No.44 赤き灼熱の世界から
日本のビッグニュースとなった以上、マスコミも多い。TV中継もされている。
となれば欠かせない施設もある。
『本日は
快活で淀みない青年の声だった。
すり鉢状に広がるスタジアムの中、特等席からフィールドを一望できる実況室があった。
『実況は私、
『はいよろしく! 夏木です』
照朝、そして大きな額の壮年解説者、夏木。これまで、二人で多くのサッカーの実況を盛り上げてきた。
だがその二人にしても、特別壮行試合という名目の一戦は珍しい。プロとしての冷静さと共に、どこかこどものような無邪気さが声に出ていた。
『さあ日本国民が注目するこの一戦! 試合開始までおよそ15分、すでに観客からは熱狂を望む声援が轟いています。いかがですか? 夏木さん!』
『いやぁもうサイコーですねぇ! なんなんすかこれ!? これからのU-20日本代表を左右する一戦だから、もう昂らないはずがないよねぇ!』
『そうですねぇ! それでは、順に両チームのフォーメーションを確認していきましょう!』
実況の声と共に、TV中継画面やスタジアムのスクリーンには試合前解説による情報が流れていた。
U-20日本代表(4‐3‐3)
・CF:
・LWG:
・RWG:
・OMF:
・DMF:
・LSB:
・RSB:
・CB:オリヴァ・
・GK:
★主将:オリヴァ・愛空
『注目の糸師冴はやはりトップ下のポジション!』
『ま、順当だねぇ! なんたってPIFAが選ぶ新世代
テレビに関わる人間だ。順当に有望株を解説するのは彼らにとって当たり前の選択である。
照朝は続けた。
『忘れてはいけないのは、イタリア1部リーグからオファーもある19歳大型DF……キャプテン、オリヴァ・愛空です!』
『彼が頭角を現してから、U-20の堅守速攻にも油が付いてきた!』
『DF陣の鉄壁の守備が売りのチームですね!』
『糸師冴が合流してメリハリがついたねぇ! じゃあ熱人くん、次行こうか!』
BL11傑(4‐2‐2‐2)
・LCF:糸師凛(FT)
・RCF:宵越竜哉(ST)
・LMF:潔世一
・RMF:凪誠士郎
・DMF:烏旅人(L)/氷織羊(R)
・SB:蜂楽廻(L)/千切豹馬(R)
・CB:二子一輝(L)/蟻生十兵衛(R)
・GK:我牙丸吟
★主将:糸師凛
『ストライカーだらけの急造チーム、まったくの未知数です。夏木さんとしてはどうみますか?』
『ほとんど知らない選手ばかり……でも注目選手はいるよ!
『なるほど、天才糸師冴の弟! 去年全国制覇もした彼がU-20日本代表に挑む──兄弟対決というわけですね!』
夏木が喉を鳴らした。
『あとは──そう、彼だよ!』
実況席。マイクを整え、机の上のメモ帳を叩く。
『《不倒》宵越竜哉! 春の大会にいなかったから引退したって聞いてたけど……まさかこんなとこにいるなんてね!』
不倒、宵越竜哉。サッカー界はもちろん、サッカー誌や他のスポーツ界にもその名は知れ渡っていた。
事実、カバディに転向した宵越は初心者ながら《不倒》の名をもって注目されていたのだ。巨大市場となったこの一戦を前に、注目されないわけがなかった。
『なるほど、回帰した第二の天才!
『きっと面白い試合になるねぇ!』
『選手たちの活躍に期待しましょう! 間もなくキックオフです!』
────
スタジアムには試合開始を今か今かと待ちわびるサッカーファン、ミーハーな日本人が集まっていて、盛り上がりはどんどん膨れ上がっている。
その中で、観客席のある場所で。ワイヤレスのイヤホンを片方ずつはめて、この解説者たちの実況を聴く男子が二人いた。
『《不倒》宵越竜哉! 春の大会にいなかったから引退したって聞いてたけど……まさかこんなとこにいるなんてね!』
「クハハッ! そりゃ予想できないよな。不倒が
「
「そりゃ、今の台詞を引き出した張本人だぜ? 俺は」
意地の悪い笑顔を抱えた能京高校カバディ部、元副部長。高校卒業を目前に控えた
井浦の隣に座っているのは、同じく能京高校カバディ部、元部長。カバディ中学選抜、世界戦経験者。世界組5番、
「どうよ、正人。あいつに最後の攻撃を奪われた身としては」
「もー、相変わらず慶は嫌なことを……」
王城はしょぼくれた。
王城正人。見てくれは虫も殺せなさそうななりをしている。ただそれは彼の一面でしかない。彼が、例えばオリヴァ・愛空のような大男を簡単に転ばせることができる能力を有していると言ったら、このスタジアムの3万人を超える人間のどれだけが信じるだろうか。
そんな王城は、宵越竜哉の先輩であり、目標であり、ある種ライバルでもあった。
「まあ、僕としては……こう言いたいね」
カバディ。世界ではともかく、日本では圧倒的マイナースポーツに他ならない。
それでも世界を目指して、日本一の踏んだ人間が見る景色は、メジャーもマイナーもクソもなく、境なんてものはどこにもない。
王城正人の脳裏には、宵越たちと共に大会の頂点に立った景色が映っていた。
そこでは、王城がカバディへの《愛》を唱え続けていた。敵は、カバディに対する己の《使命》を真っ当した。
宵越はその戦いの中で、《最善》と《最高》を証明した。
「見せてもらうよ竜哉、君の《使命》と《愛》を」
井浦は口角を釣り上げた。
「じゃあ俺は──負けたら《ナイトエンド》の生主をばらしてやろうかね」
二人から少し離れた場所では。
「あれ? そういえば、部長と副部長は?」
精悍な顔つきで、カラフルな縁の丸眼鏡をかけた──能京高校カバディ部一年、
「ああ、たしか……紅葉の人たちと一緒に観るって言ってたべ」
坊主頭に整った顔立ち、小柄だが瞳に熱をたたえた男。同じく一年、
二人は座り、スタジアムを眺めた。この試合、チケット倍率は高すぎたが、何人かは集まって席をとることができた。
「わぁ……! こんな舞台でサッカーするんだ、宵越君!」
桃色の長髪、一見して女子にも見える。だが一年部員、
「宵越さん……信じていました」
もう一人の声は、歓声に呑まれて周りに聞こえなかった。だがカバディ部員はいつも一年、
「さすがに会場の盛り上がりがカバディよりすげぇなぁ……!」
「あはは。畦道君、あんまり詳しくないしそりゃ驚くよね」
「関は……確か相撲だったっけ? どうだべ」
「国技館も広いけど……さすがに勢いは違うと思うよ。それにサッカーは今、糸師冴が人気だ。それこそ、半年前の宵越くんの注目をかっさらうくらいに」
「そっかー。でも、宵越は違うべ?」
「そうだね」
全員、宵越竜哉がサッカー界から消えた半年間を知っている。
カバディ部の一年は、宵越という仲間を知っている。
だから、畦道相馬は──不倒を初めて倒した男は、相棒の活躍を楽しみにしていた。
「見せてくれよ、宵越。お前の《灼熱》」
糸師冴ほどではない。それでも、宵越を知っている人間がいる。
別の席にも。
「うおおー! 宵越!! 宵越ぃー!!!」
「監督! 宵越のサッカー久しぶりっすね!」
────
チーム
「やあやあ、遅くなった」
スーツ姿の絵心甚八がロッカールームに入った。
「ギリギリまで悩んだが……ベンチ入りメンバーが決定した。いつでも試合に入れるよう、自分をコントロールするのを怠るな」
・乙夜影汰
・雪宮剣優
・雷市陣吾
・御影玲王
・馬狼照英
・時光青志
・黒名蘭世
・七星虹郎
・清羅刃
・西岡初
・剣城斬鉄
・五十嵐栗夢
試合開始10分前にして、すべての準備が整った。
「この2週間、お前らはこの試合に勝つためだけに、チームを完成させることに成功した。世界はまだお前らを知らない。最高の舞台だと思わないか?」
例えば、凛と宵越は日本サッカーではそれなりに知名度がある。けれど、
宵越も否定しない。
今、自分は不倒であり、能京高校カバディ部6番であり──
「この90分で運命を変えろ。勝つぞ、
お前のエゴを、今日世界に刻め。
斉唱。それは絵心のためではなく、
自分のための斉唱。
ロッカールームを出る。既に白を基調としたユニフォームのU-20日本代表は既にフィールドへ続くゲート前に控えていた。
スターティングメンバー、22名が整列し、そしてフィールドへ。
歓声と怒号がフィールドを震わせていた。
何度も経験していた空気。試合の前の緊張と高揚。クソ度胸を持つ宵越は緊張なんてないが、敵や仲間のそれを感じる。今なら感じ取れる。
(……懐かしい)
観客の数こそ未知の領域だが、それ以外はどれも経験している。夜を照らす人工灯の光も、冬に駆ける身体から出る白い息と蒸気も。歓声の煩さがノイズとなり、むしろ静寂となって審判の声が良く聞こえる現象も。
燃える世界の気持ちよさも。
入場のセレモニーを終え、それぞれの配置につく。
宵越の近く、凛が潔に近づいていた。
緊張していた潔の背中を凛が力の限り叩いた。痛そうだった。
「ぬりぃな。何ビビってんだバカ」
「ハッ、ワクワクだっつーのっ」
「いいじゃねぇか、お前ら」
宵越もその環に加わる。凛は不服そうだった。
潔が返した。
「宵越は……やっぱり、変わらないな」
「まあな。緊張したところで勝利には繋がらん」
「それで俺に勝てた試しがあんのかよ」
「うっせー、黙れ凛」
「お前ら……」
潔が呆れ果てた。
2トップは、こんな状況でも変わらない。
凛が始まりを告げるキッカーとなる。センターマークへ向かう。
宵越は潔に声をかけた。
「潔」
「なに?」
「お前、どうしてサッカーやってるんだ?」
「なんだよ、藪から棒に」
一秒の間。
「わからないけど、今ここでサッカーをしてる理由なら言える。俺は、俺のゴールで勝ちたい」
「そうか」
宵越は笑った。
突然質問された理由なんて、潔にはわからないだろう。
宵越には
凛をはじめ、11傑のほとんどは試合を共にした。けれど、感じるものがあった潔だけは、まだ同じフィールドに立っていない。
だからこの試合は、潔を知るための戦いでもあった。
不倒からの言葉。それでも潔は震えない。強者ではなく、仲間として宵越を見返す。
「俺は、最善を尽くすためにサッカーをしてる。行くぞ、全員で勝つために」
「……ああっ」
潔は返してくれた。
ホイッスルが鳴る。
これが《不倒》宵越竜哉の、サッカーへの復帰戦になる。
これが
今までの宵越の試合は、トライアウトの凛・士道戦を除き全て原作にないオリジナルのものでした。
しかし、今回は違う。ついに原作潔の軌跡と宵越の軌跡が交わりはじめた瞬間でもある。
作者もこれまでとは違う困惑と高揚を感じています。
さあ、決闘開始──!
・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :0-0
得点者 :
試合進行:前半0分経過(開始直後)
残交代枠:BL11傑(3)、U-20日本代表(3)
BL11傑(4‐2‐2‐2)
・LCF:糸師凛(FT)
・RCF:宵越竜哉(ST)
・LMF:潔世一
・RMF:凪誠士郎
・DMF:烏旅人(L)/氷織羊(R)
・SB:蜂楽廻(L)/千切豹馬(R)
・CB:二子一輝(L)/蟻生十兵衛(R)
・GK:我牙丸吟
★主将:糸師凛
・控え:乙夜、雪宮、雷市、
御影、馬狼、時光、
黒名、七星、清羅、
西岡、斬鉄、五十嵐
U-20日本代表(4‐3‐3)
・CF:閃堂秋人
・LWG:超健人
・RWG:狐里輝
・OMF:糸師冴
・DMF:若月樹 (L)/颯波留 (R)
・LSB:蛇来弥勒
・RSB:音留鉄平
・CB:オリヴァ・愛空/仁王和真
・GK:不角源
★主将:オリヴァ・愛空
・控え:士道、他11名