残り1点。
残り1点を取った方が、二次選考を突破する。
残り1点を奪った者が、勝利の栄光を手にする。
宵越。氷織。雪宮。二子。
士道。黒名。玲王。五十嵐。
頂上を求めて、8人は等しく暴れまわる。
プレー前。宵越は戦場を睥睨していた。
凛と同じ怪物の士道。
壁を乗り越え、進化する氷織、雪宮、二子、玲王。
自分の力を出し切る黒名と五十嵐。
誰もが勝利のために全力を出す。
絵心が思い描いた空間であり、同時に宵越がサッカーで求めた
あとは勝つだけ。
疑うことなく宵越は呟く。
「……俺が、勝つ」
氷織は、雪宮は、二子は。それぞれ殻をやぶってくれた。
今度は、俺の番だと。
今の力量以上を発揮して、愛を語るクソ悪魔を潰す。
それで、この楽しい時間は終わりだ。
4‐4。宵越がボールを氷織へパスする。ラストプレーが始まった。
氷織は戦場を見渡す。一歩、ドリブルの気配を見せる。つられて突っ込んできた五十嵐を引きづけて即座にパス供給。右翼の雪宮へ。
雪宮はドリブル───ではなく横へパス、相対していた黒名が驚き、けれど辛うじてボールをかすめた。ボールは流れ、玲王がキープ。けれどすぐさま二子が張り付く。
ボールは止まることなく流れ続ける。一秒たりとも同じ場所には存在しない。飛び、浮き、流れる。8人がたった一つの球を求める。
宵越もその1人。流れるボールを見定め、自分のものにせんと動く。けれど。
悪魔が、目の前に立ちはだかった。
「良いねぇ、不倒も、他の奴らも!」
士道は、ただ1人宵越を見続ける。ボールを誰よりも求めながら、それと同じくらいの欲望を持って、不倒の前へ。
動かない。動けない。
「前言撤回かよ」
それは士道が『他の奴らもいい』と言ったことに対してだ。士道は嬉しそうに叫んだ。
「ああ! 俺は爆発が大好きだ!」
「……」
「爆発は平等だ。それがない奴にどうこう言われても、つまらねぇ」
「だから、人を傷つける」
「ああ」
宵越は動いた。フェイントから逆サイドへ転瞬。
士道は食らいついた。わずかに遅れ、けれど平行に。何よりも楽しさを渇望して。
突き放す、追いつく。躱す、ぶつかる。下がる、上がる。
押しても引いても、右にも左にも。どうやっても磁石のようについてくる。
いや、完璧な磁石ではない。かつて宵越がしてやられた全く距離の変わらない守備の動きは、先読みと俊敏性によって追いついてきた。
士道のそれは違う。突き放され、けれど追いついてくる。意地だけの守備。
(いや──意地ですらねぇ!)
それは、楽しさ。
士道の何よりも爆発を追い求める欲求。
理解したくない。暴力。誰かを傷つけた士道に、それだけの強さがあることが。
許せない。爆発しない───自分のお眼鏡にかなわないだけの仲間やライバルを置いていこうとも思わない。納得できるわけがない。
けれど。
(俺も……コイツと
──普通の奴らは確かに脱落するだろうな。だが、集められた300人全員が、お前と同じ熱を持っていれば。そいつはライバルであり、仲間となる。
理解してしまった。同じ境遇のライバルを求めるという、その欲求だけは。
絵心が示した道と、同じ──!
「わかったかよ♪ 不倒クン!?」
「くっ」
「同じ
わかってしまった葛藤。
それでも。
(俺は──コイツを認めない!)
だから。
「おい、クソ悪魔」
「お?」
「出してやるよ、俺の爆発を」
「おお!?」
両脚に力が入る。
宵越の、黄金の脚に。
「ただし約束しろ。暴力はもう止めろ」
「どうだろうねぇ? お前みたいに楽しい奴がワンサカいれば──着火させる必要もないかもなぁ?」
「この……クソ悪魔が」
もういい。問答は止める。
今はただ、勝つために。
世界一の切符のために。
この狂気を、飼いならせ。
「てめぇの爆発、殺してやる!!」
「シャッハァ!」
不倒と悪魔。
最後の衝突が始まる。
────
二次選考1stステージ。全100ゴールをブルーロックマンから奪うという個々人の能力に調整された課題は、もちろん宵越にも課されてた。
元々持っていたドリブル技術に、恵まれたフィジカル。そしてカバディ時代に得た《カット》技術。それらを総動員してゴールを量産する。それ自体は当たり前のように成し遂げた。
とはいえ、10ゴールを過ぎたあたりで、宵越の脳裏には焦燥のようなものが膨れ上がっていた。
『これじゃあ、通用しねぇ』
独りごと。ゴールを決めながら吐き捨てた言葉。
通用しないのは、糸師凛に対してだった。
宵越は一度負けた相手のことを忘れない。再び戦い、そして勝つまで、その敵のイメージを持ち続ける。
故に、1stステージの課題の最中にも、常に宵越は守備のギミックの中に仮想の凛を配置して戦っていた。
そればかりでは課題そのものがクリアできなくなるのでボールはちゃんとゴールまで運ぶ。けれどいつも凛に封殺される。
カットにも試合終盤に対応され、ダメ押しの《バック》にさえ紙一重で届かれた。
だから、凛に勝つために。凛以上の存在に勝つために。
『もっと……武器を増やす必要がある』
それを、宵越は1stステージで考え続けていた。
宵越は自分の実力を正しく認識している。ドリブルは間違いなく同世代を凌駕する武器であるし、カットもまたドリブル技術の拡張として有用極まりない。
バックは強力だが、後ろへの加速を使う機会はサッカーにおいては限定される。何よりも怪我のリスクが高いから、宵越はこれをゴール量産のために使うことはない。
やはり宵越の武器は明らかにドリブルだった。カットも《回転》も、その他カバディで培った走りの技術も、全ては不倒と呼ばれた宵越の走りの技術から来ている。
その上で。
『凛に……凛と同等の奴らに、そしてこれから強くなっていく奴らに勝つためには──』
思い出す言葉がある。といっても、カバディ時代ではあってもカバディ選手やコーチからの言葉じゃない。
宵越もカバディでは初心者だった。その中でレギュラー出場を危ぶまれる時があった。
──同じチームにもっとすげぇ投手がいて、控えに回れと言われたらどうする?
そんな時に話した、同じ能京高校の野球部の先輩。甲子園出場も決定した自分とは別のスポーツエリート。偉そうな発言はとにかく鼻についたが、それでも与えられた言葉は金言だった。
──もしそんな奴がいたら、バッティングを磨くかな。
──その上で、新しく変化球を覚える。
ゴールを20、30と重ねながら宵越は決めたのだ。
凛に負けた。ならば、このままでは
カバディでの大きな経験の一つに、違うスポーツの選手たちとの交流があった。それはカバディに留まらない。
貪欲に、真摯に。悔しさを噛みしめて。
宵越は。
『変化球を、覚えてやる』
────
士道と宵越の衝突。
けれど、宵越は士道を躱しにかかる。2連カットで抜き去り、敵陣ゴール前へ走る。
「それは何度も見たぜぇ!?」
やはり士道はついてくる。凛ほど完璧にではないけれど、やはりこの悪魔も怪物。
とっさに宵越は
「うぉ!?」
ファウルにはならない、絶妙な力と距離感。
中学時代の宵越にはなかった選択肢。絶妙なハンドワークで士道を来させず、そして自分は加速する。
カバディで鍛えられた手の距離感が功を奏した。
士道と宵越の距離が、離れていく。
今、ボールは雪宮が持っていた。左翼やや中央で、加速している。
そしてボールは雪宮から二子へ。二子から宵越へ。
士道を抜いた先に五十嵐。宵越は五十嵐を抜く。対面したのは玲王。宵越は脚を止める。
玲王と宵越のマッチアップ。
「再戦だ──不倒!」
「そうかよ……!」
左前に雪宮と黒名を感じる。右横に氷織と五十嵐を感じる。
宵越の選択肢。玲王を躱してシュート、あるいは雪宮か氷織へのパス。
エゴイストの、ストライカーの選択肢はシュート一択。だからこそ。
玲王はひたすらに左右へ警戒した。
(絶対に──シュートコースだけは防ぐ!!)
玲王から見た宵越もまた士道と同等の化け物であり、エゴイストだ。味方への献身も目立つが、4‐4のこの局面、絶対にパスはしないだろう。
だから左右へのカットを警戒する。腰は低く、脚を広げる。けれど左右だけでなく。
(股抜きもさせるかよ……!)
雪宮のシュートが脳裏によぎる。あれもまた宵越の選択肢に入っていると直感する。
一瞬の停滞。誰かの汗が滴り──落ちる。
宵越の身体が
「抜かせるか──!」
玲王の集中力は極限を越えていた。実力と運が重なって、玲王はほとんど完璧に宵越の真横へのカットに食らいついていた。シュートコースは完璧に防がれていた。
(ドンピシャ──!)
玲王の眼の前で宵越が回転し──
ボールはもう、玲王の身体の脇を通り去っていた。
玲王は確かに宵越を見ていた。回転はしても眼で追えていた。
なのに。
(いつの間に撃った──!?)
目の前にいるDFすら置き去りにするフェイント。
回転を用いて無理やり体の照準をゴールに向ける。カットと同じ
どの技術も一級品とはいえ、宵越の異能とも言える技術はドリブルに偏っていて、シュート技術はあくまでただの高水準にとどまる。今まで、敵を抜き去ることでゴールを得てきた。
その宵越が、敵を抜き去ることなく、あくまでドリブル技術を拡張させてはなった
その放物線は美しく弧を描く。玲王は基より、動いていた五十嵐と黒名の眼を釘づけにしてゴールポスト左上角へ──
「いい爆発だぜぇぇぇ!!」
士道が、飛び込んでいた。
誰にも予想できなかった宵越の新しいゴールへの方程式。それと同じように、このフィールドの誰にも読めなかった士道の動き。
シュートに全力を注いだ宵越は、回転で浮いた体をまだ着地させていなかった。
その刹那に思い至る。
(あいつ──俺に
先のカットの応酬。士道なら辛うじて宵越を追いかけることもできた。
それでも、士道は宵越を見逃した。そして全員の裏を取り、宵越の一撃を殺しに来た。
なぜなら、士道は宵越と同類だったから。
凛と宵越と同じ天才。
秀でた匂いを持つ者。故にわかる、ゴールへの感覚。
士道は、直感で理解していた。『
だから、途中での対峙を早々に諦めてゴール前へ突貫した。
士道のヘディングがボールをかすめる。
強烈な回転がかかったボールの軌道がずれ、ポストを大きく響かせた。
天高く舞うボール。誰にも読めない瞬間。
宵越の、そして黒名の脳裏に閃く。伍号棟頂上決戦の瞬間。
ボールを得たのは、五十嵐を置き去りにした氷織羊。
「しまいや──!」
叫びと共に左脚を振り切った。
ストライカーのラストキック。ボールはネットに突き刺さる。
アナウンスが響く。女性の、感情を排した声。
『試合終了!
『TEAM REDの勝利!』
勝敗が決する。赤き灼熱の4人が、白い悪魔たちを押しのけた。
それを、宵越は素直に喜べない。喜ぶ3人を余所に、跪くことなく、けれど掌が爪で痛むくらいに握りしめる。
また運によってやられた。士道にゴールを止められた。
確かに勝った。それは嬉しい。けれど、悔しさを忘れない。
それだけじゃない。凛の気持ちもわかってしまった。
相容れない敵の士道に勝てなかった。完全に引導を渡すこともできなかった。
──こんなのが、俺の勝ちであってたまるかよ。
(こんな結果で、士道に勝ったと言えるかよ……!)
勝利を噛みしめる氷織、雪宮、二子。
絶望する玲王、五十嵐、黒名。
そんな中。
宵越の足元に自分のものではない人影。特徴のある髪型。
「見せてもらったぜ。お前の爆発」
「てめぇ……」
「な? 俺も……愛は持ってただろう?」
「……」
否定してやりたかった。暴力が愛であってたまるかと。
だができない。士道を完全に下したと言えないから。それだけじゃない。
暴力的な士道のそれは、確かに宵越が考える愛ではないけれど。
──王城、わかるか。軽薄だが
それは宵越の知る言葉ではない。だがかつて、宵越が尊敬する王城に対して、その宿敵はそうやって心の中で呟いた。
──求め続ける人間は底が知れんぞ。
それは愛であり、ある種の
それを士道は愛と呼んでいる。
「……っ」
悔しさに顔をゆがめる宵越。
「いいもん見せてもらった。おかげでしばらくは満足できそうだ。不倒がいなくても♪」
何も言い返せない。宵越は、ただただ仲間の3人の下へ戻る。
3人とも宵越の性格を理解している。心配はしないが、わずかに気圧される。それでも雪宮は負けずに言った。
「宵越、選ぶのは彼でいいね? 元々士道は獲る気なかったし」
「僕も異存はないで。宵越くんさえよければ」
「……ああ」
氷織の言葉に宵越は頷いた。
気に入らないことはあるが、自分たちは勝者だ。
選ばなければならない。1人を。
士道を獲るつもりがないことは、4人とも事前に合意していた。強いのはこの試合で十分理解したが、そういった合理性を超えた感情があった。
だから、獲るのはただ1人。
二子が言った。
「来てください、御影玲王くん」
宵越と士道の戦い。その中で変化していった氷織、雪宮、二子。
その中で、埋もれることなく自分の壁を越えていった、熱を放った人間。
それこそが宵越が勝ちぬいてきたチームレッドに相応しい。
「……」
玲王の絶望の表情は変わらない。脚が震えているようにも見える。
けれど、何とか足を動かす。
「おーい、紫ちょんまげ」
歩く玲王に、まったく悔しくなさそうな、むしろ楽しそうな士道が放つ。
「お前の爆発、見誤んなよ? Mr.カメレオン♪」
そして、宵越にも士道は語る。
「ナイスゲーム。またやろうぜ、不倒クン」
宵越は何も言わない。
ただ、悔しさを噛みしめる。
いつか、悪魔を完全に下す。その瞬間を求めて。
・結果:レッド 対 ホワイト
スコア:レッド(5)-(4)ホワイト
勝者 :チームレッド
得点者:宵越、士道、士道、氷織、黒名、雪宮、二子、玲王、氷織
5thステージ進出:チームレッド・玲王
3rdステージ後退:士道・黒名・五十嵐