とんでも動力もって異世界行こうぜ! 作:サイリウム(夕宙リウム)
「し、自然、なめてた……。」
う、運動不足クソ女に自然は厳しすぎる……。確かに最近ずっと部屋籠ってたし、運動なんか何年振りか解らんレベルだけど……。こんなにも動けないもんですかねぇ? いや動けてないから死にかけてるのか。
あは、お婆ちゃん。私もっかい死にそう。
「まったく舗装されてない道ってこんなに歩きにくいとは思わなかった……。腕輪くん、水くれ。水。」
ほんの少し立ち止まり、息を整えながら音声認識で空中に水を生成する。もちろん無重力状態でだ。そうそう、そのままお口にシュートして。……あ~、生き返るぅ! いやはや。マジでこの機能助かるな。
妹、お姉ちゃんは君のおかげで生き残ってます。感謝感謝。でもこの前私の私服クソダサいって言ったことは忘れんからな。ゴスロリしか着ないお前も大概やぞって今度言い返してやる。……会えるかわからんけど。
「っと、方向確認しなおすか。」
腕輪にもう一度指を当て、ディスプレイを起動しなおす。さっきもやったけど、便利なもんでこいつには周囲の大気中に何があるかとかの分析が可能だ。もちろん分析範囲には限界があるけど……、直径数キロ程度なら問題はない。これでぱっと周辺を調べて、水分が多い方へ動くって感じだね。
正直これで川とかある方角に進めるのか、合ってるのかどうかわかんないけど、何もないよりはマシかなって。
私にわかるのは一族がどんな研究と発明をしたのかってことと、自分の専門分野だけだ。もっと言えば一族の研究も発明も題目だけしかチェックしてないから、内容とか聞かれても答えようがない。つまり自分の専門しかわからないクソ雑魚ナメクジってわけ。
(ちなみにその成果であるキューブはなんで動いてるのか解ってないです。つまりナメクジ以下! あはー! 笑えないね。)
まぁつまり、分析ができないわけではないんだけど、そもそも前提になる知識がないからさ、これで合ってるのかどうかすらわかんないんだよね。というかナメクジよりも下の生物ってなんだろ。というかナメクジがなんで下の生物に見られてるんだ? わ、解らないことが多すぎる……!
「まぁとにかく。人里でも見つかればいいよねぇ。」
前世……、でいいのか? まぁちょっと前まで住んでた地球じゃ、こんな風に全く整備されていない自然なんて残っていなかった。地面は歩きやすいように整備されてたし、道だって解り易いようにARでのライン引きとかがされてた。どんなに古くても電子掲示板ぐらいあったんだけどねぇ。ここじゃまーったく何もない。
(昔の地球は、こんなのだったのかな。)
過去の阿呆どもが好き勝手に開発しまくった結果。環境が終わりかけた私たちの母星は、徹底的な管理によって元の姿を取り戻した。まぁつまり、文字通りすべての自然が人の手入ってるんだよね。逆に言うとそこまでしないと星がほんとにヤバかった、とも言う。
「だから基本、どこでも歩きやすいように出来てるんだけど……。ここ、そんなのじゃない! 石、石多い! サンダルじゃ足痛い!」
まぁつまり、この星に住んでいる存在は私たちのような間違いを犯さなかったか、それとも自然をそのまま置いておくタイプなのか、もしくは私たちよりも文明の発展が遅れてるっていう可能性を考えることが出来る。……最悪知的生命体すらいない可能性もあるんだけどね?
そんなわけで私の最初の目標は、“人里”を見つけること。どこまで行っても私たちのような生物って水がなきゃ生きていけない。どれだけ発展しようとも、それは同じだ。故に川を見つけた後は、それを下り人の痕跡を探す。まぁここ異世界っぽいし、私の常識が全く通用しない可能性もあるから、水を必要としない知的生命体がいる可能性もあるけど……。
とにかく今の目標は、そんな感じだ。
「人は、一人じゃ生きられないから、ね! どっかの現地居住地で、保護してもらわんと! さすがに死ぬぞ!」
今はまだ出会っていないが、こうも整備されていない自然だと危険な野生動物がいる可能性もある。草食ならまだ何とかなるかもしれないが、肉食となると無理だ。身を守る術はデバイス君のおかげであるけど、こっちがストレスで死ぬ。シマエちゃんはか弱い生き物なのですよ……。
キューブと、デバイス。これさえあれば最低限の生存は可能だが、こちとら文明社会人。野生児の生活には慣れていない。そういう意味でも、さっさとどこか見つけて、安心したいんですよね。
「…… ん? これは……、水音か?」
そこらへんで拾った木の枝を杖にしながら、頑張って獣道を歩く。体力不足のせいか徐々に重くなっていく足を必死に動かしながら木々を抜けると……。
「おー。」
いかにもって感じの川にたどり着いた。地面が土から石に変わったこの感じ。とっても川。そしてとっても足の裏が痛い。死にそう。大自然のせせらぎを鼓膜で感じながら、近くにあったちょうどよさそうな石へと腰かける。
「け、健康的な生活しなくちゃ……。さて、どうするか。」
とりあえず体力が回復するまでここで休憩するのは確定なのだが、それまで何をして時間を潰そうか。……ヤバいな、ずっと研究するか病むかのどっちかしかしてなかったから、何もしない時間が怖いぞ。そわそわしちゃうぞ。昔はこんな暇な時間渇望してたはずなのに、いざ暇になると滅茶苦茶困るとかマジですか。
「あ~、とりあえず自分がヤバくなってるのはわかる。うん。……動いてなきゃ死ぬとかマグロか?」
誰もいない場所でそんなことを口ずさみながら、流れゆく川を見つめる。……結構きれいだな。整備されてないから色々と荒いけど、自然本来の力強さというか……、そういうのが感じられる。わざわざ別星系の惑星に行って自然を見に行くって言うのが趣味の人の話聞いたことがあったけど、こういうのを見に行ってたのかなぁ。
……そうだ、川と言えば釣りじゃない? ちょっとこの未知の惑星の魚とか気になるし、やってみようかな。
「腕輪ちゃんや、妹が用意してくれたレシピの中に釣り道具は……。あ、ない。じゃあ糸は……、無いわけではないけど、釣りに使えそうな細いのって鋼材系だけだな。」
そも金属の糸で魚釣りとかできるのか? というか食いつくんかね?
「というかそもそも餌もなかったな。確かレシピの中にサンドイッチとかもあったから、ハムとかくっつければ餌になるんだろうけど……。まるっきり生態が違うだろうからなぁ。本気で釣るなら現地調達?」
確か地球だったらミミズとか? 地面掘り返して探すべきなんだろうけど、残念ながらわたくしにそんな体力残っておりませんわ! ……しゃあね。魚釣りは諦めてちょっと水遊びする程度にしてみましょうかね? ちょっと水面に近づけば何泳いでるかわかるだろうし。
「さぁ~て、私の知らないおさかなさんはいるのか……、は???」
そんな感じで覗き込んで、さっそく生き物を見つけたのだが……。
川底から、なんか尖った物をこちらに向ける謎生物と、目が合っちゃった♡ あ、視界がスローに。あとこの尖がってるのたぶん甲殻類のハサミとかそんなんだわ。あとお前、サイズクソデカいな。開いたハサミの横幅だけで1mはあるんじゃない?
あ~、伸びてきてる。伸びてきてる。完全に私の首狙ってますね、お前。
え、もしかしてまた死ぬ?
「にゅ、にゅわッッッ!!!!!」
そのままパチン、と行かれそうになった瞬間。思わず目をつぶる。けれど聞こえて来たのはガキンという強い金属音。音のする方を見てみれば、どうやら腕輪型デバイスのプログラムが起動していたようだ。五角形のバリアが球体を描くように私を包み込み、守ってくれている。
(さ、さっき全部オンにしておいて良かった……! これ私が病んでオフにしてた『シールド』だぁ。)
ハサミを伸ばすのと同時に、立ち上がったのだろう。水面から自動車並みの大きさのザリガニのような存在が出てくる。依然として私のシールドをそのハサミで断ち切ろうとしてるようだが……、不可能なようだ。というかお前もしかして川底に身を隠してたの? そのサイズで? い、異世界ヤバいな。潜ったら速攻で溺れそう。
(さてはて……。どうしよ。)
私には『ディメンションキューブ』があるので、このシールドが破られることはないだろう。だってこれウチの一族が作った奴で、宇宙戦艦級の艦砲に耐えれる奴だし。その分消費電力ヤバかったはずだけど……。ちょっと待ってねザリガニ君。今キューブ確認するから。
そんなことを考えながら、白衣のポケットの中に入れていたキューブを取り出してみる。……あ、うん。何の異常もないですね。これ永遠にシールド起動してても大丈夫な奴ですわ。
「となるとYOUが諦めるか、私がYOUを追い払うか倒すか以外の方法がなくなったんだけど……。諦める気配はなさそうだねぇ。」
そのクソデカい大きな黒い目をこちらに向けながら、いまだ警戒を解かないザリガニ君。おそらく私の気が緩んだ瞬間に、ぱくっと食べちゃおうという気なのだろう。一応このシールド私を中心にして起動してるから、ザリガニがくっついたまま移動することもできるんだけど……、流石にちょっと嫌だよねぇ。
「なんか攻撃に転用できそうなプログラムなかったかな……。」
病むか研究するかしかなかった私は、自分のデバイスに何が入っているのかあんまり理解してない。ウチの両親から渡された奴使ってるから、色々と“一族仕様”にはなってるんだろうけど……。あ、電気ショックっぽいのがあるな。え~と? 腕輪を付けている方の腕を対象に向けて? ボタンか音声認識で発射します?
「プログラム名は……『ショックガン』?」
なるなる、やってみるか。
プログラムの説明通りに、腕を向けてみる。するとちょうどお手手の前に電気の球のようなものが生成され始めた。……ケドこれたぶん対人用だな。もうちょっと威力上げた方が良さそ。
「わかんないし、最大出力でいっか。……よし貯まった、それドーン!」
目の前に生成されていた電気の球が大きくなったのを確認した後、そんな掛け声を上げながら、発射してみる。
その瞬間、目の前に広がる閃光と爆発音。
ザリガニ君が、大爆発なされた。
「Oh……。」
周囲に飛び散る真っ赤なカニ肉たち。香ばしい香りと、独特の匂いがして来るけど……、この川自体がキレイだったのか変なにおいは一切しない。というか逆にお腹が空く匂いだね。なんかお腹空いてきちゃった。……食べられるかな? 見た目的にも匂い的にも大丈夫そうではあるけど、一応確認しておこう。
「腕輪君、これ食べれる?」
ちょっとディスプレイのほうを見てみると、『いけるっすけどそこまでおいしくないですよ』とのこと。あ~、そっか。美味しくないのか……。でも殺しちゃったし、ちょっとでも食べて供養した方がいいよね。んじゃ一口。
「あ、うん。確かに。何というか……、パサついてる? おいしくはないな。」
一口食べたらもう十分って感じ。なんか無暗に殺しちゃった感じになっちゃったね。申し訳ないや……。
さ、さ! とりあえず休憩して体力は回復しましたし、気を取り直して川を下っていきましょう! もしかしたらさっきの爆発でなんかヤバい獣とか! ザリガニの仲間が寄ってくるかもしれんし! 逃げるためにも、人里目指して頑張るぞ! おー!
◇◆◇◆◇
場面は変わり、別の場所へ。
この世界にやって来たばかりのシマエが巨大なザリガニと対峙していたころ。付近の人里にある冒険者ギルドでは、二人の男女が会話を行っていた。どうやらその服装から見るに、冒険者と受付嬢という関係性のようである。
「そういえばなんだけどさ、あのザリガニ野郎って最近どうなんだ?」
「あぁ“ラージクレイフィッシュ”ですね。確かに繁殖期ですし、集まって来ててもおかしくないですね……。」
そういいながら、お目当ての資料を探す受付嬢。文字通り“大きいザリガニ”は、この世界における『魔物』に分類される生物であり、人類の敵である。彼らが住む人里周辺に於いて多く発生する魔物の一種であり、定期的にその討伐がギルドから冒険者に依頼されている様である。
ちなみにだが、この世界の『人類』の形態は、れっきとしたヒューマノイドタイプである。シマエがいた世界ではどうやら地球以外にも知的生命体が住む星があり、そこでは虫型や岩石型、そのほか様々な宇宙人が存在していたそうだが……。とりあえず見た目が近い『人類』がいる世界で良かった、というべきだろうか。
「あ、ありました。……そうですね、時期的にまたギルドから依頼があると思います。また斥候の方にお願いして居場所を見つけ、皆さんでお願いする感じですね。」
「りょーかい。……でもアイツ、殻は固いし川にいるから足場も悪いってことでかなり戦いにくいんだよな。数さえ集めれば倒せないこともないんだが。」
頬杖を突きながらそう愚痴を吐く冒険者の男。どうやら彼らが巨大なザリガニと対峙する際は、大人数で挑み、同時に罠などの装備をいくつか使用する必要があるようだ。罠に嵌め動きを封じ、その巨大なハサミに注意しながら攻撃を行う。
その表情からするに、彼らには割の合わない仕事、というモノなのだろう。
「大事な水場を確保するためですから、仕方ないですよ。……ウチの領主さまが魔導鎧でも持っていれば話は別だったんですけどねぇ。」
「あぁ、魔導鎧。……俺実は見たことないんだけどさ、そんなにすごいの?」
「そりゃもう!!! 私もギルドの研修で首都に行った時しか見たことないんですけどね! ほんとに、ほんとにすごかったんです!!!」
「お、おう……。」
一度開いた口は、そうそう閉じるものではない。湧き出るようにその口から出てくるのは、『魔導鎧』と呼ばれる存在についての話。話を聞く限り、どうやら搭乗型の巨大ロボットのような存在の様子。サイズは10~20mほどであり、動力源は『魔物』がその体内に必ず所有する『魔石』。
そこから魔力を汲み上げ、戦場を駆るのが『魔導鎧』という存在のようだ。
「あれ一つあるだけで魔物退治も楽々って話ですものね! まさにヒーローって感じです!」
「まぁそうなりゃ俺たち冒険者は廃業しなくちゃいけなさそうだが……。実際ソレ、幾らぐらいするんだ? 聞いてた話滅茶苦茶高そうだが。」
「そうですねぇ……。」
『魔導鎧』、その動力源となる『魔石』自体は『魔物』を倒せば入手することが出来る。しかしながらその質と大きさはかなり吟味せねばならず、お目当ての『魔石』を手に入れるまでかなりの時間と費用を要求されるだろう。動力源だけでそれほど手間がかかるのだ、『魔導鎧』のボディを作るのにも、それと同等以上の労力が必要となる。
現代の価値感覚に合わせるのならば、戦闘機と同等レベル。ある程度裕福な貴族、また国家であれば数を揃えることが出来るだろうが、この村のような小さく財源も限られているような場所の領主が持てるような存在でないことは確かだ。
「古代の遺跡とかで見つかることもあるそうなので、それならタダで手に入るんですけど……。まぁ望み薄ですよね~。」
「まぁとにかく一個人が持てるような物じゃねぇってことはわかったよ。」
二人がそんな話をギルドでしていた時……、そこにまた別の男が急いで中に入ってくる。その服装からして、彼も冒険者の一人なんだろう。
「大変だ! 近くでザリガニ野郎が出やがった!」
「っと、噂をすれば、か。」
「あらら。じゃあ依頼用の書類書かないとですね。明日ぐらいに人集めて討伐しないと。」
「それじゃあ遅いんだ! ティムさんとこのラグちゃんが水汲みに出ちまってたみたいで! まだ帰って来てねぇんだ!」
「なんだって!」
慌てて討伐のために人手を集めるために、動き出す二人。ラグといえば、この村で農家をしているティム家の一人娘。まだ年も10に満たないはず。そんな非力な存在が、とてもあの巨大なザリガニから逃げられるとは思えなかった故の行動だった。
「急ぐぞ! 俺は罠と武器を用意して来る! お前らは人を集めてきてくれ! この際冒険者じゃなくてもいい! とりあえず数がいるぞ!」