青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.2 飛び込め

 

 宵越がその場所へ足を踏み入れた時、会場の空気がわずかに揺らめいた。

 日本フットボール連合が借りているビル、その中にある今回の強化指定選手の集合会場だ。

 宵越が絵心の誘いに乗った後、一枚の手紙が届いた。言うまでもなく、日本フットボール連合からだった。絵心との会話で『ただの強化指定選手とは思えない』と言ったが、手紙の頭には『強化指定選手に選出されました』との文字。そこから先には、要約すれば『指定の日時に指定の場所に来い』という命令。

(絵心の野郎……何一つ重要なことが書いてないじゃねえか)

 と思ったものだ。触りだけでも概要を知っている自分と比べて、他の招集対象の選手たちはどういう主旨の招集か聞かされているのだろうか。

 いずれにしても、宵越はその会場に足を踏み入れる。目的も何もかもめちゃくちゃな説明だったけれど、少なくとも宵越は交わした約束を反故にするような人間ではなかった。

(もう、結構来てるな)

 強化指定選手は300名。全国から集められている。宵越からすれば半年以上離れていた世界でも、同世代の人間には見覚えのある人間もいた。

石狩(いしかり)──西岡(にしおか)──皿斑(さらまだら)──志熊(しぐま)。なんだ、結構いるじゃねえか)

 中学の頃から名前も知っていた有名選手がいる。人が一人この会場に足を踏み入れる度、どの人間も新たな乱入者を見定めている。

 だからこそ、宵越がその場所へ足を踏み入れた時、会場の空気はわずかに揺らめいたのだ。

(当然か)

 中学時代チームを全国ベスト4に導き、ユースでも活躍していたトッププレーヤー。それが宵越竜哉だ。サッカー界から姿を消しても、噂は流れ続ける。

 そんな宵越が、この場に現れた。どういうことだと。

 見定めるだけの人間がいれば、声をかけてくる人間もいる。

「もしかして……宵越くん?」

「お前は──吉良(きら)じゃねえか。久しぶりだな」

 宵越よりは背丈が低い、それでも十分な高身長の好青年。

 日本サッカーの宝とも言われる、埼玉松風黒王高校の吉良(きら)涼介(りょうすけ)がそこにいた。中学時代、何度か対戦したことがある。

「うん、久しぶり。サッカー辞めたって聞いたけど?」

「辞めたわけじゃねーよ。こんなとこに来るとも思わなかったがな。呼ばれたから来てやっただけだ」

 にべもなく、宵越は答えた。

「……変わらないなぁ、その感じ。でも、なんか雰囲気変わった?」

「あん?」

「ちょっと、表情が柔らかくなった感じがするけど」

「……さあな」

「ああ、そうだ宵越くん。紹介するよ」

「誰を?」

「誰って、彼だよ。(いさぎ)世一(よいち)くん」

「ああ、後ろの」

 気づいてはいた。吉良と一緒に立っていた一人の少年。同世代だろうけど、少し緊張していそうで覇気のなさそうな平凡な少年だった。

「そ、その、潔世一ですっ」

「ああ、宵越だ」

「潔くんとはこの前の県予選で当たってね。プレー視野も広くて強くなりそうって思って」

「吉良くんっ、別に俺、大したことないし……」

「いやいや、謙遜しないでよ」

「そんな話を俺に振ってどうしろってんだよ。潔も困ってんじゃねーか」

 ワイワイ、ガヤガヤ。ざわつきは三人だけじゃない。他にも、同じような会話はあった。男子高校生300人、無言でいられるはずもないからだ。

 けれど集合予定の人間が全員集まったのだろう、しばらくすると急に会場の光が消えて、正面のステージだけに注目が集まるようライトアップがされる。

『おめでとう、才能の原石共よ』

 そして、スピーカー越しに奴の声が聞こえる。

 300人は、一斉にステージに立つ男を凝視した。

『お前らは俺の独断と偏見で選ばれた優秀な18歳以下のストライカー300人です』

 淡々と続く語り。声を荒げる人間なんていない。

(現れやがったな──)

『そして俺は絵心甚八。日本をW杯優勝させるために雇われた人間だ』

 

 

────

 

 

 そこから先の絵心の語りは、宵越が直接聞いたものと大きく変わりなかった。

 日本サッカーには革命的ストライカーが必要だということ。その誕生のために、ここにいる300人を青い監獄(ブルーロック)という特別施設寮に招き、トレーニング漬けの生活をしてもらうこと。その300人の中からたった一人勝ち残った人間が、世界一のストライカーになれるということ。

(ずいぶん時代錯誤的な環境だぜ)

 参加を表明したものの、全面的に納得したわけじゃない。監獄という場所でのサッカー漬けの毎日で、トッププレイヤーになれる。否定はしないが、誰もが適応できる環境じゃない。つくづくイカレた野郎だと、宵越は嘆息した。

 事実、一瞬の静寂を破って隣に立っていた吉良が反論した。それに伴って、周りの選手からも寮生活への懸念や、全国大会があることを理由に不満が出てくる。至極当然の反応だ。

 だが。

『帰りたい奴は帰っていいよ、帰れ帰れ(ファックオフ)。そんなこと言う奴はどうせ凡人エセストライカー止まりだ』

 ざわめきは収まらない。正面からのクソみたいな罵倒なんて、受けたことがない。

『お前らに教えてやろう。サッカーってのは仲間も絆も関係ない。()()()()()()()()()()()()()()だ。点を取った人間が一番偉いんだよ』

 仲間や絆の否定。ここにいる300人のストライカーたちが卑下し、宵越も決して賛同はしない思考回路。

『そうした点を取る人間──世界一のストライカーの座は、世界一のイカレたエゴイストこそ手にすることができる』

 そのために、299人の屍の上に、たった一人の英雄(ストライカー)を立たせる。

『さあ、才能の原石共よ。最後にひとつ質問をしよう』

 絵心は、言った。

 

『想像しろ。舞台はW杯決勝』

 

 その一言は宵越にW杯決勝ステージと──そしてかつて戦ったカバディの激戦、過去と少しだけ違う状況を思い浮かばせた。

 関東大会、高校カバディ選手権決勝。カバディは、攻撃と守備を交互に行って点を奪い合う。

『8万人の大観衆。お前はそのピッチの上にいる』

 相手は絶対王者、星海高校。

『スコアは0-0。後半A・T(アディショナルタイム)

 残り10秒、1点差ビハインド。

『ラストプレー、味方からのパスに抜け出したお前は──』

 攻撃手は自分たち、能京高校。星海高校の守備は3名。《最強選手》不破仁が守る鉄壁の要塞。

GK(ゴールキーパー)と1対1。右には味方が一人、パスを出せば確実に1点が奪える場面』

 こちらの攻撃手の選択肢は二つ。チーム内で2番手の自分(宵越竜哉)か、最強の攻撃手である部長か。

『全国民の期待。優勝のかかったそんな場面で──』

 全国がかかった大事なプレー。そこで求められるのは、堅実な部長の攻撃力。

『迷わず撃ち抜ける。そんなイカれた人間(エゴイスト)だけ、この先へ進め』

 

 目をつぶる。思い出す。

 

『実はずっと、狙ってたんだ。最後の攻撃は俺が行くって』

『最後の攻撃、行ってくる』

 

(ああ、そうだったな)

 自分が行った最後の攻撃と、絵心が想像させた最後のシュートの光景が、重なる。

 仲間の存在を否定するわけじゃない。仲間がいたからこそ、自分は灼熱の世界に戻って来られた。

 同じ景色を夢見る仲間に出会えたから。

 でも、最後の攻撃を狙っていたのは。

 負けたくない。一番でいたい。だから、自分はその座を欲したんだ。

 

「潔くん……!?」

 吉良の戸惑った声に、宵越は目を開いた。

 吉良と一緒にいた──潔世一が駆け出していた。後ろ姿だから表情なんて見えないけれど、そこには鬼気迫るような雰囲気があった。

 その潔の空気に呑まれてか、続々と同じように、絵心が示したステージの向こうへストライカーたちが走っていく。

 戸惑う者、意気揚々と動く者、あくまで冷静に走る者、逆に動けない者。

 その中で、宵越はゆっくりと歩いていく。

 ほとんどのストライカーがステージの向こうへ消え、残り数人となった時、ようやく宵越はステージへ上がる階段へ足を踏み入れたところだった。

 絵心と視線が交差する。

「どうだ? 俺の言葉は響いたか?」

「響かねえよ。二度も言わせるな、俺は仲間がいたから強くなれた」

「そうか」

「けどな」

 絵心のそばを通り過ぎ、一歩止まって振り返る。

「日本サッカーにどんなFW(バカ)が生まれるか。それだけは、この眼で確かめてやるよ」

「良いだろう、宵越竜哉」

 

 

 

 

あなたは《ブルーロック》と《灼熱カバディ》を……

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  • 《灼熱カバディ》だけ読んでる。
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