青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

5 / 52
No.5 1 → 100

 

 

 チームX対チームZ。

 スコア1-1。点を決めたのは、宵越竜哉、そして雪宮剣優。

 お団子サッカーだった最初の0から、両チームはそれぞれ1を示した。生き残らなければ、サッカー選手として死、あるのみのブルーロックだ。両チーム、油断は露ほどもない。

 チームZファーストキックからのリスタート。最初の展開と同じように宵越が西岡にボールを渡す。

 しかし次の展開は違った。誰も無計画にボールに向かって突っ込んでこない。自分が点を取らなくてもチームが勝つための《1》を、どちらのチームも見出したからだ。

 ボール保持者である西岡は優秀なプレイヤーだが、他の選手だって選び抜かれた300人のストライカー。簡単に抜かれはされず、西岡は後ろにいた七星にパスを回した。

 そんな中、宵越の目の前に雪宮が立ちふさがった。オフ・ザ・ボールの時の立ち合いの基礎、敵をフリーにさせないための間合いだ。

「《不倒》宵越竜哉。戦えて光栄だよ」

「抜かせ。お前は……」

「雪宮だ。覚えてくれると助かる」

 知らない名前だ。だが強敵なのはわかる。この1年ほどで伸びてきた選手か。

 軽いステップで雪宮を躱そうと試みる。その瞬間、雪宮は体をぶつけてくる。

「君のことは当然知ってる。簡単に抜かせはしない」

 回避技術はピカイチの宵越だが、雪宮のフィジカルもなかなかのもの。体をぶつけられては簡単には引き離せない。

 得点者同士のマッチアップ。一方、七星が味方8番へ出したパスは敵にインターセプトされた。相手ボールになる。

 ふいに雪宮が走り出す。宵越も追いかけるが、並走に留まる。

「絵心さんの『0から1』の説明、他のチームにもしたとは思うけど。不思議なことを言うよね」

「あ?」

「少なからず、武器は誰にでもある。だからFWにいるんだ。もちろん得点王ルールもあるけど、誰もが1を持ってるだろう」

「だから『0から1』の発見は無駄だと?」

「そう。僕はドリブルが武器だ。宵越君のスピードには勝てない、でも1対1なら誰にも負けない」

 雪宮が急加速した。フィジカルで宵越を押しのけ、宵越に迫るスピードで余裕を生ませない。

 抜け出した雪宮の一瞬のフリー状態。敵4番がロングパス、雪宮がボールを持つ。圧倒的な1を持った選手にボールが集まったのだ。

「いかせるか……!」

 いや、それも防がれる。雪宮を追う宵越に立ちふさがる敵選手たち。

 その一瞬、雪宮はさらに加速。チームZを振り切り、雷速でゴールを決めた。

 スコア1-2、ビハインドだ。

 

 

────

 

 

「ど、どうしましょう宵越さんっ。このままじゃあ……!」

 リスタートの準備の最中、七星がそんなことを言った。宵越のゴールで勢いづいたかと思いきや、気が付けば劣勢。その状況に七星は慣れていないらしい。

 だが宵越は、何度も劣勢を経験している。残り一秒で負けが決まる瞬間から同点まで凌いだこともある。

 この程度、焦る理由にはまったくならない。

「落ち着け、七星」

 頭をガシガシと叩いた。

「お前はまずその心根を何とかしろ。お前ストライカーだろうが」

「宵越さんっ……」

「最後の最後まで諦めるな。そして最後の最後まで、敵が諦めていないことを忘れるな」

 宵越は振り向く。視線には西岡。

「作戦?」

「ああ。西岡、お前の実力……利用させてもらうぜ」

「了解。やっぱり、変わったね」

 リスタート。再び宵越は雪宮とマッチアップ。

 だが、今度は宵越から動いた。

「1対1なら負けないと言ったな。こっちはハナから、サシでやる気はねぇんだよ……!」

「行かせない──!」

 雪宮も抜け出そうとする宵越に食らいつく。だが、宵越はそれを躱す。

 スピードじゃない。持ち前の回避技術でだ。

「……!」

 雪宮は中学時代の宵越を知っていた。だから得点者でありながら、自分だけがチームの中で宵越に体で競り勝てると踏んでマークしてきた。

 だが、雪宮は知らなかった。宵越がこの半年間、ボールを持たない状態で敵を躱してきたことを。

 フィールド右翼、前進方向に駆けた2人。だが宵越だけが()()()()()()()()()()()()()()()()()カットイン。中央へ向かって切り込む。同時、仲間からパスが回ってくる

 それにただ負ける雪宮ではない。出遅れたものの、辛うじてくらいついてくる。宵越が中央でフリーになる時間は、わずか0.5秒。

 ボールを持てば雪宮に追いつかれる、わずかな時間。

「負けない!」

「ハッ、そりゃ1対1の話だろ!」

 1と1同士がぶつかり始めた。次に必要なのは戦略だ。

 宵越は受けたパスをダイレクトにパスした。その先は──七星。

 驚愕したのは、西岡をはじめとした敵味方全員。

 オフ・ザ・ボール。驚愕した雪宮の一瞬の死角をかいくぐり、

「七星!」

 叫んだ。七星は即座にパスを返してくれる。

 ボールが向かってくる。場所はフィールド中央、やや敵陣ゴール寄り。

「させるか……!」

 再びの雪宮のプレス。対し、宵越は再びの、ダイレクトパス。今度は西岡へ。

 宵越の最初のゴールが眼に焼き付いていたのだろう。宵越がボール保持者になった時、敵全体が一瞬身構えた。その隙を狙っただけの、宵越自身が囮になるだけの作戦とも言えないような作戦。

 それでも、単調な戦略の積み重ねが、ブルーロック初戦では意味を成してくる。

 ボールと群衆は、少しずつ相手ゴールへ近づいていく。

 パス回しを継続する西岡自身、落ち着いてはいたけど驚いているのも事実だ。

(あの不倒が進んで連携をとろうとするなんてね)

 神童、宵越竜哉。だが彼を良く知るサッカー選手なら、宵越が自他共に厳しくて連携に難があることも知っている。

 その宵越が、エゴをむき出しにされるブルーロック初戦で、自分にボールを集めようとせずにむしろ味方を立てようとは。

 それだけじゃない。宵越から受けるパスは正確に足元へやってくる。その技術と共に感じるのだ。

 

 ──次は、七星に回せ──

 ──今なら、撃てるだろ──

 

 宵越と西岡という全国のトップレベル同士だからかもしれないが、相手の意志がボールを通して伝わってくる。だから西岡も、寸分違わず次に行ける。

(この半年間で、いろいろあったんだろうな)

 西岡は身震いする。

 宵越の進化は、一層油断できないことを伝えてくる。

 青い監獄(ブルーロック)では、誰も彼もがライバルだ。

 そんなパス回しの中、宵越は雪宮を翻弄していた。

 決して肉薄せず、雪宮を躱し続ける。確かに体格では負けるから常にマークをはがすことはできないが、持ち前の回避技術があれば一瞬だけ遠ざけることは簡単だ。

 そしてその一瞬は、宵越の技術をもってすればダイレクトパスが可能。

 ただ、動きは激しい。だんだんと、だんだんと、お互いの息も荒くなってくる。

「……くそっ!」

「不思議か? 雪宮。俺がどうして、味方を立てるか」

 返事はなかった。ただ、サングラスの中の瞳が焦ったように睨みつけてくる。それを促しと受け取って、宵越は続ける。

「互いのチームに1が生まれた。チーム内で1と1がぶつかり合っても、せいぜい2になるだけだ。ここから1を10に、100にするには味方を()()()()()()ならねえ」

 当たり前のこと。きっと、どのチームにも1は生まれる。早晩チーム内で話し合わなければならないことだ。1と1が合わさることによる連携を。

「絵心は『3点取って負ける方がいい』なんてことを抜かしやがったがな。ざけんなよ、俺は負けるのが大っ嫌いなんだよ……!」

 宵越が、今度は完全に雪宮を抜き去った。今度はダイレクトパスじゃない、ドリブルで前進する。

 シュートが狙える距離まで来た。

 敵を2人躱し、しかし初得点の時とは違う、相手DFも密集している。

 そこで宵越は──バックヒールパス。

 前のめりな敵を置き去りに、ボールは宵越についていたフリーの七星へ。

 七星もまた、わかる。

「そこっすね──宵越さんっ!」

 宵越は右翼へ。敵を引き付け。

 七星はロングパス。狙いは左翼、前方の西岡。

 有無を言わせない直撃蹴弾(ダイレクトシュート)が、ゴールポストへ突き刺さる。

 スコア、2-2。けれど先の3点とは違う。サッカーとしてのそれぞれの役割が生み出したシュート。

 この1点は重かった。

 宵越は敵の攻撃に備えて後退する。その先には、膝に手を当てて息を切らす雪宮がいた。

「くそっ……」

 疲れと共に、少しの違和感を宵越は感じた。だが今はそれを気にしてる場合ではない。

リスタート、相手ボール。パス回しはこちらと比べればまだ拙い。

 雪宮は疲れ切っていた。もう、宵越に食らいつく余裕もないらしい。

 再び宵越はフリーとなって、けれど敵の予想を嘲笑うかのように時にパスを放ち、時にドリブルで前進する。時間がたてばたつほど敵の要である雪宮の機動力が落ちていくなら、じっくりと責めるのが最善手。

 それでも、雪宮は宵越を追い続ける。

 プレースタイルが変化したことには、もちろん戸惑っていた。けれどそれ以上に、味方への信頼を持つ宵越が、以前とかけ離れたプレーをしていることに衝撃を受けた。

 雪宮はまだ無名選手だったころ、宵越と対戦したことがあったから。

(俺についてこいとでも言いそうな、そんな絶対的なプレイヤーだったのに……!)

 別にそれで自分の1対1の皇帝スタイルのドリブルを磨いたわけではないが。それでも、衝撃が強い。

 対複数の対峙が苦手なのは確かだ。

 そんな雪宮の葛藤を理解しているかのように。宵越は雪宮を躱し、だが雪宮の本領を発揮させないようマッチアップを続けて、そうして事実を突きつけてくる。

「お前のスタイル、マンツーマンのドリブルは確かに圧倒的な1だ。だがその1を別の1と掛け合わ(連携さ)せなきゃ、俺たちには勝てない」

 宵越の加速、突き放される。雪宮のチャージ、躱される。

「残念だったな、連携不足は俺も通った道だからよ。ここで同じミスをするわけにはいかねぇんだ」

 さらに──宵越の姿が雪宮の視界から消える。

(消え──)

 それはどうしてだ。宵越が本当に消えたのか。それとも自分の眼がおかしくなったのか──

「今日のところは、勝たせてもらうぜ──!」

 声は背後から聞こえた。振り向いた。予想外の挙動だったから、翻弄された雪宮の足腰は限界にきて、そしてもつれ、膝を折った。

 雪宮はおろか、この場の誰も知らないだろう。カバディですら日本人プレイヤーでは知らないものが多い。

 長身の人間が足を広げた瞬間にその股の下をくぐって躱す──《ドゥッキ》。

 宵越のフリー。再びもらい受けるパス。

 敵は複数の攻撃パターンを警戒する。宵越がそのままドリブルか、それとも宵越のパス回しか。

 初回、お団子サッカーの時ですら宵越にかなわなかった。そこからいくつかのパターンを植え付けられ、初動が遅れるように誘導もされた。もう彼を止める者はこの場にいない。再び宵越は敵陣を切り裂く。最速で。

 ドリブル。最高加速度で引き離し、初速で躱す。

 1を持つ人間が連携する。だからこそ、1は際立ち100になる。

 宵越の蹴弾。外から内に切り込むカーブシュートが炸裂した。

 同時、フィールド全体に響く電子のホイッスル。

TIME UP(タイムアップ)! 青い監獄(ブルーロック)伍号棟第1試合──』

 

『3-2で、チームZの勝利!!』

 

 歓声が上がる。一方で、落胆の嗚咽と、崩れ落ちる沈黙。

 宵越はまだ、表情を表さない。

 何度も勝ってきた。何度も負けてきた。どちらも経験してきた。

 青い監獄(ブルーロック)。負ければ日本代表の選出から永久追放される、文字通り負ければ死が待つ、勝てば生き残る、一握りの生をつかみ取る場所。

 宵越は、この場の誰の顔も見届けない。

 代わりに見上げる。この試合を観察しているカメラ。全ての試合を見届けているであろう、主催へ。

 誰にも聞こえないよう、呟く。

「この程度の生か死か(デッドオアアライブ)なんざ、とっくに経験済みなんだよ」

 絵心に向けての宣戦布告だ。

 経験した地獄はたくさんある。酸素が切れて、けれど一瞬も休めない無間地獄の殴り合いも。

 夜明けを迎えた神からの怒涛の猛追も。

 使命を持つ日本一との頂上決戦も。

 まだまだ初戦だ。それでも、熱は生まれる。

 勝者には喜びを。

 敗者には、負けて得る熱を。

 そして頂点を見る者には──

「もっと持って来いよ……灼熱を」

 宵越は昂る。

 青い監獄に、熱が広がる。

 

 





・結果
スコア:Z(3)-(2)X
勝者 :チームZ
得点者:宵越、雪宮、雪宮、西岡、宵越


 《ブルーロック》《灼熱カバディ》は言うまでもなくスポーツ漫画です。激しい戦いの描写が必要で、しかもどちらも画力が高い。これを文字だけの小説で表すと言うのはもちろん圧倒的難易度なのですが、だからこそどんな文章が書けるのかを試したいとも思っています。
 「面白い」「楽しみだ」「ここがよかった」ももちろんですが、「ここがわかりにくい」「ここの迫力がない」「ここが単調だ」なんて感想も、積極的にお待ちしています……!

《灼熱カバディ》未読者に印象をお聞きします。《不倒》宵越はブルーロック(初期)で……

  • 最強だと感じる。
  • 最上位レベルだな。
  • 平均的レベルかな。
  • 弱いだろ。
  • 《灼熱カバディ》既読者用ボタン。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。