青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.12 忘れない熱

 

 

 伍号棟頂上決戦、チームV対チームZ

 スコア、3-3。

 仲間の力を、その熱で解放させて戦う宵越。

 仲間の力を最大限引き出し、支配して戦う凛。

 高い技術と戦略眼で、宵越と共に前線を走る西岡。

 地平線間際、超低高度のボールに食らいつく清羅。

 選手の間を動き回り、絶妙な距離感でボールを繋ぎ続ける黒名。

 未熟ながら、それでも一瞬の隙をついてゴールを奪った七星。

 そして彼らを含めた、ポジションを問わずストライカーの魂を持つ選手たち。

 22人は、誰もが自分の勝利を疑わない。

 1秒1秒のプレーに、熱が入る。動く度に汗が滴る。

 第伍号棟センターフィールド。解放された天井。時間は夜、人工の白い光。無機質な壁。芝生。

 頂上決戦の終了まで、残り7分。

 83分間、誰もが足を動かし続けてきた。広大なフィールドを縦横無尽に。

 息が切れる。喘鳴(ぜいめい)が聞こえる。足が吊りそうになる。体が火照る。肺が悲鳴をあげる。心臓が大鐘を鳴らす。

 そして、酸素が切れる。視界にモヤがかかっていく。

 宵越も例外ではない。むしろ全力で凛を封じ込める宵越こそ、体中の細胞が酸素を欲している。

 酸欠。明滅して発火する視神経。伝わる歪なシグナル。ざらつく視界。それでも宵越は思う。この白く霞んだ世界は、とてもクリアだ。敵の動きが良く見える。仲間の考えていることがわかる。

 それは、脳が疲労すればするほどに、心臓がかな切り声をあげればあげるほどに、その苦しさに悦びを覚えるから。

 けっして苦しいことが好きじゃない。マゾヒズムなんて欠片もない。

 ただ、ただ、宵越はこう思うのだ。酸素が切れて、視界にモヤがかかるこの世界は……

 

 ──この燃える世界は、気持ちがいいんだ。

 

 後半、A・T(アディショナルタイム)突入。残り3分。

 実力、戦略、一瞬の隙。それらを用いて自らの限界を超え、運によって同点を演じる。両チーム、まったくの互角。

 フィールドの中央左翼。宵越がロングパス。ボールは前線右翼へ。黒名がインターセプト。チームZ守備陣が囲む。小刻みな動きで翻弄する。ダブルプレスによってボールはあらぬ方向へ。七星がボールキープ、すぐさまスライディングして弾く清羅。ボールは中央右翼へ後退する。

 ボールキーパー、凛。チームVのカウンター。これまでの支配的傀儡サッカーから一転、凛の釣り上がった視界が見開かれ、敵陣中央突破。1人、2人、3人と。

 自陣中央、立ちふさがる4人目、宵越。銀色の髪が揺れ、肩からぶつかりに行く。それでも凛の体は崩れない。

 が、宵越によって誘導された凛のボールは、5人目、西岡に奪われた。

 カウンター返し。西岡のドリブル。1人目、エラシコでスルー。2人目、清羅を前にしてバックヒールパス。

 何度目かとなる宵越にボールが回る。すぐさま凛がマッチアップ。宵越は脚を止めない。細胞の悲鳴のままに、灼熱に身を投じる。

 0から1へ、黄金の両脚が加速する。自陣中央から右翼へのドリブル。凜は食らいつく。

 《カット》、自陣右翼から即座に中央右翼へ。それでも、半歩遅れて凛はいる。

 再度カット、中央右翼からセンターマークへ。けれど、多用した技を前に凛は反応を続ける。

 弾かれた。大きく弧を描き、宵越たちにとっての自陣左翼へ。

 群がる、GKを除く20人のストライカーたち。

 自陣中央、清羅のボール。シュートレンジにはまだ遠い。凜を探す。

 凛につく宵越。清羅にプレスする七星。

 凜ではない、別の前線にいる選手へのセンタリング。それを辛うじて七星のつま先が掠める。

 ブレる軌道。誰も、このボールの行く先はわからない。

 舞い降りる天運(LUCK)。手にしたのは黒名。P・A(ペナルティエリア)から1m外。

 最大限の集中によってクリアになる宵越の視界。凛と競りながら黒名へ近づく。

 黒名の右脚が閃く。ゴールポスト左上角へ突き進む蹴弾。

 四試合の経験を積んだGKとDF陣は、辛うじてストライカーのシュートを弾く

 ポストに導かれたボールは鈍い残響を響かせ、再び運の時間を呼び起こす。

 舞い落ちる球。チームZ、P・A白線上。

 ゴールポストに背中を向けて保持者となった、その激震地の中央に立ったのは──

 

 チームZトップランカー、宵越竜哉。

 

 

────

 

 

 宵越の思考が加速する。雷速の集中。

 敵のシュートからこぼれ球を得た。自分がゴールするまでの道程は70m超。ロングパスをして前線にいる味方にボールが回れば、あるいは。

 しかし。

(まともには抜けねぇ──)

 正面には黒名と清羅。さらに囲むように敵選手たち。

 そして自分の背後には、凛が回り込んでいた。

 凛の向こう側にいるGKにボールを託すことはできない。

 勝つには速攻カウンターしかない。だが、それには目の前の敵が分厚い。

(正面突破のフェイントからカットならギリ抜けるか──?)

 だが、背後の凛はそれを読むだろう。宵越も数合で実感している。そして追いつかれる。凛とマッチアップしてしまえば勝利は不可能。

 なら、ここから凛たちを抜き去り、前線の味方へボールを運ぶのなら。

 自分ができる最大の一手は。

(やるしか、ない)

 見開かれる眼。灼熱の瞳。

 思い出す。過去の戦い。

 

 ──僕の目指した技術は、間違ってたのかな?

 ──最善だったかどうかはわかんねぇ。

 ──でも、最高だった。

 

 幾度となく、宵越を奮い立たせるのは過去の道程。

 宵越の脚が、動き出す。

 自分ができる最高の一手へ。

 そして凛も。

(宵越に逃げ(同点)の選択はない)

 宵越の背を見ながら、閃く凛の思考。

(絶対に勝利のために動く)

 だからイチかバチかで群衆を抜く方向で来る。

(なら、あの急転回(カット)でくる、絶対に)

 正面突破からの90°、左右どちらかへのカット。スピードで自分()を置き去りにしてくる。

(それを読んで奪う……俺が殺す)

 自陣ゴールポストを背に、P・A内側から前へ踏み出す宵越。その宵越を、清羅・黒名と挟んで立ち向かい、カットへの対応として両脚を広げる凛。

 互いに、目の前しか見ていない。けれど、互いがフィールドの総てを視ている。矛盾なく起こる矛盾。それが極限の集中。

 刹那。

 清羅と黒名へ近づく宵越。距離、1.5m。

 宵越の動きを見定める凛。距離、3m。

 ──刹那、宵越の踵がボールを蹴る。

 ()()()()()()、ボールは宵越の後ろへ。そこには、凛が。

 敵へのパス? 極限でのミス? 凛さえも、乱れる思考。

 そして、宵越は。

 

 ──真後ろへ加速した。凛の意識を置き去りにするように。

 

 驚く黒名と清羅。自分たちへ向けて駆けた宵越が、瞬きもない間に遠ざかっていた。

 驚く凛。遠ざかっていた宵越が、自分と正対し突っ込みかけている。距離、1m。

 それはカットでありながらカットではない。

 《バック》。Isoration(アイソレーション)技術、持ち前の身体能力をフルに駆使した、180°真後ろへの急転回。ブレーキを用いないで全速力から引き返す、まるで逆再生のような動き。

 カバディにおいて幾度となく使われた、けど大事な場面であっても使うことを戒めた、宵越竜哉の最高の全力。

 これが宵越の答え。今までのカットは凛に防がれてしまう。だが、左右への意識で両脚が開き、宵越を捉えるために長距離加速の体勢に入っている今なら。

(奇襲に──なんだろぉ!)

 凛と正対した宵越が、今度は()()()()()()()への複雑な急転回。

 バランスを崩された凛を置き去りに、警戒すべき黒名と清羅を遠ざけ、無理やりに隙を作りだすための選択。

 それでもリスクはあった。凛との正対。賭けでもあった。

 そして。

 

 凛の脚は動いた。

 

 スライディングとも呼べない、転びながらの滑稽なプレス。負けないという意地だけの動き。

 《不倒》宵越にとっては幾度となく訪れた接触プレー。けれど読み合いと読み合いの果て、これまでの凛を乗り越えるための2連バックを駆使した宵越にとっては、予想外の出来事。

 ボールは弾かれた。宵越の視界の端には、口を半開きにしていた凛が転ぶ姿が、一瞬だけ映った。

 何度も、何度も弾かれた球。何度も訪れた天運(LUCK)の瞬間。

 

 物語など、神にとってはなんの歯牙にもかけない。

 努力など、女神にとってはため息の一つでしかない。

 主役など、悪魔にとっては汚泥と何一つ違わない。

 

 故に。球は。無作為(ランダム)に。無慈悲に。

 残酷(偶然)に。黒名蘭世(ただ一人の選手)の元へと舞い降りた。

 

 ダイレクトに押し込まれ、ボールはゴールネットを揺らす。

 その瞬間。

 快哉を上げる選手たち。悔しさをにじませる選手たち。

 ただ、事実を告げる。無機質な声が響く。

TIME UP(タイムアップ)! 青い監獄(ブルーロック)伍号棟最終試合──』

 

『4-3で、チームVの勝利!!』

 

 試合は、決闘は終わった。

 腰に手を当て、天を仰ぎ、息を吐く、宵越竜哉。

 負けた。ただ、それだけが真実だ。

(クソッ……!)

 バックを使って、そして負けた。思い出す試合が、一つある。

 

『途中までだ。失敗した技で帰すほど、英峰(俺たち)は甘くない!』

 

 失敗はしなかった。サッカーにおいて、初めてのバックの使用は成功した。体勢を崩すことなく、ボールをキープしながらだ。それは間違いなく成功だと言っていい。

 それでも、凛の動きを読み切れなかった。いや、読み切れなかったのは凛の精神だ。

 何に変えても、無様に這っても勝利を掴もうとする、エゴイストの精神だ。

 サッカーには。一度逃げ出したこの世界には、自分よりも強い人間が確かにいる。

 自分に敗北を植え付け、勝利を遠ざける人間が、確かにいる。

「……不倒」

「あ?」

 宵越は振り返った。そこには、凛がいた。チームメイトとは違い、喜びもしない。まるで自分と同じく敗北したように宵越を睨みつけている。

「てめぇ、勝ったくせになんて顔してやがる」

「……黙れ」

「ああ……!?」

 思わず、凛の胸倉をつかみにかかる。他の選手たちが制止する暇もなかった。

 凛は臆さず、ただ、静かな怒りをマグマのように沈殿させて、宵越を睨んでいる。そして胸倉をつかみ返す。

「ふざけるな。こんなのが、俺の勝ちであってたまるかよ」

「……」

 凛も、納得はできなかったのだ。最後の宵越の動きが読めなかったから。

 偶然に任せてしか宵越のボールを弾けなかった。そして最後。自分がゴールを決めるのではなく、黒名にゴールを奪われてしまった。

 宵越がいたから、自分は宵越との最後の勝負に勝てず、誰か(黒名)のおかげで試合に勝ってしまった。

 それは凛にとって敗北に他ならない。

 だから。

「次は、潰してやる」

「てめぇ……そりゃ、こっちの台詞だ」

「このクソみてぇな監獄にいる間に」

「……ああ……」

 お互い、手を放す。踵を返して、戸惑う仲間たちの元へ。

 もうそれぞれの眼に、感情の揺らぎはない。

 怒りや葛藤は懐へ。目線は先へ。

 その繰り返しが、スポーツという死合の常。苦しみ続ける呪いの連鎖。

 宵越と凛は、それをよくわかっている。

 お互い、微塵も勝ったつもりはない。無様な敗北の記憶が刻まれた。二度と忘れない、次にまた勝つまでは。

 それが青い監獄に新たな焔をくべる熱となる。

 そして、イカレたエゴイストの胸中などお構いなしに、アナウンスは流れる。

 

『第伍号棟全試合終了! ただいまより一次選考結果発表を行います』

 

 宵越と凛の緊張だけが抜けないまま。ただ女性の声は事実を告げていく。

 

『5チームによるグループリーグ総当たりの最終結果は──』

 

 1位、チームV。11名。

 2位、チームZ。11名。

 

『そして脱落する下位3チームの最多得点者3名──』

 

 チームWより、(つんざき)大河(たいが)

 チームYより、氷織(ひおり)(よう)

 チームXより、雪宮(ゆきみや)剣優(けんゆう)

 

『以上25名を青い監獄(ブルーロック)第伍号棟、一次選考突破とする!!』

 

 

 チームZ、チームV。フィールドにいる22人全員が生き残った。

 たった今の勝敗の悔しさはあっても、それでも喜ぶ2()0()()

 宵越は思い出した。

 サッカーという場所で感じたこの悔しさを。

 凛は気づいた。

 世界には、まだぶっ潰したい奴がいることを。

 互いに、胸に刻む。

『次は、絶対に勝つ……!』

 倒すまで、消えない焔。

 宵越竜哉、糸師凛。

 二人の魂に、忘れない熱が燃え広がる。

 

 

 

 











・結果
スコア:Z(3)-(4)V
勝者 :チームV
得点者:凛、宵越、凛、西岡、清羅、七星、黒名


・チームZ、一次選考戦績
①対X戦:3-2、勝利○
②対Y戦:2-0、勝利○
③対W戦:4-1、勝利○
④対V戦:3-4、敗北●
 チーム内得点王:宵越竜哉(6点)
 5チーム中2位通過


・《伍号棟》の二次選考選出者
チームZ:宵越、西岡、七星、他8名
チームV:凛、黒名、清羅、他8名
得点王 :雪宮(X)、氷織(Y)、(つんざき)(W)

全25人


動的なプレーを描くのは、本当に難しい……

それはさておき、一次選考、終了。
物語は、二次選考へ続きます。
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