スコア、4‐3。宵越のチームレッドが一歩リードした。
一点以上の差を生み出さないシーソーゲームの中で、先にマッチポイントを握る。それはどの競技においても有利であることに変わりはない。
とはいえ、1点を獲れば4‐4の同点となる。ビハインドのチームホワイトも恐れはない。
けれど、玲王は1人焦っていた。
(……また、負けが近いのかよ)
失意の中、同じ伍号棟の
そして負けた。4‐5の僅差だった。
さらに2ndステージで士道・五十嵐ペアと戦って負けた。玲王は直前の黒名を奪った試合を除けばずっと負け続けている。
そんな玲王の現在に、自信というものはまるでない。自分は
何度も自分を戒めて、何度も自分を傷つけた。その中で玲王は思った。
──1人で強くならなきゃ。1人で勝ちたい。
そうだ。決めたのだ。今はただ勝つことに集中して、1人で生き残れる俺になれと。
けれど。
(器用なだけじゃ、チームが、士道が勝つために戦ってるだけじゃダメなんだ)
プレーが再開する。士道が蹴ったボールは黒名へ。黒名はドリブルで雪宮をかき乱した。だが、雪宮は運を手繰り寄せた。ボールを奪う。ドリブル、士道の前まで来たところでパス、氷織へ。
その氷織と玲王がマッチアップした。膠着する戦況。
「……止まってると、置いてくで!」
氷織が即座に横パス宵越──ではなく再度の雪宮。奇をてらった一撃。
玲王は苦虫を嚙み潰したように顔をゆがめた。
(……せぇ。そんなことわかってんだよ)
一次選考はずっと凪と一緒に戦ってきた。今だからわかる。これまで自分は凪の才能があって、2人で一緒にゴールを奪ってきた。それは凪がいなければできなかったことだ。
だから考える。1人になった、1人で強くなりたいと思った俺はどんな色だ。
そして、本質は。俺のエゴはなんだ。
────
御影玲王は総資産7000億越えの大企業、御影コーポレーションの御曹司である。
玲王の人生は退屈に満ちていた。望むものは全て手に入る裕福さがあり、本人の能力もそれに見合う万能さがあった。頭脳明晰、成績優秀、スポーツ万能、人を支配するに足る人心掌握。
全てを兼ね備えていた。
けれど、親の金によっても、自分の能力によっても、簡単にすべてが手に入る。それは退屈で、退屈で、退屈で退屈で仕方がない。
だから、簡単に手に入らない、不断の努力でも欠片しか奪えない、そんな唯一無二の宝物が欲しいと願った。
その願いの先にこそ、サッカー
夢の道中で凪と出会い、凪もまた玲王の宝物になる。
そんな玲王にとって、自身のエゴは。
──不可能を可能にしたい。理不尽な現状を変えたい。
──俺のゴールで閉じられた運命に風穴を開けたい。
そんな激情だ。
雪宮に飛んだボールは、けれど数歩進んだことで士道に奪われた。そのまま士道はドリブルし、黒名へ一瞬スイッチしてからもう一度受け取って進む。そこへ宵越が立ちはだかり、二人の怪物がマッチアップする。
相手も強い。《不倒》宵越は自分の想像以上で、士道と同じクラスの化け物だった。
他のチームレッドも──大人しかった二子さえも、そんな宵越の熱に当てられて変化していった。
最初の3rdステージもそうだ。変化したチームが勝ち、変化した人間が選ばれ、そして強いチームとなって勝っていく。
──変わらなければ。
──生まれ変わらなければ。
──自分のゴールで。
ならば。
(どう、奪えばいい──!?)
恵まれたフィジカル、そして超常的な走りの能力でゴールを奪う宵越。抜け目ないパスでゴールへと繋げる氷織。剛のドリブルと多彩なシュートを持つ雪宮。監視塔として攻撃の決定打を潰してくる二子。
この相手に勝つには。士道を勝たせるのではなく、
玲王の眼に、汗が滴る。それでも眼を閉じない。
(……運命に風穴を開ける)
──生き残る。前へ進む。
──凪と再会する。
そのためなら、なんだっていい。
雪宮が自分を変えたように。自分も──
何を捨ててでも。何をかき集めてでも。
(俺のゴールを奪う──そのために
宵越と士道の幾度目かの戦いは引き分けとなった。ぶつかり合いの結果ボールがあらぬ方向へ飛んでいき、それを五十嵐が拾った。
そして五十嵐から玲王へボールが回ってきた。玲王は受け取る。
変化したフィールド。パスの選択肢を見定める。五十嵐にも、黒名にも、士道にもパスを出せる。
けれど、玲王はパスを出さない。ドリブルで前へ。でもすぐに二子が来る。
「わかってます。君も変わろうとしている。だから、防ぎます」
(くそ……目敏い野郎だ)
二子に掴まれる。どうする。パスしかないか。
「玲王! こっち!」
「準備、完了、完了!」
「ゴール前指定席1枚!」
チームホワイトの面々がそれぞれ声をかけてくる。チームメイトの誰もにボールを渡せる状況。
それでも。
(ださねぇよ……!)
さらにドリブル。それは──
二子が、いやチームレッドの全員が驚愕した。見覚えがないはずがない。それは馬狼が繰り出したものだ。いや、馬狼も玲王も同じ伍号棟出身。馬狼の攻撃を見たことがあるのか……?
振り返りながら二子が叫んだ。
「皆さん、頼みます!」
氷織が、雪宮が了解する。玲王は即座に黒名へパスを回した。氷織は黒名へ付き、玲王は雪宮とマッチアップする。
「抜かせない」
「黙れグラサン……!」
一瞬の間。玲王は雪宮の死角を縫って突破する。
今度は雪宮が眼を見開く。
(玲王も死角を──いや、成早よりもうまい!)
当然雪宮の弱点は健在で、それを利用した玲王の順当な戦術でもある。けれど、それを確実に実行できるのは玲王の器用さ故。
そして、玲王はボールを持たずにゴール前へ。立ちはだかるのは。
「やるじゃねぇか、半年の天才!」
「黙ってろ、半年前の天才!」
玲王と宵越のマッチアップ。ここだ。ここがターニングポイントだ。
先の二子と雪宮の二人抜きで十分玲王は役目を果たした。ここから自分が宵越を引き付ければ、きっと士道が氷織や雪宮の間を食い破って4点目を喰らうだろう。
けれど。そんなものは
(不倒に勝たなきゃ、俺にはなれねぇ!)
探せ。一瞬でもいい。一欠片でもいい。この試合の後に勝てない戦い方でもいい。
俺が求めるのは。今、この場で宵越竜哉に勝つこと。
玲王は前へ。ゴールをもらうため、そして宵越を抜くために動きだす。
当然宵越は玲王の動きをキャッチする。恵まれた体の全てを持って玲王の特攻を防ぐ。
ぶつかる体と体。士道・宵越の衝突と違って
それを玲王は──
驚き、思考が引き延ばされるチームレッド。
宵越は。
(こいつ……! 士道の最初の動きをマネしやがった!)
そして、それはこの場においては士道の身体能力によってこそ可能な力業。それを可能にしたのは。
その二人の合を外側から見れる雪宮が驚愕した。
(宵越の《回転》に近い、ボディコントロール……!?)
回転。それは宵越がカバディにおいて、周りに集まる敵を弾いたり、相手と自分の身体の位置を入れ替えたりすることに用いた。
玲王のそれは不完全だ。不完全だが、それでも一つの回転だった。宵越の身体の側面、そして背面を伝い、宵越の守りをわずかにでも突破する。
そして。
「ナイス、ナイス!」
黒名の力強いセンタリング。宵越の背後、玲王の前へ。
飛び上がる玲王。士道は、その光景を見ながら目を瞬かせる。
「うぉー、紫ちょんまげ」
玲王は空中にいながらボールに照準を合わせた。そして俊足一閃。
「それ俺の技じゃね?」
「ウラァ!」
快哉を上げる玲王。
刻まれる8点目。追いつかれたチームレッド。
それでも、紅い熱を放出するエゴイストたちに、焦りは微塵もない。
雪宮は面白く悔しがる。氷織は楽しそうに笑う。二子は思いがけない玲王の進化に顔を上げ、眼を開いた。
そして、宵越は。
「……上等だよ」
不完全ではあるが、的確にオフ・ザ・ボールを突き、馬狼や宵越、士道の技を用いた。何色でもない、だからこそ何色にも変わりえる、七色の熱。
自分の技術を模倣された。確かに悔しい。悔しいが──嬉しい。
世界一を夢見て、大きな壁を前に恐れずに、変革を遂げて生まれ変わる──そんなバカがここにはたくさんいる。
「俺たちの前で埋もれる
宵越は、確かにそう思った。
・現在の状況:
レッド(宵越・氷織・雪宮・二子)
対
ホワイト(士道・黒名・玲王・五十嵐)
スコア:4-4
得点者:宵越、士道、士道、氷織、黒名、雪宮、二子、玲王
ラストプレーが始まる──