青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.31 再燃

 

 

 三次選考1stノルマ、VS《世界選抜》。

 スコア、0‐3。宵越がこれまで青い監獄(ブルーロック)で経てきた試合の中で、敵に圧倒されたのはこれが初めてだった。

 敗北は凛のいるチームV戦のみ。その試合にしてもシーソーゲームの末の3‐4。

 今、なす術もなく世界の頂に蹂躙されている。

 プレーが再開する。氷織が蹴ったボールは宵越が受け取った。一瞬の迷い、けれどそれがもう《世界選抜》相手では致命的な間だ。

 宵越は即座に二子へ渡した。これまでにないプレーを求めた。

 二子は氷織へ。氷織はスルーし、玲王が受け取る。その間、雪宮が左翼から抜け出そうと全速力で前に駆ける。

『おいおい、パス回しじゃさっきと同じじゃねぇか』

 《重戦車》ダダ・シウバが雪宮に立ちはだかる。動けない。

 その攻防を囮にして、宵越が右翼から前に出てボールを受け取る。しかし《レ・アールの貴公子》レオナルド・ルナが不倒の加速を許さない。

『まだまだ単調な動きだね・プレーの幅が少なすぎる』

 宵越は即座に《カット》を選択した。先のプレーでは追いつかれた。純粋な動きではまず阻まれる。

 そして、二度目は完全にボールを奪われた。

「──」

 宵越の思考が麻痺する。

『テクニックをただ漫然と使う。それは逃げだよ』

 抜き去ろうとした宵越の足元から、ただボールを一瞬奪いとる。宵越の比較的不得手な接触プレーですらないのに。

 取り戻そうとする宵越が振り返った。ルナは追いつかせず、ドリブルを始める。

『そういえば、君は神がいたと言っていたね』

 ルナは振り向き、まだ果敢に勝とうとしてくる弱者を流し見る。

 お互いの言葉はわからない、けれど二人は確かに会話をしていた。

『なら、その神様を超えよう』

 加速するルナ。辛くも追いつきスライディングでボールを狩る宵越を易々と避けた。タイミングをずらし、プレスに来た二子と氷織を、その大柄な体で抜き去る。カットではないにせよ、まるで瞬間移動のような動きだった。気づいた時には後ろをとられる。

 さらに一人で防御に回った雪宮の目には、最初の宵越が想起したような、ルナの無限のプレーが視える。

(気配が──)

 右にも抜かれる。左にも抜かれる。絶対にパスはない、けれどパスもできる。ぶつかる前から撃てるだろう、いやぶつかりながらでも自分を弾いてゴールを奪えるだろう。

 こんなストライカーを、どう出し抜けばいい?

『これでチェックだ』

 結果──パワーで押し切られた。惚れ惚れするほど滑らかなプレーで、健脚が音速を超えんと振り切られ、そして瞬く間にゴールネットを食い散らす。

 

 0‐4。

 

「……」

 声を張り上げる余裕はなかった。

 無理矢理に頂上に引き揚げられたように、息苦しさを覚える。

 その寒さの中を、なんでもないように王者が歩いてくる。

 ルナは宵越に語り掛けた。

『どうかな? これでも、君の言う神よりチープかな?』

 何も言い返せない。

 絶望がある。恐怖がある。そして希望はない。

 戦略の勝負ではない。どシンプルな実力の差。打開策などというものはない。

 それでも、宵越は諦めない。

 顔を上げる。

(ああ……そうだよ)

 かつての中学世界戦MVP、ヴィハーン。かつてのトラウマや迷いを乗り越えて、神へと舞い戻った男。

 彼の動きは学ぶ気が起きないほど常識外れな動きだった。これと同じ道を目指すなんて時間の無駄だと、五体がハッキリと言っていた。

 目の前の世界トッププレイヤーたちは、確かに一握りの天才だろう。化け物には違いない。

 けれど。

 ブレイクの超体幹。シウバの圧倒的な身体数値。カバソスの掌でボールを弄ぶような超技術。そして、完全無欠のレオナルド・ルナ。

(ロキの野郎はまだ舐めきってやがるが……でも)

 全部、視えた。そのロジックが。何故強いのか。

「おい、お前ら」

 宵越は仲間を見る。

「……宵越くん」

 氷織が顔を上げた。

「宵越」

 雪宮の目はまだ開かれている。

「死ぬ気で持ってる能力(モン)、全部出すぞ」

「上等です」

 二子が前髪を上げる。

「見せてみろよ、不倒」

 玲王が、絶望ではなく死ぬ気を覚える。

 強さが視えたからこそ絶望するのだ。絶対に勝てるわけがないと思うのは、敵の強さを理解したからだ。

 青い灼熱の世界を生み出したこの男は。

「俺が、ゴールを決める」

 何度も、何度も、何度も。

 倒れてから立ち上がってきた、不倒だった。

 

 

────

 

 

 スコア、0‐4。宵越たちにとっては始まったばかり。世界選抜にとっては、ホテルに戻ってシャワーを浴びる前の最後のプレー。

「かますで──不倒(フト)ォ!」

 始まりのキックは氷織。右翼の宵越へ渡す。そのままドリブル。

 何度でも挫くと言った通り、ルナがまた立ちはだかった。

 同時、雪宮が大きく前線に出た。シウバではなく、今度は《ゲットゴールジャンキー》アダム・ブレイクが警戒する。

 宵越は何度も阻まれてきたルナを見据える。マッチアップ、立ち合いでの選択は再びのカット。

『その動きは見え見えだよ』

 三度目のカットはルナに看破される。しかし宵越は抜き去るためでなく、純粋なフェイントのためにそれを使った。右翼のさらに際へ向かいながら、中央やや後方の玲王へヒールパスでボールを供給する。

 玲王はボールを受け取る前から、既に戦場を見渡していた。敵味方、誰がどこにいるのか。おぼろげながら把握しつつあった。

 イメージがある。自分たちが決死の覚悟でパスを回す。それでも世界選抜に奪われる未来。

 確かに勝てないかもしれない。でも。

(これ以上……無様に負けたくないっ!!)

 脳裏に閃く啓示。

 

 ──忘れるな。敗北が不可避であることを。そして考え続けろ。その敗北が自分の本当の勝利にとって、どんな熱となるのかを。

 

 宵越たちとの4thステージ。そこに繋がる過去の敗北。これを熱にするなら、漫然と負けられるわけがない。

(俺は……世界一に、なるんだよっ!!)

 広がる視界。シウバがプレスをかけてくる。

『おいおい、まだ諦めねぇのかよ!!』

『ほざいてろよ、脳筋ドレッド──!』

 シウバのこめかみが膨れ上がる。

 どうすればいい。この世界の頂に勝るために、今できることは。

 

 ──お前を選んだのは、眼を背けてないから。変わることを厭わないから。

 

 変わることを厭わない。

 

 ──死ぬ気で持ってる能力(モン)、全部出すぞ。

 

 自分の持てるすべての能力を──

 瞬間、()()()9()0()°()()()()()()()()

 それでもシウバは反応してくる。

『ハハ、銀髪小僧と比べりゃ子供だましだ!』

『だろうな。ハナからアンタを騙す気はねぇ!』

 さらに右へ弾き(チョップ)ドリブル。アイソレーションとは異なる鋭角の変化、それはじゃんけんの要領だ。カットとチョップの選択肢を選ばせる。運だろうが何だろうが、わずか0.1秒だけは、じゃんけんによって自分で得たシウバと互角の瞬間。

 その瞬間に、玲王は士道の殻を被る。シュート級の威力を伴った直撃縦回転供給弾(ダイレクトドライブパス)。ボールを飛ばす。ファー、右翼へ。

 その右翼へのパス供給に反応し、偶然にも宵越へ向かうボールを奪う選手がいた。それは《神童》ジュリアン・ロキ。威力の強い荒いボールでも、さも当然のようにトラップしてマイボールにする。

 そのロキに、パスを受け取ろうとして迫っていた氷織と二子が突っ込む。

『あれ、いいのかい? 両極端すぎる2人で』

 冷めた口調のロキが言う。2人は負けない。

「いいに決まってるでしょう!」

「両極端が合わさったら、最強やんけ──!」

 全速力で突っ込む挑戦者。あまりにも投げやりに見える挙動。だからロキはあざ笑うように横へボールを飛ばす。

「脚が速いだけじゃ──」

 それを宵越がインターセプト。

「最強の証明じゃねぇんだよ傲慢野郎がっ!」

『あら』

 ロキの武器は神速。それは全員が知っていた。すべての技術が一流だとしても、神速以外が相対的な弱点になると理解していた。

 ロキの足元のボールを奪えないなら、ロキから離れた瞬間のボールを奪う。二子も氷織も、どちらも決死のタックルでロキのパスコースを塞いだ。残る軌跡をロキの死角から宵越が奪い取った。

「けど3人がかりでやっと1人分って、どんな化け物ですか……!」

 二子が悪態をつく。氷織は脚がもつれて転ぶ、それでも顔は上を向く。

「なんでもいいんや……いけや、不倒!」

 玲王のパス供給。そこから氷織、二子の決死のパスカット。そこに連動した宵越のボール奪取。

 前線へ駆けあがる。左翼から雪宮が合流し、中央でドリブルする宵越に並走する。

 その向かう先にいた《そばかすベイビー》パブロ・カバソスは、頭をかきながら呟いた。

『あー……止められなさそう』

 ロキほどではないにせよ、スピードを武器として持つ宵越と雪宮。二人はもう、完全な出たとこ勝負で至近距離パスを繰り返しながら前進し、カバソスに向かっていく。

 どちらがいつ、パスを交換するかわからない。いつ中央から両翼へ逃れるかはわからない。そして荒いパスでも追いつけるスピードを持っている。

 カバソスの強みが圧倒的タッチセンスなら、もはやボールに触れさせない。そのためのスピードによる翻弄。

『でも、一人はもらってくよ』

 カバソスが宵越に突進してきた。宵越が雪宮へボールを渡した。雪宮への守備を最後衛ラインに任せ、宵越をここで殺すためのカバソスの動き。

 雪宮がカバソスの脇を通り抜ける一方、カバソスが宵越に体をぶつけてくる。

「かかったな」

『え?』

 ニヤリと笑う宵越。

「確かにサッカーじゃ、今の俺はアンタらより弱い」

 カバソスは宵越の目を見た。真っ赤に燃えて子供のように不敵に煌めく瞳。

「けど言ったろ。俺は俺のすべてを使って勝ちに行くって」

 カバソスは日本語はわからない。けれど宵越の表情を見て察した。

『ああ、勝てるって目をしてるね』

 世界選抜の前に立ちはだかるのは。

 サッカー選手であり、青い監獄(ブルーロック)を勝ち抜いた才能の原石であり。

 能京6番《不倒》宵越竜哉だ。

 

「なあ、そばかすベイビー。《走る格闘技》って知ってっか!?」

 

 ボールを持たない、だからこそ宵越の黄金の脚が輝く。

 いつか、宵越のカバディを観たサッカー選手が言っていた。

 ──ボールない分速いっすね。

 カバディの動き。相手を躱し、目的の場所へ至るための挙動。

 右《カット》、左《カット》、後ろへの《バック》、上への《ジャンプ》、タックルを受け流す《回転》、下への《ドゥッキ》。躱すための無数の選択肢が──カバソスにも視える。宵越が何度も成し遂げてきた、嘘のない動きだから。

 それはいくつかは、サッカーでは荒唐無稽なもの。けれど宵越はカバディの世界でそれを成功させてきた。

 宵越は、その荒唐無稽な1をこの土壇場で持っていける天才だった。

『あちゃぁ』

 カバソスがため息を吐く。

 宵越は。この一瞬だけは、カバソスを越えた。

 そして、黄金の脚が駆ける。一足先に前へ出た雪宮に後ろから追いつく。

 残る壁は二人。

『さあ、フットボールをするか』

 アダム・ブレイク。

『いいね、才能の原石君たち』

 レオナルド・ルナ。

 

 宵越・雪宮VS,ルナ・ブレイク。

 

 マッチアップ──!

 

 ボールを持つ雪宮の前に立ちはだかるブレイク。雪宮はシュートモーションをしかけた。明らかに雪宮のシュートレンジから遠い位置。

『そりゃ決まるわけねぇだろ』

「それでも、撃つんだよ……!」

 雪宮は迷わない。股下加速蹴弾(ポケットターボショット)をブレイクの股下めがけてぶっ放す。

『ぬりぃよ、簡単に弾ける』

「そりゃそうだ。()()()()()()ためにそこに無揚力(ジャイロ)を撃ったから──!」

 ブレイクがなんの驚きもなく、予定調和のように雪宮のシュートを弾いた。ボールは小さく跳ねて宙へ。ブレイクの3m横へ──

 そこに反応した、宵越とルナ。

 雪宮はわかっていた。負けたくはない、けれど今の自分の視野では確実にブレイクとルナに下されると。

 だから賭けた。ブレイクが弾き、どこに行くのかわからない五分五分の展開に。玲王の選択と同じように。

 だから、最後の一歩は。

 

「──越えろ、宵越!!」

 

 宵越とルナ。ぶつかり合いながらボールに向かう。

 ルナは笑っていた。

『さあ、どうやってくれる?』

「……っ」

『それとも俺に挫かれる? 不倒クン』

 ルナは動かない。宵越の圧などそよ風にしか感じない。

 悔しさに口をゆがめる。現実はどこまでも変わらない。

「アンタたちは完璧だ」

 完膚なきまでに、たかだか日本の高校生よりも完成している。

「だからわかるんだよ。完璧な動きに、どうやってアンタが反応するか」

 それは何度もできることじゃない。

 けれど武器はたくさん持っていた。

 いつ使おう?

 どう使おう?

 そんなふうに考えているとき。

 いつだって、景色は()()()()()()みえていた。

 ぶつかり合いながら、ボールから目を離さず。けれど、周辺の総てを視界に収める。

 ぶつかるルナの動きと目線。ブレイクのフォローの方向。後ろから迫るロキのカバーリング。

 それらを視て、ルナがどんな姿勢で自分を潰しにかかっているかを把握する。

 宵越が先にボールに触れる。そのボールをキープした右脚に襲い掛かるのがわかった。あまりにルナの動きが完璧だったから。

 時々視えていた、俯瞰の視界。そして相手が完璧だからこそわかる連携の位置把握。

 そして。

 《カウンター》。その動きを応用し、接触プレーながらルナの身体を支点にする。

 空中にいながらルナの足さばきを躱し、浮かしたボールを自分の身体の横へ。

 

 黄金の脚が閃く。

 

 シュートへの工夫など何もない。ただ、この蹴りに持っていくまでに不倒の歴史の総てを込めた。

 同じく、総てを視ていたルナは笑っていた。

 

『いいね。不倒』

 

 スコアが刻まれる。0‐5ではない。宵越たちの始まりの一点が。

 1‐4。快哉を上げる宵越。

 灼熱の世界が、世界選抜を取り巻いていく。

 

 

 

 






・現在の状況:VS.世界選抜
青い監獄(宵越、氷織、雪宮、二子、玲王)

世界選抜(ルナ、ブレイク、シウバ、カバソス、ロキ)
スコア:1-4
得点者:ブレイク、カバソス、シウバ、ルナ、宵越
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