青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.26 黒い光

 

 

 スコア、3‐3。互角の戦いは続いている。

 それでも宵越だけでなく氷織も雪宮もゴールを決めている。チームレッドは間違いなく優位な位置に立っている。

 順調だ。二子はそう考える。

(……このままいけば。僕が後衛を守って、パスを繋げば──)

 

 ──最後の最後でパスを選んだ。

 ──お前はストライカー失格だ!!

 

「……っ」

 口をゆがめる。一次選考で、とある宿敵から言われた言葉を思い出した。首を振って気を紛らわせ、次なる戦いへ備える。

 7回目のプレーが始まる。ボールは士道から玲王へ。受け取った玲王は一瞬止まった。

「……玲王くん?」

 二子は一瞬戸惑った。けれど玲王は顔を上げ、すぐに動き出す。ドリブルだ。

 プレーに精彩は欠かない。玲王も二子も。

「氷織くん!」

「おーけー、二人で挟むで!」

 氷織と連携。ドリブルを続ける玲王の足元を狩り、二子はボールを奪った。すぐさま離れた氷織へ。

「おっしゃ、試合を終わらせる!」

 カウンター。今のは幸運だった。玲王の挙動が少し妙だった。これまでのプレーだったらパスを選んでいたはずなのに。その予感をキャッチしたから二子は攻防に勝利した。

 それはなぜだ。なぜ、玲王はドリブルを選択した。

 二子は理解している。

(たぶん、彼は……)

 変わろうとしている。

 

 ──撃て。それがストライカーだろう?

 

 いつか、伍号棟一次選考の最中にモニターの向こうの絵心に言われた言葉。

 この青い監獄(ブルーロック)において、それは神の啓示にも等しい言葉だ。

 でも、自分はそれが全てとも思わない。結局絵心は競争意識を煽っている部分が多いのだと、そう二子は解釈している。

 納得いく部分もある。ストライカーとはゴールを奪う者の称号だから。それに自分でゴールを奪う戦術を選んだからこそ、崖っぷちで一次選考を突破できた。

 絵心の言い分もわかる。自分の思考もわかる。少なくとも、この8人の中で自分の攻撃力は低い。仲間がいて、その連携の果てにこそ自分はゴールを()()()ことができる。

(だから、僕はこのプレーをしている)

 守備の要となり、パスを繋ぎ、補助に徹していた。3rdステージにおいてもそれは同じだった。

 だけど宵越は言う。

 

『発想を変えろ。お前の武器は攻撃にだって使えんだ』

 

 宵越は、自分に変化を求めている。そして自分も変化できる熱を感じている。質は違えど同じ視野の広さを持つ氷織のプレーを見て、そう思った。

 自分は負けて選ばれた。けれど実力的には馬狼の方が価値があった。それでも自分が選ばれたのは──

 

『どうして僕を選んだんですか?』

 

 練習中、直接宵越に聞いたことがあった。カバディの話をした後のことだ。

 

『どうしてって……活かし方がもったいねぇって思ったからだ。馬狼を一回叩き落すってのもあったけどな』

『攻撃の眼なら氷織くんがいる。僕の眼は守備です。役目は果たしますけど』

『もちろんお前の守備は頼れる。でも俺は、お前の攻撃も楽しみにしてるんだぜ』

『え』

 宵越は言った。

『俺は言われたことがある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って』

『守備の、気持ち……?』

『お前はこのブルーロックで、守備で戦う場面も多かったんじゃねぇか?』

『はい……』

『だからこそ攻撃ができんだよ』

 

 瞬き。過去の情景は一瞬、すぐに世界は、思考は戦場へ戻る。

(守備がわかるからこそ攻撃ができる──なら)

 二子は前へ。ボールキーパーの氷織よりも、さらに前線へ。

 玲王が驚く。宵越も驚く。全員が驚いた。

 けれど氷織は不敵に笑った。

「行ってまえ、二子くん!」

 自分も変化したからこそ、二子の挑戦を面白がった。

「こいつら、まさか……!?」

 呻いたのは五十嵐だ。氷織が前線へ下がるわけでもない、チームレッドの4人全員が前のめりに。五十嵐は二子のその選択に覚えがあった。

 伍号棟のチームZ(五十嵐たち)チームY(二子たち)の戦い。二子を中心に防御的な戦術をしていたチームYのイレブンは、最後の最後に全員がカウンター攻撃を仕掛けてきた。その時の絶望と重なる。

 千載一遇の攻撃全賭博反撃(アタックフルベットカウンター)だ。

 宵越と雪宮が勇ましく、氷織と二子が全力で前へ。チームホワイト全員の身体がこわばる。

(……誰だ、誰を防ぐべきだ。いや、それよりも)

 その中で、玲王の体は冷静に動いていた。けれど心はまだ戸惑いから覚めない。誰だ。このリスクの高い戦略を、3‐3の状況で選んだ豪胆さ。

(誰の意志だ……!?)

 迷う玲王。けれどたった一人、士道は理解していた。

「ぎゃおうす!」

 士道が二子に立ちふさがる。この攻撃を仕掛けた張本人が誰か。士道は本能で感じ取った。

 氷織が確実にボールを前へ運ぶ。それでも士道は二子を捉える。

 二子の汗が額を流れる。

(さすがの洞察眼。そう何度も通用はしない。けれど……)

 一回だけなら。

 氷織からのパスが宵越へ。二子が前線に来た分だけ攻撃力が高まり、宵越へのパスカットの意識も分散された。

 宵越はさらに前へ。黒名が確実につく。ボールは一度氷織へ戻された。

 雪宮は1人、ゴールを奪うために確信をもって宵越の逆サイド──左翼へ。

 士道を除く三人が身構える。誰から攻撃が来るかわからない。

 それでも、全力で守る。

 黒名が宵越へ。五十嵐が氷織へ。玲王が雪宮へ。そして、士道が二子へ。

 宵越が動いた。シュートのために黒名を抜きにかかる。一級品のストライカーの挙動。黒名も精一杯に守る。

 氷織は五十嵐を避けて、確実に宵越へボールを託した。

 全員が動く。二子の脳裏で走る思考。

(宵越くんのシュートは──きっと決まらない)

 引き伸ばされる一瞬。無理やりのカウンターだから意表を突けただけ。わずかな数的有利というだけで、宵越も完璧に黒名を抜いたわけじゃない。もちろん宵越が超常的な身体機能で決める可能性もあるが。

(それでも)

 二子は視る。視野の全てを把握する。

 守備の時、二子の眼には駆除すべき、排除すべき敵の攻撃が暗闇の中の光として自覚されてきた。それはまさしく二子の監視塔(センサー)ともいえる能力だった。それを感知(キャッチ)することで敵の攻撃を狩ることが二子一輝の類まれなる力に他ならない。

 今は攻撃の時。守備の監視塔(センサー)はなく、世界は明るい。昼間の湾岸に存在する灯台のように。

 けれど。

 

『守備の気持ちがわかってないから止められる』

 

 宵越の。いや、宵越の軌跡にある誰かの言葉。

 サッカーではない、一流の世界にいた誰かの啓示。

 それでも。

 

(守備の気持ちなら──簡単にわかる!!)

 

 引き伸ばされる一瞬が、さらに遅く。無限に止まったかのような世界で。

 

 ──黒名くんは完璧に宵越くんのシュートコースの壁となっている。

 白。

 ──五十嵐くんはファウル受けを狙っている。だから氷織くんはゴールでなくパスを狙う。

 白。

 ──玲王くんは守備も一流。雪宮くんの攻撃を純粋に守れる。

 白。

 ──士道くんは僕と宵越くんを同等に警戒している。僕の攻撃の意識を感じて。でもそこから宵越くんが動けば、士道くんの意識は熱に引き寄せられて──

 黒だ。

 

 真っ白な世界。守備から反転した世界に生まれる、黒い光。

(そこだ)

 氷織のパスが不倒へ。動く宵越。シュート。黒名が動き、ボールはゴールポストへ。その弾かれたボールへの反応(レスポンス)が高いのは、宵越と士道。

まいぼ(マイボール)っ」

「渡すか……!」

 ポストの眼の前でぶつかり合う二人。士道の死角から忍び寄る二子。

 守備の目線。士道の視界が視える。宵越が気づかない、宵越の死角。そこへ悪魔が襲い掛かる瞬間が、視える──!

 

 気が付けば、二子は飛んでいた。飛ぶしかなかった。

 

 士道がボールをトラップしたその瞬間、そこへ二子は頭から飛び込む。久しくしてこなかったシュートではなく、不器用にもつれながらのダイビングヘッドだった。

 ゴール付近の一瞬の綾。攻撃力なんて関係なく、ただ負けん気だけが左右される一瞬。

 その一瞬をものにしたのは、二子一輝。

 そのまま二子は地面へ。受け身もとれず、顔と全身でゴールエリアへ。鈍い衝撃が生まれた。ブルーロックマンがホログラムでなければ二子と衝突していただろう。

「二子!」

「二子くん!?」

 らしくないダイビングヘッドに、雪宮も氷織も得点の喜びより心配が勝った。

「大丈夫!? 頭揺れてへん?」

「……だいじょー、ぶです」

 二子は顔を上げた。鼻から何か垂れる感覚もあった。

「……血が出てるじゃないか」

「平気です。すぐ治まりますよ。どっちみち、こんなラフプレーもうしないですし」

 立ち上がる。実際、1プレーを終えたので試合再開まで間がある。

 二子はプレーを反芻する。

 偶然と、自分の突飛なプレーの結果だ。もちろん自分の強みを自覚したキャッチではあったが、今の攻撃は絵心がかつて言った『ゴールを量産する方程式』としては確率できていない。

 得点は嬉しい。でも、獲れるべくして獲れたゴールと喜べるか。

 宵越が近づいてきた。

「ここでお前が点を取れたのはでかいぞ」

 宵越が笑った。

「1点リード、チェックメイトまで来た。それも全員が得点者だ」

 どこからでも、誰からでも点を奪える。これこそがきっと、絵心が求めたものかもしれない。

 そしてそれを成したのは、宵越と二子の、絵心の理想とは異なるエゴ。

「分析したのはお前だ。予定通りって喜んどけよ」

 攻撃全賭博反撃(アタックフルベットカウンター)。自分たちの一次選考で、チームZ相手にしたこと。何度もできることじゃない。

 けれど。

「……ええ。その通りですね」

 二子は思う。

 たとえ守備によっていたって。まぐれの得点だって。

 自分は絵心に見いだされ、宵越に選ばれた。

 れっきとした、ストライカーだ。

 

 

 










・現在の状況:
レッド(宵越・氷織・雪宮・二子)

ホワイト(士道・黒名・玲王・五十嵐)

スコア:4-3
得点者:宵越、士道、士道、氷織、黒名、雪宮、二子



Q13 宵越の渾名について
正解は……「起き上がりこぼしの擬人化」でした!(正確にはひらがな)

とある活躍をした時に
「やはり不倒!」
「おきあがりこぼしの擬人化!」
と言われていたのですが、この場合不倒をして「倒れない」じゃなく「立ち上がってきた」から不倒なのだという意味合い。恐らく、原作既読の方はみんな感動できる解釈なのではないかと思います。
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