青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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No.4 初戦の熱

 一次選考、第1試合。チームX対チームZ。

 

『一次選考はお前らのいる伍号棟、5チームによるリーグ戦だ』

『上位2チームが勝ち上がるサバイバルマッチ』

『お前たちが当たり前に妥協しているポジションなんてものは、ただの役割でしかない。サッカーの原点はあくまで《ゴール》を決めること』

『本来は全員がFW……点を取ったやつが一番偉いんだよ』

『これは0から1をつくる戦いだ』

 

 初戦開始前、主催である絵心からの言葉があった。脳裏に焼き付く『0から1』という言葉。宵越には、思い当たるものがある。

「さあ──切り開くぜ」

 キックオフ。宵越が蹴ったボールは、寸分違わず西岡の下へボールが届く。

「助かる、宵越」

 BL(ブルーロック)ランキング265位、西岡(はじめ)。《青森のメッシ》とも呼ばれる彼は、全国でも有名な選手だった。同世代と比べればドリブルセンス、小柄ながら恵まれた身体機能を持っている。加えて冷静さもある、全能力の高いオールラウンダー。それが西岡。

 最初、チームZが決めたポジションは宵越を右、西岡を左のツートップとした4-4-2の布陣だ。それを拒否する我の強い奴もいたけど、二人の名声が圧倒的なだけになし崩し的にこうなった。

 対して、相手の布陣は──何もない。

「予想通りの……お団子かっ」

 西岡はあくまで冷静に毒を吐いた。

 敵の3番、4番、5番が雪崩のように突っ込んでくる。ポジションも戦略もわからない初心者や子供がやるようなお団子サッカーが、西岡の目の前で展開される。

 だが、予想はしていた。これだけFWだらけの戦略もクソもない試合、そうなるだろうということはどこかで分かっていた。

 だから。

「メッシ来るぞ!」

「止めろ止めろ!」

 3番をフェイクで躱す、4番のタックルを体で受け流す。5番と相対した頃には──敵味方問わず馬鹿みたいに人がなだれ込んでいる。

 だから、西岡はそのほとんどの頭をかすめるロブを挙げた。

 群衆が呆気にとられる中で、あざ笑うようなボールが向かう先は──

「さあ、復帰戦だ。お手並み拝見だ、《不倒》」

 BLランキング266位、宵越竜哉。

「助かるぜ」

 現在地、ゴールまで残り40m、右翼。『0から1』へ、宵越は加速する。

「不倒が来るぞぉ!」

 不倒。それは接触の多いサッカーにおいて、倒された(ファールを受けた)ことがないという超常のプレーから生まれた渾名。全国トップ4まで躍進した神童の名前や称号は、西岡以上に知れ渡っている。

 その名の通り──

 西岡に向かわなかった8番を置き去りにする。他の面子を、味方さえも、お団子サッカーから復帰する時間など与えない。

 2番と7番のダブルプレス。だが。

「ぬるいぜ」

 かつてカバディにいた時、躱さなければいけないたくさんの守備(アンティ)がいた。80kg、異常な体躯、指先をつかまれるだけで吹き飛ばされる化け物共。それを躱してきた。宵越自身も身長187.5cm、体重75.2㎏。軽い守備(ディフェンス)なんて眼じゃない。

 プレスした2番に当たり、それを起点に小ロブ。視線が宵越からボールに逸れた隙に7番に当たる。さらにボールもないのにスピンルーレット。2人抜き。

 ゴールまで残り30m。ほとんどお団子サッカーだったせいで、もう残りはGKのみだ。

「初戦とはいえ、こんなもんかよ。温いぜ、絵心……!」

 0から1をつくれ。それはつまり戦略性のないサッカーから最初の指針をつくれ、という意味だ。

 全員が考えない無のお団子サッカーは、戦略もクソもない0の状態。そこから1をつくるには、戦略をつくるにはチームの特徴が必要になる。その特徴を型創るのはつまり、圧倒的な才能(1つの型)を持つ選手。

(だよな……部長、六弦!)

 チームプレイなら、選手ごとに特色がある。その特色をできる限り排して完全な駒となるのも一つの戦略だが。

(0から1……何度もやって来たんだよ!)

 23m付近から、宵越の黄金の右脚が閃いた。俊足一閃、DFもいなければFW上がりの実質初キーパー。相手は動くこともなくボールがゴールネットに突き刺さる。

 今、チームZの0が1へと昇華した。

「おっしゃ!」

「さすが不倒!」

「宵越さん、さすがっす!」

 仲間たちの歓声、最後に七星が飛び込んでくる。宵越からすれば、コイツの態度はどうも調子が狂う。

「だぁ! じゃれつくな!」

 西岡がやってきた。

「脚はなまってないみたいだね」

「たりめーだ。誰にも負けるつもりはないからな。味方(お前ら)にも」

 一方、敵はこの1点だけで焦り始める選手もいる。

 相手からすれば、ただでさえ有名選手が2人いる。サッカーを辞めたという噂があった宵越も、中学時代以上の技術を持っている。お団子サッカーでは勝てるわけがない。

 それに、これでチームZの1が完成したのだ。得点力のある選手を活かすために、味方はDFやDMF(ボランチ)の役割をすすんで引き受ける。チーム全体で勝てば、得点王の座は必要ないのだから。

 この1点は、宵越やチームZの最初の1点であり、戦略の基盤となる1点であり……あらゆる意味を包括する1だ。

 だが、それでも宵越は油断しない。

「で、次もこのままでいくか? お前ら」

 宵越は敵ではなく、味方に向かって声をかける。

「0から1は示した。でも、別にお団子サッカーを怒りはしねえよ。ここは世界一のストライカーを生み出す場所なんだろ? 俺の1だけで足りると思うか?」

 宵越が青い監獄(ブルーロック)に来たのは、世界一のストライカーになりたいからじゃない。もちろん世界一への渇望はある、けれど一番の目的は自分と同じように熱を持つバカがいるかを確かめることだ。

 自分が一番で、全て勝って終わり。そんなものは、宵越が求めるブルーロックではない。

「0を1にしようともがくのも、1を100にしようと身を粉にするのも合理的な選択だ」

 宵越の瞳に、熱が宿る。

「だがお前らもストライカーだろ? 俺に負けていいのかよ?」

 チームZに。一人一人の魂にも、熱が宿る。

「さあ、切り替えるぞ。相手の攻撃だ」

 1-0。プレー再開、相手ボールからキックオフ。

 まだ、チームXのプレーには指針がみられない。最初のほぼ全員が突っ込むわけじゃないけど、それでもDFもFWの差もないように感じられる。

 宵越はそこには突っ込まない。集団からやや離れた自陣側に立つ。西岡も同様に、中央の集団から離れた場所にいる。

 自チームに発破をかけたけど、それで考えなしに突っ込む味方はいなかった。あくまで冷静に、隙あれば自分がゴールを狙うために、今はそれぞれの役割に徹する。そんな雰囲気が感じられる。そのあたりはさすが日本人であり、選び抜かれた300人のストライカーと言ってもいいかもしれない。

 宵越は思考する。

(さて、次に警戒すべきは──)

 お団子集団からボールがロストされた。運悪く宵越から離れた場所へ飛んでいくボール。そこに再び群がる選手たち。

 その時、敵10番が動いた。

 恵まれた体格を持つ10番は、誰よりも速くボールを持つ。敵も味方も引きはがし、フィジカルとスピードに任せて強引に前線へ上がってくる。

「抜かれた!」

「止めろ!」

 失敗した味方の叫声は、もう宵越の耳には届かない。

(いやがったか、警戒すべき奴が)

 西岡と並んでCF(センターフォワード)にいる宵越だ。味方の中で最も早く敵10番と相対することになる。

 そして、サングラスをかけた敵10番は──

「困るなあ、俺は平和主義者なんだけど」

 宵越とマッチアップ。宵越が狙うのはボールではなく、選手そのもの。ボールに気を取られていてはボールそのものは奪えない。宵越は体を敵10番にぶつけるが──

「《不倒》宵越。やっぱり接触プレーは苦手だよね」

 宵越は押し負けた。相手の重心を崩すには至らず、辛くも敵10番は駆け抜ける。

 さらに、七星が敵10番へ。だが七星はまだ技術面が未熟だ。あっさりと抜かれてしまう。

 宵越の時よりは守備が整っていたが、それでも敵10番は結成したばかりの未熟な穴をついてきた。連携をとる前に次々と1対1の状況に持ち込んで敵を躱していく。

 0から1を作り上げた自分たちが、次に警戒すべきこと。それは敵が1をつくること。誰もが窮地に立たされる初戦は、自分たちが1をつくり敵を0にさせたままならほぼ確実に勝てる。

 だが、現れてしまった。敵側にも、0から1をつくる力を持ったエゴイストが。

 健脚を余さず振り切った力強いシュートが放たれた。ボールは一度浮き上がり、急激に落ちながら外に逃げていく。

 やはりFW上がりのGKにはまず取れない無揚力蹴弾(ジャイロシュート)が、炸裂。

 スコア、1-1。

「平和主義者だと? 笑わせるぜ」

 宵越は汗を垂らしながら、それでも敵を見つけて笑みを浮かべる。

 抑えるべきは、敵10番。

 BLランキング243位、チームXのトッププレイヤー。

 名は、雪宮(ゆきみや)剣優(けんゆう)

 

 

 

 







・背番号:宵越(9)、西岡(10)、七星(7)、雪宮(10)

・現在の状況:チームX対チームZ
 スコア:1-1
 得点者:宵越、雪宮

あなたは《ブルーロック》と《灼熱カバディ》を……

  • 両方とも読んでる。
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