スコア1-0。チームレッドが一歩リード。
それでも二次選考突破前の最後の戦い。一瞬たりとも油断はできない。
チームレッド、宵越たちは次のプレーに備える。相手ボールからの守備スタートだ。チームホワイトも同様にボールを置く。だが、士道だけは違った。
「視野が広い目隠れチビスケ」
士道が二子を指さす。二子がぎょっとする前に、狙いは次へ。
「パスの上手い水色ノッポ。一点集中ドリブルのグラサン」
順に、見定めるように。
そして最後は宵越へ。近づき、両手で「チェケラ」とでも言いそうな軽快さで笑う。
「スーパースペシャルな不倒クンね──いいねぇ!」
「煽ってんじゃねぇよ。お前に喜ばれても嬉しくねぇ」
「こっちは嬉しいぜぇ? 大した爆発もなくて暇だったんだ」
「抜かせ。速攻でカタつけて火薬
「できるかなっ♪」
「……ウゼェ」
士道が離れた。プレーが始まる数秒前。宵越は仲間たちを見た。
アイコンタクト。大した意味はないが、誰も笑っていない。それだけで十分意図が伝わった。
──たったの1プレーで自分たちの特性を見抜いてきた。宵越に対しては特徴とは言えないが、それでも恐ろしい観察眼だ。
油断はできない。
プレーが再開する。士道が玲王にボールを回した。右翼で氷織とのマッチアップ、さっきとは攻守が逆だ。
「さぁ、躍動するぜっ」
試合が膠着する最中、士道が動いた。マッチアップ中の宵越から離れ、一人空白の中央へと駆ける。
「行かせるかっ!」
当然宵越も追う。だが、士道は今度は二子‐五十嵐ラインへ近づいた。
「……!?」
驚く二子と五十嵐。その悪魔の動きにどんな戦術的な価値があるのか。いや、むしろ何もない。4対4ではなく、1対7で戦場をかき乱す。
暴力的なまでの突進で二子たちの間を駆ける。さすがの宵越も予想外で、持ち前の脚力で追いかけるがわずかに遅れる。
「鬼さんこちらぁ♪」
「クソが……!」
そのまま士道は左右に戦場を駆けた。ついにはボールキーパーの玲王の下へ。
「……!」
「出せよ紫ちょんまげ」
士道が言い切る頃にはボールは士道の足元にあった。
「遅いよ、悪魔くん」
前へ出た士道に雪宮がマッチアップ。互いにフィジカルが強い。先の対宵越の時のように肩からぶつかり、そして弾く。雪宮の右脚がボールを狙う。
それを士道はヒールパスで逃れた。ボールは間髪入れず玲王へ、スイッチで即座に雪宮を躱した士道へ。
士道一人が前線へ駆けあがる。初得点時の宵越と同様にゴール前まで。
「サッカーは生命活動だ」
そう喉を開く士道。やはり先と同様に側面から宵越から迫る。
「させるかよ……!」
肩から
「煽んなよ触覚。生命活動には同意だが、暴力は真逆だろうが!」
「真逆? いやいや同じだぜぇ?」
それを士道は──宵越の身体を起点に体を反転させた。
時間感覚が引き延ばされるチームレッド。
(こいつ──なんて身体能力!)
体を利用された宵越も驚く。
(凄まじい観察眼──!)
二子も。
(2on1とはいえ簡単に躱された──馬狼並みの技術力か……!)
雪宮も。
全員が驚く。フィジカル、テクニック、IQ。全てにおいて高水準。
凛や宵越と同等の────スーパースペシャルな才能の原石。
「お前らもまあまあ良い。でも爆発はしてねぇ」
反転させた士道は、空中にいながらボールに照準を合わせる。
健脚一閃。
「だから──もっと爆発し合おうぜぇ!!」
「ヒィアーッハァッ!!」
悦びに震える士道に五十嵐が駆けよる。暴力には怯えていたが、それでも付いてきたのは士道にそれこそ悪魔のような魅力があったからか。
玲王も黒名も突飛なことはせず、己の能力を忠実に使ってプレーを遂行した。それを急な孤立と躍動で活かし、壊し、さらに
転がったボールを氷織が持ち、素直に次のプレーへ備える。例によってチームレッドの4人が集まる。
「暴力上等でプレーはアクロバティック……おまけに分析力もある。とんだ悪魔さんですね」
「だね……下手すりゃ馬狼以上の脅威だ。凜にも届くくらいの」
凛に届く。それはつまり、チームレッドの事実上の中心である宵越とも互角である、ということを意味する。油断はできなくとも勝利を奪えた3rdステージとも異なる壁が現れた。
それでも、宵越の眼は勝利を求めている。疑うことはない、そして信じることもない。
勝利を得るのは自分自身だ。
「負けねぇよ、あの程度。悪魔?
「とか言って。宵越くん、またノープランでいくんやろ」
氷織は呆れて笑った。それは諦めの意味もあるのだが、宵越と組むのが初めての二子は疑問符を浮かべるばかりだ。
「ノープラン? じゃあ、3人はどうやって僕たちに勝ったんですか?」
宵越は一言。
「即興だ」
「即興って」
「当たり前だろ。俺たち3人、あの試合で組んだのが初めて。それにお前や馬狼たちとは別棟だったから初対面。それでも勝てたのは──」
勝つという目的があり、そのために全力を尽くすことを誰もが疑わなかったから。それが宵越のスーパープレーや氷織の二子への引導に繋がった。雪宮の件があっても、そこだけはブレなかった。
「でも、最後のお団子サッカーは完全に宵越くんの我が儘やん」
無言ではあったけれど、雪宮も氷織の文句には同意していた。
「言ってろ。いいか、敵も強い。俺たちはただ、いい子ちゃんでベストを尽くすだけじゃ勝てねぇ」
士道は基より、玲王も黒名も強いのだ。五十嵐も奇想天外の一手がある以上、決して油断はできない。
だから宵越にとっては今までと何ら変わらない。勝利という至上命題のために、己の限界を引き出して、誰かの数万歩の積み重ねを自分の数歩に変えて、この試合を乗り越えていく。
「あの悪魔に、本当の爆発ってもんを教えてやろうぜ」
そして宵越は二子を見た。
「だから、二子」
「はい?」
「発想を変えろ。お前の武器は攻撃にだって使えんだ」
一瞬の間。
「……もちろん。チームプレーは大切です。でももう、誰かの引き立て役になるつもりはありません」
「よし。氷織」
「次は僕?」
「お前もゴールを狙えよ。そのために俺と組んだんだろ?」
「……宵越くんは目が『俺に出せ』って言っとるんよ」
「はっ」
鼻で笑って、宵越は雪宮を見た。先の3rdステージ、歩み寄っても突き放されてしまった雪宮を。
サングラスの向こうの眼の色は伺えない。
「……説教を受けるつもりはないけど」
「知るか。これは文句だ」
宵越は説教をかませるような人間ではない。
スポーツエリートで化け物メンタルをしているから、歴の浅いカバディ部員の中ではチームを鼓舞するために語ることは多々あった。
けれどこの場はサッカー歴の長い面子が多い。酸いも甘いもわかっているメンバーだ。たまたま宵越が他の3人より強いだけ。それは優劣を意味しないし、試合結果が全てだから言葉通りの『宵越が強い』でもない。少なくとも理屈では、多くを語らなくてもわかっている。
「もう一度言うぜ。夢と心中するな、理想に生きろ」
それでも宵越が語るのは、それが必要だと学んだからだ。
行動で語るだけが勝利への道筋じゃないと知ったからだ。
「お前の力が必要だ」
「……」
無言の雪宮。沈黙を待つ宵越ではない。
振り返って、見据えるのは強敵たち。
「さあ──切り拓くぞ」
スコア、1‐1。
試合はまだ、始まったばかり──
・現在の状況:
レッド(宵越・氷織・雪宮・二子)
対
ホワイト(士道・黒名・玲王・五十嵐)
スコア:1-1
得点者:宵越、士道