・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-3
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道
試合進行:後半12分(57分)。士道ゴール⇒千切・玲王交代⇒玲王によるパスカット
残交代枠:BL11傑(2)、U-20日本代表(2)
U-20日本代表が奮起すれば、
玲王がなした、愛空の反射のプレーを99%コピーした守備。それは冴が進化させたU-20代表、そして、士道の攻撃を弾いた。
当然、元の選手の全てを真似できるわけではない。玲王自身の身体能力にも限界はある。だが逆に言えば、玲王の身体能力で可能なプレーなら、どんな技術でも99%という完成度で再現できるということだ。
士道、宵越、馬狼──これまで玲王は
そして玲王の記憶には、愛空のヘディングパスカットを宵越が拾った状況も残っている。冴や士道なら、能力値が違っても同じことをしかねない。
だから、ヘディングの狙いを定めた。
「拾え! 蜂楽!」
「りょーかいカメレオン♪ いいじゃん熱っちぃ!」
目指すはカウンター、一撃必殺。
蜂楽は即座に
けれど、センターマーク付近に下がっている冴までは躱せない。蜂楽はボールを
「いくで凡ども。はよ非凡になれや……!」
中盤からのロングパス。ボールは再び潔に回った。
(ナイスお前ら……!)
玲王がやってくれた。冴‐士道の一撃必殺ラインを無効化した。たった1回だが、この事実は大きい。
そして無駄にはしない。この守備を己の1点に変えるのだ。
潔はフィールドを見る。奥に愛空、その少し手前に仁王。横には音留と蛇来が構える。忠実な鉄壁の
それでも。
(恐れるな! 俺のゴールに必要な条件が、全て合わさる場所を探すんだ!)
潔の能力は、空間認識能力。これをもって戦況の先を読み、どのDFも反応できない空間へフリーで飛び込む。それでも、潔の身体能力はあまりにも平凡だ。潔がこれまで生き残って来たのは、
つまり潔のゴールのために必要なのは。
①
②味方が必然潔にパスを出さなければいけない状況。そして、
③愛空をはじめとしたDF陣に自身の行動を読まれないこと。
(難易度鬼ムズイけど、でも……
潔の挑戦に宵越が乗る。凛を利用しつつ、2人で前線を駆け上がる。宵越‐凛とも凜‐潔とも異なるパス交換。
試合後、宵越と潔はお互いのパス交換を反省し合い、そして互いにこう言った。
──お前とのパス交換は
ゴールポスト左上角に飛び込んだ
(あの野郎……!?)
宵越は驚愕した。これまでの愛空の動きと、明らかに違っていた。理詰めと反射で動くのではなく、その全てが結実し一瞬の後に動き出す反射のプレー。
愛空の眼。瞳孔が開き、望洋と……全てを同等に視る。
青い右目。緑の左目。左右、質の異なる輝き。それぞれが、戦場を睥睨する。
愛空が弾いたボールは、ゆるく上空へ飛んでいた。それに一瞬目を向け、ヘディングの衝撃を感じさせない身のこなしで動き出した。
自分でヘディングしたボールを、連続で跳び弾き返すという荒業をやってのける。明らかにこれまでの愛空とは異なる動き。
宵越との連携によって生じた、最適なパス回しと
(まさか、あの野郎……)
その理由は、ただ一つ。
(愛空も、FLOWへ……!?)
────
オリヴァ・愛空はストライカーになりたかった。
幼少の頃から続けていたサッカー。その花形である
だが、日本だけでなくドイツ・スウェーデンの血も引く彼は、偶然か必然かその身体を大きくする。
チーム内でストライカーに憧れるのは彼だけではない。複数のFWが必要なサッカーにおいて、彼に求められたのは恵まれた体格を活かしたポストプレー。
最前線のCFから、一歩下がった場所。
お前がいれば他のアタッカーが機能すると、
ある時、愛空は指導者に牙をむいた。世界一のストライカーになるために。
『もっとゴールを奪える戦い方がしたい』
『俺がやりたいサッカーを試させてください』
指導者は返した。
『ダメだ。サッカーはチームで勝つスポーツだ』
『規律を守らなきゃ試合には出さない』
愛空はそれ以上牙を出さなかった。
指導者はみな、咲いていい芽にしか水をあげない。想定通りに育つ花以外は、咲くことを許されない。
そして咲く場所すら決められて、いつの間にかすべての芽が同じ花になっている。
愛空も例外ではない。味方へ献身し、中学生サッカーの頂点としての
『監督。俺、世界一のストライカーになれますか?』
『なれるさ! 可能性はある!』
『俺はなれないと思います』
気づいた時には、愛空自身が咲き方を忘れていた。
ストライカーになれると信じていた自分が死んでいた。
オリヴァ・愛空はストライカーにはなれなくなった。
愛空は、指導者に怒りをぶつける気はなかった。自分の意志を貫き通せなかったことや、指導者の意志を跳ねのける才能がなかったのも事実だから。
けれど、愛空はもう、誰かのために動くサッカー人生を辞めたかった。
だから愛空は世界一のDFを目指す。
誰かのためにサッカーはしない。同じ咲き方しかしないストライカーを、DFとしてぶち壊したい。
でも、いつか、もしも。
日本に咲こうともがく、本物の
俺はその蕾を絶対に摘まない。
そして手を差し伸べて。
(「咲け」と言える人間になりたい)
────
愛空のスーパークリア。
BL11傑は、もう一度攻撃を組み立てなければならない。
未だ、瞳孔が開き続ける愛空の眼。
(こんな瞬間を、俺は待ってたんだ)
そして、変化は愛空だけではない。
愛空が弾いたボールを、凛が拾った。だがその凛の動きと連動して蛇来が食い止めた。2者が弾いたボールに向かって宵越が突っ込む。P・Aの外側中央、けれど仁王が体の全てを駆使してぶつかる。
再びボールは弾かれた。
潔のシュートの前、蛇来と仁王は、宵越、潔、凛の連携を前に動けなかった。それぞれ、今の凛と宵越を防ぐ手段と能力はなかった、と言っていい。
だが、この一瞬、明らかに先のプレーよりも進化している。
その真相をいち早く理解していたのは、離れた場所でその攻防を観察していた潔。
(愛空のポジショニングに他のDFが反応した──愛空がDFたちを誘導してる……!?)
不完全だ。不完全だが、日本代表としての阿吽の呼吸を持つ4人だからこそ可能な、愛空に連動する支配的傀儡サッカー。
いや、U-20日本代表の相互理解による連携。
潔、凛、宵越の攻撃を防いだ。こぼれ球を拾った
攻撃時、WBは攻めの手札となる。
(FLOWだろうが……勝つのは関係ねぇ)
挑戦的集中とは、ある種偶然と必然が絡み合って生まれる状況だ。簡単に環境を設定できるわけではない。
それでも、宵越の真骨頂は身体能力以上に思考力である。
(進化してるなら、それを前提に動く。反応されるなら、愛空を遠ざける)
最速で最善に辿り着く能力は、世界でも類を見ない。
それでも下されるのなら、宵越は自身の最善を越えていく。
2連《カット》。相対した閃堂を置き去りにする。
それでも、愛空はそこにいた。
一瞬、ほんの一瞬。時が止まるように感じる宵越。
一方、愛空とて余裕ではない。
敵味方の配置、視界や次の行動、全身で理解できる感度が上がっている。その状況でさえ簡単に出し抜こうとしてくる宵越を前に、愛空は燃えあがり、震えあがり、そして哂う。
(お前もクルってんなぁ──どこほっつき歩いてたんだ《不倒》!)
宵越と愛空が衝突した──
「わかってるぜ《不倒》。お前はそういう奴だ」
「てめぇ、愛空──」
「だから、俺も俺を囮にすんだよ」
ボールは凛へ。閃堂と仁王が突っ込む。
「舐めんなクソ雑魚共──」
閃堂と、愛空に誘導された仁王。凛が動く。閃堂を抜く。だが、波状攻撃を前に凛は行動を奪われる。
守備としての仁王、攻撃としての凛。単体としての実力は凜に軍配が上がるが、状況は全く違った。
宵越からのパス供給。愛空との共闘。
同じ連携という状況。どちらが力を発揮できるかは、明白だった。
業を煮やした凛が、左翼の潔にボールを戻した。
「ようコソ泥ちゃん。何度でも、首輪付けてやるよ」
「愛空──!?」
潔世一 VS. オリヴァ・愛空
「どうして俺がここにいるかって? 守備だからに決まってんだろ」
ボールが潔に戻る。イコール凛による攻撃の勢いが死ぬ。イコール凛と連動した宵越の囮としての動きが減じる。その瞬間に宵越から離れた。言葉にするだけならひどく単純な──U-20における日本守備の頂点にいるしかできない、宵越・凛の波状攻撃を防ぎながら
それだけではない。愛空もまた、かつて夢を見たサッカー選手だった。前半のゴールは、その残り火が熱にあてられて反応した。
『守備の気持ちがわかっていないから止められる』
攻撃の気持ちがわかるから。わかっていたから、守備ができるのだ。
別に、愛空はストライカーに未練はない。今は守備に生きがいを見出している。
けれど、何も思わないわけがないのだ。
(なるほど、
愛空ができなかった、逆境や規律を前に自分のエゴを貫き続けたのが、
(だったら、俺に勝ってみろよ、
俺を破ってみせろよ。越えてみせろよ。咲いてみせろ。
日本サッカーが生まれ変わるための。
俺は、最後の大壁だ!!
そして、愛空は潔のボールを蹴る。
日本サッカーを変えろと、願いを込めて。
「やればできるじゃねーか、我儘
その願いは、エゴイスト
「その体力、最後まで持つだろうな?」
「当然だろ」
受け取った、新世代世界11傑、糸師冴。
愛空は哂った。
「やっちゃえ、天才ちゃん!」
・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-3
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道
試合進行:後半14分(59分)。愛空の連続スーパークリア、冴ボール
残交代枠:BL11傑(2)、U-20日本代表(2)