スコア1‐1。チームレッド、VSホワイト。どちらも一歩も引かない。
各々の強みを組み合わせたチームレッド。士道を中心に得点を決めたチームホワイト。現状は互角だ。
プレーが再開する。蹴ったボールは氷織に渡された。
攻撃時のボールキーパーとして次の選手へパスを繋ぐ。それは氷織が得意とするプレーだ。
パスの先、有力な選択肢は宵越と雪宮。0.5秒の逡巡。ボールは右翼の宵越へ。
宵越は加速した。前線へ。だがその前に士道が立ちはだかる。
「スピード違反、通行止めだっ♪」
(アカン……!)
氷織が焦る。自分の今の選択が間違っていたことを理解した。
右翼の端でのマッチアップ、外への逃げ場はなかった。《カット》で内に逃げる。だが、そこにも刺客はいた。
「南無三……!」
「この坊主……!」
内側に五十嵐。先のマリーシアを警戒し、宵越は距離を取って避けなければならない。だがもうそのスペースがない。
止まった瞬間、士道が襲い掛かった。
「はい、逮捕ぉ!!」
五十嵐・士道のダブルプレス。宵越がボールを失い、士道がボールを奪う。
即座に中央の黒名へ。雪宮を追い抜き、その前に氷織が立ちふさがる。
「久しぶりや、黒名くん!」
「だな。でもその手には乗らん、乗らん!」
左翼へ横パス。玲王へ。斜めに進行、氷織に追いつかせず、けれどできる限り中央へ強行軍。
最終防衛ライン、二子一輝。伍号棟初戦以来の玲王と二子のマッチアップ
「させません」
「二子。あれから少しは変わったかよ?」
初戦の時、二子は玲王のチームVになす術もなく負けるのみだった。あの時から二人の実力には大きな差があった。
それでも、既に二人ともいくつもの戦いを経ている。変わらないわけがない。良くも悪くも。
「変わったのは、君の方でしょう」
「……」
玲王は二子を抜きにかかる。けれど守備に徹する二子は冷静だ。自分のフィジカルを理解し、完全に止めるのではなくブルーロックマンの堅守を生かすための時間稼ぎ。
「前よりも大人しくなった。そんな貴方なら止められる」
そんな玲王の後ろから、宵越と士道が競りながら向かってくる。
「出せっ! 紫ちょんまげ!」
一瞬の迷い、それでも玲王は士道に託した。
宵越はあらゆる要素において、
士道の得意な
スコア、1‐2。
試合は序盤。5点先取の内の2点。まだ宵越も、雪宮も、二子も動揺はない。
氷織も同じく動揺しない。けれど、間違いなくヒリつく空気を感じている。
(アッカンわこれ。
プレーの合間。氷織は息を吐き、天井を仰いだ。
糸師凛、宵越竜哉、士道龍聖。氷織は雪宮と共に、この3人の怪物たちと戦ってきた。名実ともにトップと言える凛、再帰した天才の宵越と戦うだけでも死のグループだ。さらに士道なんていう悪魔と戦う羽目になった。どれだけ死地を歩ませれば気が済むのだろう。
(まあ……この試合に対しては自業自得なんやけど)
少なくとも、宵越とチームを組むために動いたのは自分だった。
プレーが再開する。
ボールを持った宵越は加速し前線へ。やがて士道のプレスの前に遠く逆サイド、左翼の雪宮へ。
オフ・ザ・ボールの状況で宵越と士道がにらみ合う。付き、離れ、くらい付き、追いつきを繰り返す。
最後衛の二子。前線の雪宮と宵越。その中間で、氷織はフィールドを睥睨する。その広い視野で。
(相変わらずバチバチやっとんなぁ。不倒も、悪魔も)
優しくはない言葉遣い。逃げたがりな氷織の一面。
視界に玲王がやってくる。中間のパサーである自分を殺すための動きだ。
(玲王くんも、変に思いつめた表情の癖してプレーは元気すぎるし)
お互いを牽制する。けれど、意識はどこか遠くへ。
伍号棟で、そしてこの試合の中で言われた宵越の言葉がある。
『お前もゴールを狙えよ。そのために俺と組んだんだろ?』
別に、無理に自分でゴールを奪うつもりはない。俺が俺がと、そんな風にむき出しにするだけがエゴではないと思う。氷織の本心だ。
3rdステージでも結果的に1ゴールを奪ったが、別に我を高めた結果じゃない。あくまであの時自分が撃つことが最善手だったからだ。
けれど二次選考の始まり、確かに自分から宵越と組むことを選んだ。それは一次選考で言われたことを気にしているから。
『俺が期待してんのは──お前が生み出す熱だけだ!』
その言葉。“期待”という言葉には確かに胃の奥がムカムカした。けれど、その後の言葉には清々しさがあった。
(僕にはまだ、熱があるのか)
『お前はまだ生きてる』
(なら、僕の熱はなんや)
わからない。自分の本当の熱は、なんだ。
それでも、この
二次選考3rdステージで雪宮の心配をし、宵越の化け物ぶりを再認識して。
今もなお、答えの出ない問題を解き続けている。自分の本当の熱はなんだと。
けど、一つだけ思ったことがある。
(強い奴が勝つ瞬間を見ていたい)
3rdステージ。キング・馬狼を前に不倒が再臨し、そして美しいとすら感じるゴールへの軌跡を辿った時。そう思った。
(そして、その時、僕はその強い奴の隣にいたい)
それは自分のエゴじゃない。どこか違う。まだ、心にかかった鍵は開かない。けれど強い奴の隣で強い奴の勝利を見届ける。それは確実に自分の奥底に引っ掛かっている。本当のエゴの数歩手前にある欲望だ。だから宵越との──いや、強敵たちとの戦いに、自分は必死になるのだ。
だから、勝ちながら見つけてやる。自分の熱が、本当はなんなのか。宵越のような、絵心を喰らいつくしてしまうような自分のエゴを見つける。
そのために、灼熱に生きて自分の凍り付いた熱を溶かした不倒が、ゴールを決めろと言った。
氷織自身ではなく、氷織が生み出す
(なら、狙ってやろうやんけ──!)
クリアになる視界。高鳴る鼓動、汗が滴り、膨れ上がる熱。その熱と矛盾なく同居する冷徹な視野。
凍り付いた熱が、灼熱により氷解する。それでも未だ溶かしきれない絶対零度の氷こそが、宵越を──いや誰しもを凌駕しうる氷織の武器。
雪宮が前線でシュートを放った。けれどそれは五十嵐のマリーシアへの警戒と、黒名の守備によって中途半端な威力となり、ブルーロックマンに弾かれた。ルーズボールを奪った黒名がカウンターに出る。
「反撃、反撃──」
ボールは
「再戦だぁ♪」
「ぶっ潰してやるよ──!」
士道が先にボールへ触れる。さらにカウンターが進む──
「士道後ろ!」
玲王が叫んだ。
「おっ?」
「そのパス、もらうで」
氷織はスライディングで士道の足元からボールを奪った。カウンターの始まり、玲王の意識が守備から攻撃に切り替わるまさにその瞬間。氷織は玲王の死角を突き、さらに士道の死角すら侵入してみせた。二つの死角、しかも玲王と士道の二人を置き去りにする動き。《イーグルアイ》が本領を発揮している。
そのままドリブル。誰にもパスを出さない。それは今までパスを多用していた氷織と真逆、特に玲王黒名が意表を突かれる。カウンター返しだ。
「冷たいのは滝行で慣れとんじゃぁ!」
五十嵐の特攻。
「うっさいわ生臭坊主」
前線中央で氷織の左脚が閃く。右翼への
パスを終え、五十嵐を辛く避けてボールを見る。氷織の弾丸キラーパスに呼応したのは──
「極Sじゃねぇか、氷織!」
《不倒》宵越竜哉。宵越もまた、氷織の変化に驚いた士道の一瞬の隙を利用していた。
そして、氷織も、宵越も、互いを見ていた。互いの意志が伝わる。
右脚でボールを
「阻止、阻止──!」
黒名がディフェンス。先の二子の動きを参考にした、全止めではなくブルーロックマンを補助する動き。黒名もまた、宵越の走りを1人で止められないことはわかっていた。
そこに玲王も立ちはだかる。
「勝負だ、天才!」
2人ともが半年の天才。半年間の空白を作った宵越、サッカー歴半年の玲王。交わらない2人が衝突する。
2連カット。ゴール前右コーナーへの軌道を守る黒名。そこからさらに内へ逃げる宵越を狩る玲王。1度目のカットで玲王を内に誘導し、空いた玲王‐黒名の間を宵越の巨体が2度目のカットで抜き去る。
けれど。
「二度あることは三度あるぜっハァ!!」
士道召喚。今まさにシュートを撃とうとした宵越。右翼から左脚の一閃。それを防ぐ士道の立ち回りは完璧だった。
だが。
「おい悪魔。いつ俺がシュートするって言ったよ?」
「お──!?」
宵越の左脚が空を切り、体は浮いた。走りながらだから体はボールの真上へ飛び、相対的に宵越の右脚の真下にボールが──
「『僕に出せ』か。お前も過激じゃねぇか」
「うっさいわ、
宵越の右脚から、ヒールパスがなされた。やや後ろへ。そこにいたのは、この試合が始まってから最も前に駆けあがった氷織。
氷織が宵越へ供給したアーリークロス。その瞬間には、IQの高い二人は理解していたのだ。パスの主導者は氷織であり、宵越は加速を強要された。そこに宵越を得点者とさせる意思はなく、あくまで氷織が最後にシュートを決めるための布石だった。
『僕に出せ』
その熱は、確かに宵越に届いた。
氷織羊の冷徹な左脚が動く。ただ機械のような挙動の蹴弾は、熱を持って鮮やかに閃く。
誰にも邪魔はさせない。ボールはゴールネットへ突き刺さった。
スコア2‐2。同点へ追いつく。宵越ではなく、他の面子の能動的な動き。チームレッドが活気づく。
宵越と氷織が近づいた。
「宵越くん」
「良いゴールじゃねぇか、氷織」
手が重なる。スムーズな氷織。まだ、どこかぎこちないハイタッチの宵越。
「言いたいことがあるんや」
「あ?」
「言ったやんね。僕じゃなくて、僕の熱に期待するだけって」
「ああ」
「それ、そっくりそのまま返すで」
ここは
生き残るまで、勝ち残るまで。誰もが平等な挑戦者だ。
だから、氷織は宣戦布告する。
「君には期待しない。君のプレーにだけ期待する」
不敵に、優しく、試すように、笑う。
「だから──がっかりしたら君のこと捨てるから。覚悟しぃや」
「はっ。やってみろよ」
灼熱と冷徹。
凍り付いた熱が、暴れ出す。
・現在の状況:
レッド(宵越・氷織・雪宮・二子)
対
ホワイト(士道・黒名・玲王・五十嵐)
スコア:2-2
得点者:宵越、士道、士道、氷織
Q13 灼熱カバディ未読者へクイズ! 今回宵越は《やじろべぇ》と言われましたが、作中で実際に呼ばれたものを選べ!
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ビッグ赤べこ
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稲妻野郎
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起き上がりこぼしの擬人化
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球蹴り独楽(コマ)人間
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既読者「もちろん覚えてるぜ!」
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既読者「なんだっけ……?」