青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

25 / 52
No.25 精錬

 

 

 4thステージ。宵越・氷織・雪宮・二子VS士道・黒名・玲王・五十嵐。

 スコア、2‐2。試合は均衡しているが、それでも少しずつ展開は変わって来ていた。

 チームの中心である宵越だけでなく、氷織もまたストライカーとしての真価を示した。それは次のプレーにもチームレッドに好影響を与える。最後の最後に誰がゴールを奪うかわからない。その選択には大きな時間を要するからだ。

 それでも。雪宮はサングラスに滴る汗をぬぐう。

(……くそ)

 まだ、雪宮は自分のゴールを奪えていない。

 3rdステージでも1ゴールは奪えた。だがそれは宵越が主導して攻めた後、最後に雪宮へパスが回ってきたからだ。

 宵越と士道が殺気とも見紛うような戦いを繰り広げている中で、雪宮自身が点を奪うことはやはり高難易度だった。自分たち以外の敵味方の強さもさることながら、たった今氷織が今までにない積極性で点を取った。それは雪宮にとって焦り以外の何物でもない。

 自分は、未だ敵に弱点を見透かされて止められるばかりだ。

(……どうすれば)

 自分の強みは理解している。純粋な能力では確かに勝てる部分もある。けれどいつも弱点を狙われて強みを殺される。

 解決策が、突破の仕方が、見つからない──

 世界は雪宮の逡巡を待ってはくれない。士道は珍しく自分でボールをセンターマークに置いた。

「どんどん……どんっどん、感度が上がってくる……!」

 顔を上げる。その顔には悦びが溢れている。

 プレーが始まる。士道がキック、ボールは玲王へ。玲王はすぐさま士道へ。

 士道の奇想天外な、意外性を楽しむようなプレー。今度はドリブルで前進してくる。

「したくねえが、二度目だな」

「がおぉっ!!」

 宵越、士道のマッチアップ。宵越が肩からぶつかり、士道の侵入を拒む。士道はすぐさま切り返して横へ走る。宵越が守っていた右翼へ切り抜けようと悪魔の眼が光る。

 曲がった先を、珍しく前のめりな二子が防いだ。けれど士道は怯むことなく脚を構える。

 守備の多いこの至近距離で、しかもまだシュートレンジから遠い場所で無理やり撃つ気か。どうあれ、選択は一つ。

(阻止)るぞ二子!」

「了解!」

 宵越と二子が身構える。だが、1秒先の光景は違った。

「あっちょーい!」

 士道のヒールパス。それは少し前の宵越の挙動と似ていた。

「あれは……!」

 氷織が唸った。1点前に宵越と自分が連携したプレーと同じだからだ。ボールは後方の玲王へ。

 玲王は悪魔の躍動に連動し、叫んだ。

「悪いけど──クソ悪魔とは二試合もして慣れたんだよ!」

 玲王が遠く(ファー)へパス、黒名へ。オフ・ザ・ボールの細やかな挙動で雪宮を殺し、出し抜けに1トラップでゴールへ捻じ込む。

 スコア2‐3。再度突き放された。

「ユッキー」

 声をかけられる。振り向くまでもなく、誰が自分を呼んだのかはわかっている。

「なんだよ、氷織」

「別に、宵越くんのこと全部信じたり、逆に全部疑ったりしなくてもええんやで」

「……」

 細かい説明もなく、いきなりの語りだした。

 いや、なんでそんな風に喋っているのかはわかっている。二人とも宵越に下され、宵越の熱に少なからず当てられて来たからだ。

 ただ一つ違うのは、氷織が先のプレーで何か吹っ切れたということ。

 だから、氷織の言葉に雪宮は少しイラついた。

「別に……そもそもあいつに下った覚えはない」

「そうや。偉そうにもの言わせとけばええ。あんなバケモンの思考を全部マネできるわけがないよ」

「氷織はまねしたんじゃないのか。だから自分でゴールを決めた」

「違うで? 僕のエゴは宵越くんとは違う」

 氷織ははっきりと断言した。

 氷織と雪宮の視線が交わる。雪宮は疲労と共に視野が狭くなり、そして盲点も出る。けれど一点を見れないわけじゃない。

「僕は僕のエゴを貫いた。ユッキーだってそうすればええ」

 氷織自身、必要以上に雪宮を心配するつもりはない。

 この一言を最後に、氷織は雪宮から離れた。

 

「逆に、ユッキーにしかない強さだってあるんやから」

 

 プレーが再開する。

 宵越のキックから二子へ、間髪入れず氷織へ。

 一点突破の自分は飛び道具としての扱いだ。要所でボールは回ってくるが、基本は宵越を中心としたパスワークとドリブルが展開される。

 油断はしない。それでも、雪宮は自分の中の焦りと向き合ってしまう。

(俺は、どうすればいいんだ……)

 氷織の言葉。自分にしかない強みがある。

 けれど一つだけ確かなことがある。それは今の自分だけの力では勝てないということ。

 視野の狭さは明らかに弱点で、それを防ぐことはできない。主治医とも語った。たくさん話し合った。その上で受け入れた。いつかストライカーとしての視野が喪われるということを。

 それでも、こう思うようになったのだ。

 

 ──神は乗り越えられる試練しか与えないのだと。

 

 だから弱点(試練)を乗り越えようとした。その試練は、どこまでも強く、どこまでも強靭で、自分を完全に叩き潰して、嘲笑ってくる。

 宵越が余裕のある速度で五十嵐を抜いた。すぐさま士道が迫る。後ろに大きく戻し、態勢を整える。二子が受け取る。氷織へ。

 試練は誰に対しても平等だ。二子は3rdステージで氷織にやられて、馬狼は宵越に負けた。宵越すら凛に負けている。誰しも強さを求め、負けている。

 そして宵越は、自分が変わることを厭わない人間だった。持ち前のドリブルと《カット》技術はもちろんだが、それ以外は少なからず宵越自身を破壊している。自分に対してサッカーの技術ではない《ドゥッキ》を使った。馬狼に対して不倒が好まないパワープレイをしてみせた。そして今、勝利のために自分のゴールを捨てて氷織にその権利を与えた。

(だったら、俺も変わらなきゃならないのか……?)

 けれど。

 

 ──あんなバケモンの思考を全部マネできるわけがないよ。

 

 そうだ。自分は宵越じゃない。雪宮剣優だ。眼に疾患を患い、それでも世界一のストライカーを目指すと決めたエゴイストだ。

 氷織のパスは玲王にインターセプトされた。カウンターが来る。雪宮はひたすら黒名を視界に収めてパスワークの一翼を殺す。

(俺は氷織とも違う。宵越を()()ために宵越と組んだんだ)

 ボールキーパー玲王。士道への(パス)を探す。キックの瞬間、二子のスライディング。ボールは弾かれ、高く天へと。

(俺の目指す世界一の姿は、《不倒》宵越竜哉じゃない)

 なら、なんだ。俺の世界一は。

 眼に疾患を患い、それでも目指す世界一は。

 剛のドリブルを──視野の狭さがありながらも勝てる強さを選んだ自分が、もう一度立ち上がるために得るべき強さは。

(本当の俺は)

 舞い上がったボールを、目敏く宵越がキャッチ。士道が迫る前に二子へ。二子は、今度はボールを雪宮へ託した。

 受け取る。ドリブルへ。

(本当の俺は……!)

 眼の前には黒名。やや遠くに五十嵐。これまでの戦いと同じように前へ行けば、きっと自分は止められるだろう。

 それでも、俺は俺の戦い方で勝ちたい。俺の目指す世界一は、他人の模倣の結果じゃないから。

 だったら。

 何を得れたら、俺は俺のまま世界一になる?

 何を捨てれば、俺は俺を保って世界一になる?

(俺の中にある、世界一になるための本質は──)

 

 

────

 

 

 雪宮剣優。眼に疾患を抱え、それでもなりふり構わず世界一を目指す、危うく、斬撃を飛ばすこともできない脆き剣。

 ただ鋼でしかない長物。

 宵越が、灼熱をくべる。溶けていく。

 氷織が、冷徹さを示し、清流に浸かっていく。不純物が排除されていく。

 鋼が純度を増していく。熱し、冷やし、熱し、冷やし。

 そうして剣は精錬される。何物をも切り裂く、最強の(ストライカー)へと。

 

(俺の本質は──!)

 雪宮が動く。停止した状態からの急激な瞬間縦一閃(ラ・ボバ)

 目が見えなくなる現実は変わらない。剛のドリブルで、1on1で(黒名)を抜き去る。

「カバー!」

 黒名の叫び。五十嵐、そして玲王が集まる。

 敵が増えるなら、躱せばいい。

 黒名のように細やかに。宵越のカットように、奇想天外に──!

 左右から襲い掛かる玲王と五十嵐。玲王の側へ加速。しかし今までの直線のストライドとは違う。フルスピードで蹴る脚を入れ替える両脚球交換(ラクロケタ)。さらにエラシコ、シザーズ。

「今までとは違う動きかよ……!」

 自分と五十嵐の間に玲王を置いた。そして五十嵐を避けつつ加速して掻い潜る。

(俺は宵越じゃない。カットは真似できない。でも──)

 多人数に乗じ、敵を掻い潜る。

 それは選手という障害物を利用して掻い潜る、ストリートサッカーのドリブルスタイル。

 遠く、戦況を見ていた宵越の顔が不敵に笑う。

「雪宮、お前……」

 雪宮が、進化している。何よりも生きている。

 それだけじゃない。雪宮の真価は運び屋(ドリブル)では終わらない。

 雪宮の射程距離(シュートレンジ)まで残り数メートル。けれどまだチャンスではない。

「お前もいいねえグラサンくんっ!!」

 士道が控えている。この悪魔を越えなければ、先のシュートチャレンジのように敵に警戒され、圧迫されて止められる。

(今までの俺じゃ、ダメなんだ──)

 なら。今までよりも無警戒な場所への一撃を。無警戒な場所から。

 それは、戦場の7人にとって予想外の雪宮の挙動だった。

「ユッキー……!?」

「そこから撃つ気ですか!?」

 混乱する氷織と二子。立ちはだかる士道を前に射程距離(シュートレンジ)よりわずかに遠い場所からのキックモーション。

 確かに、後ろには抜いた五十嵐と玲王が。そして横からは黒名が迫っている。パスか、あるいは別の行動をしなければボールは確実に奪われる。

 そして雪宮はシュートを選択した。

(自分)の芯を理解しろ! 何よりも守るべきものは──!)

 宵越に負けて以降、何度も考えた自分の芯。

 3rdステージで、宵越に徹底的に焼かれた。その果てに気づいた、自分の悔しさ。

 

 ──俺は、俺のゴールでストライカーになる!!

 

 ならば、そのために捨てることができるものは。みじめに、無様に、それでも勝つために(すが)ることができるものは。

 雪宮のキックモーション。敵の4人、そして味方さえも次の展開を予想して動く。

 そして士道の脳裏に閃く無揚力蹴弾(ジャイロシュート)。浮いてから落ちる放物線。それが雪宮の持ち味だった。

「ひゃはっ、ジャイロごと弾いちゃうぜぇ!!」

「やってみろよクソ悪魔!!」

 そして雪宮の脚がボールに触れる。

 シュートを撃つ。士道の股を抜いて、地を這うように──!

「うぇ!?」

「ここから──下かよ!!」

 黒名と玲王が呻いた。ゴールを生み出す、予想外なシュートの軌跡。

 雪宮にとって幸運だったのは、このシュートをイメージできる前例があったことだった。

 チームV戦。凛のチームメイトだった清羅は、その低身長を活かした地を這うような逆回転加速蹴弾(バックスピンターボショット)を撃っていた。

 そして何よりも、宵越にしてやられたことがあった。高身長の宵越にドゥッキ──股を抜かれた。それは上への意識を誘導された部分があったから。そして宵越は、馬狼を誘導して勝てる状況でパワー勝負を選択した。

 無揚力蹴弾(ジャイロシュート)の上への意識を利用して、浮いた足元を這う球を撃ち込む。球種はもちろん雪宮の彩。でも何より手を伸ばすのは──ゴールという標的。

 宵越や士道という怪物を前に死んでしまうくらいなら、かなぐり捨てても得たいもののために、自分を壊してまで自分を貫く。

 宵越が言葉で(生き方)を。氷織が冷徹な思考を。そしてまた、雪宮という剣は宵越の(発想)を吸収する。

 宵越の熱を奪ってやる。氷織の冷徹さを利用してやる。

 士道の意識の裏を突いた股下加速蹴弾(ポケットターボショット)

「──斬り拓け!!」

 突き破った剣突。意識をそらし、股下を抜くことでGKすら死角から出し抜く、地を這うスピードシュート。

 スコア、3‐3。

 今。剣は、精錬されたのだ。

 

 

 







・現在の状況:
レッド(宵越・氷織・雪宮・二子)

ホワイト(士道・黒名・玲王・五十嵐)

スコア:3-3
得点者:宵越、士道、士道、氷織、黒名、雪宮


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。