適性試験第3試合。スコア、1‐2。
たった今ゴールを決めたのは烏旅人。
「相変わらず、良いコンビネーションだこと」
ボールをセンターマークに置く、プレーとプレーの間。凪が呻いた。無気力な凪にしては珍しく、感情が見える。
だから、気になった。宵越は口を開いた。
「お前……結局烏たちに勝ったのか? 負けたのか?」
「別に、勝ったけど」
「どうやってだ?」
「んー……斬鉄も馬狼もいたんだけど」
凪は頭をかいた。接戦だったらしい。
「最後は、夢で勝った」
「夢ぇ?」
一瞬だけ沈黙。その後、爆笑。
凪が不服そうに目を細めた。他の仲間たちも集まってくる。
「なんだよ宵越……馬鹿にすんの?」
「いや? いいじゃねぇか。そういう《最高》は嫌いじゃない」
宵越も馬鹿にすることはできない。最善と共に最高を求めること。それは何にも勝る快感だ。
3on3、4on4、そして世界選抜、どれも綿密な戦略なんてなかった。言ってしまえばアドリブでやって来た。だからこそ馬狼を下せたし、士道に勝ちきれなかった悔しさはあっても全員得点しつつ勝利できた。そして、ルナを躱して得点できた。
今回も同じ、ということだ。
「つーわけで、お前ら」
振り向く。二子、黒名、斬鉄がいた。
「即興かますぞ」
「慣れてますよ」
二子がグローブをはめ直した。
「了解、了解」
黒名が軽く垂直跳び。宵越の戦い方を敵として理解しているからこそ言えた。
「ん? ああ、
「ちげーよ」
斬鉄はよくわかってないようだが、まあいい。
4点目が始まる。今度は凪から宵越へのキックが鬨の声となる。
宵越は二子・黒名の丁寧なパス回しを中心としつつ、凪・斬鉄の速度とトラップを飛び道具として扱うマイボール状態を堅持する手を選択した。無理に攻めない、烏が乙夜との連携を中心に堅実なプレーをしたのと同様だ。
「ビビってんのか? 倒れんからじゃない、倒れたないから《不倒》かいな」
烏が宵越に張り付いてくる。寄せが早い。凛がそうであったり、一次選考での雪宮がしたのと同じ。チームのキーマンとも言える宵越を殺すための動きだ。
宵越も馬鹿ではない。烏との即座の勝負を避ける。『接触=死』を意味するカバディを経て、さらに鋭敏化した敵との距離を取る動きだ。クイックネスで烏から遠ざかり、烏の寄せを消し去る。
「バカ速いやんけ。相変わらずムカつくわぁ」
「そりゃどうも──!」
刹那、黒名が凪へ向けたパス。そのスピードパスを凪は1トラップで──普通であればあり得ないテンポで宵越の前線へボールを繋げた。
凪がトラップで、宵越が機動力で受け取る。烏が詰める前に、凪へ返球し返す。凪は宵越へ。その繰り返しで烏を躱す。
「行かせるかボケェ……!」
「行かせてもらうぜ。何度も同じ手でやられるかよっ!」
「いいパス回しじゃん、凪ちゃんっ」
「忍者の裏取りも手強いからね。烏の言う通り、非凡からは逃げるよ」
ボールは一気に前線で駆け上がる。中央突破。馬狼は二子が位置取りで、我牙丸は黒名が体ごとぶつかって殺す。
そして中央敵陣ゴール付近に来たところで、凪が唐突に宵越へのパス供給を止めた。
ボールは後ろに控えていた斬鉄へ。
「行けるっしょ? 斬鉄」
「いえす、うぃーきゃん」
「Yes,I canだし」
突然の伏兵に、比較的至近距離にいた雷市と乙夜が辛うじて反応。
それでも、斬鉄のシュートは止められない。
(アイツ……俺より速い、爆発的初速か!)
最初の1点目でも斬鉄の走りは光った。使える、いや
斬鉄の左脚が爆ぜた。カーブシュートは大きく弧を描いて、ゴール左上角へ吸い込まれた。
「ナーイス、斬鉄」
「凪。これで俺も汚名挽回だな?」
「汚名は返上ね。そもそも汚名被ってなかったと思うけど」
二人が激しくハイタッチ。
スコアは2‐2。再びの同点だ。
「なるほどな、そのバカのスピード。宵越のせいで意識が薄れとったわ」
烏の眼から余裕が失われつつあった。乙夜は表情こそ余裕そのものだが、それでも負けることを許さない熱がある。
「二度目はないで」
「ないで、ないで」
「真似すんなや乙夜」
プレーが再開する。乙夜キックからの烏キープ。馬狼のような異分子がいるし、突飛な行動をしがちな
だが2‐2の場面。ここで変化が生じた。
凪が乙夜からボールを奪ったのだ。自分の力で。
「おっ凪ちゃんっ!?」
「自分が刺されるのは慣れてないよね、忍者」
凪が優位な姿勢で宵越へパスする。そこに驚きつつも付いていく宵越。連動してパスを仕返し、要所で後方の二子へヒールパス。
雷市の裏を取り、フリーでボールを持った二子。
宵越は理解していた。凪を中心にチームが活性化している。
(そこに乗らない手は……ねぇよなぁ!)
右翼の宵越、そして左翼の凪が前線へ駆ける。
チームCの両翼。そしてその外側で駆け上がる
「そこですね」
中央後衛、二子の眼が輝く。白い世界の中、感じる黒い光があった。
「伍号棟じゃ煮え湯を飲まされたけど……今は頼もしいですよ、凪くん」
二子の蹴った山なりの軌跡は、左翼の凪へ向かった。
その先にいる乙夜との間へ落ちる。
この試合では既に何度も繰り返された、凪と乙夜のマッチアップ。それも、今はまるで違う様相となった。
向かってきたボールを、凪は自身の膝・肩へと順に向かわせた。常人であればまずできないし、発想すらしないダブルタッチ。そうして裏を抜けようとする乙夜を視界に入れつつ凪は前へ駆けた。
「負けないよ凪ちゃん」
「知るかよ忍者」
わかっている。凪は自分の実力を。トラップ以外は乙夜に負けてしまうことを。
それでも乙夜に勝った経験があり、自分の《夢》は世界一すら凌駕する可能性を秘めていることを。
ドリブルを進める凪の後ろから乙夜が迫る。裏を抜けようとしている。敵陣中央の攻防。
凪は急停止した。乙夜と凪がぶつかり──凪は身体を回転させてボールを運びながら乙夜のタックルを受け流して見せた。同時にボールを敵陣右翼の宵越へ。
「おー、アクロバティック」
受け取り、烏に追いつかれる前に即座にドリブルを開始する宵越。シュートレンジにはまだ遠い。後ろに烏、正面に馬狼。自分でのシュートも不可能ではないが──今見たいのは、凪の《熱》。
一連のプレーを見て分かった。宵越は考える。
(凪は……確かに才能の原石だ)
たった数日間だが、練習とプレーを重ねて理解した。同じサッカー歴半年の玲王も十分化け物だが、凪のタッチセンスやボールの衝撃をコントロールする能力はまさに天性の才だ。
宵越自身、これを学ぼうとは思わないほどに。同じ道を目指すなんて時間の無駄だと、五体がはっきりと告げているのだ。
(だが……)
凪には、同じ異物感を覚えたカバディ時代のヴィハーンや、世界選抜と比べたら恐怖は感じない。
簡単に勝てるとは思わない。それでも大した脅威には感じない。それが宵越の、現在の凪に関する確かな印象だった。
熱はある。実力も才能も十分。それでも感じる、その熱があらぬ方向へ霧散してしまう儚さを。
凪は潔に執着していた。そして玲王に対する思い入れもある。先の第2試合のように。そうした時にこそ発揮されるのだろう。
だとしたら、凪は常に死力を尽くすことを求められるこの
その無自覚な熱が、果たして指向性を持つことができるのか。
(俺にできるのはまあ……見定めることだけだ)
宵越はボールを蹴った。チームAとの戦いの時と同じ。シュート級のスピードパスを凪へ向けて。
凪の
その無数の選択肢の中、凪の右脚が閃いた。
全員の静の意識を置き去りにする。ノートラップの縦一閃、
「
脱力によるトラップができる。そして死んだボールに命を宿すこともできる。
かつて凪は、二次選考で撃つと見せかけた
だからだろう。この土壇場で不慣れな
重ねてきた練習でも、敵の数万歩を己の一歩とする発想でもない。ただ偶然の思い付きと発想という《夢》。
宵越は凪へ近づいた。手を挙げる。
「……」
「なに? ハイタッチ?」
凪が返した。狙ったにしては間抜けな音だった。まだ、宵越はそういった他者との交流が苦手だった。
「見届けてやるよ。お前のこと」
「うぇー、偉そう。でもいいや」
凪の眼が、燃えていた。
スコア、3‐2。
「ちゃんと見ててよ。俺が世界一になるとこ」
・現在の状況:適性試験第3試合(B対C)
チームB:烏、乙夜、馬狼、我牙丸、雷市。
チームC:宵越、凪、二子、斬鉄、黒名。
スコア:3-2
得点者:宵越、乙夜、烏、斬鉄、凪
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