青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.19 懐古

 

 

 奪敵決戦(ライバルリーバトル)初戦、3rdステージ、宵越・氷織・雪宮 VS.馬狼、二子、成早。

 スコア4‐3。状況は佳境だった。

 試合はシーソーゲーム。どうあっても油断はしない。一点差など簡単にひっくり返される。運によってだって、状況は如何様(いかよう)にも変わる。

 それでも、たった一つ確かなことがある。今や、この試合は宵越が完全に飲み込んでいた。

 敵のリーダー格である馬狼も王を自称するに相応しい実力だ。敵味方を含めた他の選手も弱くない。

 けれど、2‐3の状況から連続で宵越が2点を奪った。馬狼のチームが、従者の忠誠によって得た3点でもない。雪宮と氷織に巡ってきた、()()()()2点とも違う。

 宵越が発想を重ね、宵越が仕掛け、宵越が実行し、そして他の全員が無意識に付き従って、そして宵越が決めた2点。

 《不倒》宵越竜哉の再臨。それを観た5人はもはや、単なる恐怖とも、嬉しさとも、悔しさとも違う感情を持っていた。

 そして、雪宮は。

「はぁ……はぁ……クソッ」

 プレーとプレーの間。キックオフまでの数十秒。

 雪宮のチームは勝っている。自分が決められなかったことにはそれなりの憤慨はある。けれどこの状況で癇癪を起すほど雪宮は子供じみてはいない。

 それでも、自分は大した活躍をできていない──

「雪宮」

 声がした。顔を上げる。

 目の前には、不倒がいた。

「……なんだよ」

 2点前、チーム内であからさまな言動をとった。だからこそ少しのぎこちなさがある。そして頑なな態度は宵越のスーパープレーのきっかけにもなっただろう。

 そうだ、何の問題もない。自分たちは勝っている。

「俺は問題ない──」

「俺はお前のことをほとんど知らない」

 宵越が遮った。

「だからかけられる言葉もわからねぇ。何に焦っているのかもわからねぇ。けどな……お前は絶対、俺にはない強さを持ってる」

 宵越は嘘を言っていない。客観的に見てもそして宵越の主観としても、雪宮は強い。

 恵まれた体格。宵越にも引けを取らないスピードとパワー、それを駆使して相手を引き剥がす。スピードとテクニックで相手を抜き去る宵越とは別ベクトルのドリブルの技術だ。

「雪宮。馬狼を見ろ」

 プレーの前。乱れる視界。その中で、作戦会議をする二子と成早の近く。自ら孤独を選択する王がいた。

「アイツは……ないものを手に入れようと妄信してる。過信してる」

 それは宵越に言われるでもなく、氷織や雪宮の眼にも明らかだった。

 確かに馬狼は強い。全体的に能力値の高いチームレッドと比べれば、読みの二子、裏抜けの成早と、それ以外の能力がどうしても未熟な二人という仲間の不運も多少はあるだろう。

 けれど、それをもって3点を取ったのは現実だ。あの3人はチームとして成り立っている。そして、馬狼はそのチームでなければ確実に点を取れていない。

 なのに、馬狼あくまで孤独を貫く。それは宵越にとって、妄信であり過信だ。

「自分の強さを信じて猛進するのとは違うぞ」

 そして、その姿は宵越にも覚えがある。

「俺には、馬狼(アイツ)雪宮(お前)が重なって見える」

 そして、カバディに出会う前、孤独だった自分とも。

「勝つのも負けるのも、いつだって、“自分自身”だぞ」

 宵越も、自分の言葉が雪宮に届ききっていないことは理解している。まだ足りない。

 それでも、カバディで学んだことがある。チームの仲間から学んだことがある。

 だから拙い自分の言葉で、声をかけ続ける。

「俺は、俺の夢と心中をする覚悟なら──」

「ふざけんな」

 宵越は、雪宮の胸倉をつかんだ。けれどそれは威嚇や怒りの発散じゃない。

「俺は心中する気はねぇ。お前の夢とも、誰の夢とも」

 誰ともだ。自分の夢にだって、心中するつもりはない。

 死なれては困るのだ。大事な仲間に。

 だから。

 

「お前も、お前の理想に()()()みろよ」

 

 拳の力が緩まる。そうして、宵越は離れる。

「……」

「それなら考えてやる。そう決めたからな」

 

 

────

 

 

 プレーが始まる。場合によってはラストプレーとなるかもしれない。

 けれど逆転の可能性は残っている。だからチームホワイトも諦めない。

 成早も絶望しながらもチームのサポートを止めない。二子も必死にフィールドを見続ける。

 馬狼ももがき続ける。

 パスが回る。二子から成早へ。二子から馬狼へ。成早から馬狼へ。

 馬狼からのパスは極端に少ない。

 それでも、先の宵越の烈火のような2得点の勢いは収まっている。さすがにずっとフルパワーで実力を出せるわけではない。流れは宵越たちにあるが、試合は拮抗している。

(俺は……)

 動きが鈍る雪宮。

 雪宮剣優は、眼に疾患を患っていた。

 疲労時に視界が狭まり、時に斑点上の盲点も生まれる進行性の病変。

 完治はない。未だ明確な治療方法が確立されていないものだった。

 プロサッカーで、世界一のストライカーになるという夢は諦めなければならない。

 適切に治療をすれば、少なくとも失明は防げる。命に支障もない。日常生活は問題ない。

 それでも雪宮にとっては間違いなく、突然に訪れた死の宣告だった。

 けれど、夢を諦めたくない。

 あきらめたくない。

 だから雪宮は青い監獄(ブルーロック)にいる。

 既に一度心が死んでいるから。もう一度死ぬことがわかっているから。

 だから、夢と心中するために、雪宮はここにいる。

 

 ──お前の理想に()()()みろよ──

 

 そんな言葉を与えられたのは初めてだった。

 夢を叶えたとしても、その先のことは考えなかった。

 理想に生きる。そんなことは、自分には──

 

「まだっ……俺が王だっつっただろう……!」

 成早から、馬狼がボールを受け取る。宵越とマッチアップ。しかし、馬狼はヒールリフトによって宵越から逃げる。さらにパスを供給したはずの成早へドリブルで近づく。そこには雪宮も──

「雪宮っ!」

「っ……」

 暗闇と、そして盲点によって斑になった視界。その中で、馬狼が駆け上がってきた。

 疲労。そして宵越の言葉によって、集中もさらに乱れる。近づいてくる馬狼。

 突進か、それとも弾き(チョップ)か。

 ボールが暗闇に消える──

 雪宮の善戦。馬狼の奮迅。結果は馬狼に軍配があがる。

「くっ……そ」

 馬狼の体幹に弾かれる。追随しようとして、成早が体ごと割り込んだことで防がれた。

 馬狼のシュートが決まる。

 4‐4。

 正真正銘、ラストプレーが始まる。

 宵越の集中力は、チームV戦の時のように高まっている。

(音がよく聞こえる。人の動きが良く見える)

 ──成早は必死で雪宮の死角を狙っている。

 ──氷織は常に俺と雪宮にパスを繋げる位置を取っている。

 ──二子は氷織に出し抜かれてからの動きが変化している。

 ──馬狼は技術こそ宵越を凌駕しようと変わっているが、未だ孤独の王を貫いている。

 ──雪宮は、動きそのものが鈍っている。

 同点とはいえ勝っている。けれど油断はしない。勝つその瞬間まで、自分は未だ平等なのだ。

 氷織から受け取ったパスを、宵越はドリブルで右翼に持っていく。馬狼だけではない、雪宮と成早を巻き込む動き。味方である雪宮の弱点を広げてしまうはずの。

(宵越くん? 何を考えてるんや──!)

 眼を見る。周辺視野ではなく、宵越の真意を探る。

 先程とは違う。『俺に出せ』ではない。

 感じた意志に氷織は愕然とした。

 別に、サッカーは超能力を与えてはくれない。氷織は人の心を読めるわけではない。

 宵越()超然としているのだ、常識を。

 だから氷織は走る。それに二子が混乱する。

「何をしている? このままじゃ──」

 それでも、今は宵越がボールを持っている。氷織をフリーにさせるわけにはいかない。付いていくしかない。

 必然生じるのは──いつかのお団子サッカーだ。

「てめぇらぁ……!」

 馬狼には思い出すイメージがあった。青い監獄(ブルーロック)最初の試合。最多得点という餌に連れられて、誰もが馬鹿みたいにボールを求めたチームZとの戦い。

 右翼中央、5人が群衆となって1人の(宵越)を追いかける。氷織と雪宮としても、不倒の愚行は見過ごせない。チームホワイトとしても、パスをする気のない宵越からボールを奪えば千載一遇のチャンスとなる。

 そして、宵越は。

「よう、やろうぜ。馬狼照英、雪宮剣優!」

 敵も味方も関係ない。その中で、宵越が今刃を交えたい相手。馬狼と雪宮との戦い。

 その意図を察して、雪宮も馬狼も死に物狂いになる。

「この──」

「野郎っ!」

 宵越がカットで群衆を抜く。センターマークへ。成早と二子が抜かれる。

 雪宮の足が絡まる。宵越と自身の間に、二子を配置されたから。

 馬狼が付いてくる。宵越の横へと──

「何が『俺についてこい』や、利用してからに!」

 氷織が、辛うじて馬狼にぶつかってその速度を殺した。

「この……クソ下民がっ」

「僕は革命する気ないけど、働いたら報酬が欲しいのが人の性や」

 減速する馬狼。加速する宵越。

 そして最後。ゴール前。

「宵越っ!」

 雪宮が追いかけてくる。

 挑発されて。なりふり構わず、今ここで、宵越に勝ちたいという雪宮の純粋なエゴ。

「勝負だ、雪宮ぁ!」

 怒りと混乱。不純物が多く、まだ不安定な雪宮の剣。

 宵越が熱する。

 肩からぶつかり合う。一次選考では、宵越がフィジカルで負けた。

 今は違う。

 フィジカル、テクニック、そしてメンタル。その全てを持った勝敗は。

 

 宵越の黄金の脚が、閃いた。

 

『試合終了! スコア5‐4! 勝者──チームレッド!!』

 いつものように、感情を排した女性の声が、力強く響く。

 呆然とする馬狼、二子、成早。そして雪宮。

「……雪宮」

 宵越が語り掛ける。

「俺たちは今、誰も世界一じゃない。理想に生きれるようになるまで、常に挑戦者だ」

 絶望する雪宮をたたき起こす。

「夢に心中する。理想に死ぬ。そんな博打の生き方が、世界一の格上に通用するかよ!」

 不倒は倒れない(ファウルされない)から不倒と呼ばれる。

 けれど《不倒》という言葉に別の可能性を感じた人間がいた。宵越自身はその事実を知らないけれど、半年前の宵越を見てきた人間であれば、誰もがわかっている。

 

 ()()()()んじゃない。立ち上がってきたから、《不倒》なのだ。

 

 何度も負けてきた。子供の頃は、数歳年上の選手に。青い監獄(ブルーロック)では凜に。

 カバディでも。ずっと天才だったわけじゃない。何度負けてきたと思っている。

 勝てばそれで終わり、負ければそこで終わる、そんな刹那の生き方はスポーツじゃない。

 勝てば重圧が、負ければ屈辱が。試合直後の一瞬の感情を賭けて、呪いに生きる。それが宵越たちのいる世界。

「だからいつだって、俺は考えるのを止めねぇんだ!」

「……」

「お前も、考えるのを止めるな」

 そして、宵越は振り返る。氷織がいた。

「宵越くん、ナイスゲーム」

「ああ。助かった、氷織」

「それで、誰を獲る?」

「それがあったか」

 ここからが、奪敵決戦(ライバルリーバトル)の肝だ。

 勝ったチームが、負けたチームから1人を選んで先のステージに進むことができるシステム。

 選ばれた者も、負けた事実に変わりはない。屈辱が刻まれたまま先に進むことになる。そして残る二人は、正真正銘のがけっぷちに立たされることになる。

 宵越の喝を受けた雪宮が立ち上がった。思う所はある、それでも諦観は見えない。宵越の言動を、ただただ見ている。

 氷織も異を挟むつもりはないらしい。

 なら、宵越が選ぶのはただ1人。

 

「来いよ、二子一輝」

 

 驚くチームホワイトの3人。

 単純な実力を考えれば明らかに馬狼が強い。

 だが、今の馬狼は使えない。

「……馬狼。お前、いっぺん死んで来い」

 宵越は吐き捨てた。馬狼は憎々しく、憎悪を滾らせる。

 馬狼は孤独の意味をはき違えている。世界一は、世界二位以下の人たちがいなければ意味のない称号だ。

 孤独は、()()()()()()周りに誰もいなかったら、そもそも孤独であることすら誰にも認識されないのだ。

 それがなければ、ただの我が儘な、他人を使えないヘタクソとしてサッカー人生を終えることになる。昔の自分みたいに。

 だから、叩き落す。

(そこで死ぬのか、俺みたいに連携を覚えるのか、それとも……進化するのかは、お前次第だが)

 逆に、今自分の我を出し切れていない人間が、宵越としては気になった。

 だから、宵越は手を差し出した。

「来いよ、二子一輝。お前のエゴ……もっと引き出してもらうぜ」

 その言葉を最後に、宵越は開かれた4thステージへの扉へ歩を進める。

 雪宮も、宵越も。それぞれの胸中はあっても、黙ってついていくのみ。

 そして、二子も。

「……」

 負けて選ばれる。少なくともこの6人ではただ一人の経験者となった二子は、口元を歪めて──それでも、しっかりと足を動かす。

 ただ、2人。悔しさを隠さない敗北者たちを置き去りにして。

 

 

 






・結果:レッド 対 ホワイト
スコア:レッド(5)-(4)ホワイト
勝者 :チームレッド
得点者:馬狼、雪宮、氷織、馬狼、馬狼、宵越、宵越、馬狼、宵越
4thステージ進出:チームレッド・二子
2ndステージ後退:馬狼・成早

ここまで読んできた方にお聞きしたい。作者の書いたプレーしている描写が……

  • ある程度はイメージできる。
  • イメージできないけど脳内補完で楽しめる。
  • イメージできないし補完もできない。
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