青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

55 / 55


・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-3
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道
試合進行:若月⇒士道交代、後半5分経過(50)、士道ゴール
残交代枠:BL11傑(3)、U-20日本代表(2)





No.55 闇の中で光る

 

 

 後半戦開始からわずか5分。スタジアムは、歓声で震えている。

 この戦いは、特別壮行試合。あくまで全員が日本の選手だ。国際試合とは異なり、どちらか一方を応援しない観客もいる。

 その中で、どちらが勝つかわからないシーソーゲーム。点を重ねるたびにボルテージは上がっていく。

 そして今、やはり無名の選手が劇的なゴールを決めた。

 

『U-20 13番士道龍聖が……衝撃の同点ゴーール!!』

 

 実況の叫び声など、ピッチの上に届くはずもない。だが勢いは歓声によって膨れ上がり、確実にBL11傑を圧迫していた。

「うっひょー……今のは無理っしょ」

 蜂楽が髪をかき上げた。彼自身自由な性格で、敵味方を問わずスーパープレーには感嘆せずにいられない。いや、今の冴のパスと士道のプレーは、呆れでしかなかった。

「止まらないですね……」

 精一杯止めようと努力した。それでも止められなかった。二子は悔しさを噛みしめた。

 

「あれが糸師冴と士道龍聖の化学反応」

 

 感覚的に己のゴールを求める士道と、理詰めで精細なパスを絶えず供給する冴。

 4thステージ、そして適性試験(トライアウト)で何度も士道と戦った宵越は、その変化をまざまざと見せつけられている。

(あのプレーぶりが本性じゃなかった)

 全力であったのは確かだろう。あの4thステージは互いの死力を尽くした。

 だが、まだ先があった。

(クソ野郎の癖に……昂らせてくれるじゃねぇか──!)

 怒りと楽しさが同時にやってくる。口角が不自然に上がっていく。

 だが、その表情も長くは続かなかった。

「くっ……」

 BL11傑の後ろで、1人うずくまり地に倒れた。

 それが伍号棟の頃からのチームメイトのうめき声だったから、潔が真っ先に反応した。

「千切!? 大丈夫かおい!?」

 イレブンが駆け寄る。特に、潔、凪、烏など。千切と共に戦ったメンバーたち。

「あぁ……いや、足つっただけ……」

 潔が千切の右脚をストレッチする。赤髪の美少年は、苦悶の表情を隠せない。

 宵越は遅れて千切に駆け寄った。

 後ろからそれを見つつ、チラリとベンチを見やる。

 忙しく動くメンバー。そして監督──絵心に指示を受け、ベンチコートを脱ぎ準備する選手が1人──

「千切。お前はよくやったよ」

 潔が一通りのケアを済ませ、言った。千切も理解した。交代だと。

「クソが……」

 仲間たちが千切を立たせる。

「大丈夫、歩ける」

「……ああ」

「お前ら、負けんじゃねぇぞ」

「もちろんや」

「当然、お嬢」

 辛うじて歩いていく千切。宵越は、どう声をかけるか悩んだ。

 元々、チームメイトとのトラブルでサッカーから離れた宵越だ。コミュニケーションが得意なわけじゃない。今までだって、言葉ではなく信念とプレーで仲間を引っ張ってきた。

 だが、今ここに宵越の励ましを求める者はいなかった。

 千切が呟いた。

「まだ……超速は残ってる」

「千切」

「頼むぞ、宵越」

 それは、質が違えどスピードを武器にする者たちの共鳴だった。

「ああ。任せろ」

 ただ一言。それでいい。

 言葉はいらない。全力で、真摯に、貪欲にやっていれば、仲間は勝手に増えていく。

 

『あーっとここで青い監獄(ブルーロック)イレブン選手交代です! 4番・千切豹馬を下げて──』

 

 審判が掲げる、それぞれの背番号。OUTは4、INは14。

 

『14番・御影玲王選手の投入です!』

 

 BL11傑 御影玲王

 

『どうやら青い監獄(ブルーロック)はポジションも変更してくるみたいですね!』

『あんな同点ゴール見せられたらねぇ! 流れはU-20日本代表が掴んでるよ!』

 

・LCF:糸師凛(FT)

・RCF:宵越竜哉(ST)

・LMF:潔世一

・RMF:凪誠士郎

・DMF:烏旅人

・WB:蜂楽廻(L)/氷織羊(R)

・CB:二子一輝(L)/御影玲王(C)/蟻生十兵衛(R)

・GK:我牙丸吟

 

 プレーの合間。情熱を高め、けれど冷徹に戦況と役割を見極める時間。

 青い監獄(ブルーロック)のイレブンは、まさにその情熱と冷徹を再現している。

(蜂楽)氷織(ひお)りんはWB(ウィングバック)ね」

B()L()()W()B()、やね。攻撃主体で守備もやれ。相変わらず絵心さん鬼畜やなぁ」

「いいじゃん♪ 千切(ちぎ)りんも走った……俺らも逝くっしょ、最後まで」

「燃えてるね、蜂楽くん。いいで、付き合ったる。エグいパス渡したるから」

 そんな血管(氷織)の言葉を端から見ていた、烏旅人。

「結局こう(1ボランチに)なる気がしとったんよなぁ……過労死したくないで、ほんま」

「笑わせるんじゃねぇよ、烏」

「あ? なんや《不倒》ボケェ」

「まだ、俺はゴールしてない。それで働いた、とか言わねぇよな?」

「はっ……だったら結果で示せや」

 烏と宵越が、仲良くメンチを切り合っている。そんないつも通りの風景を無視して、3B体制となった守備陣はそれぞれ声をかけあっていた。

「──っていう絵心の指示だ。左右頼むぞ、蟻生、二子」

に任せろ。お前たちの能力が輝くよう、オシャな後光を作ってやる」

「今度は共闘ですね、玲王くん」

「はっ、まだ伍号棟のボロ勝ち根に持ってんのか? 4thステージでチャラだろ」

「ですね……でも、()()()()()()()()()()()()

 二子と玲王の共闘はただ1度のみ。世界選抜戦だけ。

「ああ、だな」

 空気が告げている。プレー開始まで、あとわずか。

 玲王は、一人のストライカーに声をかけた。

 宵越でも、潔でも、凛でもない。

「おい、凪!」

 凪が振り返った。

「決めろよゴール。お前はこんなもんじゃないだろ」

「うん、知ってる」

「勝たなきゃ全部終わるんだ。俺たちは、ここで終わるには早すぎる」

「うん……知ってる」

 プレーが始まる。スコアは3‐3。まだ同点。

 きっと次の1点が、試合を左右する。それはBL11傑にとっても──U-20代表にとっても。

 

 

────

 

 

 ボールが蹴られる。凛が潔へボールを渡した。

 交代したのは千切と玲王だけであり、またMF以降のポジションには一切の変更がない。ただ、そこはストライカー共の巣窟たる青い監獄(ブルーロック)。守備が変われば、また攻撃の質も変わる。

 ドリブルを続ける潔は思考を加速させる。

(今までは2DMF(ボランチ)でどこからでも誰からでも攻撃を作る面子だったけど、ここからは違う)

 覚醒しつつある士道や他の前衛を、玲王を含めた3B体制できっちりと守りきり、烏が攻守のスイッチとなって攻撃を組み立てていく形だ。

 そのために必要なのは、前衛の確実かつ激烈な攻撃。氷織(RWB)蜂楽(LWB)が攻撃に参加してくれるとはいえ、元より宵越・凪・凛たちの突破力がなければ話にならない。

 そして、その期待は(OMF)にも。

(……)

 汗が滴る。

 隣を走る(LCF)が、潔の思考を吹き飛ばした。

「お前ら、クソ悪魔に一発やられた程度で腐ってねぇだろうな」

 返したのは宵越(RCF)

「うっせぇよ。こっちはあいつを下すっていう復讐があんだ」

「黙れ。クソ悪魔を殺すのは俺だ」

「珍しく気が合うじゃねぇか」

「クソが」

 その罵り合いと共に、変わらず凛・潔・宵越(トライアングル)プレーで攻める。

 (OMF)(DMF)に接近される前に、宵越(RCF)はフリーな場所を得る。右翼敵陣、蛇来(LSB)も読んでいるその場所。宵越は蛇来と互角に渡り合う。《カット》で無理矢理にスペースに抜け、《回転》で予想外の角度へ強力なパスを出す。凛《LCF》に繋げる。その凛もまた、宵越が超技術を使いこなすことを前提にして動き回る。

 青い監獄(ブルーロック)の攻め気は十分、凛も相乗効果で燃え滾る。DMF、SB、敵の守備陣をことごとく抜かしていく。

 その驚異的な動きに、前線にいながらついていけないストライカーがいた。

 

 青い監獄(ブルーロック)11傑 潔世一

 

(クソ……!)

 チームとしての役目は確かに果たしている。ある時は凛と動き、ある時は凛・宵越と烏・氷織を繋いでいる。青い監獄(ブルーロック)の前衛は潔という囮がいなければここまで効果的に機能していなかった、と言ってもいい。

 だが、ゴールは決めることができていない。

 ハーフタイム、絵心に言った言葉は事実だ。ゴールを狙う気でいる。それに、自分が主役なのだと信じている。自分が世界一のストライカーになるのだと、奮迅している。

 

 それでも、足りない。

(凛……冴……士道! ……宵越!!)

 覚醒し、周りに熱をくべる、呆れるほどわかりやすい才能を持った超天才(スーパースター)たち。圧倒的な注目を集め輝く彼らを前に、自分はどこまでも脇役でしかないのだと思ってしまう。

 チームとして勝つのはいい。それは青い監獄(ブルーロック)が生き残るために必要なことだ。

 けれど。

 

 ──俺は……俺のゴールで勝ちたい!──

 

 ストライカーとしての欲求がせめぎ出す。

 頭を振る。一瞬だけ顔を覗かせた絶望を、何とか振り払う。

 凛のシャドウ。相棒として絵心から選抜された。けれど進化したフィールドを前に、今その座を宵越に奪われている。それでも。

(足を止めるな!)

 一歩を踏み出す。

(諦めるな! 最後の最後まで、最後の1秒まで……戦い続けるんだ!)

 冴に、士道に、愛空に、凛に、宵越に。勝つために。

(勝つための手段を、考え続けるんだ!)

 潔にボールが回る。三角形(トライアングル)は加速する。

 潔自身は卑下しても、凛の呼吸を、潔はチーム内で誰よりもわかっている。だから辛うじて、連携を維持できる。仁王を躱し、蛇来を翻弄することができているのだ。

 けれど。悪魔と天才は止まらない。

 潔の死角から、士道(CF)が割って入る。

「この間よりつまんねぇプレーじゃん、潔世一!」

「なっ!?」

 視野の広い潔だが、この時、敵のCF──青い監獄(ブルーロック)No.2の悪魔の蹂躙を完璧に躱すには至らなかった。潔のボールを士道が刈り取る。

「チッ」

 舌打ちする凛。パスカットに反応し、即座に意識を防御へと切り替える宵越。

 悔しさで顔をぐちゃぐちゃにゆがめる。それでも。潔は顔を上げる。後方を見た。

「すまん! カウンター警戒!」

 頼むぞと、意志を込めて叫ぶ。

 当然、了解するDF陣たち。

 その中で、ただ1人。潔と同等の悔しさを噛みしめるストライカーがいた。

「来ます、玲王くん」

「いくぞ玲王」

 

 青い監獄(ブルーロック)11傑 御影玲王

 

 

────

 

 

『御影玲王』

 交代劇の最中、絵心は靴紐を締める玲王に言った。

『お前を投入する理由はただ一つ。士道を止める、という役割だ』

 この試合、絵心の中には攻守問わず無数の戦況がシミュレートされていた。

 スターティングメンバー11人はレギュラー発表の時に語った役割を基本としているが、ベンチメンバーとなりうる23人には、それぞれの役割を想定した課題を与えていた。

 玲王はそのために、DFとしても練習をこなしていた。

 潔の表情。声なき声を、玲王は受け取る。

(わかってるよ……)

 BL11傑、DF陣。青い監獄(ブルーロック)の性質からすれば、ストライカーとして他者より劣るという烙印を押されたと、そう考えられなくもない。

 だが、蟻生は天性の自己陶酔で状況に適応しているし、我牙丸はその奔放さでGKとしての役割を受け入れていた。二子はストライカーとしての矜持はあるが、自身の守備の眼の強さを自覚している。なにより、守備の快感に目覚めつつある。

 SB及びWBは、そのポジションからゴールを奪う可能性もある。蜂楽と千切の動きを見ればそれは明らかだった。

 ただ1人、玲王は役割に徹しつつ、けれど悔しさをにじませている。

 潔の今の表情の所以が、少しだけわかる。

天才たち(凛と宵越)に埋もれる感覚。俺もそうだ)

 二次選考3rdステージで凪と。4thステージでは士道と共闘し宵越と戦った。だから、潔の気持ちがよくわかる。

(それでも、諦めたくはないよな)

 玲王とて、DFでサッカー人生を終えるつもりはない。自分が望むのはW杯優勝であり、ストライカーの称号だ。

(俺も諦めない。だから)

 周囲の光が強くて、自分が暗闇に溺れてしまっても。

(俺が……凪の光になる)

 諦めない。唯一無二の宝物を手に入れるために。

 

 攻撃の第一人者たる士道自らが奪った潔のボール。

 (DMF)に繋ぎ、自身はどこまでも純粋にボールを持つ。

 そしてBL11傑が守備に意識を展開する中、幾度かのボール回しの結果、再び冴が主導者になるに至る。センターマーク付近より、やや自陣(BL陣地)に寄った場所。

 そしてやはり、一点突破の正確無比な超絶パスが放たれる。BL11傑の甘い守備の隙間を縫って、ゴール前に一気に持っていくボール。

 反応したのは、士道龍聖。そして。

 

「抜かせるかよ、クソ悪魔」

 

 御影玲王。

 中央後衛、玲王(CB)はその攻撃を視ていた。いや、敵味方のプレイヤーの位置も、攻撃の気も全て視えていた。

「は!? Mr.カメレオン──」

 その動きは、試合の初めに蜂楽のパスをクリアした動きと全く──99%同じ挙動。

 玲王が跳ぶ。士道のために冴が用意した低い弾道のパスをなんとか捉え、ヘディングクリアした。

「99%コピー成功──」

 玲王の真髄、全能力の万能性と器用さに特化した複写(コピー)能力を、守備で用いる。つまりは変幻守備(カメレオンディフェンス)

 

(この力で俺は──もう一度ストライカーを目指す!)

 

 青い監獄(ブルーロック)は──まだ死なない。

 

 

 






・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-3
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道
試合進行:後半10分(55分)。士道ゴール⇒千切・玲王交代⇒玲王によるパスカット
残交代枠:BL11傑(2)、U-20日本代表(2)


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