青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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青い監獄(ブルーロック)入寮
No.1 青い灼熱の世界へ


 

 鍵をかけ忘れたんだ。

 全てと距離を取りたかったから、鍵をかけようと思ったのに。

 俺のミスだった。最大の失敗だった。

 でも、それは本当はミスではなかった。きっと、最高のプレーだったんだ。

 例えサッカーで仲間から裏切られても、スポーツそのものを嫌いになってしまっても、燃える世界は楽しかったと知っていた。

 だから待っていたんだ。夢に向かってバカみてーに考えて、バカみてーに練習して、最後に勝って、バカみてーに喜べる……そんな仲間を。

 マイナースポーツ? 初心者? 怪我? そんなものは関係ねぇ。

 俺はあの灼熱の世界で、今度こそ本当の仲間を見つけた。

 だから認めるよ。全てと距離を取るために鍵をかけ忘れたなんて、嘘でしかねぇ。

 それでも、俺がそのスポーツと関わったきっかけが「鍵をかけ忘れた」んだとしたら。

 日本サッカーに英雄を生み出す、なんて宣言したあの男との出会いは、いったいなんて表すのが正解なんだろうな。

 

 

────

 

 

 夜、都内某所。遠くに車の走る音が、近くに少しくぐもった川の音が聞こえる。東京にしては人通りも少ない河川敷の歩道。

 一人の痩せた男が、もう一人、学生に向かって声をかけた。

「探したよ。能京(のうきん)高校、宵越(よいごし)竜哉(たつや)

「……何の用だ?」

 学生の名は宵越竜哉。身長187cm、体重78kg。日本にいれば嫌でも目立つ身長で、その高さに見合う骨格と体躯を持つ。銀髪、烈火のような赤い瞳が、正体不明な侵入者を見定めようとしていた。

 問われた男──宵越の思索を邪魔した痩せた男は、黒縁眼鏡に黒色の光を宿して言った。

「俺は絵心(えご)甚八(じんぱち)。日本サッカーをW杯(ワールドカップ)優勝させるために雇われた人間だ」

「……は?」

 男──絵心の顔が街灯に照らされる。宵越の目の前の男は、正体不明の侵入者──と言うには少し拍子抜けな風体だった。

 服装は普通そのものだ。黒のスキニーフィットジーンズ、黒のシャツ、黒縁眼鏡。オカッパ頭、というのも昨今の流行とは違うけれど、別段おかしいものじゃない。

 違うのは目つき。三白眼とも言い難く、暗く深淵を覗くような、底の見えない黒い瞳。

 こいつはイカレている。宵越は直感した。

 絵心は続ける。

「宵越竜哉。FW(フォワード)でありながら一度もファウルを喰らったことがない《不倒》の異名を持つ男」

 宵越は頭を掻いた。ため息をつく。昔の話は、少し苦手だったから。

「……まあ、名前を知ってるなら、昔の俺を知っててもおかしくないよな」

「だが味方の協力を得られず、宵越竜哉はサッカー界から姿を消した」

「その通りだ。今の俺はサッカー選手じゃない。日本サッカーをW杯優勝させるっつったな。どんなイカレ野郎かしらんが、それが嘘でも本当でも、俺には関係のない話だ」

「本当にそう思うか?」

「ああ?」

「確かに、数年前のお前はサッカーのエリートから転げ落ちた人間だったな」

「……」

 少し、宵越のこめかみがひりつく。絵心が語った宵越の来歴は事実だけど、バカにされて何も感じないほどおとなしい男子学生じゃない。

「頂点争いは結果がすべてだ。怪我? 仲間? 実力? そんなものは関係ない。脱落した時点で惜しいもなにもない、完全な敗者(ファックオフ)だ。だから天才、神童──そんなお前の箔はもう泥でしかない」

「バカにしてんのか? とっとと失せないと──」

「だが──観させてもらったよ。高校カバディ選手権、関東大会。《絶対王者》星海高校と《不撓不屈》能京高校の決勝戦を」

「……!」

 宵越の眼が見開かれた。

「マイナースポーツ《カバディ》。そこで絶対王者を相手に戦う挑戦者。沢山の選手の健闘、その中の、宵越竜哉の奮起を」

「……日本を優勝させると言ったな。何故俺に声をかけた?」

「いいぞ、宵越竜哉。俺に興味を持ったな」

 絵心は両腕を開いた。

「俺は全国から300人の高校生FWを招集する。そしてその中から世界一のストライカーを生み出す実験をする」

「日本サッカーに足りない攻撃力を補おうってわけか」

「違うな」

「あん?」

「『補う』じゃない。日本サッカーを『ブチ壊す』んだよ」

「……」

「日本に足りないのは、革命的なストライカーだ。イカレたエゴを持つストライカーだ」

「その言い方は穏やかじゃねぇな。単なる強化指定選手の誘いなんかじゃねぇ。お前自身がイカレてやがる。具体的に何をする? たった一人になるまでしのぎ合いをするとでも?」

「さすがだな、スポーツエリート宵越。お前の言ったことは間違いじゃない」

 たった一人になるまでしのぎ合いを──

 宵越は絵心から視線を外した。踵を返した。そして歩く。

 関東大会の決勝を思い出す。仲間と一緒だったからこそ最高の結果をたたき出した宵越には、絵心の答えは到底納得できないものだった。

「バカげてるな。スポーツは──チームスポーツは一人で勝てるほど甘くねぇよ」

「確かにな。だが──宵越、お前もわからないわけじゃないだろう。味方の協力を得られない苦しみを」

 宵越の足が止まる。

「おちゃらけた仲良しこよしグループじゃない。しのぎを削りあい、いつかそいつを越えると決めた宿敵(ライバル)。それが、お前が求める仲間って奴だろう?」

「……」

「はっきり言おう。普通の奴らは確かに脱落するだろうな。だが、集められた300人全員が、お前と同じ《熱》を持っていれば。そいつはライバルであり、仲間となる」

「サッカーは止めた。お前なら俺を呼び戻せるってのか?」

「ああ。お前の()()はまだ消えてない、燃え盛ってる。宵越竜哉、お前に高みを目指すための仲間を見つけるチャンスをやる。かつて、お前が逃げ出したサッカー界にな」

 今度は、絵心が踵を返した。もう、余計な言葉はいらないと言うように。

 

「確かめたいのなら、来い。《青い監獄(ブルーロック)》に」

 

 宵越の脳裏に、いくつもの映像が浮かび上がった。

 仲間に裏切られ、指導者に心を殺されたサッカー時代。

 不本意に参加させられ、けれど目指す道と仲間(宿敵)を見つけ、熱を思い出したカバディ時代。

 そうして見つけた、本当の自分。

 本当はサッカーが、スポーツが好きな自分。

「勘違いすんな。別にお前の考えに賛同したわけじゃねえ。世界一のストライカーの肩書きにも興味はない。俺が目指すのは勝利と、最善と、最高だ」

 けれど。

 

「それでも、見届けてやるよ。今のサッカー界が、本当に熱を取り戻せるのか。今なら俺が『いてもいい』と思える場所になるのかをな」

 

「……決まりだな」

 絵心が、宵越が、笑った。

 日本全国から集められた300人の高校生。

 その中に、《不倒》宵越竜哉が混じる。

 青色の監獄に、灼熱が混じって生まれる。

 

「ようこそ、宵越竜哉。世界で一番フットボールの熱い場所へ」

 

 宵越竜哉は飛び込む。青い灼熱の世界へ。

 






注釈

・本作はブルーロック×灼熱カバディの二次小説になります。
・主要舞台はブルーロック、主人公は宵越竜哉です。
・登場人物の性格などの変更はありませんが、本作1話に至るための各出来事のイベントの日付は、多少変更が加えられています。
・例として、埼玉高校サッカー選手権、高校カバディ選手権関東大会、など

あなたは《ブルーロック》と《灼熱カバディ》を……

  • 両方とも読んでる。
  • 《ブルーロック》を読んでる。
  • 《灼熱カバディ》だけ読んでる。
  • 両方とも読んでない。
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