エボシが最初に拾った女の話   作:のみの心臓

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エボシが最初に拾った女の話

エボシが自分を無理矢理攫って妻にした倭寇を始末して日本に引き上げてきた時、連れ帰ってきた人間が2人いた。

筋骨隆々だが意外と細かい仕事もできるゴンザと、もう1人はエボシの側仕えだったネイ。

元は頭目がどこかの姫を攫ってきたようで、エボシの知らぬ間に妾として船に乗っていた。

しかしネイは妾としてより、むしろエボシの側仕えとして振る舞うようになった。

見るからに気性の荒い倭寇の頭目に一時目をかけられたからといって、何になるのだ。

頭目の妻の側仕えとして、使える人間と思われた方が、価値が上がって生き延びられるに決まっている。

ネイはそう考えて、実行した。

姫と言っても第十何子、下手したら倭寇の妾なんかよりもっと悲惨な場所に売り飛ばされる可能性だってあった。

生存戦略が大事だと言うことは、それまでの実家で骨身に沁みて理解していたのだ。

案の定、あっという間にネイに飽きた頭目は、次の港で降ろすか等と恐ろしいことを言ったが、エボシが自分の側仕えに欲しいと強請ったので、それからの仲である。

エボシは出会って間も無いネイが、生き抜くために必死なのを見抜いていた。

女の不幸は出来るだけ少ない方が良い、今も昔もそれは常にエボシの心にあったのだ。

夫である頭目を殺し、ネイには「あとは好きに生きろ」とエボシは言ってくれたが、「私一人じゃ生きられないから、貴女と共に行きます。」と言って、エボシに着いてきた。

ネイは一応は姫らしい教育を一通り受けたので、文字の読み書きと琵琶のような弦楽器が得意だった。

文字を読めないエボシの代わりにあらゆる書の代読代筆をしたし、ゴンザと戦術や兵法の問答を繰り返し学んだ。

体は貧弱だったのでゴンザに体術を習った。

なので、ネイはエボシの側仕えであり参謀でもある、何かあれば頭の簪を抜いて、鬼にもなれる。

***

エボシが船上でクーデターを起こす事になった夜、気性の荒い頭目が、妻であるエボシの頬に傷を負わせた。

女の顔に傷を付けるなんて許せない、『あの男、殺しましょう』、と提案したのはネイだった。

船も縄張りも適当な幹部に押し付けて、金子だけ奪えば、確かにここを出られるな…エボシとゴンザで夫婦を騙って、ネイは使用人として、3人なら上手く日本に戻れるだろう。

エボシはちょうど良い頃合いで、頭目を潰した。

エボシ様の為ならヤりますよ、とネイは申し出たが、アレでも手前の夫、自分でやるさ、と寝首を掻いて一発だった。

想像するに色々後が面倒だったので、ゴンザとネイが掛声合わせて頭目と漬物石を布で一つに包み、海に隠した。

殆ど音も立てず、お行儀良く海の底に沈んで行った。

 

頭目不在のまま港に着いたが、船員は酒に酔って寝ていたのか、誰も頭目が死んだ事に気付いていないようだった。

適当に目が合った船員に「お前が次の頭目だ」と託して、3人は船を降りた。

 

 

**

それから別の船を調達して日本に渡った。

京都でアレコレ金策して、職人集団と出会い、山を開いて村を作った。

まあやったのは山城の男衆だが。

 

ネイは毎晩エボシのそばで琵琶を弾き、寝る前にエボシの髪を整える。

朝は奥の庭で長や技師に食事と材料を届け、昼の明るいうちに書状などの整理、夕方は牛の様子を見て周り、下の郭で人員の不足がないか、みんなが腹を空かせていないか、そんなことを見て回る。

それがネイの日課だった。

牛飼いの男が冗談で、暇な幹部様ダナ、とネイを揶揄った。

___暇なのかって?

「ァに言ってんの。幹部が暇してるんなら、村が平和な証拠!エボシ様に呼ばれたら、ピャッと行って馬引けェ、よ!」

「ネイ、エボシ様が呼んでるよ」

「あいよォ!」

実際にはネイは小柄なので馬よりヤギの方が得意なのだが、急ぐときは馬なのだ。

山の中に一人で行かなければならないときは、ヤギに乗る事もある。

「お呼びで」

「ネイ、墨を擦っておくれ」

「はい、エボシ様」

エボシが字を書けない事は、ゴンザももしかしたら知らないかもしれない。

墨を擦れ、というのは代筆まで込みの合図だった。

それまでエボシの執務区画にいた女衆も、墨を、とエボシが言えばササーと散っていく。

 

ホレホレー、今からむっつかしい話するから、と人払いをして、纏まる頃に呼ぶからネ、と片目をパチリ。

城主がウンウン唸る姿は、今後の動きを練る段階は、城のみんなに見せるもんじゃない。

だけどここは新しい村、新しい城、決定事項は民には全部曝け出すし、一応意見があれば聞き出してより良い方向に持っていくのだ。

京都ではなく、堺でもない、ここは、新しい国だ。

まあそれは表向きの話。

後はここだけ詰められれば、という所で女衆に来てもらう事にしている。

ある程度決め切ってから、どうする、とみんなに参加してもらうのだ。

それでいい、今はそれで良い。

みんなに考える力を付けてもらう、ゆくゆくは。

まだその時ではないので、形だけなのだが。

「よろしいかと思います、ゴンザは?」

「うむ、よかろう」

「ネイ、皆を呼んでくれ」

はい、と立ち上がり、戸を開ける。

すぅぅぅ、と息を吸い込んだ。

山の向こうのその向こう、シシ神殺しが、ついに始まる。




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