幅、奥行き、高さ、そのすべてが均等に作られた部屋がある。
その部屋は、扉がある一面、天井と床を除く横三面のすべてに無数のモニターがあり、
ブルーロック総指揮である絵心甚八、そしてその補佐を務める女性、
「絵心さん。──棟のリーグ戦、一次選考の結果発表、終了しました」
「サンキューアンリちゃん。一応、結果見せてくれる?」
自然光がなく、モニターだけが光源の、少々健康に悪い部屋。不健康そうな隈をもつ黒縁メガネの絵心は、たった一つの画面をにらみつけていた。
ミニモニターとパソコンを相手ににらめっこをしていたアンリは、プリントアウトした紙を絵心に渡した。
「勝者はこの2チーム。それと最多得点者は──」
アンリの言葉を絵心が引き継いだ。
「
「この棟は絵心さんの言った通り、波乱含みでしたね」
「波乱じゃなく
「例えば二子君が、でしょうか? 事前のデータでは大川君の得点力が圧倒的でしたが」
「うん。それこそ、
「確かに、二子君も、千切君も……では絵心さん、
アンリは視線を
そこには、伍号棟最終戦、宵越竜哉らチームZ、そして糸師凛らチームVの試合が映されている。
「
「あのさ、アンリちゃん。目の前で起きている
試合はちょうど、西岡がゴールを決めた瞬間が映されていた。とはいえ、絵心もアンリも人間だ。どうしても感情もあって、その二人の目線は宵越に向けられている。大画面で、かつてサッカー界から姿を消した不倒が神がかり的なモーションを決めている。それは日本の
スコア、2-2。両チームまったく譲ることはない。
「宵越君……一時期は全く情報がなかったですけど、絵心さんから聞いた時は驚きました。まさか半年間、他のスポーツをしていたなんて」
「うん。まあ俺も正直物見遊山程度だったけど」
300人の選考基準はアンリの意見もあるとはいえ、ほとんどは絵心の独断と偏見だ。元々の実力ではなく、実力の奥深くにあるエゴイズムを見ている。
だから一度サッカー界から逃げた宵越は、本来ここに立つ人間ではなかったが──
「なに、アンリちゃん観てないの? 俺が渡した星海戦の映像」
「す、すみません……選手の体調管理が忙しくて」
「バカ巨乳め」
「バッ!? そ、そーいうのはセクハラです!?」
「結局、宵越はスポーツそのものを諦めてなかっただけだ」
無視された。アンリはしょぼくれた。
星海高校。そこはスポーツ強豪校として有名で、その中でもカバディで無敗を誇る強豪校だった。中学時代に世界戦を経験し、名実ともに高校日本トップの称号を持った選手もいた。
「そこに、宵越を含めた能京高校──弱小校が立ち向かった」
「すごい試合だった──絵心さんは、『ほぼカバディ初観戦なのに熱を感じた』って言ってましたね?」
「ああ」
頂点争いにマイナーもメジャーもクソもない。
7人で組み上げられた堅固な守備。それを突き崩す剣に斧、様々な質を持つ攻撃。
その中に宵越はいた。
「今の宵越のプレーは、敵を抜き去る《カット》、振り払う《回転》だ。だがアイツがカバディの試合で見せたのはそれだけじゃない。ただでさえフィジカルお化けで不倒と言われていた奴が、大武器を引っ提げて帰ってきた。その障害となるのは、去年中学で日本一を取った糸師凛」
糸師凛はエゴイストとしての精神を説くまでもなく、既にその精神性を持ち得ている。故にこの一次選考では敵無しになってしまうだろう、という懸念はあった。
そこに、体良く宵越竜哉が入寮を承諾した。
絵心は、深く暗い瞳をアンリに向けた。
「もう一度聞くよ、アンリちゃん。糸師凛と宵越竜哉。この二人の殺し合いが、進化を生み出さないと思うか?」
「……」
アンリには夢と熱意がある。けれど絵心ほどにサッカーをシステム的に、精神的に語れる経験や思考はない。
だから言ったように、進化をするかどうか、という問いには答えられないけれど。
アンリは言った。
「この二人は……糸師君と宵越君には、どこか怖いものを感じます」
「……まだ一次選考だし、そのぐらいの回答か」
絵心はもう、アンリを見ない。
それでも、この試合だけは、目に焼き付けずにはいられない。
「今まで現代のぬるま湯に浸ってた奴らが『負けたら日本代表に入る権利を永遠に失う』と言われて初めて感じる
「なら……」
「進化にせよ変化にせよ、見れるだろうさ。潔世一の覚醒にも劣らない、人間が変わる瞬間ってやつを」
いや、それとも。
「不倒はもう、進化した後かもしれないけどな」
────
後半戦が始まる。
チームZ、宵越のパスから始まる。ただ、何事もセオリー通りにはいかない。
既に前半戦、45分も戦ってきた。チームが11人で成り立っている以上、レッドカードも負傷者も出すことはできない。そんな緊張感の中で戦ってきたメンバーは、既に疲労の色を隠せないでいる。
大粒の汗が滴るのは宵越や凛も例外ではない。それでもパフォーマンスを崩さずにマッチアップを続けているのは、二人の変人じみた意地に他ならない。
二人が互いの実力を消し合う中で、何度もボールを保持するチームは入れ替わっていた。
その最中。
「あの不倒が、ずいぶんと弱くなったもんだな」
「ああ?」
「自分でゴールする気がねぇのかよ」
「何度も言わせんなよ」
エゴイズムの在り方。凛がやたらと突っかかってくるだけで、本質的には絵心や他のメンバーとも何度も話していることだ。
ロッカールームでも、話すべきことは話していた。
『一朝一夕での連携は通用しない。それは承知の上で……それでも、勝つぞ』
宵越は確信している。一人では、凛率いるチームVには勝てない。当たり前のことだ。サッカーはチームスポーツなのだから。
そして、どんなチームスポーツでも同じだ。一人が強いから勝てるものではない。
そして宵越の一番の根源は、勝つこと。
「俺は負けるのが大っ嫌いなんだ。何よりもな」
試合は激化する。凛が宵越に、宵越が凛に封じられていようと、エゴイストたちは勝利することを諦めない。
ボールは西岡に回った。敵陣寄り、有利な位置。周囲を見渡す。
その西岡の一瞬をつき、地を這うような清羅のボール奪取。西岡が負ける。
間髪入れずにパス、黒名へ。そこから一人を経由して、流れるように再び清羅へ。
プレーの最中、清羅の脳裏にロッカールームでの一幕が浮かび上がる。
『互角だな。次はどう戦う?』
『お前ら、俺に聞かねえと何もできないのかよ』
『当然、俺たちも凛の道具だけに成り下がるつもりはない、ない』
『黒名の言う通りだ、生き残るための手段を選んでるだけだ』
会話と呼べるほど優しいものではなかった。凛、清羅、黒名以外のメンバーもほぼ無言。凜に煽られた、強迫めいた熱。そして、凛の熱に侵されずとも熱がある黒名や清羅がいた。
エゴイストは凛だけではない。
凛だけでは、ない。
パス回しを中心に展開していた清羅が、チームメイトを置き去りにして加速する。
一点突破、未熟な守備陣を突っ切って行く。
地を這う、低身長の清羅。その思考をイメージし、清羅の周囲を動く黒名。
今までにない、凛を囮にした戦い。だからこそ、一点に限り刺さる選択。
そして、最後はCBとGKの股を抜く、
宵越にとって、敵は凛だけではない。
スコア、2-3。プレーが再開する。
激化した戦場再び宵越から回ってきたボールは、西岡を経て七星にまで回ったところで膠着した。
七星は戦場を見据えるが、今までの3戦とは視界がまるで違っていた。
(宵越さん──西岡さん──二人ともパスが出せねぇ……!)
初戦で0を1にした宵越、宵越の意図を汲み攻撃の幅を広げた西岡。劣勢に傾いても常に点を奪えたのは、二人が中心になって敵陣を切り開いてきたからだ。
だから、多少苦しくても二人にパスを出せば戦況は好転する──それが当たり前だった。
だが、この対V戦は違う。宵越は凛と拮抗し、西岡は黒名や清羅の対処に集中している。
頼れるチームトップの力を、簡単に頼ることはできないのだ。
七星は仲間に──CBまでボールを戻す。
視界が狭まる。ヘッドバンドが汗でズレた。気づかなかった。
(……俺、生き残れんのか)
この試合に関しては、負けても問題はない。伍号棟2位で通過できる。
だが、この
(そんなことで──いいわけがねぇ)
ここで自分も、変わらなければ。
今まで、ただ誰かの1をサポートするだけだった自分が、1を示さなければ。
それは、絵心がどこかで告げたような突出させた武器でなくてもいい。
仲間と連携することだって、また別の1になりえる──
再び巡ってくるボール。ヘッドバンドを直した、新しい視界。
恐れと震え、けれどクリアに見えるフィールド。
ただ、自分一人だけなら怖いけれど。
宵越が自分を見ている。
勝つつもりでいろと、何かをしろと、1を作れと叫ぶ宵越が。
期待も諦めもなく、ただ見据えるために見ている。
自分でもできると、どうしてか思えてくる。
七星が今、初めて主体的に動いていく──
「殺し合いの最中によそ見か?」
凛の声に、宵越は七星に向けていた視線を戻した。
「よそ見なわけがあるかよ。
そう、よそ見ではない。フィールドを睥睨する。それが今の宵越だ。
宵越はサッカーで、かつ同世代においてトップクラスの実力者だ。とはいえカバディでは素人も同然で、スポーツ選手としての才能と身体能力にサッカーの経験、あらゆるものを駆使して向上していく。そんなカバディ選手になった。
自分がいた能京高校カバディ部もまた、部長が強いといっても弱小チームに過ぎなかった。そこから強敵たちを倒して、一歩一歩強くなっていった。
そんな中の一つの試合。世界戦経験者がいないにも関わらず、呼吸がそろうほどの連携をもって宵越や部長──王城正人を守備で圧倒したチームがあった。そのチームに勝つために宵越は適応を、進化を余儀なくされてきた。
『
貪欲なまでに変化し続ける男、《不倒》宵越。
かつて自分を変えた指導者に言われた言葉。
『守備の気持ちがわかってないから止められる』
『守備をよく見て』
今、その言葉が、サッカーに回帰する。
──仲間の気持ちがわかってないから連携ができない。
──仲間をよく見て。
仲間を、よく見る。
敵だけではない。フィールド全体を、平等に。
視界の端。西岡と七星が動き出す──
宵越は口を開いた。不敵な笑みを浮かべながら。
「さっきの話の続きだけどよ」
「なに?」
「お前のエゴは知らねえ。だからお前を否定するつもりはない」
自分がゴールを決めるために動く。それを否定はしない。
けれど同じくらい、自分のエゴを否定させない。
「俺の好きな言葉は“最善”』だけど、望んでいるのは……」
誰かと一緒に戦って勝ち抜いて、バカみたいに笑い合った先の。
「“最高”なんだよ!」
高度な攻撃の時は、どうしても宵越や凛が絡んでいた。今までだったら宵越がフォローに回っていた。逆にその攻撃をインターセプトし、カウンターに動く。それが両チームの攻撃。
けれど、今宵越は動かない。どこまでも凛を封じ込める。カット技術で凛との距離を保ち、ダブルプレスするモブ敵にはハンドワークで受け流す。すべての技術をもって。
七星のパスが西岡へ。その西岡には、黒名と清羅が立ちはだかる。
敵陣中央、西岡のバックヒールパス。再び七星に向かう。
それを七星は──ダイレクトパス。今までにない手。それは遠く、一時的に宵越の代わりに右翼前方に移動していた味方8番へ行き──さらに8番もダイレクト。
七星は、技術面において上位陣と比べるべくもない。けれど最後にパスを受けたのは西岡。味方の荒いパスを、ある程度細やかに受け取ることができる人間だった。
黒名が、清羅が、意表を突かれる。もちろん修正も早い。けれど、一度きりの攻撃ならそれは戦略として通用しうる。
西岡に向かうチームV。宵越とマッチアップする凛。
フリーになる七星に、ボールが回る。
伍号棟一次選考初めての七星のシュートは、それでも直前に敵DFが一人立ちはだかり、一度そのDFを避けるために足を使わされた。
再びのフリー。0.5秒以下の猶予。使えない利き足。
七星の脳裏に走る、絵心の啓示。
──撃て。それがストライカーだろ?
無我夢中に、逆足を振りぬく。
ここにいるのは300人のストライカーたち。
ストライカー、七星虹郎のシュートが、
突き放し、追いつきの接戦の中、七星が叫ぶ。集まり喜ぶ仲間たち。
その群れには飛び込まず。けれど宵越も笑みを浮かべずにはいられなかった。
仲間を良く見た。動く必要がない状況だった。七星の眼が、今までと違っていたから。
凛さえ防げば、きっと点は奪えるとわかっていた。
宵越にとって、敵は凛だけではない。
そして凛にとって、敵は宵越だけではないのだ。
「……二度目はねぇよ」
凛はもう、こちらを見ない。
「だろうな。正直、七星はまだまだヘタクソだ。だが……」
点を取れなくても、自分にできる限りの策を練って時間を稼ぎ、敗北を防いだチーム9人目の選手を知っている。
大会全6試合を通してたったの2点。けれど、その2点を得ることで延長戦に持ち込んだ、熱い先輩を知っている。
「だがよ、値千金の1点だったぜ」
誰もが勝利に貢献し、誰もが敗北の原因になる。それがチームスポーツだ。
「決勝戦で、
宵越は叫んだ、仲間に向かって。
「勝つぞ──チームZ!」
伍号棟頂上決戦
後半38分、残り7分
スコア、3-3。
・現在の状況:チームV対チームZ
スコア:3-3
得点者:凛、宵越、凛、西岡、清羅、七星
Q7.あくまで私見を聞きたい! 宵越は世界or自分型? 自由or不自由型?
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世界(秀才)・自由型(潔、氷織など)
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世界(秀才)・不自由型(カイザーなど)
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自分(天才)・自由型(士道、蜂楽など)
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自分(天才)・不自由型(凛、國神など)
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なんやその型とキャラ、知らないぞ……