青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.20 三つ巴

 

 

 4thステージに進出した宵越、氷織、雪宮、そして二子。4人は次の戦いへの熱を一度冷やすことになった。

 二次選考の2nd・3rd・4thステージは一次選考と違って時間による行動指定が少ない。消灯時間の規定や、次の試合までの最低限空けなければいけない時間、そういったものはあるが、試合は両チームが合意すれば、コートが開いている時間であれば問題なく始められる。

 それにチームごとの就寝所、食堂、大浴場、トレーニング……といった設備は変わらずにある。要は今までの設備がマイナーチェンジした形だ。

 そんな中、宵越たちはすぐに次の対戦相手を探すことはしなかった。二子が新しくメンバーに加わったのもある。それだけでなく、「次は凛と戦う」と急いでいた宵越すらも、連携を含めた練習の必要性を説いたのだ。

 そして、4人はトレーニングフィールドで練習を積んでいた。お互いの呼吸、考えていること、身体機能、技術。それを共有する。

 宵越を筆頭に、特に雪宮などは負けず嫌いでどんどん負荷量を増やす。誰にでも休憩は必要だった。

 そんな日々が数日間続いた。

 ある日の練習中、4人はボトルで水分補給をしながら、輪になって座り込んでいた。だが、決して和気あいあいとした表情ではない。

 宵越が口を動かし続ける。一通りを聞き届け、二子・氷織・雪宮が異口同音に疑問符を発した。

 

『カバディ?』

 

 ま、そりゃそうだよな、と宵越は嘆息する。半年前の自分と全く同じ反応だ。

「……そうだ。俺はこの半年間、カバディをやってたんだよ」

 数日間のコンビネーション練習で、先の3rdステージで連携した氷織と雪宮は基より、二子の動きも理解できるようになってきた。それぞれの出身やサッカーへの考えも、全てではないが多少は話すこととなる。

 となればどうしたって語らずにはいられないのが宵越の過去なわけで。

 どうして宵越君は半年間、サッカー界から姿を消したんですか? という二子の問いかけに答えることになった。

 高校入学を機にサッカーを辞めたこと、その後なし崩し的にカバディ部へ入らされたこと、その後仲間たちと共に全国大会で優勝したこと。

「僕は知ってますよ、カバディ。7対7で行う鬼ごっこみたいなものですよね」

「そうなのか」

「といっても、別にちゃんと見たことはないですけど」

 氷織と雪宮は知らないらしい。

「小学生の時? 同級生が『カバディ』連呼しながら遊んでたのは記憶あるわ」

「俺も同じ、かな。そもそもスポーツだったんだ」

 というような反応。別に驚きはしない。

「ちょっとやってみるか?」

「ええよ」

「興味あります」

「……やろうか」

 あくまで説明のためのプレーではあるが。

 サッカーフィールドだし、コートのラインもない。センターラインを境目に見立てて、宵越が3人の立ち位置を指示する。

 

 攻撃(レイド)、宵越竜哉。

 守備(アンティ)、3人。

 

「やることは単純。攻撃の俺はお前らをタッチして、センターラインまで戻ってくる。そうすりゃ、タッチした人数分の点数が入る」

「その間、『カバディ』と連呼する必要があるんですね」

「ああ。帰れないと逆に俺が1失点だ」

「じゃあ、僕らは避けるだけ?」

「本当は(キャッチ)してもいいんだが……」

「やろうよ、そのキャッチっての」

 雪宮が言った。

「宵越の半年間がみたい。俺たち三人の総意だ。だから本気でやろう」

「……怪我だけは避けろよ」

 雪宮は腰を軽く落として正面に構えた。了解の合図だ。それに二子、氷織も続く。

「……じゃ、いくぞ」

 キャッチの注意点を説明してから、宵越が眼をつむった。そして深呼吸を二回。

 開眼。

 そこには、能京6番・《不倒》宵越竜哉がいた。

「カバディ、カバディ、カバディ──」

 その言葉を唱え続けたまま、敵を見据える。

 右、氷織。左、二子。中央、雪宮。宵越からすれば左右が逆だ。

 宵越はすぐには突っ込まず、二子の正面で半身に構えて右手を伸ばす。

 たったの1プレー。説明のためのチュートリアル。それでも手を抜かないのが不倒たる所以。キャッチングの説明はしてある。倒される可能性を前提にした動き。

 対し、思考する雪宮。

(走りや回避が大切──宵越が活躍するわけだ)

 新しく始めたスポーツで部活を優勝に導く。いったいどこの漫画の主人公だと思うが、なるほど不倒が得意な領域にも思える。

 しかしその宵越は、雪宮と氷織も視界に抑えつつ二子を狙っている。その挙動はとてもゆっくりで、二子は距離をとることを忘れない。

(──倒しに行く)

 血気盛んな雪宮がいた。

 にじり寄る宵越。二子はいつでも動けるようにしている。雪宮から氷織は見えない。

 一瞬、雪宮がタックル。宵越を倒す。

 もちろん、相手は不倒。簡単に倒せるとは思っていない。それでも、宵越と戦うことにためらいはない。

(さあ、どうくる──)

 

 宵越が消えた。

 

 いや、消えてはいない。0から1へ、予備動作もなく氷織の側へ加速した。

 そして雪宮も触れられた。接触1、闘争開始(ストラグル)の瞬間でもある。

 宵越は勢いのままに氷織の肩を狙った。寸分の狂いもなくヒットし接触2。

 宵越の正面に氷織。右に二子。背後に切り返した雪宮。

 雪宮が近づく。氷織に近づいた宵越はまだその勢いを止められない。だから雪宮は再度果敢に前へ。

 

 ──カット。雪宮を躱し、二子へ。

 しかし二子は遠くへ下がっていた。本来のカバディコートならラインアウトで失点だが、今回はその概念もない。通常届かない位置。氷織も雪宮も果敢に迫る。

 宵越は身をひるがえし、脚を伸ばした。ロールキック、タッチは手でなくてもいい。二子のつま先をかすめ、接触3。

 ここまでくると雪宮が追いつく。今度こそ真正面から宵越を捕まえた。

「氷織、二子も──」

 来い、と雪宮は続けられなかった。視界がブレ、気が付いたら勢いのままに宵越から振りほどかれていたから。回転、遠心力を使って拘束力を弱められ、そして着地と重心をずらされて引き剥がされた。

 宵越は悠々とセンターラインを越えた。帰陣だ。

「──3得点だ」

 宵越がよどみなく、感情もなく言った。

 数秒の沈黙。氷織が口を開いた。

「……ハンパないわ。素人やけど、高度なプレーってのがわかる」

「ええ……さすが宵越君です」

「別に、俺だって最初の頃はお前らと似たようなもんだったけどな」

 それを半年で全国優勝レベルに仕上げて、それを試合で通用させるのが恐ろしいものではあるが。

 宵越は雪宮を見た。

「ドゥッキ……股抜きも、今の回転も、全部カバディの先輩たちの技だ。マイナースポーツにだって、すげぇ人はたくさんいる。甘い世界じゃなかった」

「カットも?」

「ああ。あとはバックも使える。凜には通用しなかったが」

 バックを使ったのは凜との最後の最後だけだし、誰にも言っていなかった。目敏い氷織や二子に聞かれても面倒だ。

「でも、3rdステージじゃ使わなかったね?」

「怪我のリスクが高いんだよ。実際、関東大会決勝でもそれで危なかったし」

 加えて、全国決勝戦では出場できなかった。優勝は宵越だけの成果ではない。

「……今の俺があるのは、あの半年間のおかげだ」

 中学まで、サッカーで最善を尽くしたことはなかった。

 自分に合わせてもらうばかりで、ついて来れないチームメイトにイラついて壁を作った。

 その結果、腑抜けることになった。

 けれどカバディで仲間と出会った。たくさんの好敵手とも出会った。

 自分は初心者になった。敵には、勝つために決して諦めず……たくさんの技術を学ばせてもらった。

 そして仲間たちとは──チームとどう向き合うべきかを学ばせてもらった。

「だから……お前らに話すべきだと思った。それだけだよ」

 宵越は頭をかいた。

 それでも、宵越は変わり始めている段階に過ぎない。チームZの時は、まだここまで深く話せてもいなかった。3人に対して、ようやく不器用に語れただけ。

 これを話すのは、半ば雪宮に向けてだ。連携はするが、それでも表層的。自分の弱点を隠そうとせず、むきになっている。そんな雪宮へ何かをできないか、というあがき。

 雪宮は、笑顔もなく、余裕もなく──けれど悲壮的でもない。感情の読めない顔つきで聞くだけだ。

 氷織が笑った。

「宵越君も変わったんやねぇ。ずいぶん丸くなってからに」

「うっせぇよ……ほら、練習再開するぞ」

「はいよー」

「わかりました、けどいいんですか? 仲間と合わせる──ある意味、絵心さんの主張と真逆を行ってますけど」

 二子が言ってきた。宵越は振り返って、不敵な笑みを浮かべる。

「いいんだよ。俺は絵心に言った。日本サッカーにどんなFW(バカ)が生まれるか、この眼で確かめてやるって」

「なるほど。上から目線ですね」

「それに……最後は自分が決めたい。それは俺も同じだ」

 宵越竜哉。好きな言葉は最善。嫌いなものは敗北。

 絵心は言った。世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれないと。

 だから、なってやるのだ。絵心の信念すら温いと吐き捨てられるような、そんな存在に。

「だから連携を大事にする。最高のエゴイストだろ?」

 

 

────

 

 

 時間は過ぎていく。

 最初は人数の少なかった4thステージにも、いつの間にか徐々に進出者が増えてきた。

 宵越たち4人での連携も板についてきたし、同時に雪宮の動きも軽くなってきた。そこにどんな心理的変化があったのかはわからない。それに本番は試合だ。疲労もあって試合終盤で動けなくなってしまうなら、練習で動けても試合で本領を発揮できなければ意味はない。

 宵越はチームメイトと別れて4thステージ内の共用スペースを歩き回っていた。今日の練習も終わった夕方──とはいっても青い監獄(ブルーロック)は太陽の光が基本ないのであくまで時計で時間を理解している──を使って、目当ての選手を探し回っていた。

 もちろん、相手は凛。4thステージの対戦相手を探すためだ。

 凛たちのチームと戦うことには概ね拒否のないチームメイトたち。ただし二子は難色とは言わずとも堅実で「他のチームの情報も集めたい」というような意見があった。それで、4人は散り散りになって他チームの選手たちを探している。

 凛たちと戦える可能性が減ったことに、ちょっと不機嫌な宵越。

 けれど幸か不幸かはわからないが、凛を見つけることには成功した。

「よう、凛」

 トレーニングフィールドに続く扉がいくつかある通路、そこで正面から凛が歩いてきたのだ。

「……宵越」

「相変わらずふてぶてしい顔しやがって」

「っせぇよ。消えろタコ」

「相変わらず語彙力ねぇな……」

 次の瞬間、後ろから声がかかった。

「アチョー!」

 と同時に、宵越の脳天にチョップがクリーンヒット。甲高い声に振り返る間もなく、宵越はしゃがみこんだ

「う!? なんだこの──」

「あはは、びっくりした!?」

 オカッパ頭。黒髪、けれど黄色のインナーが映えている。いたずら好きな雰囲気が行動だけではなく雰囲気全体から伝わってくる。

 二次選考開始の時に見たことがある。No.16、蜂楽(ばちら)(めぐる)だ。

「お前……確か、15番と凪と一緒にいたよな?」

「え? そうだけど。よく知ってるじゃん」

「見てたからな」

 一緒にいるということは、蜂楽と凛は間違いなくチームメイト。

 凪たちのチームが凛に負けたか。いや、逆に凛たちのチームが負けて引き抜かれたか?

 いや、それよりも。

「やろーぜ。凛」

 思考は軽い。戸惑う二子たちの姿よりも復讐への熱が勝った。

 変わらず、凛は蔑むような表情だ。けれど一次選考で最初に対面した時よりも、生気のような熱も感じる。

 ──凛が、自分を敵として認識している。

 宵越は笑った。

「また俺に負けるつもりか?」

「ああ? お前言っただろ、『俺の勝ちじゃない』とかなんとか」

「二度はねぇよ」

「それはこっちの台詞だ。次は俺が勝って──」

「おーい、お二人さーん」

 蜂楽に対して、宵越も凛も同時に振り向いた。

『ああ?』

「仲いいじゃん」

『よくねぇよ』

「それはともかく、対戦だけどさ」

「ああ。お前も強そうだし、まとめて相手してやる」

「いいね。アンタ、名前は?」

 宵越は目を瞬かせた。ここにもいたか、周りや有名人に興味のない奴が。サッカーに戻ってきたはいいが、我の強い奴が多くて助かっている。

「宵越竜哉だ。忘れんなよ」

「あいあいさー。で、試合なんだけど」

「ああ」

「俺は嫌だよ。アンタも強そうだけど、でも別の奴とやりたいし」

「……は?」

 沈黙。凜は非常にめんどくさそうに成り行きを見守っていた。

 そして、宵越が怒号。

「はぁ!?」

「だって、全員が合意しないと決戦合意(マッチメイク)できないんでしょ? だから俺はヤダ」

 素晴らしく真っ当な意見だった。

「……」

「や、そんな口をパクパクさせても」

 ショックを隠せないヨイゴシ。

 思い返せば、凪にも振られた。別の奴がいいとかなんとか言われて。

 しかも二回目だ。さすがに傷つく。

 《不倒》宵越竜哉。たまに自分が有名人であることに優越感を感じている。スポーツ以外では本当に残念な男。

「誰だ?」

「ん?」

「誰なんだ? その別の奴って」

「それは──」

 

「──俺のことでしょ」

 

 後ろから、四人目。

 凛が、宵越が。蜂楽が振り返った。

 双葉のような頭のアホ毛。言ってしまえば、いたって普通で、優しい風貌の少年。

 新BLランキングNo15、(いさぎ)世一(よいち)

「よぉ蜂楽。探したぞ」

「潔……」

 蜂楽は驚いていた。凛は感傷のない瞳で潔を見ている。

 そして宵越は。

「お前、潔」

「……宵越、久しぶり」

 ドクンと、宵越の心臓が暴れる。

 初めて会った時。吉良と一緒にいた潔は、どこまでも平凡そうな少年だった。

 次に再会した時。潔がこちらを認識していたかは知らないが、それでも凪に評価されるのを見て驚いた。

 そして今、潔は。あの時とは全く違う意志を持って。二度宵越が掴むかもしれなかった権利を、偶然か必然か。奪い、喰らう。

「話してるとこ悪いけど、いい?」

 宵越へ向けたそれは「割り込んでいいか?」という意。

 生来の優しさはあるのだろう。それに宵越を見て若干気にしている。

 けれど、眼に怯えはない。

「……ああ、いいぜ」

 宵越は一歩下がった。凜と戦えないのは残念だ。けれど理解したことがある。

 蜂楽・凪・潔。この3人は凛のチームと戦ったのだ。そして潔は負け、蜂楽が奪われた。

 そして潔は2ndステージから這い上がって来た。負けて選ばれたか、勝って選んできたか。それは眼を見ればわかる。

(コイツは、負けてから立ち上がってきた)

 そして今、凛と相対している。

 潔は宵越に軽く頭を下げて、そして凛と蜂楽を見た。

「約束通り、奪い返しに来たぜ」

 

 ──コイツは、俺と同じだ。

 

 凛に負けて、そして今度は勝つことを命題にした。

 自分と似たような負けん気を持つストライカー。

 そんな選手がいることに、宵越は何よりも歓喜して、武者震いを起こす。

 だから、自分と凛との因縁に邪魔することを許した。嬉しかった。

()ろーぜ、凛」

 潔の言葉。凛からの返答はない。けれど蜂楽は笑っている。

 誰も何も言わずとも、決戦合意(マッチメイク)が果たされたと理解した。

 1人、どちらのチームでもなく傍観者となった宵越。

 けれど。嬉しい。悔しい。楽しい。

 そして、頼もしい。

 

──日本サッカーにどんなFW(バカ)が生まれるか、この眼で確かめる。

 

 それが、青い監獄(ブルーロック)の《不倒》、宵越竜哉だから。

 










潔世一。
既に宵越のお株を喰らっている恐ろしい男。
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