適性試験、第3試合が始まる。
B+馬狼、我牙丸、雷市
VS.
C+二子、斬鉄、黒名
ビブスの色は変わらない。宵越たちチームCは水色のカラフルビブス、そしてチームBは白のビブスだ。
トップ6の烏と乙夜はともかくとして、敵味方に知り合いがいた。
「やっとてめぇをぶちのめせるぜぇ、《不倒》」
馬狼照英。3rdステージで因縁ができた独裁の王だ。
宵越は不敵に笑った。ジャンクションエリアで再会した時にも感じたが、馬狼は死に、そして帰還してきたのだ。
「はっ。やってみろよ」
宵越の口角がつり上がる。
馬狼だけじゃない、他の面子も癖が強そうだ。
「やってやらァ! セクシーフットボール!」
ギザッ歯金髪、威嚇が過ぎる雷市陣吾。
「一次希望はCだったけど……ま、いっか」
逆に覇気を感じない、自然体というよりは忘我にも見える野生児、我牙丸吟。
一方、三次選考で宵越たちが奪った二子、そして敵対した黒名。二人は宵越の味方だ。
「よろしくお願いします」
「氷織と雪宮は別チーム行きやがったからな」
「僕は自分のプレーを貫ける人と組む。それだけです」
「宵越も二子も。よろしく、よろしく」
「ああ……ずっと敵同士だったが、頼むぜ」
もう一人、味方の剣城斬鉄は凪と旧知らしい。二人で話している。
「世界選抜ぶりだね、斬鉄」
「ああ。ここであったが百年目だ。……合ってる?」
「違う。それ敵相手だし、割と最近だし」
再会の会話もそこそこに烏が手を叩いた。
「御託はええっちゅうねん。はよ始めるで」
「でいでい」
宵越は目を細めた。トップ6の説明の時に下克上を突きつけられたことを忘れない。
「お前らも凛たちには負けた口か」
「人のこと言えんのか不倒。あ、負けたからもう倒れてんなぁ」
「てめぇ……乙夜共々ブッ倒してやる」
「よろしく、凪ちゃん。ニンニン」
「うぃっす、乙夜ちゃん。エイエイ」
『三次選考最終課題《適性試験》第3試合、《B》VS.《C》!』
アナウンスと共に、ボールが蹴られた。
出だしは烏から乙夜へのボール回しが中心となった。時折烏から雷市・我牙丸にボールが出される。しかし基本はNo.4・5が戦略を組み立てている。馬狼は触らせてすらもらえない。
「ずいぶんお利口な戦い方じゃねぇか」
宵越が烏の前に立ちはだかった。シンプルなマンマーク。実力の高い宵越だから、
「うっさいわボケェ。お前も絵心のアホさにやられたんかい」
「なわけねぇよ。だが、前も凜と士道のバカコンビがやらかしてたからな。ずいぶんと真っ当な連携だと思ってよ」
「それが
──宵越VS.烏、マッチアップ!!
ボール保持者である烏が、宵越を避けようと試みる。当然宵越は付いてくる。だが烏は決定的に抜こうとはせず、あくまで宵越との間に一定の
二人が右翼で静的な攻防を繰り広げる。そこから少し
「さすがのオフ・ザ・ボールだ、忍者」
乙夜影汰。その武器は、凛を凌駕するほどの裏抜け。敵の死角からフリーエリアへ飛び出すという点においては
一方の凪は先の試合でも示したようにトラップ技術が武器だ。それはオン・ザ・ボールでこそ輝く。今の状況では乙夜に分があった。
凪を抜く乙夜。そこへ烏がパスを出す。二人の連携は
だが、烏のパスは二子にインターセプトされた。
驚く烏が宵越を見る。不倒の表情は、悪魔のような引きつった笑みとなっていた。
「悪いな。こっちはほとんど同窓会なんだよ」
一次選考、宵越と黒名。三次選考、宵越・二子、凪・斬鉄。
全員が大方の呼吸をわかっている。知らないのは宵越と斬鉄くらいだ。
連携の質が劣っているなら、数の暴力で蹂躙する。
二子が雷市の圧に負ける直前に、斬鉄に渡した。その斬鉄はいきなりトップスピードで左翼を駆けあがる。左翼後方にいた我牙丸を置き去りにした。
「斬鉄、こっち!」
その凪の掛け声に、斬鉄は従順に答える。乙夜が斬鉄の死角からボールを奪う直前、ボールは凪に渡された。
凪は1トラップでボールを黒名へ。黒名の正面には馬狼がいたが、小刻みなステップへ反応することはできなかった。馬狼を抜いた黒名は、一次選考、二次選考と常に敵対していた味方へ繋げる。
宵越竜哉は、烏を振りほどいて前線へ上がる。
「連携が大事だってのは俺も学んだ。一朝一夕でも、勝たせてもらうぜ」
宵越の左脚が閃く。ボールはゴール左上角へ吸い込まれた。
スコア1‐0。順調な立ち上がりだった。
快哉を上げる宵越。それぞれ好意的に合図を交わす二子と黒名、凪と宵越。一方のチームBはほぼ沈黙で、馬狼を中心に剣呑な空気が漂っている。
だがやはり、最初の一点ごときでメンタルが崩れるわけがない。
烏が自分の頭を叩いた。
「はいはいインプット完了。凪誠士郎も不倒も変わらずムカつくやっちゃのぉ」
と、烏の眼が深淵を覗いている。
プレー再開までの間。宵越は凪に話しかけた。
「やっぱ
「4thステージ。馬狼も斬鉄もいた」
「なるほど。知らないのは雷市と我牙丸……結局は同窓会ってことかよ」
「その二人は、俺や斬鉄と同じ棟だった」
宵越はずっこけた。
全くの初面子が一切ない試合というわけだ。
宵越は記憶を探る。烏と面識はなかったはずだが、向こうが自分を知っていてもなんらおかしくはない。
烏の眼が燃え盛っていた。
「ほな、アウトプットといこか」
プレー再開。烏が蹴ったボールは乙夜に。最初のプレーと同じ堅実な立ち上がり。故に、点を奪ったチームC側は戦略を変更する必要はない。愚直に勝てる手を打っていく。
宵越が烏についた。
「また来るかいな」
「何度でもな」
「嫌やわぁ。お前まで
「俺をあの語彙力貧相と一緒にすんな!」
「鏡見て言ってるんか?」
宵越が詰め切る前に、烏はボールを乙夜へ渡した。だが、乙夜はまだ凪を躱しきれていない。その中でのオン・ザ・ボール、No.5と6が己の得意分野以外のところで戦いを始める。
その裏、ボールを持たない状況で烏が宵越に詰め切った。1点目の宵越を避けるプレーとは真逆のスタイルだった。
宵越はわずかに眼を見開いた。烏が嫌な笑みを浮かべてくる。
「お前は接近戦が苦手──自由に走らせたら何するか分かったもんやないけど、こうすりゃただの凡や」
「さて、どうだろうな」
烏は執拗に宵越が前線へ出るためのコースを潰してきた。スピードや身のこなしでは勝てないからこその選択だ。
だが、烏の言にはいくつか見落としがあった。宵越には烏を躱せる実力があった。
シンプルに、当たり前の結果として。宵越は突破を試みる。
だが。宵越と烏が競り合う、その後方から殺気が襲った。
「
それは馬狼の雄叫び。烏へ集中していた宵越の意識を妨げた。
「なっ、キング……!?」
ボールがない状況にも関わらず、ダブルプレスの形で宵越の動きを潰してきた。馬狼の体幹は宵越を凌駕する。必然それは勝ち筋の見える戦いだ。
「……非凡キングやけど、二次選考の映像見てよかったわ。その執着、利用させてもらうで」
宵越が唸った。
「てめぇ烏……!」
烏が離れ、フリーになる。それでも馬狼は執拗に宵越を追いかける。
その一方、ボールは乙夜・雷市・我牙丸を軸に少しずつ宵越たちの自陣へ押し込まれていた。対峙するは凪・二子・斬鉄だ。
連携は凪たちに軍配が上がる。だが今度は純粋な能力で突破された。雷市が二子を、我牙丸が斬鉄をその膂力で制し、乙夜が技術で凪を殺す。
「前の
自陣左翼。凪の死角を乙夜が抜き去ったのだ。
「凪ちゃんはボールを持たせなきゃ凡。
乙夜がボールを蹴り、シュート──ではなく抜け出した烏へのパス。その烏へ飛びついたのは黒名蘭世。
「阻止、阻止」
「お前もやるやん4番。でも、不倒と比べたら凡やわ」
飛びつく黒名を、烏はまたも手を伸ばすことで制した。小刻みに動く黒名の初動を利用して重心をずらす。そして
ハンドワーク、そして他の選手の弱点を見抜く観察眼。
《殺し屋》。それが烏旅人のサッカー。
そして、乙夜影汰は──《忍者》。死角を狙い一瞬のうちに刺す。文字通りの必殺のスタイルだった。
黒名を制した烏が、一瞬の間をおいてボールを乙夜へ繋げる。これが二次選考を勝ち上がってきた二人の連携。
乙夜が前線でヘディングシュートを決める。スコア、1‐1だ。
宵越と乙夜、トップ6による得点。ランダムに選ばれた6人はまだ沈黙していた。
始まる3点目。宵越が凪へと渡したボール。何度か2人でのパス交換がなされた後、唐突に烏がインターセプト。
「あっおい烏──」
「おい甘ちゃん非凡。カメレオンがいないとチカラ半減かいな?」
「……」
すぐさま烏から雷市へボールを繋げる。そこに立ちはだかる宵越竜哉。
宵越と雷市のマッチアップ。
「不倒……俺のセクシーフットボールは負けねぇぞぉ!」
雷市がボールを持ったまま宵越とぶつかる。《セクシーフットボール》とはなんなのか。
「熱いじゃねぇか……!」
体格は自分が勝るが、肉弾戦では勝ちきれない。宵越はボールを刈り取ることを選択した。
雷市は辛うじて馬狼へボールを繋げた。
今度は馬狼と斬鉄が向かい合う。
二人も因縁があった。一次選考では斬鉄、凪、玲王が馬狼を蹂躙した。二次選考では馬狼たちが斬鉄を奪った。
「勝負、キング!」
「うっせぇバカメガネが!」
斬鉄の武器は、宵越とは異なる速度、爆発的な加速力だった。つまり、瞬間の速度は宵越を凌駕する。
馬狼が小刻みなタッチで斬鉄を翻弄していく。斬鉄は必死で馬狼に食らいついていた。
勝負は平行線。しかし馬狼は簡単にはパスを出さない。孤独な王故の弱さだった。
「そこが限界やろ、非凡キング」
殺し屋──いや、この場においては盗人が正しい。烏は馬狼からボールを奪った。
「この、クソ烏!」
そして烏が前線へ。三度宵越が立ちふさがる。
宵越が接触プレイを比較的不得手としているのは互いに理解している。それでもパワーなら宵越に分があった。そのための宵越の選択だった。
「だから無理言うとるやろ。自分の渾名忘れたか?」
烏が手を伸ばす。宵越が突っ込めば肘を支点に遠ざけ、左右から近づこうとすれば今度は肘を曲げて動きをずらす。その間合いの制し方は、まるでサッカー選手とは思えないいやらしさだった。
(懐かしい感じだ。まあカバディは
とはいえ。
宵越の強さはサッカーだけではない。カバディは宵越にぶつかりながらの戦い方を与えた。それはハンドワークも同じだ。
宵越は負けない。隙を探して烏を出し抜こうとし、まさに今実際に出し抜きかけた。
けれど、烏も
「アホか。誰が不倒と勝負するかい」
「あ? てめ、まさか──」
「不倒、勝負勝負ー」
間の抜けた声だった。馬狼のような殺気はない。
声の主は我牙丸吟。瞬発力と全身のバネによるアクロバティックプレーを得意とする、野生児。
その野生児が今、馬狼の殺気に紛れて宵越に忍び寄っていた。
烏・我牙丸による宵越へのダブルプレスだ。
抜け出した烏が、今度は自分でシュートを決めた。
その様子を憎々し気に見る宵越。
「他人を使うのがずいぶんうまいじゃねぇか、クソ烏」
「羨ましいか? 連携は凡やったのォ不倒も」
「……」
烏はカラカラと笑った。さすがに宵越のことをよく知っている。
自分では勝てないことがわかったから、馬狼や我牙丸を利用した。その上で自分の強みを活かして敵を制する。
これには宵越も称賛するしかない。
「勝てる勝負しかせん主義でな。非凡からは逃げ回るで」
スコア、1‐2。
この戦いも、一筋縄ではいかないようだ。
・現在の状況:適性試験第3試合(B対C)
チームB:烏、乙夜、馬狼、我牙丸、雷市。
チームC:宵越、凪、二子、斬鉄、黒名。
スコア:1-2
得点者:宵越、乙夜、烏
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