チーム《青い監獄》、宵越、氷織、雪宮、二子、玲王。
チーム《世界選抜》、ルナ、ブレイク、シウバ、カバソス、ロキ。
三次選考、5対5の戦いが始まる。
「いくで、チーム
氷織が中心のボールを蹴る。宵越がボールキープ。
宵越たちの布陣は、前方に雪宮左翼、宵越右翼。後方に氷織と二子、中央に玲王が陣取る。ミニゲームなので状況が変わりうるのは想定済みだ。
宵越の視界の端、ロキが突っ込んでくるのが見えた。瞬時に玲王にボールを戻す、けれどカバソスがさも当然のようにボールを弾いた。すぐさまボールはルナに回る。
「さすがに世界トップ……!」
奪われたボール、けれど決定機ではない。これまでの3on3から人数は増え、徐々に短期決戦の様相は減っている。
故に、宵越は不敵な笑みでルナに対峙した。
「さあ、お手並み拝見だぜ、《レ・アールの貴公子》」
ルナは変わらず笑顔でいる。余裕を崩さない。
『何を言ってるかはわからないけど──』
『隙だらけだよ』
超速のシザース。シンプルな挙動でありながら、これまでの敵とは明らかに完成度の異なるテクニック。宵越の目に映る無数のイメージ。
(守れない──)
その選択肢の中、ドリブルの挙動、と見せかけたヒールパス。宵越はタックルで防ごうとするも、子どもをあやすように腕で防がれた。強く大きな腕。
「くっ……」
『まだまだ青いね』
ボールはブレイクに回る。そのジャンキーの前に立ちはだかったのは、あまりにも小さい二子だった。
『おいおい、こんなヒョロガキが守るのかよ』
宵越以外は、世界選抜の話すことがなんとなく聞き取れる。
「僕でも止められないのはわかります。って、日本語わからないでしょうけど」
二子の真髄は視野の広さだ。フィジカルによる純粋なブロックではない。だからブレイクの前へ臆さず出た。
「だから時間を稼ぐだけです」
『お前の身体じゃ──』
対し、ブレイクは。
『時間稼ぎすらできねぇよ』
むしろブレイクはぶつかりに来る。そして
二子が、もはやいないものとして扱われる。
その恐ろしい光景に、宵越たちは戦慄した。もはや蹂躙だ。
そして氷織がカバソスに、玲王はシウバに、宵越はルナに。それぞれ、工夫も戦略もへったくれもない、純然な能力で抑え込まれる。二子のフォローに回れない。
ゴール前まで進むブレイクと巻き込まれた二子。最後の希望は……雪宮。
「2対1なら──どうだ!」
雪宮剣優。馬狼ほどではないにせよ、このチームで宵越に並びフィジカルを持つ男。
そのダブルプレスに。
『男の身体にゃ興味ねぇって……言ってんだろうが!』
ブレイクは、
そして宵越や雪宮のシュートレンジを嘲笑う、35m強からの超絶ロングシュート。
スコア、0‐1。
氷織がひきつった笑みを浮かべた。
「うっそやろ」
そして玲王も、4thステージの勝敗が決した時の表情でいる。
「……」
「……次だ」
宵越が一言告げた。
第2プレー。宵越キックから氷織へ。氷織から雪宮へ。オフ・ザ・ボールの宵越は、先にゴールを決めたブレイクについた。
先の1プレーだけで、既にブレイクが圧倒的なフィジカルを持つのは理解できた。ならば、宵越が試すのは別のブロックだ。
宵越の視界の端で、雪宮がルナにボールを奪われた。ブレイクが前線に出ようと動き出す。
「させるかよ……!」
宵越がブレイクへ突っ込んだ。
一瞬の静寂。
『へぇ、ガリガリにしちゃやるじゃねぇか』
宵越とブレイクがわずかに制止する。ただ、それだけ。ファウル覚悟で、カバディのカウンターで吹き飛ばす覚悟のタックルだった。それでも、一瞬止まるだけ。
(……まじかよ!?)
ルナからブレイクへボールが来た。一瞬止まった、その時だけ宵越とブレイクは互角の状況だった。けれど世界選抜は一人じゃない。
『もーらいっ』
『おいガキ』
カバソスが玲王を躱して前線に出ていた。いつの間に来たのかもわからなかった。
カバソスは眠そうに文句を垂れる。
『一人1ゴールの約束でしょ?』
《そばかすベイビー》が前へ。カバソスの本領は敵を抜き去る圧倒の技術とフリーキック能力で、ドリブルは相対的には劣る。けれど学生とトッププロではそもそもの技術力に差がありすぎる。
ただでやられてたまるかと、カバソスに二人が立ちはだかる。
「今度は止めます」
「その意気や、気張るで」
二子と氷織だ。それぞれ、宵越にも勝る視野の広さを持つ秀才肌の二人が守備に徹する。この状況は、士道であってもそう簡単に突破はできなかった──
『攻撃と防御は表裏一体でしょ?』
カバソスの眼は、あらぬ方向を見る。
『君たち、両極端すぎるよ』
パス──でもない。タップリフト。二人の視線を上へ誘導する。その一瞬の隙をつき、小さいカバソスは瞬発力と身のこなしをもって抜き去る。
まだ
『させるかよ、世界選抜』
『君は逆に中途半端』
股抜きクロスエラシコ。ここまで実力に差があるとなんの工夫もなくシンプルに抜かされる。
どれだけ相手と自分の差があるのかもわからない。ただ一つ分かるのは、相手が圧倒的高みにいるという事実だけ。
カバソスがフリーからのカーブシュート。それは宵越の技術をどこまでも凌駕していた。
スコア、0‐2。
何も話せない、鼓舞すら湧かない。雪宮たち。
たったの2点。たった数分にも満たないプレー。汗すら満足にはかいていない。
サッカー人生のちっぽけな時間。それだけで、どうあっても敵が強いことを理解する。
足が速いとか、体が大きいとか、テクニックがずば抜けているとか。そんな小手先の表現を排除した、純粋な『強い』という言葉。
──それでも、熱は消えない。
『いいね』
ボールを中央へ
『これまでのチームとは違う。全員が諦めてない』
5人の少年の目線を見て哂う。
『潰し甲斐があるよ』
プレーが再開する。宵越から氷織へ。さらに二子へ。二子が雪宮を見つつ玲王へ、玲王が雪宮へ──
『パス回しか。ビビってんのかぁ?』
その玲王のパスを弾く《重戦車》ダダ・シウバ。
そのルーズボールに
ルナが宵越を抑え込む。
『ずいぶんと軽い身体だ』
「くそがっ……!」
《カット》による回避。それすらルナは追いついてくる。
『面白い動きだね。無駄が多いけど』
宵越は追い込まれていく。動けない。
結果、一足早くボールを持ったカバソスが、
『はいよ、オッサン。次は僕に回してよ』
『考えとくぜ。さあ──今度は俺の番だ』
重戦車が猛進する。いや、戦車どころではない。もはや巨大な質量の大津波だ。
それでも、打つ手が浮かばなくても動かなければやられる。それがスポーツだ。
雪宮がシウバへ立ちはだかった。
(俺がやらなきゃ、誰がやる──!)
全力のタックル。もはや人によっては確実にレッドカードレベルだ。
それでも、大津波は揺るがない。
『おいおい、前の奴の方がまだいいタックルだったぞ?』
全身で雪宮を止める。
雪宮は冷や汗をかいた。
『それでもスモウの国の人間かぁ?』
シウバは顔を振り向き、その人物へパスを回した。
『あれ、俺ですか?』
『返せよ、ロキ!』
『はいはい、わかりましたよ』
遠く、後衛にいたからこそ警戒の薄かったロキ。受け取った《神童》は1トラップですぐさま返した。シウバから離れた場所へのスピードパス。その所作さえ、緩慢な動きのはずなのにどこまでも洗練されている。
帰ってくるボール。シウバと雪宮が突っ込む。だが、明らかに高い。雪宮が渾身の勢いでジャンプをしても50センチ以上は高いその位置に。
『シャッハァ!』
《重戦車》が跳ぶ。
スコア、0‐3。
それでも、膝に手を突く雪宮。立ち尽くす二子。腕で汗をぬぐう玲王。
天を仰ぐ宵越。
『どうだい? あと2点だ』
ルナは語る。目の前の弱者は諦めない。だからこそルナは、敬意をもって、全力で相手を挫きにかかる。
圧倒的強者の強みを持って、ゲームセットまでのカウントダウンを告げてくる。
それでも。
「……あと、5点」
宵越が、呟いた。
ルナの言葉は宵越に届かない。宵越の言葉もルナには届かない。
けれど、互いにスポーツ選手だ。眼を見て、プレーを感じれば、おのずと意志は感じ取れる。
練習から試合まで……日々のちょっとした競争まで。何千何万という戦いの中、負けていいと思ったことは。
一度もなかった。
「あと、5点……!」
宵越は、ルナを見て目を滾らせる。
その言葉が、仲間たちを奮い立たせる。
スコア、0‐3。
まだ試合は、終わっていない。
・現在の状況:VS.世界選抜
青い監獄(宵越、氷織、雪宮、二子、玲王)
対
世界選抜(ルナ、ブレイク、シウバ、カバソス、ロキ)
スコア:0-3
得点者:ブレイク、カバソス、シウバ