青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

56 / 65


・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-3
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道
試合進行:後半12分(57分)。士道ゴール⇒千切・玲王交代⇒玲王によるパスカット
残交代枠:BL11傑(2)、U-20日本代表(2)





No.56 U-20日本代表CB オリヴァ・愛空

 

 

 青い監獄(ブルーロック)が熱をくべれば、U-20日本代表が負けんと奮起する。

 U-20日本代表が奮起すれば、青い監獄(ブルーロック)もまた次の段階へ進化する。

 

 玲王がなした、愛空の反射のプレーを99%コピーした守備。それは冴が進化させたU-20代表、そして、士道の攻撃を弾いた。

 複写(コピー)。自身をして器用大富豪と呼ぶ玲王が、誰かのプレーを真似ることで誰かに限りなく近いプレーを演じること。

 当然、元の選手の全てを真似できるわけではない。玲王自身の身体能力にも限界はある。だが逆に言えば、玲王の身体能力で可能なプレーなら、どんな技術でも99%という完成度で再現できるということだ。

 士道、宵越、馬狼──これまで玲王は複写(コピー)でもって再現してきた。そして今、守備のプレーすら取り入れている。

 そして玲王の記憶には、愛空のヘディングパスカットを宵越が拾った状況も残っている。冴や士道なら、能力値が違っても同じことをしかねない。

 だから、ヘディングの狙いを定めた。

「拾え! 蜂楽!」

「りょーかいカメレオン♪ いいじゃん熱っちぃ!」

 

 蜂楽(LWB)が躍動する。青い監獄(ブルーロック)随一の曲芸師の始動だ。

 目指すはカウンター、一撃必殺。

 蜂楽は即座に狐里(RWG)を躱した。熱くなっているのは化け物たちだけではないのだ。

 けれど、センターマーク付近に下がっている冴までは躱せない。蜂楽はボールを(DMF)へ繋いだ。

「いくで凡ども。はよ非凡になれや……!」

 中盤からのロングパス。ボールは再び潔に回った。

(ナイスお前ら……!)

 玲王がやってくれた。冴‐士道の一撃必殺ラインを無効化した。たった1回だが、この事実は大きい。

 そして無駄にはしない。この守備を己の1点に変えるのだ。

 潔はフィールドを見る。奥に愛空、その少し手前に仁王。横には音留と蛇来が構える。忠実な鉄壁の守備4傑(カルテット)

 それでも。

(恐れるな! 俺のゴールに必要な条件が、全て合わさる場所を探すんだ!)

 潔の能力は、空間認識能力。これをもって戦況の先を読み、どのDFも反応できない空間へフリーで飛び込む。それでも、潔の身体能力はあまりにも平凡だ。潔がこれまで生き残って来たのは、直撃蹴弾(ダイレクトシュート)によって時間を奪い、潔の先読みに追いつかせなかったから。

 つまり潔のゴールのために必要なのは。

 

 ①直撃蹴弾(ダイレクトシュート)でゴールを奪える場所。そのために、

 ②味方が必然潔にパスを出さなければいけない状況。そして、

 ③愛空をはじめとしたDF陣に自身の行動を読まれないこと。

 

(難易度鬼ムズイけど、でも……予見(キャッチ)するんだ、この眼と脳で!)

 潔の挑戦に宵越が乗る。凛を利用しつつ、2人で前線を駆け上がる。宵越‐凛とも凜‐潔とも異なるパス交換。

 試合後、宵越と潔はお互いのパス交換を反省し合い、そして互いにこう言った。

 

 ──お前とのパス交換はやりやすかった(イメージ共有が完璧だった)と──

 

 音留(RSB)を抜く。蛇来(LSB)を封じる。(DMF)を躱す。仁王(CB)さえも躱して見せる。

 (LMF)はフリーポイントに達して見せた。宵越(RCF)の右翼からのバックヒールパス。潔が抜け出したシュートを──

 ゴールポスト左上角に飛び込んだ愛空(CB)が防いでみせた。

(あの野郎……!?)

 宵越は驚愕した。これまでの愛空の動きと、明らかに違っていた。理詰めと反射で動くのではなく、その全てが結実し一瞬の後に動き出す反射のプレー。

 愛空の眼。瞳孔が開き、望洋と……全てを同等に視る。

 青い右目。緑の左目。左右、質の異なる輝き。それぞれが、戦場を睥睨する。

 愛空が弾いたボールは、ゆるく上空へ飛んでいた。それに一瞬目を向け、ヘディングの衝撃を感じさせない身のこなしで動き出した。

 自分でヘディングしたボールを、連続で跳び弾き返すという荒業をやってのける。明らかにこれまでの愛空とは異なる動き。

 宵越との連携によって生じた、最適なパス回しと直撃蹴弾(ダイレクトシュート)を弾かれた潔は、この場面に至っては怒りよりも驚愕に飲まれた顔をしていた。

(まさか、あの野郎……)

 その理由は、ただ一つ。

(愛空も、FLOWへ……!?)

 

 

────

 

 

 オリヴァ・愛空はストライカーになりたかった。

 幼少の頃から続けていたサッカー。その花形である英雄(ストライカー)という存在に憧れていた。

 だが、日本だけでなくドイツ・スウェーデンの血も引く彼は、偶然か必然かその身体を大きくする。

 チーム内でストライカーに憧れるのは彼だけではない。複数のFWが必要なサッカーにおいて、彼に求められたのは恵まれた体格を活かしたポストプレー。

 最前線のCFから、一歩下がった場所。

 お前がいれば他のアタッカーが機能すると、指導者(オトナ)はいつもそう言った。

 ある時、愛空は指導者に牙をむいた。世界一のストライカーになるために。

 

『もっとゴールを奪える戦い方がしたい』

『俺がやりたいサッカーを試させてください』

 

 指導者は返した。

 

『ダメだ。サッカーはチームで勝つスポーツだ』

『規律を守らなきゃ試合には出さない』

 

 愛空はそれ以上牙を出さなかった。

 指導者はみな、咲いていい芽にしか水をあげない。想定通りに育つ花以外は、咲くことを許されない。

 そして咲く場所すら決められて、いつの間にかすべての芽が同じ花になっている。

 愛空も例外ではない。味方へ献身し、中学生サッカーの頂点としての()()を手にした頃。

 

『監督。俺、世界一のストライカーになれますか?』

『なれるさ! 可能性はある!』

『俺はなれないと思います』

 

 気づいた時には、愛空自身が咲き方を忘れていた。

 ストライカーになれると信じていた自分が死んでいた。

 オリヴァ・愛空はストライカーにはなれなくなった。

 愛空は、指導者に怒りをぶつける気はなかった。自分の意志を貫き通せなかったことや、指導者の意志を跳ねのける才能がなかったのも事実だから。

 けれど、愛空はもう、誰かのために動くサッカー人生を辞めたかった。

 だから愛空は世界一のDFを目指す。

 誰かのためにサッカーはしない。同じ咲き方しかしないストライカーを、DFとしてぶち壊したい。

 

 でも、いつか、もしも。

 

 日本に咲こうともがく、本物の英雄(ストライカー)が現れた時。

 俺はその蕾を絶対に摘まない。

 そして手を差し伸べて。

(「咲け」と言える人間になりたい)

 

 

────

 

 

 愛空のスーパークリア。こぼれ球(セカンドボール)はさらにゴールから遠のき、P・Aの外へ流れていく。

 BL11傑は、もう一度攻撃を組み立てなければならない。

 未だ、瞳孔が開き続ける愛空の眼。

(こんな瞬間を、俺は待ってたんだ)

 そして、変化は愛空だけではない。

 愛空が弾いたボールを、凛が拾った。だがその凛の動きと連動して蛇来が食い止めた。2者が弾いたボールに向かって宵越が突っ込む。P・Aの外側中央、けれど仁王が体の全てを駆使してぶつかる。

 再びボールは弾かれた。

 潔のシュートの前、蛇来と仁王は、宵越、潔、凛の連携を前に動けなかった。それぞれ、今の凛と宵越を防ぐ手段と能力はなかった、と言っていい。

 だが、この一瞬、明らかに先のプレーよりも進化している。

 その真相をいち早く理解していたのは、離れた場所でその攻防を観察していた潔。

(愛空のポジショニングに他のDFが反応した──愛空がDFたちを誘導してる……!?)

 不完全だ。不完全だが、日本代表としての阿吽の呼吸を持つ4人だからこそ可能な、愛空に連動する支配的傀儡サッカー。

 いや、U-20日本代表の相互理解による連携。

 潔、凛、宵越の攻撃を防いだ。こぼれ球を拾った(RMF)のスーパートラップを──音留と愛空の二段階プレスで止める。

 攻撃時、WBは攻めの手札となる。氷織(RWB)が冷徹な視野でBL11傑の攻撃を止めない。ボールは敵陣中央の宵越へ。

(FLOWだろうが……勝つのは関係ねぇ)

 挑戦的集中とは、ある種偶然と必然が絡み合って生まれる状況だ。簡単に環境を設定できるわけではない。

 それでも、宵越の真骨頂は身体能力以上に思考力である。

(進化してるなら、それを前提に動く。反応されるなら、愛空を遠ざける)

 最速で最善に辿り着く能力は、世界でも類を見ない。

 それでも下されるのなら、宵越は自身の最善を越えていく。

 2連《カット》。相対した閃堂を置き去りにする。

 それでも、愛空はそこにいた。

 一瞬、ほんの一瞬。時が止まるように感じる宵越。

 一方、愛空とて余裕ではない。

 敵味方の配置、視界や次の行動、全身で理解できる感度が上がっている。その状況でさえ簡単に出し抜こうとしてくる宵越を前に、愛空は燃えあがり、震えあがり、そして哂う。

(お前もクルってんなぁ──どこほっつき歩いてたんだ《不倒》!)

 宵越と愛空が衝突した──背面踵供給(バックヒールパス)。宵越の選択。自分を囮にして別の人間へボールを繋ぐ。

「わかってるぜ《不倒》。お前はそういう奴だ」

「てめぇ、愛空──」

「だから、俺も俺を囮にすんだよ」

 ボールは凛へ。閃堂と仁王が突っ込む。

「舐めんなクソ雑魚共──」

 閃堂と、愛空に誘導された仁王。凛が動く。閃堂を抜く。だが、波状攻撃を前に凛は行動を奪われる。

 守備としての仁王、攻撃としての凛。単体としての実力は凜に軍配が上がるが、状況は全く違った。

 宵越からのパス供給。愛空との共闘。

 同じ連携という状況。どちらが力を発揮できるかは、明白だった。

 業を煮やした凛が、左翼の潔にボールを戻した。

「ようコソ泥ちゃん。何度でも、首輪付けてやるよ」

「愛空──!?」

 

 潔世一 VS. オリヴァ・愛空

 

「どうして俺がここにいるかって? 守備だからに決まってんだろ」

 ボールが潔に戻る。イコール凛による攻撃の勢いが死ぬ。イコール凛と連動した宵越の囮としての動きが減じる。その瞬間に宵越から離れた。言葉にするだけならひどく単純な──U-20における日本守備の頂点にいるしかできない、宵越・凛の波状攻撃を防ぎながら第三者(潔や凪)すらケアする神がかり的な動き。

 それだけではない。愛空もまた、かつて夢を見たサッカー選手だった。前半のゴールは、その残り火が熱にあてられて反応した。

 

『守備の気持ちがわかっていないから止められる』

 

 攻撃の気持ちがわかるから。わかっていたから、守備ができるのだ。

 別に、愛空はストライカーに未練はない。今は守備に生きがいを見出している。

 けれど、何も思わないわけがないのだ。

(なるほど、お前ら(BL11傑)は『もしも』の俺なのか)

 愛空ができなかった、逆境や規律を前に自分のエゴを貫き続けたのが、青い監獄(ブルーロック)のストライカーたち。

(だったら、俺に勝ってみろよ、青い監獄(ブルーロック)

 俺を破ってみせろよ。越えてみせろよ。咲いてみせろ。

 

 日本サッカーが生まれ変わるための。

 俺は、最後の大壁だ!!

 

 そして、愛空は潔のボールを蹴る。

 日本サッカーを変えろと、願いを込めて。

 

「やればできるじゃねーか、我儘主将(キャプテン)

 

 その願いは、エゴイスト()()に届いた。

「その体力、最後まで持つだろうな?」

「当然だろ」

 受け取った、新世代世界11傑、糸師冴。

 愛空は哂った。

 

「やっちゃえ、天才ちゃん!」

 

 

 






・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-3
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道
試合進行:後半14分(59分)。愛空の連続スーパークリア、冴ボール
残交代枠:BL11傑(2)、U-20日本代表(2)


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