蛮族の姫   作:サイリウム(夕宙リウム)

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2:葬儀

 

父が死んだ? 

 

一瞬誰かに殺されたのではという思考が過るが、すぐに消し飛ばす。眼の前の男、ギーは単に“亡くなった”と表現した。こいつは少々頭の弱い所が目立つが、嘘はつかないし、そのあたりの言葉遣いはギーの父にかなり厳しく叩き込まれていたはずだ。父が私の傍付きとして置いたのも、私がそれを認めているのも、頭が足りないながらも実直に仕事を熟し、ごまかしなどを行うような性根では無いからだ。

 

故に、これは嘘ではない。父は、『亡くなった』。

 

それに、確かに私の方が腕っぷしは強くなってしまったが、父はまだ老いによって潰れる様な年ではない。常に武器を手元に置いていた人であるし、私以外に対して負ける様な男でもない。たとえそれがどんな状態であろうと、だ。寝込みを襲われようともすぐに反撃し、相手を討ち取る能力が彼にはあった。

 

 

(つまり、自然死? いや、なおさら考えられん。)

 

 

そもそも昨日最後に顔を合わせた時は無駄に元気といった様子だった。そうそう死ぬような男ではない。常に私や妹の晴れ着を見るまで死ねないと宣うような奴だ。体力も気力も十全、父が死ぬなど……。だが、私の実家にあぁも人が集まり、ここから見える限り皆の顔が不安の色に染まってしまっている。

 

覚悟せねばならぬ、のか?

 

 

「……父の元へ行く。来いギー。」

 

「は、はッ!」

 

 

私は、次期族長だ。決して狼狽えてはならない。

 

戦や狩りの途中で親族を失う可能性は常にある。“あの世界”のように、私たちが済む草原は安全ではないのだ。他の部族が攻めてくる可能性もあれば、魔物が人を喰らいに来る可能性もある。そして日々を生きるために肉を得る必要もあるのだ。だからこそ常にその可能性、覚悟は常にしておかなければならないと父から教えられていたし、私も理解していた。

 

けれどやはり実際に直面すれば、想像以上に動揺してしまうのだろうか。震えそうになる声を無理矢理押さえつけながら、足を動かす。

 

……ギーの様な私の傍付きであればまだいい。ある程度見知った仲であるし、徹底的に叩きのめして上下関係を理解させた信頼できる友のような奴らだ。だが他の者たちは違う。父が死んだとなれば、次に部族を纏めるのは私だ。長の動揺は、彼らの不安につながる。そしてそれが行き過ぎれば、内部分裂からの部族全体の弱体化。どこかに攻め入られて、滅亡。

 

絶対に、避けなければならない。

 

大きく息を吸い、ほんの少しだけ胸を張る。

 

 

(父上……。)

 

 

決して動揺を表に出さぬように、父の家まで移動する。周囲にいた者たちに安心させるため声を上げ、同時に道を開けさせる。中に入るため幕を持ち上げれば……。

 

倒れ伏す父とその横で力無く蹲り、地面を濡らす妹。そして父の横には、急いで飛んできたのであろう薬師が父の体に手を当てている。

 

 

「薬師、父は。」

 

「す、すでにこと切れております……。」

 

 

その言葉を聞きながら、父の横に座りその瞼を開ける。

 

我らの薬師は有能な奴ではあるが、あの世界の者たちには酷く劣る。そして何よりも自分で確かめなければ信じられなかった。薬師の仕事を信じ切れぬというわけではなかったが……、思わずその瞳孔を覗き込み、その結果に信じられず父の胸に耳を当ててしまう。……何も帰ってこず、頬で感じてしまうのは冷たくなった肌の感触。

 

死後から、時間が経ち過ぎている。この世界ではどう足掻いても死した存在を生き返らせることはできないが、あの世界ならばまだ、可能性はあった。心の腑が止まっても、まだ生き返らせることは出来た。けれど父の体は冷たくなりすぎている。そもそも、まだ温かさを持っていたとしても、どうやって世界を超えるのかという問題もある。もう父は、死んだ。

 

……意味のない、思考だった。

 

我らが持つものは、せいぜい薬草の知識。確かに魔法と言うべき精霊の力を借りることもできるが、せいぜい傷を癒す程度。死者を生き返らせる方法など存在しない。

 

 

「姉様、私、私。あ、あさ起きたら、父様が、倒れてて。それで、それで……。」

 

「マドゥナ……。」

 

 

私寄り4つ下の妹がようやく顔を上げ、私の顔を見つめながらポロポロと涙をこぼし、そう言う。

 

ずっと震えていたのか、顔だけでなく指先まで白くなってしまっている。思わず彼女を自身の胸に寄せ、強く抱きしめてしまう。父と妹は同じ家に住んでいた、故に一番最初に見つけてしまったのも、この子だったのだろう。

 

私の“眼”の関係で色々と試すために新しく家を貰ったのはいいが、そのせいでこの子には一人ぼっちの時間を与えてしまった。私たちの母は妹を生むときに死んでしまった、つまりこの子にとっての親は父だけ。唯一の肉親を失ってしまったのだ。私のように別の視点を持たず、同時にまだ幼いこの子にとって酷く辛い経験をさせてしまった。まだ一緒に住んでいれば、すぐに傍に寄り添ってやれたのに。

 

妹に向けて、何か声を掛けるべきなのに、何も言葉が出てこない。そも父の死すら、まだ受け入れられていない。ただ亡骸の傍で静かに泣く妹の顔を抱きしめていると……、足音が、聞こえてくる。

 

 

「リヌバッ! あぁ、そんな。」

 

「……伯父上。」

 

 

幕を開けながら大声と共に入ってくるのは、父の兄。

 

そしてその亡骸を見て、膝から崩れ落ちてしまう。我らの部族では珍しく恰幅の良い体を持つ彼は、あまり体を動かすことを得意としていない。けれど話を聞き、全力で走って来たのだろう。全身から汗が噴き出ているのが解る。けれど少々……、演技が見える。

 

倒れ伏す父の姿と、無く妹の姿。それを見てすべてを察したのだろう。膝から崩れ落ち、その顔を地面に伏せ泣き言の様なものを口にする彼。確かに、その姿は良き兄であることを薬師や妹に見せるだろう。その声は外にも聞こえ、この者立場を明確にするだろう。

 

けれど。

 

 

(……こいつか?)

 

 

父から伯父についてはよく聞いている。過去族長の座を巡り切磋琢磨したが、精霊は父に微笑んだ。それから何度も父に挑んだようだが、常に負け続けている。今はその膨らんだ腹と年齢、そして息子がいることから一線を引いたようだが……。私が先の祭りで族長となった時、コイツの目玉は明らかに何かを“企んでいた”。

 

……あぁ、そうだな。私がしっかりしなければ。

 

父が死んでしまった以上、族長は私なのだから。

 

 

「伯父上。そう泣かれるな、父の兄としてしっかりして下さい。」

 

「ぁ、ぁあ。だが、しかし……。リヌバよ、何故私より先に死ぬのだ。晴れ姿を見るまでは死ねんといつも息巻いていただろうに……!」

 

「……精霊は、気まぐれです。受け入れるしかありません。」

 

 

伯父が父の名を叫ぶ、確かに、そうやって感情を外に出すことで“熱”を周囲に理解させるのは重要だ。皆に自身が“家族思いの男”である事を示すことが出来る。けれど私がそれをやれば……、“弱さ”と取られてしまうだろう。少し、この女の身が憎い。

 

だからこそ冷静に対応するしかないのだが、それが対比になってしまう。

 

冷酷な私と、熱い伯父。

 

 

(民意が傾くのは、後者だ。)

 

 

言葉を紡ぎ、考えを纏めながら伯父と妹の気が落ち着くまで待つ。

 

対応を決して間違うな、

 

確かに奴は動機がある。幾ら力で族長を決めようとも、私はまだ経験が浅く誰かの補助が必要だと民に思われているだろう。だからこそ父が補助についていた。私個人では足りぬ指示を、父のこれまでの業績で埋める。故に私の立ち位置は族長ではなく、“次期族長”だったのだ。

 

けれどその父が死んだことで、そのポストが空く。

 

 

(父に負け続けたという過去と、族長への想い。“こと”を起こしたとしてもおかしくはない。空いた場所にこいつが収まれば、実質的な族長だ。まだ幼いから、まだ女だから、そう言いながら私の意見を封殺し民の支持を集めてしまえば私はお飾りになってしまう。)

 

 

力は解り易い指標だ、だがそれだけ。私の支持層はまだ少なく、父の補助によってそれを補っていた。その後任として伯父が収まり、私に不満を持つ者を取り込んでしまえば……。終わる。父を殺したかもしれぬ男に、奪われる。最悪この身も、妹も。

 

そう考えた所で、薬師が私に深く頭を下げているのに気が付く。それに軽く会釈し、感謝の言葉を返した後に退出させる。……家の外により人が集まってきている。すぐに皆に説明しなければならない。

 

動かなければ。

 

 

「伯父上、済まぬが、そろそろ。……もう来ているやもしれんが、皆を呼び集めてくれ。父の死と、正式に私が族長へとなることを示さねばならない。皆が感じている不安を、少しでも早く取り除かねば。手伝って、くれるだろうか?」

 

「っ! あ、あぁ! もちろんだとも! エシャナも、何かあればすぐに私に言うんだよ?」

 

 

……成程、そういう口か。ならば“今は”乗るしか、あるまい。

 

 

「えぇ、伯父上だけが頼みです。……頼みます。」

 

 

私の反応に満足したのだろう。その悲しみに沈んだ顔で強く頷きながら、外に出ようとする伯父。……ほんの少しだが、その口角が上に上がっていた。

 

 

(まだ私が若いと言うことで、完全に嘗めているのだろう。操り人形になるつもりはないぞ……!)

 

「ね、ねぇ、様?」

 

「……心配するなマドゥナ。私はあんな奴には負けん。初動は奴に譲ってやろう、だがその首。精霊の名の下で断ち切ってやる。」

 

 

妹を安心させるために強く抱きしめながら、部屋の中を軽く見渡す。

 

周囲の状況を察するに、普段のように酒を楽しんでいたのだろう。父はよく寝る前に亡き母を思い出しながら酒を楽しんでいた。昨日もそうしていたところで、精霊にその魂を持って行かれてしまう。その要因が何物かによって起こされたのだろう。まだ確証は掴めていない、だが動機がはっきりしている奴が、一人いる。

 

酒の容器と、近くに置いてあった杯。そのふたつを集め近くにあった布で包みながら……、妹に持たせる。そして父が普段杯などをしまっていた場所から、代わりの物を置いておく。

 

 

「妹よ、私の頼みを、聞いてくれるか?」

 

 

まずはこれを、処理される前に確保せねばならん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間が進み、父の葬儀が進んでいく。

 

父の遺体が村の中央に運ばれ、その身を囲う様に貴重な木材が使われていく。そしてその周りを囲う様に、干された草が置かれていき、父の姿が見えなくなった。そしてそれを囲う様にいくつもの品々が置かれていき、村の祈祷師たちが精霊に対し祈りを捧げていく。

 

 

「我らを見守る精霊たちよ、偉大なる戦士、リヌバ・ハル・ガルムを新たな精霊として受け入れ給え!」

 

 

祈祷師が精霊に祈りを捧げ、父の魂の安寧を祈る。そして火を付けることでその肉体を大空に吸い込ませ、死した存在を精霊として確立させる。そして燃え残った灰は大地へと撒き、新しき命のための糧とする。

 

本来であればただ干された草で覆われる程度なのだが、父は優れた戦士であり族長でもあった。貴重な木材が支柱として使用され、使用される藁も多い。捧げられる供物も家畜一頭をそのまま使用されている。

 

 

(……どうか母と共に。)

 

 

我らは、死した者の魂は皆精霊になると考えている。そのすべてが、我らの見えぬところで見守ってくれている。大自然への信仰と、氏神への信仰が混ざったようなものだ。事実、伝承における精霊眼の持ち主は死した者の姿を精霊として見ることが出来たようだが……。“見えた”だけだ。その声を、聴くことはできない。

 

族長として、長女として、父のいる場所へと、火を投げ入れる。

 

 

「まだ不甲斐ない身だが、貴方の娘が“部族の長”として生きる姿を、見守っていてくれ。」

 

「エシャナ、そこに?」

 

「……あぁ、伯父上。我らのことを見てくれている。」

 

 

徐々に広がっていく火ではなく、敢えて“虚空”を眺めながら、伯父の言葉にそう返す。

 

私の眼の色は他の者とは違う。故に我が部族の皆が、私を伝承通りの“精霊眼”の持ち主と考えている。他に精霊眼の持ち主がいない以上判別の仕方など目の色以外に存在しない上に、幼き頃の理解不能な言動や行動もそれを後押ししていた。さらに付け加えるならば、女でありながら男衆が歯が立たないという力も、私が精霊に愛されていると考えてくれているようだ。

 

まぁ違う世界が見えていると言っても、説明のしようがないからな。私だって生まれながらに見ていなければ、自身の頭がおかしくなってしまったのかと考えるだろう。本来我らが知らぬはずの知識も、精霊が見せてくれたと言えば説明が着く。

 

早い話、皆が私を“普通の精霊眼”と思っているのだ。

 

 

(ここで、『父が憎悪の眼で伯父を見ている』と言ってもいいが……。足りない。)

 

 

確かに、我が部族は皆に教育を施せるほどの余裕がない。その日を生き残るための食料の供給や、それ以外の作業。日々を生きるのに精いっぱいな私達にはそんな余裕はない。故にあの世界と比べれば、その知識レベルの差は歴然だろう。

 

けれど決して皆が考え無しなわけではないのだ。ただの視線一つでコイツを切り殺せば私は狂人扱いされてしまうに違いない。皆を理解を得るためには、もっと多くの物証。皆を納得させることが出来る何か、が必要だ。

 

 

(けれど“アレ”から何も情報が出てこない可能性も、ある。)

 

 

唯一確保できたと考えられる、あの物証。けれど私が“精霊眼”である事は周知の事実。伯父もそれを理解していながら父を殺したとなれば……、殺された本人ですら自然死してしまったと感じてしまう方法をとったに違いない。いわば伯父が今私に話しかけたのは、“確認作業”。

 

まだ確実に伯父を排除する方法がない以上、ここは大人しく“都合のいい”姪を演じるべきだ。

 

 

「父から聞いておりました。『兄とは切磋琢磨する仲』であったと。」

 

「そうか……。確かに、リヌバとは長の座を巡り何度も刃を合わせあった仲だった。けれど同時に大事な弟でもあった。だからこそエシャナ、君にも妹は大切にするようにと言うつもりではあったのが……。彼女は?」

 

「少し、口喧嘩をしてしまいまして……。」

 

 

先ほど、伯父上が父の家から出てから数分後。我が妹であるマドゥナは『姉様のバカ!』と大声で叫び、泣きながら“父の遺品”を掲げ家から飛び出してしまった。葬儀にこそ出席しているが、一切私と顔を合わせようとしていない。……“それでいい”。

 

敢えて自身の悩み、本心を含ませながら言葉を紡ぐ。

 

 

「奴にとって父が唯一の顔を知る肉親です。生まれながらに母を失い、私もその代わりになれるよう努力しましたが、母のようには慣れず……。父が居なくなった以上、我が両方を補わねばなりません。ですが、母にすら成れない私では、父としても全くだったようで……。」

 

「そうか……。何、安心したまえ。私もいるし、私の妻もいる。娘はいないが息子はいる。子育ての経験もあるのだ。族長の仕事も、お前の父を手伝っていたこともある。時間はかかるだろうが、私も支える。だから安心するといい。」

 

「……感謝を。」

 

 

本当に、本当によく口が回るものだ。

 

クソが、何が安心するといい、だ。私を駒として動かすために信頼を得るための言葉でしかない。そもこれまで真面に会話すらしたことがなかったではないか。次期族長になった時の祝いの言葉ぐらいならば貰ったが、それ以前は完全に父を目の敵とし、声を掛けることすらしていなかったではないか。お前の手勢が動いているのを見破れなかったとでも思っているのか?

 

 

(父を失い罅が入った心に、優しい言葉を流し込んでいるつもりだろうが、もうすでに無理矢理固めた。まだ他の者たちの支持を完全に固められているわけではない故に仲良くしてやるが、私が一言一句忘れぬからな……!)

 

 

先ほど、葬儀前に私は皆に対し演説を行った。内容としては3つ、父が死んだこと、今から葬儀を行う事、そして私が正式に族長となることだ。けれどその反応は……、あまりよろしくなかった。

 

確かに、元から私を支持している者たちには受け入れられた。けれど父の支持者故にそれまで理解を示してくれていた者たちは不安を顔に出していたし、私が女故に受け入れることが出来ない者たちの顔は不満しかなかった。

 

 

(表立って何か起こることはないだろうが……、おそらく“不満層”は私が何かしようとした時に足を引っ張るのだろう。そしてそれを伯父がとりなした“様に見せ”、徐々に“不安層”の支持を私から伯父に移していく。そういう策か?)

 

 

今の我が部族は三つに分かれている。

 

私の支持者層である、比較的若い者たち。祭を通じて力関係を理解させたものや、力を貴ぶ気質の戦士集の大半がここにいる。後は次期族長になる前から私個人と親交のあった女衆数人や、父を通じて何度も言葉を交わし次期族長として認めてもらった薬師や祈祷師たち、その全てではないが“役職持ち”もここに入るだろう。30にも満たないが、総人口が100にもいかない我らが部族では結構な数だ。

 

次に、私に不満を持つ者たち。こちらも30弱程度。祭の際にこっぴどくやられ恨みを持つ者や、そもそも父に何かしらの“想い”を持っていた者、また女が前に立つことを良しとしない男衆や女衆などもここに含まれている。すでに伯父の手が伸びているような者たちで、先の演説の際、完全に伯父の手勢になっていることを把握している。我が妹を確保しようとしている動きも見えるため、警戒すべき集団だ。

 

最後に、“不安層”。ここが一番多く、父の統治には不満はなかったが、私の統治には不安しかない者たち。今後の“戦い”に置いて重要になってくる者たちでもある。役職を持たない者も多いが、それでも我らの生活を支えてくれる大事な者たちだ。

 

 

(不安層の不安をどれだけ取り除けるかが、勝負の肝。単に伯父を排除してしまえば、不満層のみならず不安層まで刺激してしまう。けれど上手く収めれば、その不安を収め自身を支持してくれることになるだろう。幾ら私に不満を持っていたとしても、統治が真面でありこの小さな部族であれば大多数を抑えてしまえば、自然と少数派たちは大人しくなる。)

 

 

“彼ら”の世界では文明が進み食料の心配や、様々な情報発信方法から、少数派であろうとも戦える手段があるようだが、私たちの世界は違う。草原は広大であり、同時に食料の入手手段は限られている。生き残りたいのであれば、大多数に従わなければ生きていけないのだ。彼らには少し悪いとは思うが……、納得してもらうしかないだろう。

 

つまりお互いの勝利条件は、どちらが“大多数”に成るか。不安層をどりだけ取り込めるか、になる。

 

伯父と私、もしくは伯父の支持者と私の支持者。殺し合いになれば両方ともこちらが勝てる。けれど“納得”がなければ人はついてこないし、殺せば殺すほど部族全体の力は失われる。

 

 

(私の勝利条件は、伯父が父を殺したという絶対的な証拠。そしてそれを皆を“納得させる”方法で付きつけることで、伯父を殺人者として処罰すること。対して伯父の勝利条件は、今いる“不安層”を私への“不満層”に変えてしまう事。)

 

 

おそらく、私が何かしようとしても、かならず妨害が起き、伯父に頼らざるを得ない様な状況を作ってくるだろう。それを繰り返せば繰り返すほどに、不安は不満に変わる。

 

つまり時間を掛け過ぎれば、伯父を排除できても取り返しがつかない状況に成っている可能性が高い。

 

悲しむ時間すら、惜しい。

 

 

(伯父よ、その眼。私が従順なことで自身の計画が上手く進んでいることを喜んでいるその眼! 必ずお前の血で染めてくれよう。父を殺されたのだ、簡単に死ねると思うな……ッ!)

 

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