青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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一次選考~伍号棟~
No.3 青い監獄


 

 

 走る。

 走る。

 ただ、ただ、宵越は走る。

 一人、一心不乱に駆ける宵越の目の前に広がるのは、窓一つないトレーニングフィールド。天井は洒落っ気一つない照明、壁は人がタックルしても怪我のしにくい耐衝撃材。サッカーフィールドではあるが、室内故なのかジュニア用程度には狭い空間だ。

 基礎のトレーニング。程度の差こそあれ、どんなスポーツでも必要な体力づくりの運動。大変ではあるけれど、全国を経験するほどの選手だった宵越には基礎の重要性がよくわかっている。

 最初はジョギングから。少し経つと、やがて全力疾走に近い無酸素運動。息を整えたら、今度はラダートレーニングで脚の俊敏性(アジリティ)にアプローチ。さらにコーンを置いて変則コースを駆け抜けるクイックネス。

 走る。それは基本にして、宵越の真骨頂ともいえる能力だ。サッカーでも、サッカーから離れてカバディに身を置いた時であっても、一日たりとも欠かさなかった。

 一通りの運動を終えて、止まる。フィールドの出入り口付近に用意していたタオルやドリンクボトルに向かう。

 吹き出る汗を腕で拭う。今宵越が着用しているのは、支給されたほぼ黒に近いボディスーツだ。動きやすいが、汗を止められなくて仕方ない。

 腕を上げたから、一瞬だけ視界が真っ暗に。その数秒の間にトレーニングフィールドに立ち入った奴がいた。

「宵越さんっ! 今日も練習、お付き合いしますっ!」

「……おぅ、よろしく頼むわ」

「そんな、宵越さんによろしくなんて! 馬車馬みたいに働くから、どうか使ってくだせぇ!」

「いや、お前も選手だろ。そもそも同い年だろ、かしこまれると気持ちわりぃ」

「はいっす!」

 変わらない敬語。宵越は諦めた。

 目の前に立つのは、チームメイトの一人。こう言うと失礼だが、平々凡々な容姿だ。トレードマークといえば、頭に巻かれたヘアバンドくらいか。

 宵越はドリンクを飲み干して、ため息を吐く。チヤホヤされんのは少し微妙な気分だ。

「まあいい、七星(ななせ)。1対1でマンマークを外す練習、行くぞ」

「ハイッ!」

 七星虹郎(にじろう)。高校1年生。ボディスーツに刻まれているのは《Z》そして《273》の数字。

 青い監獄(ブルーロック)入寮以降、宵越は何かと七星に絡まれている。

 

 

────

 

 

 青い監獄(ブルーロック)

 全国から絵心甚八の独断と偏見で選ばれた300人の高校生を実験帯に、世界一のストライカーを生み出すというプロジェクトの舞台は、山の向こうにあった。

 そこで宵越たちは私物を全て管理者に預けることとなり、1人ずつ数字とアルファベットが電子表示されるボディスーツを配られた。

 最初、番号によって振り分けられた部屋にいたのは、宵越を含めた12人、絵心の言葉通り全員が高校生男子。

 そこで始まったのが入寮テストと称した《ボール鬼ごっこ》。そこで一人だけが脱落し、残った人間が入寮の資格を得る、というもの。しかも「ブルーロックで脱落した人間はこの先日本代表に入る権利を永遠に失う」というのだから、参加者全員が──いや、宵越一人を除いて震え上がった。

 そうして一人を蹴落とし、宵越を含めた11名はチームメイトとして晴れて《ブルーロック》に入寮した。

 チームメイト、いやイレブン(運命共同体)。つまりサッカーチームに必要な11人だ。《ブルーロック》の性質上、このチームメイトとも争うことにはなるだろうが。

 300人を12人に分け、さらにそれぞれのチームが同じ入寮テストで一人を蹴落とした。そしてチームBからチームZまでの11人25チーム、全275人が1位から275位までランキング付けされ、その順番にチームを結成している。

 宵越のボディスーツは《Z》そして《266》の番号。つまりチームZ(最底辺チーム)266位(2番目)

 仮にも《神童》ともてはやされた天才がこの体たらくだ。ランキングは絵心の独断と偏見によると言っていたし、一度ドロップアウトした以上底辺からやり直せというメッセージかもしれないが。

 いずれにせよ、《ブルーロック》に入寮して数日間、宵越たちはひたすらトレーニングを重ね続けた。

 宵越の名は有名だ。チームメイトの全員に知られていた。だから会話には困らなかったし、いろいろと話しかけられた。七星もその一人だ。

「──次! アジ(アジリティ)上げねぇと《オフ・ザ・ボール》で置いてかれるぞ!」

「はいっす!」

 宵越は七星とトレーニングを続けている。他のチームメイトとも練習は重ねているが、一際七星が付いてくるのだ。

 ただ、宵越から見て七星はあまり上手くない。基本宵越が鍛える側に回っている。

 マンマークの練習を終える。すぐさま七星は大の字にぶっ倒れた。

「……はぁっ、はぁっ、よ、宵越さん……引退したって噂、流れてたのに……」

「あん?」

 納得いかないような七星の声。宵越は汗を流しつつ、それでも余裕の表情で立っている。

「ぜ、全然、体力、あるじゃねぇすか……」

「まあ、スポーツは続けてたからな。サッカーじゃないが」

「……転向したってぇことすか? でも今はここにいるし……」

「別に、ちょっとな。言ったところでわかんねぇだろうよ」

「えー……」

 宵越がサッカーから離れた約半年間。いたのは《カバディ》と呼ばれるスポーツの世界だ。

 インド発祥。日本では「ネタ」だの「マイナースポーツ」だの言われるほどに人口が少ないが、その実世界では有名な競技だ。一部の国では野球やサッカーの比較ではないくらいに。

 幸いにも、宵越の所属したカバディ部にはジュニア世界大会を経験した部長がいた。大会でも《世界組》と呼ばれる日本学生のトッププレイヤーと戦った。

 競技がや人口が違っても、そこにあるのは等しく頂点を目指すひりつくような争いの日々。最初こそ全盛期から衰えていたが、今の宵越は並みの同世代サッカー選手に負けない体力を取り戻している。

「俺も含めて、みんな気になるってるんすよ? ()()()()()()するじゃないっすかぁ! 《不倒》の復活なんて!」

「……じょわじょわ、ねぇ」

 気になるのはお前の口癖だ。

「なぁ、七星」

「はい?」

 七星の出身が田舎だというのは聞いていたが。

 宵越の脳裏には、カバディ時代のチームメイトである相棒の、快活な笑顔。

「お前の地元、高い山にある窯元とか言わないよな?」

「……はい?」

 宵越の問いかけを遮って、新たに声をかけてくる人物がいた。

「やっぱりここにいた。宵越、七星」

 茶髪。ブルーロック内の人間は割と奇抜な髪型をしている人間が多かったが、現れたのは比較的シンプルな短髪だ。冷静そうな瞳が二人を射抜く。

 やはり同じボディスーツ。ランキングは《265》。つまり宵越の一つ上、現状のチームZのトップランカー。

 名は西岡(にしおか)(はじめ)

「西岡。どうした?」

「二人とも集中すると周りが見えなくなるし、何も聞こえなくなるだろ」

「てーっと……」

 七星が考える。口に手を当てているからそこはかとなく小ボケに見えた。

 西岡はシンプルに答えた。

「アナウンスがあった。これから一次選考の詳細を説明するってさ」

 宵越も、七星も、目を見開く。

 いよいよか。この数日はほとんど説明もされず、指定されたハードトレーニングをこなすだけだった。合間のチーム練習や個人練習が至福の時間に感じられるくらいには。

 青い監獄(ブルーロック)プロジェクトは強化指定選手の合宿であり、同時に選抜試験の意味合いも持つ。どんな裁量で選抜するのかは知らないが、とにかく選ばれなければならないのだ。

「わかった。助かるぜ、西岡」

「遅れるなよ」

 西岡がトレーニングフィールドから去って行く。汗を拭く宵越を見て、七星はほうっと息を吐いた。

「宵越さんに緊張せずに話しかけれるの、西岡さんだけっすよね」

「まあ、あいつとは戦ったこともあったしな」

「二人ともレベル(たけ)ぇし、一緒に練習できるのは幸運でしたっ! ちょっとは技術が上がった気がするし」

「いや、まだ数日しか一緒にトレーニングしてないだろ」

「いやいや! 0と1の差はでけぇんすよ!?」

「否定はしないけどよ」

 やいのやいのと言いながら、二人はもう見えない西岡の後を追う。

 向かう先はチームZに設けられたモニタールーム。宵越と七星が入った時には他のチームメイトも全員集まってきて、すぐさまモニターに絵心の姿が表示された。

 絵心が提示した一次選考は、同棟内の5チームによる総当たりリーグマッチだった。

 同棟内、宵越たちのいる第伍号棟はチームV、W、X、Y、そしてZ。この5チームで総当たりで戦い、上位2チームが勝ち残り、下位3チームは青い監獄(ブルーロック)から脱落する。

 ただし下位3チームは、チーム内得点が最も高かった1人だけが生き残れるという敗者復活ルールがある。

 いきなりの試合だ。

 戸惑いはそれだけじゃない。青い監獄(ブルーロック)に集められたのは全員がFW(フォワード)ポジションを主とする選手だ。全員がほぼ初対面なだけじゃない、全員がFW。それでGK(ゴールキーパー)まで含めてチームを作って戦えというのだから、混乱することは当たり前だ。

 だが、やらなければ脱落は必至。死に物狂いで勝ち残らなければ、世界一のストライカーにはなれない。

 全員、必死だった。宵越も当然、黙って負けるつもりはない。

 

 

────

 

 

 翌日。第1試合。チームX対チームZ。

 即席チームであっても、全員がFWであっても、一応はポジションも作戦も決める必要がある。宵越たちはできる限り協力して、それらを話し合った。

 第伍号棟センターフィールド。ここは天井が解放されている。時間は夜。少しだけ涼しさがある。

 先にやって来たのは宵越たちチームZだった。準備運動をしたり、軽い雑談をしたり。それぞれがそれぞれの思うように過ごす。

 だがそれも大した時間ではない。決戦の時は近づいていた。

「来ましたよ。チームXが」

 七星の声は震えていた。

 宵越が七星のからやってきた対戦相手に眼を向ける。

 見たところ中学時代の知り合いはいない。だが、集められたのは選りすぐりの高校生FWだ。初心者──弱い選手がいるはずもない。そもそも、ランキングではチームZが最底辺だ。

 ここ数日の中では珍しく、宵越は七星に返した。

「緊張するか?」

「もちろんっすよぉ! 宵越さんや西岡さんとは違う……俺たち凡人は──」

「強いも弱いも関係ねえよ。一番厄介なのは、必死な人間だ」

 七星の顔に驚きが生まれる。

 ここにいる選手は、等しく平等だ。

 勝った者が生き残る。そして負ければ、もう終わり。

 全員が、等しく崖っぷちにいる。

「確かに緊張はしねぇが。だがな、別に誰しもが安泰とはいかねぇ」

 宵越が今、恐怖を力に、震えを熱に変えられるのは、理解していることがあるから。

 中学時代のサッカーもそうだ。畑の違うカバディでさえ、勝負であるのは同じだった。

 なら、このイカレたプロジェクトだって、しのぎ合いである以上は変わらない。

 かつて敵に感じた意思を、宵越は同じように抱えている。

「腹ぁ括ってんだ。誰が相手でも、倒して辿り着く目標があるとな」

 《ブルーロック》。299人の夢を絶たれた生ける屍の上に、只人としての生き方を捨てたたった1人の英雄を生み出す青き灼熱の監獄。

 灼熱は赤色だけじゃない。炎には様々な色がある。そして大小も強弱も、質感も。およそありとあらゆるすべてが異なる、(エゴ)を持つ高校生たちが薪をくべて生み出す炎。

 それが、青い監獄(ブルーロック)に生み出された灼熱。

「行くぞ、七星。ポジションにつけ」

「……はいっ!」

 チームX対チームZ。先行はチームZ。宵越が、キックオフを担う最初の選手。

 戦いが、幕を挙げる。

 

 

 

 








・チームZ

 :265~275位が所属。宵越竜哉、七星虹郎、西岡初、他8人。



・ランキング

詳  細:入寮前 → 第1試合前
全人数 :300人 → 275人
宵越竜哉:290位 → 266位
西岡 初:289位 → 265位
七星虹郎:299位 → 273位


次回、一次選考第一戦開始。
対チームX戦。相手チームにいる選手は……?

あなたは《ブルーロック》と《灼熱カバディ》を……

  • 両方とも読んでる。
  • 《ブルーロック》を読んでる。
  • 《灼熱カバディ》だけ読んでる。
  • 両方とも読んでない。
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