青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

11 / 52
No.11 眼に映るモノ

 

 

 幅、奥行き、高さ、そのすべてが均等に作られた部屋がある。

 その部屋は、扉がある一面、天井と床を除く横三面のすべてに無数のモニターがあり、青い監獄(ブルーロック)のすべての棟、すべてのチーム、すべての試合の様子を確認することができる。

 ブルーロック総指揮である絵心甚八、そしてその補佐を務める女性、帝襟(ていえり)アンリが利用する専用の部屋だ。

「絵心さん。──棟のリーグ戦、一次選考の結果発表、終了しました」

「サンキューアンリちゃん。一応、結果見せてくれる?」

 自然光がなく、モニターだけが光源の、少々健康に悪い部屋。不健康そうな隈をもつ黒縁メガネの絵心は、たった一つの画面をにらみつけていた。

 ミニモニターとパソコンを相手ににらめっこをしていたアンリは、プリントアウトした紙を絵心に渡した。

「勝者はこの2チーム。それと最多得点者は──」

 アンリの言葉を絵心が引き継いだ。

馬狼(ばろう)照英(しょうえい)二子(にこ)一揮(いっき)鰐間(わにま)淳壱(じゅんいち)ね。なるほどなるほど」

「この棟は絵心さんの言った通り、波乱含みでしたね」

「波乱じゃなく()()だよ。誰しもが生き残りを望む。敵が強かろうと関係ない。死線を超えるために進化する。生物として当然の反応だ」

「例えば二子君が、でしょうか? 事前のデータでは大川君の得点力が圧倒的でしたが」

「うん。それこそ、(いさぎ)世一(よいち)や、千切(ちぎり)豹馬(ひょうま)と同じように。敗北が人を絶望させ、そこから進化することだってあるさ」

「確かに、二子君も、千切君も……では絵心さん、()()棟は──」

 アンリは視線を()()に向けた。今、絵心が見ている画面だ。

 そこには、伍号棟最終戦、宵越竜哉らチームZ、そして糸師凛らチームVの試合が映されている。

()()()()()は、1位と1位の言うなれば決勝戦。敗北しても勝ち残りは約束されている……さっきの試合みたいな進化は起きないんでしょうか……」

「あのさ、アンリちゃん。目の前で起きている()()を観てもそれが言えるの?」

 試合はちょうど、西岡がゴールを決めた瞬間が映されていた。とはいえ、絵心もアンリも人間だ。どうしても感情もあって、その二人の目線は宵越に向けられている。大画面で、かつてサッカー界から姿を消した不倒が神がかり的なモーションを決めている。それは日本のW杯(ワールドカップ)優勝を夢見ているアンリからすれば鳥肌が立つような状況だ。

 スコア、2-2。両チームまったく譲ることはない。

「宵越君……一時期は全く情報がなかったですけど、絵心さんから聞いた時は驚きました。まさか半年間、他のスポーツをしていたなんて」

「うん。まあ俺も正直物見遊山程度だったけど」

 青い監獄(ブルーロック)プロジェクトの始動にあたり、選ばれた300人の高校生にはそれぞれ身辺調査がされていた。その費用に監獄内の設備、300人の関係者への根回し。そういった諸々の総費用を考えれば、いかにこのプロジェクトが前代未聞のものであるかがわかる。

 300人の選考基準はアンリの意見もあるとはいえ、ほとんどは絵心の独断と偏見だ。元々の実力ではなく、実力の奥深くにあるエゴイズムを見ている。

 だから一度サッカー界から逃げた宵越は、本来ここに立つ人間ではなかったが──

「なに、アンリちゃん観てないの? 俺が渡した星海戦の映像」

「す、すみません……選手の体調管理が忙しくて」

「バカ巨乳め」

「バッ!? そ、そーいうのはセクハラです!?」

「結局、宵越はスポーツそのものを諦めてなかっただけだ」

 無視された。アンリはしょぼくれた。

 星海高校。そこはスポーツ強豪校として有名で、その中でもカバディで無敗を誇る強豪校だった。中学時代に世界戦を経験し、名実ともに高校日本トップの称号を持った選手もいた。

「そこに、宵越を含めた能京高校──弱小校が立ち向かった」

「すごい試合だった──絵心さんは、『ほぼカバディ初観戦なのに熱を感じた』って言ってましたね?」

「ああ」

 頂点争いにマイナーもメジャーもクソもない。

 7人で組み上げられた堅固な守備。それを突き崩す剣に斧、様々な質を持つ攻撃。

 その中に宵越はいた。

「今の宵越のプレーは、敵を抜き去る《カット》、振り払う《回転》だ。だがアイツがカバディの試合で見せたのはそれだけじゃない。ただでさえフィジカルお化けで不倒と言われていた奴が、大武器を引っ提げて帰ってきた。その障害となるのは、去年中学で日本一を取った糸師凛」

 糸師凛はエゴイストとしての精神を説くまでもなく、既にその精神性を持ち得ている。故にこの一次選考では敵無しになってしまうだろう、という懸念はあった。

 そこに、体良く宵越竜哉が入寮を承諾した。

 絵心は、深く暗い瞳をアンリに向けた。

「もう一度聞くよ、アンリちゃん。糸師凛と宵越竜哉。この二人の殺し合いが、進化を生み出さないと思うか?」

「……」

 アンリには夢と熱意がある。けれど絵心ほどにサッカーをシステム的に、精神的に語れる経験や思考はない。

 だから言ったように、進化をするかどうか、という問いには答えられないけれど。

 アンリは言った。

「この二人は……糸師君と宵越君には、どこか怖いものを感じます」

「……まだ一次選考だし、そのぐらいの回答か」

 絵心はもう、アンリを見ない。

 青い監獄(ブルーロック)の総指揮として、特定の選手を贔屓はしない。誰しもを勝利と敗北、ルールによって冷徹にふるいにかけるのが、この場にいる絵心甚八。

 それでも、この試合だけは、目に焼き付けずにはいられない。

「今まで現代のぬるま湯に浸ってた奴らが『負けたら日本代表に入る権利を永遠に失う』と言われて初めて感じる生か死か(デッドオアアライブ)。それをこの二人は頂点以外のすべての敗北で感じていると言っていい」

「なら……」

「進化にせよ変化にせよ、見れるだろうさ。潔世一の覚醒にも劣らない、人間が変わる瞬間ってやつを」

 いや、それとも。

「不倒はもう、進化した後かもしれないけどな」

 

 

────

 

 

 後半戦が始まる。

 チームZ、宵越のパスから始まる。ただ、何事もセオリー通りにはいかない。

 既に前半戦、45分も戦ってきた。チームが11人で成り立っている以上、レッドカードも負傷者も出すことはできない。そんな緊張感の中で戦ってきたメンバーは、既に疲労の色を隠せないでいる。

 大粒の汗が滴るのは宵越や凛も例外ではない。それでもパフォーマンスを崩さずにマッチアップを続けているのは、二人の変人じみた意地に他ならない。

 二人が互いの実力を消し合う中で、何度もボールを保持するチームは入れ替わっていた。

 その最中。

「あの不倒が、ずいぶんと弱くなったもんだな」

「ああ?」

「自分でゴールする気がねぇのかよ」

「何度も言わせんなよ」

 エゴイズムの在り方。凛がやたらと突っかかってくるだけで、本質的には絵心や他のメンバーとも何度も話していることだ。

 ロッカールームでも、話すべきことは話していた。

『一朝一夕での連携は通用しない。それは承知の上で……それでも、勝つぞ』

 宵越は確信している。一人では、凛率いるチームVには勝てない。当たり前のことだ。サッカーはチームスポーツなのだから。

 そして、どんなチームスポーツでも同じだ。一人が強いから勝てるものではない。

 そして宵越の一番の根源は、勝つこと。

「俺は負けるのが大っ嫌いなんだ。何よりもな」

 試合は激化する。凛が宵越に、宵越が凛に封じられていようと、エゴイストたちは勝利することを諦めない。

 ボールは西岡に回った。敵陣寄り、有利な位置。周囲を見渡す。

 その西岡の一瞬をつき、地を這うような清羅のボール奪取。西岡が負ける。

 間髪入れずにパス、黒名へ。そこから一人を経由して、流れるように再び清羅へ。

 プレーの最中、清羅の脳裏にロッカールームでの一幕が浮かび上がる。

 

『互角だな。次はどう戦う?』

『お前ら、俺に聞かねえと何もできないのかよ』

『当然、俺たちも凛の道具だけに成り下がるつもりはない、ない』

『黒名の言う通りだ、生き残るための手段を選んでるだけだ』

 

 会話と呼べるほど優しいものではなかった。凛、清羅、黒名以外のメンバーもほぼ無言。凜に煽られた、強迫めいた熱。そして、凛の熱に侵されずとも熱がある黒名や清羅がいた。

 エゴイストは凛だけではない。

 凛だけでは、ない。

 

 パス回しを中心に展開していた清羅が、チームメイトを置き去りにして加速する。

 一点突破、未熟な守備陣を突っ切って行く。

 地を這う、低身長の清羅。その思考をイメージし、清羅の周囲を動く黒名。

 今までにない、凛を囮にした戦い。だからこそ、一点に限り刺さる選択。

 そして、最後はCBとGKの股を抜く、地這逆回転加速蹴弾(グラウンダーバックスピンターボショット)

 宵越にとって、敵は凛だけではない。

 スコア、2-3。プレーが再開する。

 激化した戦場再び宵越から回ってきたボールは、西岡を経て七星にまで回ったところで膠着した。

 七星は戦場を見据えるが、今までの3戦とは視界がまるで違っていた。

(宵越さん──西岡さん──二人ともパスが出せねぇ……!)

 初戦で0を1にした宵越、宵越の意図を汲み攻撃の幅を広げた西岡。劣勢に傾いても常に点を奪えたのは、二人が中心になって敵陣を切り開いてきたからだ。

 だから、多少苦しくても二人にパスを出せば戦況は好転する──それが当たり前だった。

 だが、この対V戦は違う。宵越は凛と拮抗し、西岡は黒名や清羅の対処に集中している。

 頼れるチームトップの力を、簡単に頼ることはできないのだ。

 七星は仲間に──CBまでボールを戻す。

 視界が狭まる。ヘッドバンドが汗でズレた。気づかなかった。

(……俺、生き残れんのか)

 この試合に関しては、負けても問題はない。伍号棟2位で通過できる。

 だが、この青い監獄(ブルーロック)は、299人を生ける屍にして1人のストライカーを育成する場所。なのに、いつまでも誰かの陰で戦うことが許されるのか。

(そんなことで──いいわけがねぇ)

 ここで自分も、変わらなければ。

 今まで、ただ誰かの1をサポートするだけだった自分が、1を示さなければ。

 それは、絵心がどこかで告げたような突出させた武器でなくてもいい。

 仲間と連携することだって、また別の1になりえる──

 再び巡ってくるボール。ヘッドバンドを直した、新しい視界。

 恐れと震え、けれどクリアに見えるフィールド。

 ただ、自分一人だけなら怖いけれど。

 宵越が自分を見ている。

 勝つつもりでいろと、何かをしろと、1を作れと叫ぶ宵越が。

 期待も諦めもなく、ただ見据えるために見ている。

 自分でもできると、どうしてか思えてくる。

 七星が今、初めて主体的に動いていく──

「殺し合いの最中によそ見か?」

 凛の声に、宵越は七星に向けていた視線を戻した。

「よそ見なわけがあるかよ。お前ら(チームV)を倒すための手段に過ぎねぇ」

 そう、よそ見ではない。フィールドを睥睨する。それが今の宵越だ。

 宵越はサッカーで、かつ同世代においてトップクラスの実力者だ。とはいえカバディでは素人も同然で、スポーツ選手としての才能と身体能力にサッカーの経験、あらゆるものを駆使して向上していく。そんなカバディ選手になった。

 自分がいた能京高校カバディ部もまた、部長が強いといっても弱小チームに過ぎなかった。そこから強敵たちを倒して、一歩一歩強くなっていった。

 そんな中の一つの試合。世界戦経験者がいないにも関わらず、呼吸がそろうほどの連携をもって宵越や部長──王城正人を守備で圧倒したチームがあった。そのチームに勝つために宵越は適応を、進化を余儀なくされてきた。

大山律心(おおやまりっしん)が、《不倒》宵越竜哉に一番やられたくない事は何?』

 貪欲なまでに変化し続ける男、《不倒》宵越。

 かつて自分を変えた指導者に言われた言葉。

『守備の気持ちがわかってないから止められる』

『守備をよく見て』

 今、その言葉が、サッカーに回帰する。

 

 ──仲間の気持ちがわかってないから連携ができない。

 ──仲間をよく見て。

 

 仲間を、よく見る。

 敵だけではない。フィールド全体を、平等に。

 視界の端。西岡と七星が動き出す──

 宵越は口を開いた。不敵な笑みを浮かべながら。

「さっきの話の続きだけどよ」

「なに?」

「お前のエゴは知らねえ。だからお前を否定するつもりはない」

 自分がゴールを決めるために動く。それを否定はしない。

 けれど同じくらい、自分のエゴを否定させない。

「俺の好きな言葉は“最善”』だけど、望んでいるのは……」

 誰かと一緒に戦って勝ち抜いて、バカみたいに笑い合った先の。

「“最高”なんだよ!」

 高度な攻撃の時は、どうしても宵越や凛が絡んでいた。今までだったら宵越がフォローに回っていた。逆にその攻撃をインターセプトし、カウンターに動く。それが両チームの攻撃。

 けれど、今宵越は動かない。どこまでも凛を封じ込める。カット技術で凛との距離を保ち、ダブルプレスするモブ敵にはハンドワークで受け流す。すべての技術をもって。

 七星のパスが西岡へ。その西岡には、黒名と清羅が立ちはだかる。

 敵陣中央、西岡のバックヒールパス。再び七星に向かう。

 それを七星は──ダイレクトパス。今までにない手。それは遠く、一時的に宵越の代わりに右翼前方に移動していた味方8番へ行き──さらに8番もダイレクト。

 七星は、技術面において上位陣と比べるべくもない。けれど最後にパスを受けたのは西岡。味方の荒いパスを、ある程度細やかに受け取ることができる人間だった。

 黒名が、清羅が、意表を突かれる。もちろん修正も早い。けれど、一度きりの攻撃ならそれは戦略として通用しうる。

 西岡に向かうチームV。宵越とマッチアップする凛。

 フリーになる七星に、ボールが回る。

 伍号棟一次選考初めての七星のシュートは、それでも直前に敵DFが一人立ちはだかり、一度そのDFを避けるために足を使わされた。

 再びのフリー。0.5秒以下の猶予。使えない利き足。

 七星の脳裏に走る、絵心の啓示。

 

 ──撃て。それがストライカーだろ?

 

 無我夢中に、逆足を振りぬく。

 ここにいるのは300人のストライカーたち。

 ストライカー、七星虹郎のシュートが、青い監獄(ブルーロック)のゴールポストを揺らした。

 突き放し、追いつきの接戦の中、七星が叫ぶ。集まり喜ぶ仲間たち。

 その群れには飛び込まず。けれど宵越も笑みを浮かべずにはいられなかった。

 仲間を良く見た。動く必要がない状況だった。七星の眼が、今までと違っていたから。

 青い監獄(ブルーロック)に来てからの短い時間ではあるが、自分は誰よりも七星を見てきた。

 凛さえ防げば、きっと点は奪えるとわかっていた。

 脇役(モブ)に点を取られてさぞ悔しかろうと、宵越は凛を見やる。

 宵越にとって、敵は凛だけではない。

 そして凛にとって、敵は宵越だけではないのだ。

「……二度目はねぇよ」

 凛はもう、こちらを見ない。

「だろうな。正直、七星はまだまだヘタクソだ。だが……」

 点を取れなくても、自分にできる限りの策を練って時間を稼ぎ、敗北を防いだチーム9人目の選手を知っている。

 大会全6試合を通してたったの2点。けれど、その2点を得ることで延長戦に持ち込んだ、熱い先輩を知っている。

「だがよ、値千金の1点だったぜ」

 誰もが勝利に貢献し、誰もが敗北の原因になる。それがチームスポーツだ。

「決勝戦で、脇役(モブ)なんかあり得ねぇよ」

 宵越は叫んだ、仲間に向かって。

「勝つぞ──チームZ!」

 伍号棟頂上決戦

 後半38分、残り7分

 スコア、3-3。

 

 

 







・現在の状況:チームV対チームZ
 スコア:3-3
 得点者:凛、宵越、凛、西岡、清羅、七星

Q7.あくまで私見を聞きたい! 宵越は世界or自分型? 自由or不自由型?

  • 世界(秀才)・自由型(潔、氷織など)
  • 世界(秀才)・不自由型(カイザーなど)
  • 自分(天才)・自由型(士道、蜂楽など)
  • 自分(天才)・不自由型(凛、國神など)
  • なんやその型とキャラ、知らないぞ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。