンもそうですが。このお漬物は注文する価値のある物ですから」
ええ、そしていつかこれを生み出した方と出会い…
「へーここまでファンがつくなんて、俺が渡したレシピちゃんと再現できてるじゃん」
「…え?」
突然横からの言葉に頭が理解できませんでした。そして大将も顔を手で覆っています。
私は横を見ます、そこにはパグ犬タイプの方が美味しいそうにラーメンを食べています。
今この方はなんて言った?俺が渡したレシピって、まさかこの方が。
「貴方が神なのですね!」
「はぁ!?」
思わずその方の手を掴み叫んでしまいました。
※※※
やっとで出番がきたパグ崎です。柴のところでラーメンを食べてたらいきなり神呼ばわりして俺の手を握りしめた女の子。なんか見覚えがあるような、
「私、黒舘ハルナと申します。貴方様が考案したこのお漬物に深く感銘を受けた者です」
あーハルナ君か。確かに面影あるな確か時期的にまだ中学せ…ってハルナ君!?
なんで柴のところでラーメン食ってるの?いやハルナ君なら来る可能性はあるかもしれないけど、俺の漬物に感銘を受けるって何さ!
「あーパグ、前々から言ってるだろう。漬物の商品化の話が結構来てるって」
「いや、確かに聞いたよ。でもたかが漬物じゃないか」
そうただの漬物なのだ、素材だってそんなに拘ってるつもりもないし。調味料だってそこら辺で買えるものばかりだ。漬けた理由だって、パグ犬になって味覚が変わったのか売ってる物があまり美味しく感じなかったから自分で漬けたのが始まりだ。
誰かに師事したわけでもなく、買ってきた本を参考に素材ごとに塩や調味料の量や配合を自分なりに変えただけなのだ。
それに柴にレシピを譲ったのも、柴が俺の漬物を気に入っていたから応援のつもりで譲っただけなんだが。
「たかが漬物なんかではありません!」
ハルナ君が私の手を更に握りしめ近づく。
「このお漬物は私が人生の中で食べた最高のお漬物です、それこそ一流の料亭が地面に頭をつけ売ってくれと頼んでくるほどの物です」
「いや、一流って。柴この漬物の素材普通に仕入れられる奴だよね」
「ああ、お前が指定した種類のやつだな。季節によって変わるが普通の価格のやつだ」
ラーメン屋には漬物は付き物だし、それが高いだなんて話にならないもんね。
「ですが、これを生み出すためにはご苦労も」
「いや、ただ食べたいから漬けただけだし。だから材料も」
「そうですわ、一般の物でこれほどの漬物を漬けられるのです。なら最高の素材を使えば」
「…」
ハルナ君の言葉に俺は違和感を感じた、原作のハルナ君は美食を求めているがジャンクの食べ物も好きな、そう値段に関わらず美味しいものを食べるのが大好きな娘だったはずだ。なのに今の彼女はどうだ、俺の漬物を褒めてくれるのは嬉しいが価値に拘ってる気がする。
もしかしたら、これは原作の差異なのではないだろうか。まずい、もしこのまま彼女がゲヘナ学園に進学したら最悪美食研が生まれないかもしれない。
「ねえ、黒舘君。私と漬物を漬けてみないかい?」
「はい?」
※※※
そこはまったく普通の倉庫でした。
「アビドスは土地が空いてるからね、漬物はある程度纏めて漬けないといけないから借りてるんだ」
あんな至高の漬物が生まれた場所なのに、確かに空調は気をつけられてるようですが全くそんな節が見当たりません。
そしてパグ崎さんは私の前に茄子の入った箱と塩などの調味料、それに樽と調理道具を置きました。
「今日は茄子を漬けるんだ、旬な物だしね」
私は茄子を手に取ります、一般的な茄子でこれがあれほどの至高のお漬物になるなんて想像ができません。
「塩を使った漬物はね、柔らかさと水分が多い物がいいんだ」
パグ崎さんは茄子を切りながら私に語りかけてます。
「この茄子は値段は安いけど、高級な茄子よりも漬物に必要な物がしっかり揃っているんだ」
私もパグ崎さんの動きを手本に茄子を切りながら話に耳を傾けます。
この茄子が高級な茄子よりも適している?本当なのだろうか。
「確かにこの茄子のポテンシャルは全体的に見えれば低いかもしれない、でもこれに合った塩や調味料で漬けることでそのポテンシャルは何倍にも膨れ上がるんだ。それが調理であり美食なんだと私は思ってるんだ」
「美食…」
パグ崎さんの美食と言う言葉に私は疑問を持ちます、ポテンシャルが低い物を何倍にしても元々高いものを使う方が効率がいいのではないか。
「調理と言うのは元々安全に食するために生まれたものだ、それが時代を経て味を求め始めた。素材が最初から美味しかったら焼くとか煮るくらいしか調理法は確立されなかっただろうね」
確かに、素材を美味しく食べるために色々な調理法や調味料が生まれました。ならば美食と言うものは。
「素材を吟味するのも大事だけれど、それよりも一般的な素材を使いその素材を活かして美味しい料理を作る。美食の原点ってまずそれじゃないのかな」
原点、考えもしていませんでした。美食とは人が生み出した最高の文化そう思っておりました。だから高級な物がその頂点だと疑っていませんでした。
ですがパグ崎さんは、調理の原点を追求し私の価値観を壊す一品を作り上げた。なんだろう今私とても羞恥の気持ちで一杯になっております。ただ安いと言う理由でそれを作る方々をレベルが低いと決めつけ食べることもしなかった。全てがそうでないにしても、パグ崎さんの様に真摯に向き合い美味しい物を生み出している方はいるはずなのに。
「私はなんて愚かだったのでしょうか」
こんな私が美食を語るなんて、烏滸がましいですね。
「そうでもないさ」
「えっ?」
「だって黒舘君は私の漬物を美味しいと思ってくれたんだろう?」
「それは、あれほどのお漬物ですし」
素晴らしい物は素晴らしいと言っただけですし。
「そう食べないと分からないんだ、そして君はちゃんと評価してくれた。確かに安いものを美味しくないと決めつけるのは良いことではないだろうけど、今違うでしょ?」
「ええ、お漬物もそうですが一緒に食べたラーメンも美味しかったですし」
「ならもう大丈夫さ、君は自分の間違いに気づいたんだ。逆に考えればこれからはもっと美味しい物が君を待っているはずさ」
もっと美味しい物が…そうか私はまだ知らないことが多すぎたのです。よく考えればまだ中学生、知らないことが多くて当たり前。なのに全てを分かりきったと思い違いをしていた。
あ〜なんてことでしょう、私はどれほどの美食を見逃していたのでしょうか。この世にはまだ見ぬ料理が、いえ食材がまだまだ沢山あるのに。
「パグ崎さ…いえパグ崎様、私の愚行を正して頂きありがとうございます」
「え、いや。間違いは誰にでもあるだろうし」
あーなんて謙虚な方なんでしょう、思い上がっていた私なのにそれを正し導いてくれるパグ崎様。この出会いを私は一生忘れることはないでしょう。
「黒舘ハルナ、これから今までの愚行を改め美食の追求に励んでいこうと思います」
「うん、それがいいかもね。君は美味しいものを食べるときとてもいい笑顔をしていたから」
まぁそんな女性が食している姿を褒めるなんて、でもパグ崎様ですから許しますが。
でもどうすればいいでしょう、ここまでして頂いてどのようにご恩を返せばいいのか。
…!?そうです、これなら。
「さて、後はしっかり密封して。後はちゃんと浸かるのを待てば」
「パグ崎様!」
「はぁい!、って何かな?」
そうと決まれば後は行動ですわ。
「この度は本当にありがとうございます。このご恩はすぐに準備してお返ししますので。…あっそれとお漬物ありがとうございます」
私はお礼を言うと、自分で漬けた樽を担ぎ走り出します。私の美食、そしてパグ崎様のお漬物の道はこれから始まるのですわ。
※※※
それから数ヶ月後、
「何これ?」
私とパグ崎のおじさまの前に目新しい建物が建っております。
「私は考えました、美食とは広めなければ理解されぬ物。ならば教えれば良いのです、おじさまの漬物で。ここがキヴォトスの美食の新しい始まりになるのです」
おじさまと私の夢が始まる場所、パグ舘漬物店はこうしてキヴォトスに誕生したのです。その道のりは苦難や困難が待ち受けているでしょうが、必ず至ってみせます。
この果てしない美食の道を!