青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.37 カメレオン

 

 

 スコア、1‐3。世界選抜戦を除いて、宵越は2点以上のビハインドを初めて経験している。

 当然だ。凛、士道に加え、雪宮という一点突破の強みを持つ敵もいる。宵越と凪が果敢に攻めたとて、簡単に突破口は開けない。

 それでも。自分を変えるための熱を内包しているのは雪宮だけではない。

「……」

 宵越がボールを蹴り、凪を保持者としてプレーは再開された。

 血の気の多い士道が張り付いてくる。

「俺とサッカーしようぜ白ノッポォ!」

「遠慮します、悪魔さん」

 凪から玲王へ即座のスイッチ。青い監獄(ブルーロック)入寮の前から重ねてきた連携だ。どの相手よりも淀みない。

 そして、受け取った玲王に張り付いたのは西岡。

 青森のメッシ。渾名が付けられるほどの選手だ。西岡は強い。とはいえ、ここはただでさえ強い奴らが集まる場所。能力はやや霞む。そんな中で今西岡ができることは、確実に玲王の選択肢を減らすこと。

 玲王から凪へ、あるいは宵越へ。オールラウンダーである玲王がポストプレーヤーとして動かれるのが、チームCの攻撃力に繋がる。

 西岡の脳裏に閃く、『このプレーで玲王を自由にしてはならない』という直感。

 

 引き延ばされる一秒。

 

 対峙した玲王は──自力での突破を選択した。

 《カット》だ。だが相手が悪い。西岡は一次選考で飽きるほど宵越のそれを見ていた。

 西岡が辛うじて反応する。玲王の右への動きに食らいつく。そして、二連カットが来ることも想定内。

 続くは左への──チョップドリブル。

 馬狼のスキル。宵越のフェイントとは似て非なる呼吸感。西岡のリズムが乱れ、玲王は正面切っての突破に成功した。中央から先陣を切り裂く。

 その二つの技術を見て、玲王に並走する左翼の凪が放った。

「玲王も変わったね、まるで宵越じゃん」

「そうだ、俺も変わったんだよ……誰かさんのせいでな!」

 玲王に凛が立ちはだかる。初のマッチアップだ。

 七色の熱を秘めた玲王。冷徹な思考も併せ持つ彼は、凛の裏を抜けた蜂楽へ繋げた。

「いつになく熱いじゃん玲王っち!」

 さらに蜂楽から右翼の清羅へ、清羅は西岡の頭上を越えるようなトップスピンのパスで宵越へ。

 宵越VS.士道。

「俺たち仲良し爆発だぁ♪」

「誰が仲良しだ金髪野郎!」

「同じドラゴンだぜ?」

「黙れてめえは悪魔だろうが!」

 宵越は即座の勝負を避けた。だがそれは逃げではない。後ろから、自分に食らいつき、全てを呑み込もうとする熱を感じたから。

 士道から離れるようにカットでやや後方へ下がりつつ、凪にしたようにシュート級のカーブパスを──玲王へ。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 宵越の受け手を考えない荒業パスを、玲王はしっかりと受け止めてみせた。それは連携ではない。お互いの呼吸を揃えられるほど二人の関係は成熟していない。

 宵越×凪と同じ、スーパープレーのぶつけ合いだ。

(ここまでの戦いで……俺の戦い方が見えてきたんだ)

 このプレーは玲王の、文字通りの覚醒の瞬間だ。玲王が玲王(自分)を知る瞬間だった。

 確かに玲王はトップ6のような真正の強さを持ってはいない。それでもゴールを奪った瞬間が確かにある。

(思い出せ……自覚しろ!)

 4thステージでゴールを奪い、世界選抜を相手に一矢を報いたのは、己の器用さで敵の虚を突いたとき。テクニックとか、パワーとか、スピードとか……純粋な実力ではなくて、誰かの真似をしてその場に適したカードを出すことができたからだ。

 空間と同化し、相手を攪乱し、最後には己の舌で敵を捕らえる。カメレオンのように。

(つまり、俺の本当の武器は──突出した技術がないからこそ選べる無数の選択肢)

 玲王が求めるのは、世界一。W杯(ワールドカップ)優勝。そのための勝ち方にこだわりなんてない。

(器用さこそが俺の才能だと──開き直れ!)

 そして奪え、トップ6の強さを。

 馬狼のチョップドリブル。

 宵越のカットや《回転》。

 士道の縦回転蹴弾(ドライブシュート)

 凪のボールトラップ、そして()()()のオフ・ザ・ボール。

 

 凛の裏から抜け出した玲王がゴール前へ。けれどこの一瞬、宵越と同じように《熱》に反応した士道が、驚異的な反応速度で玲王の前に立ちはだかった。

「ようやくわかったかぁ!? Mr.カメレオン!」

「うっせえクソ悪魔……國神の代わりだ、リベンジしてやる!」

 ボールをキープしつつ肩からぶつかり、身をひるがえして士道の身体を起点に体を反転させる──それは4thステージで宵越を出し抜いた荒業だ。

「そうするよな? もちろんわかってるぜぇ!」

 当然、士道も気づいている。士道はあえて自分の身体をぶつけてみせた。

 わかっている。自分の能力はまだ発展途上。あらゆる状況に、あらゆる選択肢を切るにはまだ経験が足りない。

 さすがに士道と凛の二人を同時には裁けない。

 けれど、玲王は悲観しない。なぜなら──

 

「玲王! 俺がいるっ」

 

 そこに(相棒)がいるから。

 喜びに震える。細胞の全てが歓喜に呑まれる。

 パスを選択する。シュートなら間違いなく士道に防がれていた。あるいは、凛にボールを奪われていた。

 今ならパスは邪魔されない。雪宮を宵越が、蟻生を蜂楽が、西岡を清羅が封じている。

 凪は1トラップでボールに命を吹き込んだ。凛は身をひるがえして凪に集中した。

 凪と凛。対峙は2回。二次選考の3rdステージ、そして4thステージ。凪は全力のシュートモーションを空砲(フェイク)に使い、二段式空砲直蹴撃(にだんしきフェイクボレー)という神業を放って見せた。

 だからこそ凛は凪を警戒する。どんな形であっても凪はゴールへの道を切り拓く力を持つ──士道に似た常識外れな能力を持っているから。

 来る凪のシュートモーション。全力の振りだがボールの表面を掠めるのみ。

 やはりフェイク。しかしボールは弧を描き、再び玲王の下へ。

「イエス、ボス。パスを出せって、聞こえたからね」

 士道の裏を抜けた玲王が脚を振り切る。

 ゴールネットが揺れ動き、ホイッスルの甲高い音が刻まれた。

 これが、御影玲王の新しい強さ。シュートこそ地力だが、そこに至るまでのプレーこそ玲王の真髄。カメレオンによる複写(コピー)能力だ。

 

 

────

 

 

 スコア2‐3。

 快哉を上げる玲王を見ている宵越は、額に滴る汗を腕で拭う。

 そして笑った。

「あいつ、面白れぇ進化しやがって」

 内心としては、少し悔しい。なんせ、先人の長所を学習して自分のものとする──それはカバディ時代、なんども自分がやってきたことだからだ。

 カットや《バック》こそ自分の強みを活かしているが、回転、《ドゥッキ》、守備の目線……全て、その技術を使いこなしてきた先人がいる。

「いいぜ、俺もやってやるよ」

 この試合、まだ宵越はノーゴール。凪と玲王のサポートに回りっぱなしだ。

「負けられねぇよな」

 プレーが再開された。凛が後方の蟻生に繋げる。二人は二次選考でチームを組んでいた。その試合数は少ないとはいえ、支配的傀儡サッカーが得意な凛にとっては蟻生の限界を引き出すことは造作もない。

 蟻生は首を振り、連携できる相手を探す。必然、協調性があるのは西岡だ。

「青森のメッシ。繋げるぞ」

「了解っ」

 さらに、凛を含めてトライアングルを形成する。果敢にゴール前への侵入を試みる士道と雪宮を餌とする。確実にボールを前線へ押し上げてくる。

 宵越たちチームCは辛うじて守る。宵越が凛へ、清羅が西岡へ、凪が蟻生へ。体格や能力で拮抗する相手を潰す。一瞬の油断も許されない攻防。

 凛と士道が二人がかりで連携してこないのが彼らの弱点ではあるが、それに助けられていた。

 凛から目線を離さず、宵越の思考が縦横無尽に駆け巡る。集中力が跳ね上がる。

(俺がトップ6として勝ち切るなら……)

 わかっている。トップ6がゴールを得るために必要なのは、相手に合わせることではない。相手を自分に合わせることであり、つまりは。

(圧倒的な《個》ってやつだ)

 動き出し、パス、シュート。全て己の独断。故に意思決定のラグは(ゼロ)であり、あらゆる能力があって初めて実行できる強者だけの特権。

 それを宵越は持っている。事サッカーにおいては。

「凪」

「なに?」

「ほんの少しでいい。凛の相手、任せるぞ」

「おっけ。どの道リベンジするつもりだし」

 宵越、凪とスイッチ。蟻生がボールを持った瞬間を見計らって、宵越はこの試合最長身選手に立ちはだかった。

「不倒……やはりオシャな」

「どーも。ところでその話し方、なんとかなんねえのか?」

「これはのオシャを表現するためのもの。オシャを消すなど言語道断」

「あいよ。じゃあ──勝たせてもらうぜ」

 蟻生が宵越を抜きにかかる。蟻生は西岡と共にトライアングルの後方であり、宵越は凛のルートをわずかに開けていた。さすがに蟻生も罠だとわかる。

(となれば、選択肢は)

 トライアングルではなく、一点突破の士道──と見せかけて雪宮。

 蟻生にとって、パスの相手は凛、士道、雪宮の誰でもよかった。誰にパスを回してもゴールの予感がする。不倒という同世代のサッカー選手にとって羨望の的、蟻生にとって唯一無二のオシャを持つ宵越竜哉が相手でも、十分に勝てる。蟻生にとって余裕の勝負。

 士道に向けてボールを蹴る。

「流れに身を任せる。それもまたオシャし」

「だよな。だったら、後出しで勝たせてもらうぜ」

 宵越はパスを予想してカットするのではなく、出されたパスに後から追いつくことを選択した。

 宵越が『0から1へ』というクイックネスを武器とするためにできることだ。そしてアイソレーションによる予備動作を見せないフェイント。『0.99999……から1へ』という武器でもある。

 蟻生を置き去りにし、すぐさまドリブルへ。雪宮を独力で躱す。凛は凪が辛うじて防いでくれていた。その0.5秒があれば、宵越はどこまでも前へ突き進んでいける。

「やろうぜぇたっつん!」

 突っ込んでくる士道とのマッチアップ。

「お断りだクソ悪魔!!」

 士道のタックルを躱──さない。宵越はパワー勝負を選択した。二次選考で馬狼相手に仕掛けた勝負と同じだ。

 士道に勝ち、さらに加速する。残るはブルーロックマンとの一対一。

(俺は……不倒だ!!)

 総合力No.1の凛、得点力で他を凌駕する士道。二人にだって負けはしない。

 ボールはゴールネットを揺らした。

 スコア、3‐3。チームCは追いつく。それだけではない。これから追い越していくのだ。

 

 

 








・現在の状況:適性試験第2試合(A対C)
チームA:凛、士道、雪宮、蟻生、西岡。
チームC:宵越、凪、蜂楽、玲王、清羅。
スコア:3-3
得点者:凛、凪、雪宮、士道、玲王、宵越

Q15 U-20 VS BL11について、貴方の読みたい展開は?

  • 宵越にBL11傑として戦ってほしい!
  • 宵越と士道でU-20代表で戦ってほしい!
  • 士道はBL側で宵越のみU-20代表入り!
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