青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.18 再臨

 

 

 スコア、2‐3。

「ユッキー。2on2、苦手やんな?」

 プレーの間。氷織の雪宮への言葉は、決定的だった。

 宵越がまさに感じていたことだ。この試合だけじゃない。一次選考の時からの違和感。

 雪宮からの返事がない。宵越が氷織に追随した。

「お前のドリブルは俺と違う方向で強力だ。成早にも、体格もボールコントロールも負けないだろうが」

 他人を卑下するつもりはないが、それでも成早と雪宮の差は絶対的だ。1対1で、まず負けるような相手ではない。けれどこの試合では雪宮が成早からボールを奪われる──死角から襲われる展開が散発している。それが二子のコントロールによるものがあったとしても、目立ちすぎる。

 一次選考、チームZとチームXの戦い。宵越は雪宮に、1on1では勝てない可能性を感じていた。だから仲間と連携を繋いだし、フェイントやカットを駆使して出し抜いた。

「思えば、《ドゥッキ》への反応も極端に遅かったな」

「……あの股抜きか。曲芸じゃないんだな」

「……?」

 その試合を観ていない氷織は疑問符を浮かべるだけだが、薄々察してはいるようだ。

 そう、ドゥッキ──高身長の相手に対して股を抜いて持つ技術は、本来サッカーの技術ではない。それをあの場で使ったのは、宵越の技術とクソ度胸と、そして。

 試合終盤、互いの疲労がピークの時。あの時、直感的に、雪宮の死角が広いと感じたから。

「雪宮、お前視野が1点に集中しやすいのか?」

「……ユッキー」

「……二人には関係ないだろ」

 否定も肯定もない。だがほとんど肯定を物語るような態度だ。

 試合中の6人全員に言えることだが、早い試合展開にストップ&ダッシュの繰り返しで疲労がたまっている。雪宮の顔にも、隠せない汗が滴っている。体力が少ないわけではなさそうだが。

 少なくとも、雪宮は焦りを抱えている。そして、その視野の狭さは単なる弱点以上の、雪宮の何かを孕んでいる。

 プレー再開も近い。これ以上の相談事はできない。

「少なくとも、俺たちは今チームだぞ」

 宵越はそれだけ告げて、プレーに戻った。

 宵越がキックオフを告げる。それは雪宮へ。

 雪宮もプレーや連携を放棄する気はないようだ。セオリーに応じてちゃんとボールを返してくる。それでも、どこかムキになっているような空気はあった。

 氷織と中心にパスを回しつつ、要所で雪宮にも供給する。そうしてプレーを静止させず、相手に隙を見せない。

(アイツの視野の狭さ……)

 二子は明らかに視野が広く、馬狼・成早のみならず、雪宮や宵越の強さも含めて動きを把握している。成早は技術はないが、オフ・ザ・ボールの立ち回りは上手い。それに雪宮が1on1が苦手なのも相まって、この試合においては雪宮が強みを発揮しにくくなっている。

 二次選考に影響を与えるのは個の強さ。そして個の強さの重ね掛け。今、自分たちは雪宮を殺してしまっているのだ。

 

 ──二人には関係ないだろ──

 

 雪宮のその言葉。表情には出さないが、宵越は心の中で乾いた笑いを浮かべてしまった。あまりにも見覚えがありすぎる態度だったから。

 雪宮の言葉は正しい。青い監獄(ブルーロック)において、自分たちは本質的には敵同士だ。敵には弱点を晒さないのが当然。

 勝つためとはいえ、今の雪宮は自分と氷織にすべてを曝け出すことはない。

 なら。

(俺が変わるしかない)

 ヒト(他人)を変えることができないなら、ヒト(自分)を変えるしかない。

 勝利のために、雪宮の道を創る必要がある。本来雪宮自身がすべきことであっても関係ない。

()()この試合に勝つために、できることは──)

 宵越は負けた相手を忘れない。それは悔しさでもあり、勝つためでもある。

 宵越は勝利のために自分の勝ち方を変えることを恐れない。それは勝つためであり、負けた相手の勝ち方を絶対に忘れないからだ。

 相手の勝ち方、その時の状況、精神性(マインド)。あらゆる状況をシミュレートしてきた。全ては、それがたとえ絶対に追い越すことのできない数万歩の歩みであっても、自分の数歩に変えるために。

 氷織の強気なセンタリング。馬狼を抜いた宵越がゴール前へ駆ける。

 初めての展開が生じた。氷織から離れた二子が宵越にマッチアップしてきた。となれば、宵越は氷織へ。氷織はすぐさま、宵越につられて前線へ上がった雪宮へ。

 その雪宮が、ボールを止める。立ちはだかった成早を抜き去る。けれど、二子がさらに雪宮の前へ。試合前半ではなかった積極性だ。

 それは二子が、自身の視野の広さと氷織の読みを読んだことで、雪宮への段階的な妨害で止められると踏んだからだった。実際にボールは弾かれた。

 誰のものでもない、一つの球。チームレッドのチャンス。逆にチームホワイトにとってはカウンターの契機。

「……獲ったぞ!」

 制したのは馬狼。ボールを止め、反転。視界に自身が奪うべきゴールネット、白い網の玉座を見据える。

 距離は遠い。だが先の鋭角ドリブルを駆使すれば。

 いける。王者の欲望が涎を垂らしたその刹那。

「言ったろキング。革命だってな……!」

 宵越が馬狼の死角からボールを奪った。

「あれは……!?」

 成早が思わず叫んだ。

 すぐにボールを奪おうと近づかず、ボールを獲った相手がドリブルへと踏み込む、その瞬間に刈り取る。あのステップワークは自身が得意とするもの。

 宵越も馬狼にしてやられた。自分のカットを馬狼の技術で擬似的に再現されたことを。

 なら、自分も。変わることを恐れないで、敵の長所を奪い、喰らう。そうして自分の目的へたどり着くための数歩へ変える。

「あれが……“天才”かよっ」

 成早の悔し気な声は誰も聞こえない。それほどまでに、宵越の動きは超常的だった。奪ったと思ったら、ヒールリフトでボールを浮かす。勢いそのままに体を《回転》させる。まるでバレエのように。

 崩れない体幹。揺れる視界のなか、ゴールポストを目に捉え、空中で蹴り込む。

「……くそっ!」

 馬狼が地団太を踏んだ。二子が、膝に手を当てた。成早は立ち尽くしていた。

 それほどまでに、今のプレーは。

 

 ──不倒がサッカーに還ってきた──

 

 この事実を魂に刻み込むに十分なプレーだった。

 氷織も、雪宮も。誰も何も言えない。ただ、眼を、心を奪われていた。

 宵越竜哉の走りが生み出す、このプレーの美しさに。

「おい、お前ら。次行くぞ」

 宵越は前だけを見据えている。雪宮に何も言わない。投げかける言葉が意味を成すまでは、プレーを見せつけるだけだ。

 3‐3。馬狼がボールを蹴る。二子が少しのキープの後に馬狼にパスをし返す。

 当たり前のように、ボールを持った馬狼に宵越がマッチアップ。馬狼は二子へ回す。それを数回繰り返す。

 二子は、馬狼は理解していた。宵越がわざと二子‐馬狼のラインを開けて守っていることを。

「クソ野郎が……!」

 舐められている。そう直感した馬狼の頭が沸騰した。

 ファウルを恐れないタックルとドリブル。宵越はそれを避け、馬狼を抜かせた。カットですぐさま切り返す。

「見え見えなんだよ、クソ不倒がぁ!」

 馬狼は読んでいた。宵越が追いつくことを。

「そりゃどうも」

 宵越も読んでいた。何度も見せたカットに馬狼が対応してくることを。

 さらにカット。馬狼はちょうど加速してくる宵越を迎え撃とうとしていた。奪う宵越、守る馬狼。ボールがあらぬ方向──チームレッド陣側の左翼にいた二子へ。

 二子。ボールキープ。振り返ると、そこにはもう氷織がいる。

 そして、馬狼と接敵していたはずの宵越が二子へ。ダブルプレス。

「なっ」

 3連カットだ。不倒が持つ黄金の両脚。そしてフェイント技術、恵まれた身体能力。そのすべてが、宵越がフィールドを蹂躙することを許している。

 ボールを奪った氷織へ、宵越はさらに冷徹な目線を向ける

「……エゴイスト」

 悪寒を覚えた。かつて西岡が宵越を見て聴こえた言葉が、氷織にも伝わる。

「『俺に出せ』って。ほんっと、清々しいまでのエゴイストや!」

 ボールが宵越へ。今、氷織は決してゴールを狙えないわけではなかった。それでもパスを()()()()()

 なぜなら、宵越自身がそれを狙ったから。

(俺がこの試合、勝つためにできることは──)

 それは、このフィールドを支配すること。馬狼たち敵だけでない、雪宮と氷織さえ利用すること。

 ゴールへ駆けあがる。ドリブル。馬狼が近づいてくる。雪宮へパス。

 雪宮がドリブル。敵陣まで進む。馬狼と成早のダブルプレスで奪われる。

 馬狼がボールを持った。すぐさま宵越とマッチアップ。先と同じ状況だが、より宵越たちのゴールに近い立ち位置だ。

「下民が、同じ状況なんざ喰らわねぇよ!」

「同じじゃねぇよ。わざとこの状況になるようにしたからな」

「それが──どうした!」

 やはり宵越へ向かって突っ込む馬狼。もちろん、不倒である宵越がカットで追いついてくるのも織り込み済み。それに対応すべく、馬狼自身も鋭角ドリブルを意識する。

 そして、宵越は正面からの突進を受け止めた。それはつまり。

 

(パワー……勝負……!?)

 

 教えてくれた人がいる。きっちり意表を突けば、同じパワーでも全く異なる結果になると。

 敵も味方も関係ない。自分を苦しめた人間。成長させてくれた人間。勝つために貪欲になる宵越にとって、出会ったすべての人間が師たりえる。

 世界組4番、六弦(ろくげん)(あゆむ)。それが、この馬狼に対してパワー勝負を選択した宵越の師。カットと鋭角ドリブルを意識した馬狼に対して、この一瞬だけ宵越が勝てる瞬間。

 崩れる体勢。倒れる馬狼。両者の同等の勢いを持つ突進、けれどプレーは止まらない(反則にならない)

 宵越は倒れない。勢いそのままに右脚を振りぬく。

 この試合7点目が刻まれる。4‐3。

 ついに、チームレッドが王手にまでたどり着いた。

 

 

 








・現在の状況:レッド(宵越・氷織・雪宮)対(馬狼・成早・二子)ホワイト
 スコア:4-3
 得点者:馬狼、雪宮、氷織、馬狼、馬狼、宵越、宵越

更新速度とは別ベクトルの質問です。試合展開の速度について……

  • ①早いと感じる(文章量・描写が少ない)
  • ②ちょうどいい
  • ③遅いと感じる(文章量・描写が多い)
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