青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.16 三者融合(トライセッション)

 

 

 宵越、氷織、雪宮 VS.馬狼、成早、二子。

 宵越の青い監獄(ブルーロック)二次選考は、独裁の王との戦いから始まる。

 用意されたビブスを装着する。宵越たちは赤色、馬狼たちは白色だ。

 ミニゲーム形式だけあってフィールドの大きさは以前とは異なっている。ともすれば、凛のような選手ならキックオフからゴールを狙えそうな狭さだ。

 成早と二子はともかく、馬狼も凜と同等の芸当ができそうに感じる。それは宵越たちチームレッド3人の共通認識だった。

 それでも、焦りはしない。

 センターマークの上でボールを転がし、決戦の時を今か今かと待ちわびるのは王様(キング)・馬狼。ルール上まだベタ付きはできないが、すぐにでもその馬狼に肉薄してやろうと息巻いているのは宵越。左右に散る二子の前には氷織が、成早の前には雪宮がいる。

 作戦は既に話し合っていた。試合合意(マッチメイク)は成ったが、必ずしもすぐに試合に移らなければならない、ということでもなかったからだ。

『あの独裁野郎には俺が付く』

『じゃ、僕は目隠れ二子くんね。ええよ、いい読み合いできそうやん』

『となると……俺は、成早くんか』

 3対3。マッチアップする相手は、1人が決まればほとんど必然的に決まる。特別弱点を責めるわけでもない、シンプルなもの。

 雪宮は若干不服な様子だったが、その文句が口に出ることはなかった。実際サッカーは流動的なスポーツだ。誰とも対峙する可能性は十分にある。

 一人一人の戦いが影響が強いこの戦い。加えて、一瞬の閃きと連携がものを言う。

『一朝一夕の連携は通用しない……だが、やるぞ。今この瞬間、俺たちはチームだ』

 ボールはチームホワイト、馬狼のキックオフから始まった。

 成早にボールが渡る。すかさず雪宮がマッチアップ。背格好としては圧倒的に成早が不利。けれど、完全な勝敗が決する前にボールが渡される。

 受け取った馬狼は前進(ドリブル)。ゴールへ向かい、チームレッドにとっての自陣中央へ。

「よう、キング」

 馬狼の視界、横から急速に入り込む宵越。体からぶつかって、馬狼を自由にさせない。

「口を慎めよ、下民が」

 馬狼は伊達に王を名乗らない。

 バックヒール、股抜き、エラシコ。豊富な技で宵越を翻弄する。技術はブルーロックの怪物として申し分ない。

 そして、体格、膂力、速度。

「足りねぇんだよ。敬意が」

 馬狼は宵越に競り、そして負けない。

 状況は拮抗する。それでも、力と力を発揮した先に、偶然が生まれるのがスポーツ。そしてその偶然を必然にする者が勝者となる。

「キング! こっち!」

 宵越の後ろから成早の声。宵越の視界は変わらない。あくまで馬狼を捉え続ける。けれど意識はほんの少しそれる。瞳孔が開く。

 その瞬間、馬狼はパスをした。ボールは再び自陣左翼の成早へ。

「そのパス、刈らせてもらうで」

 氷織がインターセプト。伍号棟の頃から片鱗を見せていた氷織の冷徹な視界の広さは健在だ。

 そして宵越も雪宮もまだ気づいていないが、氷織は左脚のキックセンスも高い。特定のゴールメイカーを決めていないから、氷織、雪宮、宵越、その誰もが自分がゴールを決めることを疑わない。とはいえ、意識の差は少なからずあるが。

 そして、一次選考とは違って少人数制、狭いフィールド。選手によってはセンターマークから直接ゴールを狙える。自陣からすぐに……とはいかないが、ボールを奪ってしまえばゴールはすぐに選択肢に現れる。

 氷織も例外ではない。

(さて、ここから──)

 とはいえ、まだ氷織も成長途中。死角や意識の揺らめきはある。

「君も、いい眼を持っている」

 ボールを奪った氷織から、さらに奪取。それは馬狼、成早に続く第三の刺客。

 二子一輝。長い前髪が小柄な彼の雰囲気をさらに小さくしている。けれど、隠された眼は戦況を確実に見ていた。

「不思議ですね。別に自分の能力(視野)を特別だと思ったことはないんですけど」

「その言い方。僕以外にもおったんね? 視野の広い人が」

「正解です。そしてそういった選手は、得てしてフィジカル勝負は避ける」

 先の成早と同じように、早々に二子はパスを回した。その相手は自陣右翼まで猛進した馬狼。

「やらせるか……!」

 宵越がカバー。こと速度については、名実共に6人中最速を誇る。素早いボール回しに確実に食らいつく。

 それでもフィジカルは馬狼に分がある。正面から奪えば先の二の舞。馬狼の出方を伺う。

「お前の王がどんな奴かは知らねぇけどな」

 そして馬狼は、向かってきたボールを。

 

 スルーした。

 

 驚愕。それは宵越、雪宮、氷織全員が。

 宵越とのマッチアップ。それでテクニックに秀でていることは理解した。だが、仲間との連携もできないわけじゃない。

 いや、馬狼のそれは連携ではない。スルーした先にいたのは、()()()()()()成早だ。

「他人を()()してこそ、王者なんだよ」

 成早がボールキープ。後ろから雪宮が迫る。宵越も意識が成早とボールにそれた。

「宵越くん、あかん!」

 氷織の声。転瞬、馬狼は駆け出した。

 宵越のカット程ではないが、それでも鋭角に曲がり加速する。

 二子と対面した氷織は動けず、フリーになった馬狼へ、成早の大きなセンタリングが飛んでいく。

 柔らかいタッチでトラップ。ドリブルを挟んですぐさまシュート。

 この試合最初のゴールを奪って見せたのは馬狼。スコア、0-1だ。

 試合が止まる、再開までの沈黙。馬狼は宵越を見下げる。

「革命? 追放一択しかねぇよ」

「……言ってろ」

 宵越の下へ集まる氷織と雪宮。

「宵越くん、すまんね。二子くんも小ズルいわ」

「お前も小ズルいのは変わらないだろ」

「にしても、相手もいい連携だね。馬狼の攻撃力を活かすように二人が立ち回ってる」

「はいはい。二人ともこうも冷静やと、僕のアイデンティティが泣くんやけど」

「それより、雪宮」

 ボールを運びながら、宵越は雪宮に顔を向けた。

「抜かれちまったな。次もマッチアップはそのままで大丈夫か?」

「そっちこそ。宵越、接触プレイはやっぱり苦手だね」

「まあ……ドリブルよりはな」

「やっぱり俺と相手変わる?」

「抜かせ。まだ1点だ。あいつは俺が下すって言っただろ」

 同じチームの癖にバチバチに煽る宵越と雪宮。雪宮は、試合中とそうでない時で若干言葉遣いが変わるらしい。

 そして、チーム同士で敵対心が強いのは、青い監獄(ブルーロック)の悲しき性だ。

「はい、二人とも落ち着き。冷静な癖に」

 氷織。可愛い顔して身長は高い。二人の頭を軽くごついた。

「ともかく、勝つ算段はあるんよね? 不倒」

「あるんじゃない、作るんだよ、氷織」

 氷織は笑った。

 

「了解。僕と雪宮くんを負かした力、見せてみぃや」

 

 プレーが再開する。宵越が雪宮へボールを回す。雪宮は成早を突破する。それは容易にできた。ただ、宵越を引き連れるように近づいた馬狼のダブルプレスによってボールは奪われ、馬狼と宵越が拮抗。そこを復帰した成早と馬狼のパス回しで、宵越にボールを奪う隙を与えないでいる。

 この数プレーで、宵越にもチームレッドの特性が見えてきた。

 馬狼。態度は鼻につくが、能力は一級品だ。凜と比べれば劣る部分はあっても、シュート能力に関しては宵越や凜を凌駕しているといってもいい。それを成功させるためのボール運びのテクニックもある。まさしくチームの中核。

 二子。今はまだ目立ったプレーはない。だが孤立しがちな馬狼が味方と連携できているのは、二子が己を主張しすぎず、氷織を引き付け、適切なタイミングで成早・馬狼と適切な相手にボールを回しているからだ。視野も相応に広いのだろう。

 成早。技術力は試合中の6人の中では劣る。宵越の中では七星を思い出すような存在。だが黒名ほどとはいかなくとも小回りが利く動きはこの狭いフィールドに合致しているし、二子が戦略面を上手くカバーしているからこそ、成早の荒いパスでも馬狼が決定弾を打てる状況となった。それが最初の1点だ。

 たとえ少人数制であっても、己の長所と短所を理解し、一個の武器として戦う。三者融合(トライセッション)

 ならば、こちらはそれ以上の、ハイレベルな三者融合(トライセッション)が必要だ。

(やってやるよ)

 何度も蹴られたボールは、今は二子が持っている。最初のプレーとは違い、流れはわずかにチームレッドにあった。二子は先程よりはゆっくりとしたパス回しを続けている。

「うん。地力は僕が上みたいや」

 二子と相対する氷織はそう言い放った。それは余裕でも横柄さでも自慢でもなく、ただの事実だ。

「確かに僕に力はありません」

 冷静な思考と広い視野を持つチームの頭脳である二人は、事実としての実力差に対した関心を示さない。

「でも、力の使い方にはそれなりに覚えがある」

 やはり、氷織が完全に優位に立つ前に二子は馬狼へボールを渡した。逃げ方が上手い。青い監獄(ブルーロック)だから逃げイコール恥のような空気感が沈殿しているが、ボールを奪われないために逃れることは、タイミングさえ見極めることができれば決して悪手ではない。

 そんな攻防の中、氷織は心の中で笑う。

(やっぱり二子くん、わかってるわ。なら……狙うはインターセプトや)

 先程は自分がしたインターセプトから逆転された。それを、二子に対してし返す。

 探せ、その攻防の揺らぎを。

 一方、ボールを持った馬狼と、宵越の何度目かのマッチアップ。

 馬狼が走り、それを宵越が追いかける展開。けれど不倒の名は伊達ではない。不倒は一度自分を下した選手を絶対に忘れない。屈辱を絶対に忘れない。

 その悔しさを熱に変えて、馬狼に食らいつく。技術力は馬狼にも負けない。巧みな身体操作で、馬狼がボールキーパーの時に絶対に抜かせない。

(作戦なんか……必要ねぇ!)

 馬狼の右への抜け出し、宵越の圧倒的な速度で並走する。今度はフェイントで左に切り返してくる。それも宵越は抜かせない。馬狼にそう(左に)フェイントをかけるようわざと隙を作っていた。《後の先》だ。

「平民に付き合ってくれるなんて、お優しいキングじゃねぇか」

 馬狼のこめかみが震える。ギラつく瞳に悪い笑顔の不倒が写る。

 業を煮やした馬狼が、一瞬フィールドを見渡してからボールを横に蹴った。

「ほら、やっぱ優しいぜっ」

 宵越のパスカット。後の先だけではない、カットを使って通常あり得ない姿勢から急速に動く。本来なら届かないボールの軌跡に追いつく。そもそもカットの真髄は通常連動する体を分離して動かし、相手に次の行動を誤認させることにある。わざと隙を作る後の先とは相性がいい。

 結果、余裕をもってボールを得た宵越は、元々の速度も活かし馬狼を遠ざける。

「この……下民がっ」

 加速。ドリブル。ゴールエリアへ。

 馬狼が追いつく。カバディ初期の宵越と同じだ。ボールがない方がさすがに速い。それでも宵越は止まらない。

 反則を恐れない馬狼のタックル。それを躱す宵越。けれどさすがに伍号棟の守備とは違い、殺意の高い馬狼では姿勢が崩れる。宵越はパスを選択した。

 無人の空間、敵陣右翼。駆け込むのは成早と雪宮。純粋に速度で勝る雪宮がボールをキープした。

 雪宮の眼に光が。それはゴールを求めるストライカーの熱だ。雪宮のゴールレンジまで到達した。あと1ドリブル、そしてキックで点が決まる。

 だが予定調和の展開ではない。宵越も雪宮も作戦を立ててはいない。宵越は最後まで警戒を怠らなかった。だから叫んだ。

「後ろだ雪宮!」

「っ……」

 雪宮の死角から、成早がボールを奪おうとしていた。閃く小さな脚。けれど、宵越の叫びで雪宮も気づいた。辛うじてボールを奪わせない。

 無揚力蹴弾(ジャイロシュート)がゴールネットを揺らす。

 未だ無表情の二子。悔し気な成早。静かに憎悪を滾らせる馬狼。

 拳に力を込めて叫ぶ雪宮。静かに喜ぶ氷織。

 宵越は、ただ一点を見ていた。

 互角のフィールド。お互い油断できない状況。余計なことを考えれば敗北に繋がる。

 けれど、宵越が何よりも求める勝利のために。生じた疑念を晴らせと、理性が警鐘を鳴らしていた。

(アイツ、もしかして……)

 最初は勘。次は違和感。そして、今は疑い。

(……確かめろ)

 スコア、1-1。

 戦場のキングが、獰猛な牙に涎を垂らしている。

 早く(ゴール)をよこせと、馬狼が次のプレーを待っている──

 

 

 

 






・現在の状況:レッド(宵越・氷織・雪宮)対(馬狼・成早・二子)ホワイト
 スコア:1-1
 得点者:馬狼、雪宮



宵越は原作《灼熱カバディ》で、敬意とからかいの両方の意味を込めて《序盤の男》と呼ばれることが多々ありました。
それはスポーツ強者として試合の流れを作るのが上手く、序盤に大手柄を上げる様子から呼ばれているのですが(宵越「序盤だけの男みたいじゃねーか!」)。

カバディはターン性で攻撃と守備を交互に行うスポーツなので、序盤に宵越が攻撃を成功させて士気が上がる! なんてこともあったのですが、1点を奪うのに少なからず時間を要するサッカーにおける序盤とは、どういったものなのでしょう……

Q.10 ぶっちゃけ宵越ってどのポジションが一番光ると思う?(DF編)

  • 野生児「お前もGK初めて? 俺も」GK
  • 蟻生「《不倒》とはなんとオシャな」CB
  • 千切「両サイド神速しろって絵心が」SB
  • 烏「非凡、お前も社畜付き合えや」DMF
  • エゴイスト過ぎてFW以外向いてねぇ!
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