エボシが最初に拾った女の話   作:のみの心臓

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もののけ姫の二次創作です。
エボシが初めて拾った女のお話。


シシ神さがし

エボシから声がかかると、時には一人で山の奥まで行かなきゃならない。

タタラバの奥の山を切り拓くには、ここらにいるはずのシシ神をどうにかしなくちゃならない。

ネイとゴンザはエボシからシシ神の出没場所を探すように命を受けている。

と言っても諸般の事情により、実際山の奥まで単身踏み入るのは、もっぱらネイの役目だった。

 

神に音楽と祈りを捧げて、森に分け入る。

ゴンザの方が体が丈夫だし、獣の類にも強いので、山歩きには向いているのだが、ゴンザは楽器がちょっとやれないので、ネイが毎回行っている。

これが事情だった。

 

ネイは神や妖への敬意は持っているが、これはどうやっても遅かれ早かれ、森は増えすぎた人間が切り倒してしまうだろうとも思っている。

 

神が勝つか人が勝つか。

それを決めるのはネイではないし、ネイはただ見守るだけ。

鉄を造るということは、山を切り開いてその山を殺す事と殆ど同じ、ひいてはその地の神を殺すも同じなのだ。

危険だし、おっかないので、本当だったら行きたくない。

でも仕事だから行かなくてはいけない。

ヒト対神で殺し合って死ぬのは仕方がないが、祟られたくは無いので、せめて最低限の礼儀は払い、こうして森を進んでいく。

 

妖はともかく、神の考えなんて人間には理解不能だ。

今この時に神の不興をかって殺されるのも、明日泥濘に足を取られて頭を打って死ぬのも、何も変わらない。

今出来ることをやるだけなのだ。

山奥を練り歩いても練り歩いても、それらしい足跡は見つからない。

少し開けた場所で酒を置いて琵琶を弾いていると、コダマが集まってきた。

コダマたちの表情は不気味そのものだが、楽しそうに踊っている。

やんややんやと盛り上がる、しかしこれだと賑やかすぎてシシ神は出てこないかもしれないな…。

区切りのいいところで琵琶を止め、深々と頭を垂れる。

コダマはそれぞれスゥ…と消えてしまった。

お供えに持ってきた木の実を近くの泉に供える。

 

米はダメだ、米は農耕、人間が木を切り倒して草を抜き、土をひっくり返して作ったモノだからだ。

そんなモノ持ち込んだら、もしもネイが神ならきっと怒り狂う。

「森に入る事をお許しいただき、ありがとうございました」

さあ帰ろうと振り向くと、足跡があった。

さっきまではなかったはずだ、こんな…大きな蹄の跡。

馬でも鹿でもない。

というか、

「あれ、増えてる?」

姿は見えないが、今まさにシシ神が目の前を歩いているのではないだろうか。

ネイは袂から笛を取り出し吹いた。

言葉は通じるかわからない。

だってシシ神は太古より存在している。

この辺の言葉はもちろん、ネイの出身である明国の言葉も通じないかもしれない。

足跡は遠くに伸びていたが、反転したのかこちらに向かってきた。

ゆっくりゆっくり、こちらへやってくる。

圧倒的に大きい、重たい、濃い気配がする。

言いようの無い恐さに、笛を止めてしまう。

額に、暖かい空気を感じた、匂いを嗅がれているような気がする。

シシ神は命を与え、命を吸い取るらしいが、これは…。

私の命は私のものだ、奪われはしても与えられはしない。

そうなると命を吸い取られているのだろうか、そんな感覚はないけれど。

ネイは無意識に止めてしまっていた息をゆっくり吐いた。

深呼吸をして目を閉じた。

目を閉じた瞬間、見えないはずなのに大きな鹿のような姿が迫ってくる。

 

シシ神はこのような姿なのだろうか、目を瞑っているはずなのに目の前に「見える」シシ神は、ネイの額に鼻を近づけている。

合わないはずの目線がしっかり合ってしまう、そもそも、目を開けていないはずなのに。

恐ろしくなって目を開けると、やはり生き物やそれらしい姿は何も見えない。

それでも息遣いは感じるのだ、それも、体が当たる感覚まである。

ネイは笛を取り直し、目を瞑ってそっと吹いた。

物凄く近くに、まさに目の前にシシ神がいる。

 

足の力が抜けてしまい、その場に腰を下ろしてしまったのだが、瞼の裏に見えるシシ神は寄り添うようにネイの背中を支え、しかし額と鼻がつくほど顔を近づけている。

背中のことなど見えるはずがないのに、確かに感じるし見える。

即興ではあるが、笛を吹き続けてしばらく、強い風が吹いたと思ったら山の麓だった。

そんなまさかと思うけれど、夢でも見ていたのだろうか。

「見てない、から、報告は不要か…?」

エボシからはシシ神の住処を探って来いと命を受けているのだが、住処どころか姿さえ見ていないのだ。

そして場所も分からない。

これでは報告のしようがない。

タタラバに戻る頃には3日が経っていたらしい、ネイ様!ネイ様が戻ってきたよ!!と門番役の女性が叫ぶ。

曖昧に返事をして、とりあえず上の郭を目指す。

体がやたら軽い、3日飲み食いしてないのに、飢えも渇きも感じない。

エボシ様になんて言おうかね…困った困った。


***
 
 
 
 


 

 

「ネイ、生きとったのか」
 


 

「途中足元が崩れてさ、頭打って寝てたみたいなの、みんなには内緒にしといてよ」
 
 


 

二の郭ではちょっとした騒ぎになっていて、それを聞き付けたゴンザが降りてきていた。



琵琶を預かってくれると言うので、厚意に甘えて重たい琵琶を託すと、足元がフラついてしまった。


なんせ3日も食べてないのだ、まあ寝ていたと言うかなんと言うか、ネイの体感では精々半日程度なのだが。


シシ神の森は時間の流れすら、人間の里とは違うのかもしれない。
 
 


 

 

「ネイ様、お水!」
 


 

「ありがとネ、おいしい、生き還るワァ」
 


 

「ネイ様、危なっかしいから担いでもらいなョ」
 


 

「平気平気、エボシ様に報告してくるネ」
 
 


 

 

先に行ってエボシに報告して来たらしいゴンザが戻って来たので、ネイは一瞬スゥと息を吸い込んだ。
 
 


 

 

「ゴンザァァ!!足ィやっちまったから、上まで運んでくださいなぁぁ!」
 


 

「デカイ声出すなぁぁ!牛がひっくり返るだろう!!」
 


 

 


ネイかゴンザが大きく息を吸い込んだ後は大抵デカい声で叫ぶので、周りの人間はお喋りをピタと止めて邪魔をしないように気を遣ってくれる。


どの地域にもその地域独自の暗黙の了解があるが、この山城ではこれがその一つだ。
 


 

 


「アンタも大概声がデカいんだよ」

 


「仲間が足ヤったってんだから運んでやんなよ」


 

「「「そーだよ、そーだよ」」」
 
 


 

 

それで、女連中がやいのやいの言い出した時、男は黙って聞いておく、と言うのもこの山城のお約束のひとつだった。


 


ゴンザもネイも等しくこの山城の幹部様で、エボシの側近という意味では二人は対等なのだが、女連中はどうしたって、女であるネイの味方をしてしまう。



 
ゴンザは黙ってネイを担ぎ上げた。


申し訳ないねゴンザの旦那、と茶目っ気たっぷりに頭上でネイが言う。
 
 


 

「無事で何よりだ」
 


 

「めっずらしいネ、ゴンザがそんな事言うなんて、明日は鉄の雨でも降るかしらん」
 


 

「煩い!3日も飲まず食わずで、こんなに軽くなっちまって…」

 


 
「マ、3日間山の麓で寝てただけだけど、シシ神に手ェ出したらヤバそうってのは身に染みたワ」
 


 

「…後でエボシ様と一緒に聞こう」
 


 

「ん。」


 


 
結局、ネイはエボシとゴンザにありのままを話せず、恐らく足を滑らせて山道で気絶したところで、シシ神に出会す夢を見た気がする、と報告した。


 

気が付いたらタタラバの足元まで戻って来ており、一緒に来たはずの馬が手持ち無沙汰に門の横で地面を蹴ってこちらを見ていたのだから、体感としては神隠しだ。


 

 


 
「その、夢が…手を出すなという警告に感じました。」


 


「聞けぬ警告だな」


 


「まぁ、そうですよね…」
 


 

「しかしエボシ様…」
 
 


 

ゴンザが途中で口を挟んだ。


何やら言いにくいことがあるようで、珍しくまごついている。
 


 

 


「なんだ、言ってみろゴンザ」
 


 

「ここまでネイを担いできましたが、その、童のような軽さでした」
 


 

「そりゃあ、ゴンザと比べたらそこらの女も童も変わらないと思うけど」

 


 
「そうじゃ無い。ネイ、中身全部取られたとかじゃあ無いだろうな」
 


 

「中身…?ネイ、こっちにおいで」

 

 


 


エボシはネイを招き寄せ、彼女の手を取ると顔を顰めた。


軽過ぎる。

力を抜けと言われて、抜いております…と不安げにネイが申し出るものだから、エボシは舌打ちして立ち上がった。

 

 


 
「エボシ様!」
 


 

「おのれシシ神、私の大事な部下をよくも…!」
 


 

「身軽になったなら良いじゃありませんか」
 


 

「そう言う問題では無い!お前の全ては私のモノだ。シシ神なぞにくれてやるものか!」

 


 



結局ネイは水を飲んだ時は水が無味無臭だったので気付かなかったが、霞を食って生きる仙人のような体になってしまったのか、食べ物を必要としない体になってしまったようだった。
 
 


 

 

「すまなかったなネイ、危険を承知でお前を一人で行かせた私の責だ」
 


 

「構いませんよ、太く短くエボシ様の近くで生きて死ぬって、とっくに決めてますから」


 


「ゴンザも、この事は他言無用だ」


 


「承知、しました」


 

 


 
ゴンザはエボシの部屋を出た後、ネイに土下座して謝った。


自分が山に行っていれば、ネイは人の理から外れる事はなかったかもしれない。


楽器が出来るから、正直ネイの方が暇そうだから、それくらいの気持ちで、危険なシシ神の棲む山に差し出したのだ。
 
 


 

 

「五体満足で帰してくれたんだから、それで良いじゃない」

 


 
「しかしなァ」
 


 

「ゴンザ、アンタまさか、神から山一つ奪おうってのに、なんの犠牲も無しに成せるなんて思っちゃいないでしょうね」
 
 


 

 

もめている様子のゴンザとネイに、普段の軽口とは違うようだと人が集まって来た。


 

 


 
「なんだいネイ、モメてんの?」
 


 

「大丈夫、仕事の話だヨ。足ヤっちまったからさ、次は俺が行くってゴンザが言うから。アンタじゃ草笛しか吹けないだろって」

 


 
「草笛じゃぁ、コダマも出てこないヨォ」


 

「「「「あっはっはっは!」」」」
 


 

 


ハイハイ解散!騒いで悪かったね、と手を打つと、女連中は仕事に戻っていった。


ゴンザだって忙しいところを抜けて来ている。


ネイだって、筆の仕事が多分溜まっているだろう。
 
 


 

 

「ウフフ、嬉しいね。エボシ様、私の事、大事な部下だって」

 


 
「のんきに笑ってる場合か、五臓六腑、みぃんな喰われちまいやがって」


 


「ホントに喰われたなら次はシシ神の居場所までスルっと辿り着けるかもよ?縁とかなんかでサ」
 
 
 


 

 

 


***
 
 
 
 


 

 

事実、神の執着とはそれは恐ろしかった。

山でモロと対峙した時には物凄く憐みの目で見られ、乙事主に出会った時はもう彼の目が利かなかったので、おぉシシ神よと巨大猪のタックルを受けそうになり、散々な目にあう事になる。

 


 
猩々からもシシ神のニオイがする、シシ神食ってチカラ手に入れる、と彼らを闇落ちさせてしまい、ついにタタラバの民にもネイがただの人間ではなくなったことが知られてしまう。

 


結局タタラバにも帰る事が出来ず、最後はでいたらぼっちのドロドロに飲み込まれた。

エボシ様ともう少しだけ一緒にいたかったナ、、と少しの後悔を残し、死んでいった。

 


エボシとゴンザを庇って、2人の目の前で飲み込まれていったうえ、飲み込んだ瞬間微妙にドロドロが発光したため、タタラバではその後、ネイは巫女のように語り継がれていくことになるのだった。

 




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