スコア、3‐3。互角の戦いは続いている。
それでも宵越だけでなく氷織も雪宮もゴールを決めている。チームレッドは間違いなく優位な位置に立っている。
順調だ。二子はそう考える。
(……このままいけば。僕が後衛を守って、パスを繋げば──)
──最後の最後でパスを選んだ。
──お前はストライカー失格だ!!
「……っ」
口をゆがめる。一次選考で、とある宿敵から言われた言葉を思い出した。首を振って気を紛らわせ、次なる戦いへ備える。
7回目のプレーが始まる。ボールは士道から玲王へ。受け取った玲王は一瞬止まった。
「……玲王くん?」
二子は一瞬戸惑った。けれど玲王は顔を上げ、すぐに動き出す。ドリブルだ。
プレーに精彩は欠かない。玲王も二子も。
「氷織くん!」
「おーけー、二人で挟むで!」
氷織と連携。ドリブルを続ける玲王の足元を狩り、二子はボールを奪った。すぐさま離れた氷織へ。
「おっしゃ、試合を終わらせる!」
カウンター。今のは幸運だった。玲王の挙動が少し妙だった。これまでのプレーだったらパスを選んでいたはずなのに。その予感をキャッチしたから二子は攻防に勝利した。
それはなぜだ。なぜ、玲王はドリブルを選択した。
二子は理解している。
(たぶん、彼は……)
変わろうとしている。
──撃て。それがストライカーだろう?
いつか、伍号棟一次選考の最中にモニターの向こうの絵心に言われた言葉。
この
でも、自分はそれが全てとも思わない。結局絵心は競争意識を煽っている部分が多いのだと、そう二子は解釈している。
納得いく部分もある。ストライカーとはゴールを奪う者の称号だから。それに自分でゴールを奪う戦術を選んだからこそ、崖っぷちで一次選考を突破できた。
絵心の言い分もわかる。自分の思考もわかる。少なくとも、この8人の中で自分の攻撃力は低い。仲間がいて、その連携の果てにこそ自分はゴールを
(だから、僕はこのプレーをしている)
守備の要となり、パスを繋ぎ、補助に徹していた。3rdステージにおいてもそれは同じだった。
だけど宵越は言う。
『発想を変えろ。お前の武器は攻撃にだって使えんだ』
宵越は、自分に変化を求めている。そして自分も変化できる熱を感じている。質は違えど同じ視野の広さを持つ氷織のプレーを見て、そう思った。
自分は負けて選ばれた。けれど実力的には馬狼の方が価値があった。それでも自分が選ばれたのは──
『どうして僕を選んだんですか?』
練習中、直接宵越に聞いたことがあった。カバディの話をした後のことだ。
『どうしてって……活かし方がもったいねぇって思ったからだ。馬狼を一回叩き落すってのもあったけどな』
『攻撃の眼なら氷織くんがいる。僕の眼は守備です。役目は果たしますけど』
『もちろんお前の守備は頼れる。でも俺は、お前の攻撃も楽しみにしてるんだぜ』
『え』
宵越は言った。
『俺は言われたことがある。
『守備の、気持ち……?』
『お前はこのブルーロックで、守備で戦う場面も多かったんじゃねぇか?』
『はい……』
『だからこそ攻撃ができんだよ』
瞬き。過去の情景は一瞬、すぐに世界は、思考は戦場へ戻る。
(守備がわかるからこそ攻撃ができる──なら)
二子は前へ。ボールキーパーの氷織よりも、さらに前線へ。
玲王が驚く。宵越も驚く。全員が驚いた。
けれど氷織は不敵に笑った。
「行ってまえ、二子くん!」
自分も変化したからこそ、二子の挑戦を面白がった。
「こいつら、まさか……!?」
呻いたのは五十嵐だ。氷織が前線へ下がるわけでもない、チームレッドの4人全員が前のめりに。五十嵐は二子のその選択に覚えがあった。
伍号棟の
千載一遇の
宵越と雪宮が勇ましく、氷織と二子が全力で前へ。チームホワイト全員の身体がこわばる。
(……誰だ、誰を防ぐべきだ。いや、それよりも)
その中で、玲王の体は冷静に動いていた。けれど心はまだ戸惑いから覚めない。誰だ。このリスクの高い戦略を、3‐3の状況で選んだ豪胆さ。
(誰の意志だ……!?)
迷う玲王。けれどたった一人、士道は理解していた。
「ぎゃおうす!」
士道が二子に立ちふさがる。この攻撃を仕掛けた張本人が誰か。士道は本能で感じ取った。
氷織が確実にボールを前へ運ぶ。それでも士道は二子を捉える。
二子の汗が額を流れる。
(さすがの洞察眼。そう何度も通用はしない。けれど……)
一回だけなら。
氷織からのパスが宵越へ。二子が前線に来た分だけ攻撃力が高まり、宵越へのパスカットの意識も分散された。
宵越はさらに前へ。黒名が確実につく。ボールは一度氷織へ戻された。
雪宮は1人、ゴールを奪うために確信をもって宵越の逆サイド──左翼へ。
士道を除く三人が身構える。誰から攻撃が来るかわからない。
それでも、全力で守る。
黒名が宵越へ。五十嵐が氷織へ。玲王が雪宮へ。そして、士道が二子へ。
宵越が動いた。シュートのために黒名を抜きにかかる。一級品のストライカーの挙動。黒名も精一杯に守る。
氷織は五十嵐を避けて、確実に宵越へボールを託した。
全員が動く。二子の脳裏で走る思考。
(宵越くんのシュートは──きっと決まらない)
引き伸ばされる一瞬。無理やりのカウンターだから意表を突けただけ。わずかな数的有利というだけで、宵越も完璧に黒名を抜いたわけじゃない。もちろん宵越が超常的な身体機能で決める可能性もあるが。
(それでも)
二子は視る。視野の全てを把握する。
守備の時、二子の眼には駆除すべき、排除すべき敵の攻撃が暗闇の中の光として自覚されてきた。それはまさしく二子の
今は攻撃の時。守備の
けれど。
『守備の気持ちがわかってないから止められる』
宵越の。いや、宵越の軌跡にある誰かの言葉。
サッカーではない、一流の世界にいた誰かの啓示。
それでも。
(守備の気持ちなら──簡単にわかる!!)
引き伸ばされる一瞬が、さらに遅く。無限に止まったかのような世界で。
──黒名くんは完璧に宵越くんのシュートコースの壁となっている。
白。
──五十嵐くんはファウル受けを狙っている。だから氷織くんはゴールでなくパスを狙う。
白。
──玲王くんは守備も一流。雪宮くんの攻撃を純粋に守れる。
白。
──士道くんは僕と宵越くんを同等に警戒している。僕の攻撃の意識を感じて。でもそこから宵越くんが動けば、士道くんの意識は熱に引き寄せられて──
黒だ。
真っ白な世界。守備から反転した世界に生まれる、黒い光。
(そこだ)
氷織のパスが不倒へ。動く宵越。シュート。黒名が動き、ボールはゴールポストへ。その弾かれたボールへの
「
「渡すか……!」
ポストの眼の前でぶつかり合う二人。士道の死角から忍び寄る二子。
守備の目線。士道の視界が視える。宵越が気づかない、宵越の死角。そこへ悪魔が襲い掛かる瞬間が、視える──!
気が付けば、二子は飛んでいた。飛ぶしかなかった。
士道がボールをトラップしたその瞬間、そこへ二子は頭から飛び込む。久しくしてこなかったシュートではなく、不器用にもつれながらのダイビングヘッドだった。
ゴール付近の一瞬の綾。攻撃力なんて関係なく、ただ負けん気だけが左右される一瞬。
その一瞬をものにしたのは、二子一輝。
そのまま二子は地面へ。受け身もとれず、顔と全身でゴールエリアへ。鈍い衝撃が生まれた。ブルーロックマンがホログラムでなければ二子と衝突していただろう。
「二子!」
「二子くん!?」
らしくないダイビングヘッドに、雪宮も氷織も得点の喜びより心配が勝った。
「大丈夫!? 頭揺れてへん?」
「……だいじょー、ぶです」
二子は顔を上げた。鼻から何か垂れる感覚もあった。
「……血が出てるじゃないか」
「平気です。すぐ治まりますよ。どっちみち、こんなラフプレーもうしないですし」
立ち上がる。実際、1プレーを終えたので試合再開まで間がある。
二子はプレーを反芻する。
偶然と、自分の突飛なプレーの結果だ。もちろん自分の強みを自覚したキャッチではあったが、今の攻撃は絵心がかつて言った『ゴールを量産する方程式』としては確率できていない。
得点は嬉しい。でも、獲れるべくして獲れたゴールと喜べるか。
宵越が近づいてきた。
「ここでお前が点を取れたのはでかいぞ」
宵越が笑った。
「1点リード、チェックメイトまで来た。それも全員が得点者だ」
どこからでも、誰からでも点を奪える。これこそがきっと、絵心が求めたものかもしれない。
そしてそれを成したのは、宵越と二子の、絵心の理想とは異なるエゴ。
「分析したのはお前だ。予定通りって喜んどけよ」
けれど。
「……ええ。その通りですね」
二子は思う。
たとえ守備によっていたって。まぐれの得点だって。
自分は絵心に見いだされ、宵越に選ばれた。
れっきとした、ストライカーだ。
・現在の状況:
レッド(宵越・氷織・雪宮・二子)
対
ホワイト(士道・黒名・玲王・五十嵐)
スコア:4-3
得点者:宵越、士道、士道、氷織、黒名、雪宮、二子
Q13 宵越の渾名について
正解は……「起き上がりこぼしの擬人化」でした!(正確にはひらがな)
とある活躍をした時に
「やはり不倒!」
「おきあがりこぼしの擬人化!」
と言われていたのですが、この場合不倒をして「倒れない」じゃなく「立ち上がってきた」から不倒なのだという意味合い。恐らく、原作既読の方はみんな感動できる解釈なのではないかと思います。