青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.14 別れの先に

 

 

 2ndステージジャンクションエリアで、黒名と共にしばらくの静観を決め込んだ宵越。

 宵越に声をかけてきたのは、同じ棟の面子でもなければ、サッカーの試合で戦ったこともない、そんな奴らだった。

「お!? アンタ、《不倒》宵越じゃねぇの!?」

「お前は?」

 やや無遠慮、だが中々に整った顔立ち、紫の髪。後ろに高身長の白髪を引き連れる様は学校の王子様というべきか。

 まあ俺ほどじゃないがな、と、宵越改めヨイゴシ(残念宵越)は冷静を保つ。

 目の前に立つ紫髪は、新BLランキング10位。そしてその後ろには、自分のしばらく後にやって来た7位。

「俺は御影(みかげ)玲王(レオ)。この青い監獄(ブルーロック)を、後ろの(なぎ)と一緒に勝ち上がる天才だ」

「へぇ」

 まるで敵などないような自信に満ちた笑みを浮かべている。

 凛を筆頭に我が強いメンバーの中で、『一緒に勝ち上がる』とは、どこか親近感が湧くような気もするが。

「後ろのそいつは?」

「どーも」

 白の髪、自分をわずかに見下ろすやる気のない瞳。凛のような冷徹な雰囲気とは違う、別の意味で興味がない様子だ。やる気がない、と言えるかもしれない。

 白髪は凪誠士郎(せいしろう)と名乗った。

 変わらず気だるげな凪に、玲王は背中から飛び乗っている。1stステージをクリアした後で元気でいるとは。

「なぁ凪。斬鉄もいいけど、この不倒も強いんだぜ? 3人目、いいんじゃね?」

「えー、いいよ。別に知らないし、興味ないし」

 宵越のこめかみが少しヒクついた。

「……ほぉ?」

 3人目を見定められていた。そして自分は知らぬ間にフラれていたらしい。

 自分のことを知らないとは、癪に障るし、新鮮だ。

「結局、フトーってなんなの?」

「……俺はっ。宵越竜哉だっ」

「なんかレオと声が似てるね。全然雰囲気が違うけど」

「ああ?」

「おいおい凪。この不倒はな? 俺らがサッカー始める前に有名だったんだよ」

 と、怜王が凪に宵越のプロフィールを説明するが、それよりも宵越も気になった。

「ちょっと待て。お前ら、サッカー始めて日が浅いのか?」

「ああ。だいたい半年。アンタが辞めたのと同じくらいだな」

「マジか……」

 そこは素直に驚く。

 サッカー歴半年。ここにいる以上弱くはないはずだ。凪が自分を知らないというのも、まあ、百歩譲って頷ける。

 玲王が変わらず突っかかってくる。

「おっ、ビビっちゃう? 一度辞めたアンタには、サッカー歴半年が自分と同じ場所にいるなんて怖いか?」

 ビビるかどうか。ヒリつきはするが。

「いや……頼もしいぜ。そんな奴がサッカーを盛り上げてくれてよ」

 玲王と凪。二人の眼が細くなる。

 宵越は続けた。

「それに、俺も知ってるぜ。歴が1年にも満たないで、チームを全国優勝に導いた奴を」

「へぇ……」

 経験が浅いにもかかわらず、頂点に立った人間。

 そんな人たちを、世の人々は天才と言うのだろう。

 それは間違いではない。でも、足りないこともある。

 天才の隣には、いつだって天才と肩を並べる奴らがいる。

「ま、俺もアンタを倒せるの、楽しみにしてるぜ? 宵越竜哉」

「ああ。楽しみにしてるぜ、御影玲王」

 握手はしない。けれど、互いの手を叩き合った。

「で?」

「で? ってなに? えっと……フットウ?」

「不倒だフトー! お前わざとだろ!?」

 凪にブちぎれる。凪は我関せずで、今度は玲王が凪を負ぶっている。コイツら仲良すぎないか?

「じゃなくて、お前が俺を避けた理由だよ。別に自慢じゃねぇが、俺の名前を知る奴は多いしな」

「だって、俺が組みたいの、別の奴だし」

「ほぉー……お前がっ、俺より、組みたい奴ねぇ……! しっかり見学させてもらおうじゃねぇかぁ!」

 そんな漫才みたいなノリをしている間にも、少しずつ後続の選手たちが入ってくる。

 その度に、凪は選手一人一人を観察していた。組みたい奴がいる。その熱心な様子だけは嘘じゃないらしい。

 そして15・16番目の選手が入ってきた時、凪は動き出した。

「あ、いた」

「あん?」

「俺が組みたい奴」

 凪が玲王から立ち上がり、自立した。そして、双葉のアホ毛が揺れている選手へと近づき。

「ねぇ(いさぎ)世一(よいち)、俺らと組まない?」

 と、そんな風に。

 宵越の印象からすれば、先の玲王と絡んでいた時とは違う。凪自身の意志を見せたようにも感じる。

 凪が声をかけたのは15番だ。黒髪。やや大人しく見える、言ってしまえばどこにでもいるような、そんな風傍。隣にいる16番──インナーカラーを黄色く染めた黒髪の方が、いたずらっ気で自信に満ちているようにも見える。

 凪は続ける。

「俺らのチームに来なよ」

「おいおい凪。組みたい奴を待つって、(コイツ)のことだったのかよ」

「うん、玲王。だってあの試合で一番すごかったのは(コイツ)だ。俺は(コイツ)とサッカーがしてみたい」

 その様子を、少し離れたところから観察する宵越。

 潔世一。覚えている。といっても決して強い印象ではなかったが。

 青い監獄(ブルーロック)の説明を受けた日、自分に話しかけてきた吉良(きら)涼介(りょうすけ)の隣にいた奴だ。

 正直、大した記憶もないくらいにはオドオドしていた、冴えない印象しかなかった。中学時代も、特に名前は聞かなかった。

(それが……『組んでみたい』と呼ばれてるってか)

 そもそも宵越は凪と玲王のことすら知らないが、サッカー歴半年でここまで残った凪に興味を持たれるほどの選手だったとは。

 いや、あるいはこの青い監獄(ブルーロック)の一次選考を経て、進化した人間なのか。

 そういえば、少なくとも125人の集団の中で吉良を見つけることができなかったが……。

 宵越の思索は、当事者たちにとっては関係のないことだ。(15番)や16番は変わらずにいる。

「だってさ。どーすんの? あっち行く?」

「行くわけないだろ。俺は蜂楽(ばちら)と組む。すまん、凪。1人でそっちには行けない」

 と、潔があっさりと否定した。蜂楽と呼ばれた16番と一緒に組むらしい。

「……だとよ」

「そっか……わかった」

 そうして凪は。

 

「じゃあ俺が潔のチームに入る」

 

 と、あっさりと相棒を見捨てる選択肢を示した。

(おいおい、マジかよ)

 宵越だけじゃない。凪を除く全員が驚いている。

「それならいいでしょ?」

 わかっていないのは当の凪だけだ。物の見事に疑問符を浮かべている。

「な、なに言ってんだよ凪……俺と組むのが絶対(マスト)だろ? なんのつもりだよ!? 俺はどうなる!?」

「玲王。お前は俺にサッカーを教えてくれた。俺とお前で世界一になる。それは絶対だ」

 玲王は慌てふためいている。ついさっき、宵越にかましてた余裕の表情が嘘みたいに。

 玲王と凪。二人の会話を聴けば、一次選考だけでなく青い監獄(ブルーロック)に入寮する前から一緒にいたことは想像に難くない。

「でも俺たちは負けた。俺たちは最強じゃなかった」

 そこで、潔世一がいるチームに負けたということなんだろう。

「初めて感じたこの“悔しさ”って感情(ヤツ)の正体を知るために、俺は潔とサッカーがしたい。俺、頑張ってみたいんだ」

 沈黙が走った。

 宵越でさえ、数分前の凪との違いに驚いている。玲王にせよ、潔にせよ、感じているのだろう。凪の纏う雰囲気に、どこか悪寒めいた覇気を。

 宵越は、その光景をただ見ている。

(そもそも青い監獄(ブルーロック)自体がチームなんてあってないようなモンだと言ってるが)

 サッカーにせよ、他のスポーツにせよ、いつまでも同じ選手とバディを組み続けることはできない。

 プロになれば、スポンサーの意向があり、チームを作る会社やオーナーがいる。選手も一人一人が契約を基にチームを渡る。

 別れはいつだって、突然に来る。

 宵越はチームメイトとの不和が原因でサッカーやスポーツそのものから離れかけた。そしてスポーツの面白さや仲間との絆を思い出したのは、カバディでの半年間だ。

 そしてもう一度サッカーに戻るという決断をした宵越にとって、カバディ部の面々との別れは少なからず後ろ髪を引かれるものもあった。

 相棒とも呼べる選手と怒鳴り合いの末、“勝負”で自分の進退を決めたこともある。

 そして今、宵越はカバディから離れ、サッカーの選手としてここにいる。

「なんだよそれ……好きにしろよ」

 玲王の、少し絶望したような捨て台詞。凪は、潔は、16番は、大したためらいもなくチームを組んでいく。

 凪自身、潔たちにとって魅力的な選手だったということでもあるのだ。

 扉の向こうに消えていく3人。

「じゃあね玲王。先で待ってる」

 そんな言葉を置き土産にして、玲王の反応を見ることもなく。

 沈黙。玲王はフラフラと、壁際まで後ずさってうずくまってしまう。

「……おい、玲王」

「……」

 宵越の声掛けにも答えない。こういう人間関係の機微は苦手だ。宵越もそれ以上寄り添うこともできない。

 きっと、ずっと一緒にいることが当たり前だったのだろう。

(……今が変われるかどうかの瀬戸際だぜ、玲王)

 だから、それだけを心の中で呟いて、宵越は距離をとった。

 自分がカバディから、相棒から離れることになった最後の時。交わした言葉があった。

 

 ──すげぇ選手になって、やっぱ一緒にカバディやっときゃよかったって、思わせてやる!!

 ──ああ。待ってるぜ。相棒。

 

 「待ってる」か「追いかけてやる」なのか。それは立場によって違うかもしれないが。

 それでも、カバディを始めて半年足らずの自分たちがそれを言えたのだから。

(お前らだって、きっと──)

「──宵越くん」

 思索が遮られた。顔を上げる。

 正面にいたのは──

「お前、雪宮」

「初戦ぶりだね」

 新BLランキングNo.23。サングラスをかけ、勝敗を決した時の悲壮な表情でもない、余裕でもない、瞳の奥に芯のある決意をもって、雪宮剣優はそこにいた。

「……ああ。元気か」

「おかげさまで。最多得点での選出だから、ほとんど知り合いもいなくて寂しいけどね」

「別に、俺ら(チームZ)だっていい気分じゃねーよ。でも、変わってないみたいで安心したぜ」

 挨拶だけで来たわけじゃないだろう。本題は──

「宵越くん。組む相手は決まった?」

「いや、まだだが」

「じゃあさ。俺と組まない?」

 予想はしていた。少なくとも、先程の玲王ともしたやり取りだ。凪の拒否がなければ受けていた可能性もある。

 雪宮のように実力を知っている人間なら尚更、宵越も判断しやすい。

 そして、雪宮のような考えを持つ人間は他にもいる。

「その話、僕も混ぜてもらえへん?」

 新BLランキングNo.27。氷織羊。

 続々と人が流れて着てくる。その中の雪宮と氷織は、それぞれ異なる視界をもって宵越を見つけ出した。

「ユッキーも宵越くんに言いたいこと、あったんやね?」

「ま、氷織くんと同じく、宵越くんには負けた身だし」

「お前ら……」

 宵越の中で、嬉しさとも、危機感ともどこか違う震えを感じる。

 自分自身、何度も負けてきた。その度に目線を下げることもなく、前を見据えて立ち上がってきた。

 倒れる度に、立ち上がってきた。

 負けたことが、変化のきっかけになる人間もいる。

 それは、どんなスポーツでも同じなのだ。

 氷織は言う。

「別に僕は、むき出しにするだけがエゴやないと思ってる。でも、辞めた君がまたサッカーに戻ってきた道。それをちょっと知りたいって、思っただけや」

 雪宮もまた。

「俺はまあ、リベンジだよ。負けっぱなしじゃいられない。近くで戦って、次は勝つ。利用させてもらう」

 単なる仲良しこよしじゃない。単に強いからではない、それぞれ宵越と組む理由がある。

 どこまでも傲慢に、どこまでも自分のエゴに従った物言い。

「君なら喜んで受けてくれると思ったけど……どうかな?」

 宵越も青い監獄(ブルーロック)に来た理由がある。

「わかった」

 日本サッカーにどんなFW(バカ)が生まれるか。それを自分の眼で確かめるためだ。

 宵越は笑う。

「組もうぜ、氷織、雪宮」

 宵越竜哉、雪宮剣優、氷織羊、以上3名。

 3rdステージ進出。

 

 

 

Q9.超越視界《メタ・ビジョン》と捕食者視界《プレデター・アイ》、宵越は……

  • 超越視界を使えそう(習得しそう)
  • 捕食者視界を使えそう(習得しそう)
  • 両方使えそう(習得しそう)
  • どっちも持ってなさそう
  • 新たな視野を開発しそう
  • 超越視界と捕食者視界とはなんだ???
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