青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.22 クソ悪魔

 

 

 4thステージバトルフィールド。3rdステージと変わらない屋内の戦場。

 宵越、氷織、雪宮、二子。チームレッドは敵が来る瞬間を待っていた。

 それぞれ瞳に闘志を滾らせている。クソ悪魔に引導を渡すため、あるいは伍号棟全勝チームにいた黒名へのリベンジのために。

 作戦は、例によって深く考えているわけじゃない。3rdステージ突破以降は連携を重ね、互いの思考をある程度理解することに重きを置いた。

 後方に氷織と二子を置き、右翼に宵越、左翼に雪宮を配置する布陣で行く。

「来ましたよ、悪魔さんたちが」

 二子の言葉に3人は反応した。各々サングラスを拭いたり靴ひもを締め直したりして準備していたが、一斉に顔を敵4人へ向ける。

 一人目から順に、チームホワイトは悠々とやって来た。

「来たぜー、不倒クン♪」

 No.111。暴力上等、現代の悪魔。士道龍聖。

「だから煽んなって!」

 No.108。寺出身の坊主頭。五十嵐栗夢。

「決戦、決戦」

 No.4、俊足が売りの伍号棟勝者。黒名蘭世。

 そして、四人目は。

 最後尾でやって来た、黒名とはまた違う紫髪の長身。No.10。

 覚えがある。

「お前、玲王……」

 宵越が呟いた。二次選考開始の時に突っかかってきた、サッカー歴半年の自称天才、御影玲王だ。

「宵越くん、彼を知っているんですか?」

「二子? ああ、3人組を作る時にちょっとな」

 玲王もこちらに気づいた。昨日の決戦合意の時にはいなかったが、対戦相手の詳細を知らなかったらしい。こちらを見て驚いている。

「……不倒。それに、二子か」

「久しぶりだな。元気だったか?」

「……別に」

 玲王は大した挨拶もなく、顔を下げたままスタートポジションについてしまった。

「……」

 宵越も二子を連れて自陣に行く。

 思い出すのはやはり、凪との一幕だ。あの時からずっと落ちぶれた調子なのか。黒名曰く士道と五十嵐が2ndステージから上がってきたとのことだから、黒名も玲王も負けて選ばれた側らしいが。

 宵越、二子、氷織、雪宮で集まる。宵越は二子を見た。

「二子と玲王は同じ棟だったのか?」

「イガグリくんはチームZ、2位。僕はYで4位。玲王くんはVの1位。僕たちの伍号棟の結果です」

「なるほどな」

 風の噂で聞いたが、士道は別棟の最多得点者だったらしい。黒名と玲王が1位チーム出身。五十嵐は二子曰く脅威度は低いとのことだが、油断はできない。

 宵越が3人を見渡す。

「勝つぞ。勝って二次選考突破だ」

 雪宮の目線が鋭くなる。

「もちろん」

 氷織が不敵に笑う。

「準備オッケーやで」

 二子の瞳が微かに見えた。

「選ばれた以上、役目は果たします」

 試合が始まる。それぞれが配置に着く。

 士道に宵越、玲王に氷織、黒名に雪宮、五十嵐に二子が付けるように待ち構えた。

 コートの中心に立つ、キッカーは士道。

「さあ──爆発だっ」

 蹴られたボールは荒く、黒名が颯爽と受け取る。

 ──決戦。

「前、前……!」

 黒名が小刻みなタッチで雪宮を翻弄する。序盤の雪宮はまだ余裕があるが、それでも細やかな挙動への反応はやや遅い。奪われずにボールは士道へ戻る。

「きゃはっ次は──」

「いちいちうっせぇよクソ悪魔」

 士道と宵越がマッチアップ。士道の口角が、それこそ悪魔のようにつり上がる。

「いいねぇ不倒!」

 肩と肩がぶつかる。一瞬のタメ、お互い弾き合って離れる。

 その一合。宵越は理解した。

(強いのは嘘じゃねぇ──みてぇだなっ!)

 別棟最多得点者。小柄とはいえ高校生男子の五十嵐を片手で持ちあげた膂力。そして相手が宵越だから躱されただけで、先日の暴力のための動きは俊敏だった。

 言動や思考は怒りを覚えるが、実力は本物だ。それこそ、馬狼に勝り、自分や凛に迫るほどの。

 宵越の集中力が加速的に跳ね上がる。

 もう一度ぶつかり、宵越がわずかに押す。士道が右翼の五十嵐へ横パス。

「そのパス、もらいます」

 二子がインターセプト。

「ああ!? 二子!?」

 五十嵐が叫ぶ中、二子がボールキープ。視野の広さから敵のパスカット、氷織とは異なる守備に特化した二子の視界。

 そのままドリブル。まずは五十嵐を抜く。

 二子もストライカーだ。けれど氷織と同じく、勝利のためなら黒子に徹することを厭わない。

 パスカットから攻撃へ反転。雪宮、宵越、双方のストライカーを見る。

 しかしその一瞬の思考が命取りだった。

「ダメじゃん、栗割りすんのは俺だって」

 宵越から離れた士道が、二子の()()から割り込んできた。

(僕の死角から……!?)

 驚く。宵越から離れ、いつの間に自分の背後に?

「リベンジボウァズ!」

 さらに五十嵐によるボール奪取返し。二子が士道に驚き、もたつく間に目敏くドリブルを始める。

「行くぞゴー、黒名、玲王!」

「反撃、反撃」

「命令するな、煩悩坊主」

 言動はともあれ、黒名と玲王が五十嵐の両翼となって控える。速攻で1点を決めるつもりか。

 だが五十嵐には壁が迫っていた。二子に士道が付くということは。

「抜かせねぇよ」

 宵越が五十嵐に立ちはだかるということだ。

「くっ、不倒……」

 五十嵐の脚が止まる。

 前日の騒動では気づかなかったが、五十嵐栗夢も不倒の名声は知っている。警戒しないわけがない。

 宵越は五十嵐をみる。油断はしない。けれど目線、ドリブル精度、俊敏性。ここ最近の強敵と比べれば子供だましだ。

 意を決したように五十嵐が上体を左右に揺らす。シザースフェイントを仕掛けるようだが、重心移動からして方向がバレバレだ。中央に戻ろうとしている。

 宵越と五十嵐がぶつかる、0.5秒先の未来。

 宵越の脳裏に悪寒が走った。

 五十嵐の姿勢が崩れる。その前に、離れた状態で《カット》。宵越は五十嵐から離れる。

「うべっ!?」

 もつれ、ボールは五十嵐の脚に当たり弾かれてフィールドの外へ。

 

『チームレッド、フリースローより再開!』

 

 珍しくアナウンスが響いた。4人が集まる。

 氷織と二子が聞いてきた。

「宵越くん、今の余裕で抜けたんやないの?」

「直前に大きく距離を取りましたね。まあそれで自爆してくれましたが」

「あー、なんつうか、予感がしてよ」

 宵越は微妙な表情で頭をかいた。

 まさか、この青い監獄(ブルーロック)でこんな狡猾な戦略と戦う羽目になるとは。

 

五十嵐(あいつ)、恐らく狡猾さ(マリーシア)だ」

 

 ぽかんとする氷織たち。

 雪宮が珍しく慌てる。

「え、じゃあ今……彼、宵越にぶつかりに行ったのはそういう……?」

「ああ、だから避けた。さすがに人一人分離れてたら誤ジャッジもねぇだろうし」

 氷織も反応に困っている。ちょっと間の抜けた声色だ。

「なんというか、青い監獄(ブルーロック)らしからぬエゴやね」

 マリーシア。狡賢さ。今、五十嵐は宵越に当たろうとして自ら転んだ。その転がり方は審判──ここではビデオ判定だが──から見える角度を選んで、宵越がファウルを受けるように仕向けた。

「イガグリ君は、伍号棟時代は守備中心だったと思います。チームには他の強い選手がいましたし……精一杯の努力なのかも」

 二子は真面目に五十嵐を分析している。

 いずれにせよ、意図してファウルから自分ボールに持っていけるのなら決して悪い手段ではない。

「努力に質の違いはある。だが努力してきたことは事実だ。だれも五十嵐のことを笑えねぇよ」

 少なくとも、狡賢さ──諦めない心と工夫に宵越は助けられたことがある。シューズが壊れ、予備の靴はない、そんな状況で試合を離れなければならなかったカバディの試合。控え選手が出て、その選手は決勝リーグにして今大会初出番。緊張もする。

 けれど、そいつは拙い力で頑張って、そしてそれこそしたたかさ(マリーシア)で宵越が戻るまでの時間を作った。

「俺たちにできるのはただ一つ、勝つことだ」

 宵越は3人を見る。驚きと動揺はすでに消えていた。五十嵐がそうしたプレイヤーであることをインプットして立ち回る。

 実際、五十嵐も喧嘩を吹っ掛けた相手が悪かった。不倒相手にファウルを狙うなんて、伍号棟や3rdステージで戦ったチームレッドの面々ならその選択の悪さがわかる。

 プレーが再開する。フリースロー、投げるのは二子だ。ボールは宵越へ。

「ばぁっ♪」

 士道がなかなかのスピードで向かってくる。宵越は即座の勝負を避けた。ボールは遠く右翼の氷織へ。その氷織の前に立ちはだかったのは──

「対戦よろしゅう」

「お断りだ、舞妓野郎」

 氷織と玲王のマッチアップ。二子以外のチームZにとって、初めて見る御影玲王のサッカー。

 氷織がサイドから抜こうと試みる。玲王は落ち着いてついてくる。とはいえ深く食い込んでいくことはしない。

 フリースローから士道の介入を避けた結果の氷織ボール。後方だが氷織は前のめりになっていた。その氷織をこれ以上前へ行かせない、イチかバチかを選ばない堅実な守り。

 歴半年ではできないサッカーIQ。自分を天才と自称するのも頷ける。

 氷織の後ろから迫る士道。

「なら逃げるわ」

 氷織、やや後ろへパス。そのパスを見る士道の眼は細まっていた。

「助かる、氷織」

 ボールキープ、左翼の雪宮。

 3rdステージでは成早の執拗な死角からのボール奪取で活躍しきれなかった。けれど本来の雪宮の強みは1on1で敵を抜き去る剛のドリブルにある。

 人数の少ないこの試合、敵が近づくまでは雪宮の独壇場だ。

「行くぞ……!」

 加速。一歩のストライドを大きく。一気に前へ。

 そこに黒名が立ちふさがる。

「阻止、阻止」

「変わらずちょこまかと……」

 小回りの利くスピードが長所の黒名は、雪宮を追いかける。ボールは奪えるわけではない。けれど速攻型DFとして機能し、雪宮を確実に焦らす。

 その黒名の献身は悪魔の召喚を叶えた。

「そのグラサン、欲しいなぁ……!」

 2on1。黒名と士道のダブルプレス。呻く雪宮。視野の狭さ、弱点はまだ残っている。

 雪宮は士道に絡まれ、その隙に黒名がボールを奪う。

 しかし。

「うげっ、目なし……!?」

「まだセキュリティはありますよ」

 二子が再びのボール奪取。雪宮の剛のドリブル、黒名のスピード、二子の守備の眼。それぞれが強みを生かした一連のプレー。

「後は頼みます。不倒さん」

 二子、センタリング。敵陣中央で五十嵐を引き剥がした宵越へ。

 受け取る。一瞬の間もなくゴールへ駆ける。宵越もまた雪宮とは異なるドリブルを武器とする。

 チームホワイト、敵にとっての危機。宵越はゴール前へ。

 やって来た黒名と玲王をフェイントで躱す。

 ゴール前、ブルーロックマンと1対1──ではない。

「呼ばれて飛び出て2度目ダン!!」

 士道再び。恐ろしいほどの死角突きと速度で宵越の側面からぶつかってくる。

 このプレー、士道は常に死角からボールキーパーを狙ってきた。どこにでも現れる俊敏性、力強さ。加えて的確にボールを奪う技術。強い。強いが──不倒相手ではそれも叶わない。

「お呼びじゃねえっつってんだろぉ!!」

 0から1への加速。横合いから近づく士道からカットで離れる。瞬発力と加速力、それは宵越の特異性。この場の7人の誰にも追いつけさせない。

 そこからの《回転》。体の照準をゴールへ向ける。

 そしてゴールへボールをねじ込む。ブルーロックマンなんて目じゃない。

 1-0。この試合、最初の栄光は宵越が手に入れた。

 立ち上がりの一発。控えめに、けれど力強く拳を握り込む宵越。雪宮は少し悔し気。氷織は気分上々、二子も表情は見えないが同じだ。

 チームレッドの4人はそれぞれ能力も突出し、連携も少ない期間だが積み重ねてきた。各々の能力を遺憾なく発揮し、多少粗はあってもそれをカバーしてこの1点をもぎ取った。

 五十嵐は敵の強さに戸惑う。黒名は冷静だ。二子を除く3人の実力を知っているから、冷静に口をゆがめる。玲王はまだ無表情でいる。

 ただ一人、褐色の悪魔は。

「──最高じゃんっ」

 退屈と別れるように。身の内の快感を抑えるように。

 これから起きる()()を悦ぶように。

 ただ(たの)し気に、(わら)っていた

 

 

 








・現在の状況:
レッド(宵越・氷織・雪宮・二子)

ホワイト(士道・黒名・玲王・五十嵐)

スコア:1-0
得点者:宵越

ちょっとだけ調べてみた(といってもWiki)んですが、マリーシアって日本以外だと、「機転」「知性」「したたかさ」みたいなプラスの意味合いもあるんですね。

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