ミレニアムサイエンススクール:グラウンド
「……こん…な…も……」
揺らめく視界外から微かに聞こえる声に脳が覚醒する。身体を起こそうと力を入れるが痛みが走るだけで起き上がることができない。それどころか手と足を満足に動かせない。あたしが身じろぎしたことで気付いたのか声の主が視界に映る。白い髪と赤い瞳の少女は少し心配そうに見て来た。
「なにしやがる」
これをした推定犯人はあたしの態度に安心したのかすぐに戦闘前のような仏頂面に戻ると特に悪びれることもなく。
「少し身体を縛っただけだ。起き上がって、また暴れられると困るのでな」
なんて表情を変えずに答える。
無理やり外そうと神秘を腕に込めるがうまく関節が決まっているのか身じろぎするだけでちっとも外せそうにない。
クソが
「ぜってー泣かしてやる」
「最初に言っただろ私に敵意は無いと」
「言葉ではなんでも言えんだろ」
白いチビは「まあそうだな」と納得したのかそのまま黙ってしまう。そこにちょうどよく慌てた様子で走ってくるゲーム開発部のメンバーが見えた。流石に騒ぎが大きすぎたせいかそれ以外にもチラホラと知っている顔が見える。その中で先頭を走っていたモモイは目に映り込んだ絵面に「ええっ!」と驚いている。実際そうだろう、入ったばっかりの新入生が学園最強をす巻きにしている場面なんて驚き以外ない。
「悪いなモモイ勝手にいなくなってしまって」
「それは私達が悪いんだけど……そうじゃなくてどうゆう状況?!」
「あのチビメイド先輩が拘束されてます!!」
「なにがあったんですか?」
随分親しげに会話するゲーム開発部と白いチビ。特に警戒をしてないってことはマジで新入生なのか、いやあいつらのことだからワンチャン騙されている可能性もと思考するがそれを遮るように怒った声が聞こえてくる。目を瞑っていてもわかるきっとセミナーの会計だ。
「なんでこんなことになってるのよ!!」
周りを見たユウカが絶叫する。ユウカの声に釣られて周りを見たら確かにひどいものだった。
グラウンドは穴だらけでボコボコ、きっとタワーの方はもっと悲惨なことになっているだろう。
そのまま明らかにこの騒ぎの原因であろうあたし達を見るとドシドシと地面を踏み鳴らしながら近づいて来る。
「どうゆうことですか!?ネル先輩!!それと貴方!!」
ユウカの背後からたぎる炎が見える。ユウカに威圧されているのか白いチビは「その…」なんて口ごもっている。もう少しそのままにしてやりたかったが今回はあたしに非があるようなので白いチビの身代わりになることにした。
「おい、チビとりあえず拘束といてくれ」
「む?ああ、すまない」
白いチビが指を鳴らすとまるで最初から幻想であったかのようにあたしを縛っていた紐は霧散して消えた。
「それお前の神秘か?」
身体を起き上がらせながら聞いてみたが白いチビは「企業秘密だ」と一言いって、そのまま黙ってしまう。
「それでどうゆうことなんですか!?ネル先輩!」
ユウカは怒りモードで問い詰めてくるが相手にするのもめんどくさいので適当に返す。
「あたしが間違えてそこの白いチビを襲っただけだ。そいつは悪くねぇよ」
「なにしてるんですか!」
「待ちたまえグラウンドを壊したのはわた」
そこまで聞こえたがあとは無視して部屋に戻ろうとユウカと白いチビに背を向ける。
「それと被害請求の方はC&Cの部費で払っといてくれ」
なにか言ってきているユウカを無視してその場を去る。それなりに進んだ所で白いチビに言いたいことがあったのを忘れていた。
「シロウだったか?またやろうぜ」
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彼女ネルはそう言って去ってしまった。ゲーム開発部からユウカと言われた少女はネルの態度にため息をつきながらも「全くもう……」と諦めたようにつぶやいた。そして改めて私を見る。
「それであなた誰なの?新入生?さっきシロウって言ってたけど新入生でそんな子いたかしら?」
「シロウは今日来た新入生だよ!先生も知ってるし」
「そんなの私聞いてないんだけど」
ユウカは戸惑ったような感じだったが先生が確認してるならいいかとそのまま流してしまう。
「とりあえず今回はいいわ、私の名前は早瀬ユウカ、よろしくねシロウちゃん。もう新入生の登録はやってあるかしら?」
「いや、ま」「これからやる所でした!」
「その前に私たちがミレニアムを案内してたんだ!」
やっていないと伝えようとするもモモイとアリスに先を越された、ユウカは突然視界に飛び出してきた二人に慣れたような反応をすると先に登録してからにしなさいと咎める。
「とりあえずここの掃除はドローンに任せて、登録の為にセミナー室にいきましょうか」
そう言ってユウカが歩き出そうとした時。「私がやりましょうか?」とドローンが目の前にいた。
「な!」
突然の登場に驚いてしまった私だがほかの皆はこれが日常なのか特に驚いた様子もなく。そのドローンにモモイが「ヒマリ先輩!」と返事をするだけであった。ドローンは「みなさんこんにちは」と丁寧に挨拶をするとゆっくりとこちらに近づいてくる。
「驚かせてしまいましたね。私はミレニアム最高の超天才病弱清楚系美少女ハッカーの明星ヒマリと申します。よろしくお願いしますね」
「よろしく頼む…」
少し呆気に取られながらドローンに挨拶を返すと、ドローンの向こう側から微笑む声が聞こえると「じゃあ早速やりましょうか」となにかを操作する音が聞こえる。そのことになにかを察したのかユウカが慌ててヒマリを止めようとする。
「待ってくださいヒマリ先輩!学校のデータセンターにハッキングしないでください!」
天才にはそんな些細なことは関係ないのか特に気にすることなく。鼻歌混じりにハッキングしているヒマリ。しかし少し経った所で鼻歌が止まり、なにかを探るようにキーボードを操作する音が早くなる。普段の彼女とは違う様子に首をかしげるモモイは「なにかあったの?」と不思議そうに聞くとヒマリは一度手を止めて困ったような声を上げる。
「うーむ……困りましたね」
「なにか問題が?」
ヒマリは少し悩んだがそのまま打ち明けることにした。
「何回やってもシロウさんの名前が生徒のデータベースに載らないんです」
「載らない?」
「はい、どうやっても載らなくて、3000パターンほどデータベースをいじってみましたがどれもダメみたいですね」
その言葉にユウカが「データセンターになにか異常が?」と聞いてみるがヒマリもすでに確認したのかドローンが横に揺れ、「見てみましたが特に異常は見られませんでした」と否定する。
「今の所原因は不明ですね。そこで提案なのですが。仮の名前を登録しておくのはどうでしょうか?」
「仮の名前?」
「はい、もちろん無理にとはいいませんが」
思わず悩んでしまう。しかし自分の名前が使えないのはいいとしても代わりの名前など思いつかない。なにかいい名はないかと思い下を見れば割れたガラス片に自分の姿が映る。
「そうだな……じゃあこの名前にしてくれないか?」
彼女はなにを思うだろうか。勝手に名前を使うことに罪悪感に苛まれるがきっと許してくれるだろう。
地面から顔を上げヒマリに正確にはそのドローンに向き合う。
「イリヤ、衛宮イリヤで頼む」
そうして新たな名でこの世界で生活することになった衛宮士郎改め衛宮イリヤであった。
「ということで改めてイリヤさんよろしくお願いしますね」
データの入力が終わったのかヒマリのドローンは停止していた機体を揺らす。よかったねと嬉しそうにするゲーム部とまたデータの見直しをしなきゃとユウカが頭を抱えている。そんな対照的な場面に苦笑いしながらもゲーム部とヒマリに礼を言う。ヒマリのドローンがこちらを見据えたと思うと「ではここからが本題です」と切り出した。
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ミレニアムスクール:特異現象捜索部・部室
ユウカはセミナー室に戻り、ゲーム部の皆とドローンに案内されついた場所は少し薄暗く部屋の壁一面にはなにかの数値が表示されているであろうスクリーンがある怪しげな部室で、中央の机の向かい側にいる少女が振り返る
「わざわざ来てもらって申し訳ありません」
「いや、大丈夫だ。君がヒマリでいいのか?」
「はい、私が天才美少女最かわ儚い系ハッカー明星ヒマリです」
彼女の自慢げな顔をよそに隣にいるミドリに「いつもあんな感じなのか?」と聞けば少し困ったようなに頷いた。前の世界でも濃い人間はいたがこっちの世界も変わらないなと思うもすぐに頭の片隅に追いやることにする。仕切り直そうと一度咳払いをしてから改めてヒマリに向き合う。
「それで本題というのは?」
「イリヤさんも何度か聞いていると思いますが数日前キヴォトスではAH事変と言われる事件が起きていました。簡潔に説明するなら世界の危機です。異世界からアトラ・ハシースの箱舟と呼ばれるものが来てキヴォトスを攻めてきました。各学園が共闘し連邦生徒会、シャーレの助けがあって何とか対処することに成功しましたが被害は甚大なものでDUシラトリ区はほぼ壊滅状態で今なお復旧作業が続いています。しかし今だに箱舟の脅威は残っているのです」
「脅威?」
「はい、今キヴォトスの各地に箱舟の残骸が残っています」
ヒマリの言葉に反応するようにキヴォトス全域の地図がホログラムで表示され、六つの赤い点が浮かぶ。
「残骸は未だに無名の守護者を生産して周辺地域に被害をもたらしています。本来ならすぐにでも各学園で対処するべきなのですが、今はどの学園もAH事変のせいで大きな打撃を受けており手が回らない状況なのです」
「なるほど」
ヒマリの言葉に思い出すのはここにくるまでにユウカがぼやいていた言葉だ。「はあ~いい加減休みたいわねコユキでも吸おうかしら」正直意味はあまりわからないが、というよりわかりたくないが色々と限界なのは理解できる。
「そこでイリヤさんにはこの残骸の回収をお願いしたいのです。もちろんイリヤさんのメリットもあります、残骸の回収、解析が進めばイリヤさんを元の世界に帰す装置も作りやすくなりますし、これはイリヤに依頼としてお願いするので相応の報酬もお出します。悪い話ではないと思いますが?」
ヒマリの言葉に思う。確かに悪い話ではない、しかし残骸の回収きっと一筋縄では無理なのだろう。実際このミレニアムスクールにはネルと言う戦力があり、おそらく各学園にもネルと同じかそれ以上の力を持った生徒もいるはずだ。それでも今まで残骸の回収に望めないのはきっとその残骸が相当厄介の物だと言っているような物だ。ヒマリもそれはわかっていて勧誘しているのだろう。きっとこれを受ければただではすまない未来が待っていることだろう。しかし答えは既に決まっている。
「私の力がいるのなら喜んで受けよう」
「その様子からしてわかっているみたいですね、厄介事を引き受けたと」
ヒマリは問いているその覚悟はあるのかと。
「ああ、もちろんだ」
私のやることは別の世界に行っても変わらない、正義の味方になる為にたくさんの人を救い続ける。
「私は正義の味方だからな」
[newpage]
ミレニアム自治区:HOD決戦跡
荒廃した廃墟群の中、赤い影が通る。それを追うように何百という機械の群れが進軍する。
「ヒマリ、目標地点まであとどのくらいだ」
「残り約200mほどです」
左耳につけた装置から目の前に立体的な映像を映し出す。それを一瞬だけ確認すると、すぐさま一本の剣を投影しすぐ後ろまで迫っていた一体を射貫く。射貫かれた機械はごろごろと転がり後ろの集団に飲みこまれた。
「急ぐか」
そう言ってからさらにイリヤは加速する。強化の出力を上げ、目標地点までの距離をより早く詰めていく。機械群達もイリヤの変化に気づいたのかより勢いを増し、味方との接触をもろともせず荒波のように廃墟群を進行する。
「イリヤ!こっちは準備完了です!」
耳に入る通信に返事をする。目標地点まで残り50、30、10、今!
廃墟群から飛び出す。後ろには機械の群れが一直線に並んでいる。
「アリス!」
「出力臨界突破! 貫け!バランス崩壊!」
アリスの構えるレールガンが咆哮する。放たれた[[<rb:勇者の剣> スーパー・ノヴァ]]は一直線上に並んだ機械群を消し炭にした。取りこぼしはないかと確認しながら地面に着地する。
「すごい威力だな」
ヒマリから話には聞いていたがいざ見せられるとただ感心するしかない。彼女のレールガンはその場にあった周囲半径50mほど廃墟群をも一緒に消し飛ばした。その直線の跡には一つの残骸も残っていない。
「そりゃアリスは勇者だからね!これぐらい余裕だよ!」
「そうです!」
イリヤの方を見ながら自信ありげな顔をするアリスとモモイ。アリスはわかるがなぜモモイまで自信ありげなんだと思ったがそこまでわざわざ言う気は起きなかった。
「ああ、すごいな」
無い胸を張るアリス達に空返事を返しながら耳につけた装置でヒマリに通信をする。
「どうだろうか?残骸の反応は?」
「ええ、問題無いです。場所の座標を送るので回収をお願いしますね」
ヒマリにそう言われると同時にマップ上にポイントが付く。ここからそう遠くはないすぐに回収できるだろう。少し遠くに待機していたミドリを呼び改めて残骸の回収に行く。ヒマリの依頼を受けて早くも二日が経過していた。
最初はすぐにでも回収に行こうとしたのだがまずは私の日用品を揃えることになり先生と近くのデパートに買い物に行くことになった。あの時はとても苦労した。下着を買う為にまずは身体の至る所を測ることになり店員に色々触られた時は流石にこう男としての尊厳が削れていった気がする。あまり思い出したくないので割愛する。まあその後もモモイ達と色々あって二日後の今ようやく残骸の回収に行けたと言うわけだ。最初は一人で回収をしようと思っていたのだがヒマリの勧めでゲーム部の皆と来ている。正直言うなら彼女たちに心配の面があったが今はもう杞憂で終わった。ここまで何度か戦闘があったがアリスの火力とモモイとミドリの息ピッタリなコンビネーションは大いに助かった。このまま順調にいけば回収もすぐだろう。そんなことを思っていたらミドリが合流する。
「イリヤちゃん怪我はない?」
「問題ない、大丈夫だ」
ミドリに返事をしつつモモイ達の様子を見る。彼女達も目立った傷もなくそれどころか疲れも見えない。今二人は仲良くじゃれ合っている。一応ここは戦場なのだが緊張感がない二人にミドリは「もう…」と口を尖らせていた。あの二人の様子はこの二日間で随分と見せられたので今更なにも思わないがミドリはきっと苦労しているのだろう。ミドリを労わりながら振り返る。目に映るのは巨大な機械、ヒマリから説明された預言者の一機、HOD。まるで巨大なタコやクラゲのような姿をした機械は生徒たちの活躍によって停止されAH事変後にもこの廃墟群に放置されていた。
「何度見てもすごいな」
その巨体を見上げながら言うといつの間にかこっちに来ていたのかモモイがそれに同調するように言葉を返す。
「ほんとだよね!それにしてもよく倒したよねユウカ達」
「君たちも他の場所で似たようなものを倒したのだろう?」
「こんなにおっきい相手じゃなかったよ」
私の言葉に思い出しながら言うモモイと「みんなでボス戦楽しかったです」と語るアリスに世界の危機だったのに相変わらず胆力が強いなと思いつつ意識を切り替える。残骸はもうすぐだ。
──────
「この辺りだよね」
マップを確認しながら進んで数分後、チェックポイントまで来たので辺りを探しがならミドリが答える。みんなで見回しても周りには似たような廃棄されたゴミや機械が積み重なっている。とりあえず分かれて探すことになりゴミの山を漁ってみることにしたがこれがなかなか見つからない。レーダーの反応も曖昧なもので頼りにならなかった。そこで私らしい探し方をしようと思い地面に手を触れる。
「[[<rb:解析、開始 > トレース・オン]]」
地面を通して魔力で流すことで辺りを一気に解析していく基本的にはゴミばかりだったが見つけた。ゴミの山の中に手のひらサイズの一つだけ解析できないものがあった。きっとこれだろうと思いそれに魔力を通そうとした時、悪寒が走った。すぐに魔力の流れを絶つもすでに遅く、残骸が魔力に充てられたのかゴミ山から抜け出し怪しく光出す。
「なにっ!」
「どうしたの?」
私の反応に驚いたのかモモイはこちらに走ってくる。
「待て!モモイ!」
私が静止の声を張り上げるよりも早く空中に浮いた残骸から管が伸び辺りのゴミ山に突き刺さる。ミドリもこの事態を察したのか残骸に向けて銃弾を放つもまるで透明の壁があるように直前で弾かれる。
「そんな!」
「アリスに任せてください!」
アリスもすぐさまレールガンを構えるが打つ前に残骸を中心にゴミを飲み込み形作っていく。そして現れたのは黒くまるで靄が掛かったような姿をした二足歩行型戦闘兵器ゴリアテであった。その様子を見ていたヒマリは思わず声を零した。
「これは……色彩化?」