・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-3
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道
試合進行:若月⇒士道交代、後半5分経過(50)、士道ゴール
残交代枠:BL11傑(3)、U-20日本代表(2)
後半戦開始からわずか5分。スタジアムは、歓声で震えている。
この戦いは、特別壮行試合。あくまで全員が日本の選手だ。国際試合とは異なり、どちらか一方を応援しない観客もいる。
その中で、どちらが勝つかわからないシーソーゲーム。点を重ねるたびにボルテージは上がっていく。
そして今、やはり無名の選手が劇的なゴールを決めた。
『U-20 13番士道龍聖が……衝撃の同点ゴーール!!』
実況の叫び声など、ピッチの上に届くはずもない。だが勢いは歓声によって膨れ上がり、確実にBL11傑を圧迫していた。
「うっひょー……今のは無理っしょ」
蜂楽が髪をかき上げた。彼自身自由な性格で、敵味方を問わずスーパープレーには感嘆せずにいられない。いや、今の冴のパスと士道のプレーは、呆れでしかなかった。
「止まらないですね……」
精一杯止めようと努力した。それでも止められなかった。二子は悔しさを噛みしめた。
「あれが糸師冴と士道龍聖の化学反応」
感覚的に己のゴールを求める士道と、理詰めで精細なパスを絶えず供給する冴。
4thステージ、そして
(あのプレーぶりが本性じゃなかった)
全力であったのは確かだろう。あの4thステージは互いの死力を尽くした。
だが、まだ先があった。
(クソ野郎の癖に……昂らせてくれるじゃねぇか──!)
怒りと楽しさが同時にやってくる。口角が不自然に上がっていく。
だが、その表情も長くは続かなかった。
「くっ……」
BL11傑の後ろで、1人うずくまり地に倒れた。
それが伍号棟の頃からのチームメイトのうめき声だったから、潔が真っ先に反応した。
「千切!? 大丈夫かおい!?」
イレブンが駆け寄る。特に、潔、凪、烏など。千切と共に戦ったメンバーたち。
「あぁ……いや、足つっただけ……」
潔が千切の右脚をストレッチする。赤髪の美少年は、苦悶の表情を隠せない。
宵越は遅れて千切に駆け寄った。
後ろからそれを見つつ、チラリとベンチを見やる。
忙しく動くメンバー。そして監督──絵心に指示を受け、ベンチコートを脱ぎ準備する選手が1人──
「千切。お前はよくやったよ」
潔が一通りのケアを済ませ、言った。千切も理解した。交代だと。
「クソが……」
仲間たちが千切を立たせる。
「大丈夫、歩ける」
「……ああ」
「お前ら、負けんじゃねぇぞ」
「もちろんや」
「当然、お嬢」
辛うじて歩いていく千切。宵越は、どう声をかけるか悩んだ。
元々、チームメイトとのトラブルでサッカーから離れた宵越だ。コミュニケーションが得意なわけじゃない。今までだって、言葉ではなく信念とプレーで仲間を引っ張ってきた。
だが、今ここに宵越の励ましを求める者はいなかった。
千切が呟いた。
「まだ……超速は残ってる」
「千切」
「頼むぞ、宵越」
それは、質が違えどスピードを武器にする者たちの共鳴だった。
「ああ。任せろ」
ただ一言。それでいい。
言葉はいらない。全力で、真摯に、貪欲にやっていれば、仲間は勝手に増えていく。
『あーっとここで
審判が掲げる、それぞれの背番号。OUTは4、INは14。
『14番・御影玲王選手の投入です!』
BL11傑 御影玲王
『どうやら
『あんな同点ゴール見せられたらねぇ! 流れはU-20日本代表が掴んでるよ!』
・LCF:糸師凛(FT)
・RCF:宵越竜哉(ST)
・LMF:潔世一
・RMF:凪誠士郎
・DMF:烏旅人
・WB:蜂楽廻(L)/氷織羊(R)
・CB:二子一輝(L)/御影玲王(C)/蟻生十兵衛(R)
・GK:我牙丸吟
プレーの合間。情熱を高め、けれど冷徹に戦況と役割を見極める時間。
「
「
「いいじゃん♪
「燃えてるね、蜂楽くん。いいで、付き合ったる。エグいパス渡したるから」
そんな
「結局
「笑わせるんじゃねぇよ、烏」
「あ? なんや《不倒》ボケェ」
「まだ、俺はゴールしてない。それで働いた、とか言わねぇよな?」
「はっ……だったら結果で示せや」
烏と宵越が、仲良くメンチを切り合っている。そんないつも通りの風景を無視して、3B体制となった守備陣はそれぞれ声をかけあっていた。
「──っていう絵心の指示だ。左右頼むぞ、蟻生、二子」
「俺に任せろ。お前たちの能力が輝くよう、オシャな後光を作ってやる」
「今度は共闘ですね、玲王くん」
「はっ、まだ伍号棟のボロ勝ち根に持ってんのか? 4thステージでチャラだろ」
「ですね……でも、
二子と玲王の共闘はただ1度のみ。世界選抜戦だけ。
「ああ、だな」
空気が告げている。プレー開始まで、あとわずか。
玲王は、一人のストライカーに声をかけた。
宵越でも、潔でも、凛でもない。
「おい、凪!」
凪が振り返った。
「決めろよゴール。お前はこんなもんじゃないだろ」
「うん、知ってる」
「勝たなきゃ全部終わるんだ。俺たちは、ここで終わるには早すぎる」
「うん……知ってる」
プレーが始まる。スコアは3‐3。まだ同点。
きっと次の1点が、試合を左右する。それはBL11傑にとっても──U-20代表にとっても。
────
ボールが蹴られる。凛が潔へボールを渡した。
交代したのは千切と玲王だけであり、またMF以降のポジションには一切の変更がない。ただ、そこはストライカー共の巣窟たる
ドリブルを続ける潔は思考を加速させる。
(今までは2
覚醒しつつある士道や他の前衛を、玲王を含めた3B体制できっちりと守りきり、烏が攻守のスイッチとなって攻撃を組み立てていく形だ。
そのために必要なのは、前衛の確実かつ激烈な攻撃。
そして、その期待は
(……)
汗が滴る。
隣を走る
「お前ら、クソ悪魔に一発やられた程度で腐ってねぇだろうな」
返したのは
「うっせぇよ。こっちはあいつを下すっていう復讐があんだ」
「黙れ。クソ悪魔を殺すのは俺だ」
「珍しく気が合うじゃねぇか」
「クソが」
その罵り合いと共に、変わらず
その驚異的な動きに、前線にいながらついていけないストライカーがいた。
(クソ……!)
チームとしての役目は確かに果たしている。ある時は凛と動き、ある時は凛・宵越と烏・氷織を繋いでいる。
だが、ゴールは決めることができていない。
ハーフタイム、絵心に言った言葉は事実だ。ゴールを狙う気でいる。それに、自分が主役なのだと信じている。自分が世界一のストライカーになるのだと、奮迅している。
それでも、足りない。
(凛……冴……士道! ……宵越!!)
覚醒し、周りに熱をくべる、呆れるほどわかりやすい才能を持った
チームとして勝つのはいい。それは
けれど。
──俺は……俺のゴールで勝ちたい!──
ストライカーとしての欲求がせめぎ出す。
頭を振る。一瞬だけ顔を覗かせた絶望を、何とか振り払う。
凛のシャドウ。相棒として絵心から選抜された。けれど進化したフィールドを前に、今その座を宵越に奪われている。それでも。
(足を止めるな!)
一歩を踏み出す。
(諦めるな! 最後の最後まで、最後の1秒まで……戦い続けるんだ!)
冴に、士道に、愛空に、凛に、宵越に。勝つために。
(勝つための手段を、考え続けるんだ!)
潔にボールが回る。
潔自身は卑下しても、凛の呼吸を、潔はチーム内で誰よりもわかっている。だから辛うじて、連携を維持できる。仁王を躱し、蛇来を翻弄することができているのだ。
けれど。悪魔と天才は止まらない。
潔の死角から、
「この間よりつまんねぇプレーじゃん、潔世一!」
「なっ!?」
視野の広い潔だが、この時、敵のCF──
「チッ」
舌打ちする凛。パスカットに反応し、即座に意識を防御へと切り替える宵越。
悔しさで顔をぐちゃぐちゃにゆがめる。それでも。潔は顔を上げる。後方を見た。
「すまん! カウンター警戒!」
頼むぞと、意志を込めて叫ぶ。
当然、了解するDF陣たち。
その中で、ただ1人。潔と同等の悔しさを噛みしめるストライカーがいた。
「来ます、玲王くん」
「いくぞ玲王」
────
『御影玲王』
交代劇の最中、絵心は靴紐を締める玲王に言った。
『お前を投入する理由はただ一つ。士道を止める、という役割だ』
この試合、絵心の中には攻守問わず無数の戦況がシミュレートされていた。
スターティングメンバー11人はレギュラー発表の時に語った役割を基本としているが、ベンチメンバーとなりうる23人には、それぞれの役割を想定した課題を与えていた。
玲王はそのために、DFとしても練習をこなしていた。
潔の表情。声なき声を、玲王は受け取る。
(わかってるよ……)
BL11傑、DF陣。
だが、蟻生は天性の自己陶酔で状況に適応しているし、我牙丸はその奔放さでGKとしての役割を受け入れていた。二子はストライカーとしての矜持はあるが、自身の守備の眼の強さを自覚している。なにより、守備の快感に目覚めつつある。
SB及びWBは、そのポジションからゴールを奪う可能性もある。蜂楽と千切の動きを見ればそれは明らかだった。
ただ1人、玲王は役割に徹しつつ、けれど悔しさをにじませている。
潔の今の表情の所以が、少しだけわかる。
(
二次選考3rdステージで凪と。4thステージでは士道と共闘し宵越と戦った。だから、潔の気持ちがよくわかる。
(それでも、諦めたくはないよな)
玲王とて、DFでサッカー人生を終えるつもりはない。自分が望むのはW杯優勝であり、ストライカーの称号だ。
(俺も諦めない。だから)
周囲の光が強くて、自分が暗闇に溺れてしまっても。
(俺が……凪の光になる)
諦めない。唯一無二の宝物を手に入れるために。
攻撃の第一人者たる士道自らが奪った潔のボール。
そしてBL11傑が守備に意識を展開する中、幾度かのボール回しの結果、再び冴が主導者になるに至る。センターマーク付近より、やや
そしてやはり、一点突破の正確無比な超絶パスが放たれる。BL11傑の甘い守備の隙間を縫って、ゴール前に一気に持っていくボール。
反応したのは、士道龍聖。そして。
「抜かせるかよ、クソ悪魔」
御影玲王。
中央後衛、
「は!? Mr.カメレオン──」
その動きは、試合の初めに蜂楽のパスをクリアした動きと全く──99%同じ挙動。
玲王が跳ぶ。士道のために冴が用意した低い弾道のパスをなんとか捉え、ヘディングクリアした。
「99%コピー成功──」
玲王の真髄、全能力の万能性と器用さに特化した
(この力で俺は──もう一度ストライカーを目指す!)
・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-3
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道
試合進行:後半10分(55分)。士道ゴール⇒千切・玲王交代⇒玲王によるパスカット
残交代枠:BL11傑(2)、U-20日本代表(2)