・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-4
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道、閃堂
試合進行:後半16分(61分)、二子・凪OUT⇒雪宮・馬狼IN
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)
『いいか、馬狼照英』
絵心と馬狼の対話である。例え控えの選手であっても、選手の役割に応じた作戦は練られていた。
馬狼の強みは言わずもがな、突破力と得意領域だけなら凛にも劣らないストライカーとしての資質に他ならない。凛が先頭に立つチームとしての11人にこそ選ばれなかったが、馬狼は確実に戦況を変える劇薬である。
『お前の投入時、雪宮剣優がいる場合、左右からの協力ドリブルで敵陣を崩せ。周りの選手はその個人技を中心に攻撃を組み立てろ……とチームには戦術を伝えてあるが』
絵心はそこでタブレットを閉じ、馬狼を見た。
『その指示を、無視しろ』
前代未聞である。監督の指示に従うな、という指示が与えられる矛盾。
馬狼は平然と言ってのけた。
『初めからそのつもりだぜ?』
『それでいい。お前は試合終了最後の1秒まで、その飢えを滾らせ、喰うことだけに固執しろ』
当然、絵心は馬狼の進化を知っている。チームとしては惨敗した伍号棟、宵越に2ndステージまで落とされた屈辱。
そして潔・凪のチームに負け奪われ、2度目の3rdステージで潔に叩き潰され絶望し──そして独裁の王として復活を遂げた。
そのプレーを活かすなら、計算できる盤面ではなく
絵心は馬狼の横に目を向けた。
『そして雪宮剣優』
雪宮は、馬狼の隣でただただ言葉を選びかねていた。
今までの会話を、普通に聞いていた。
馬狼と絵心は、初めから常人ではなかった。
『はい。……というか、さらっと凄いこと話してますけど。俺、一緒に聞いていいんですか?』
『今の話を聞いて、お前はどう感じる?』
雪宮は頬をかいた。
規律を無視し独裁に走る。普通なら頭のおかしい人間のそれでしかないのだが、ここはそんな身勝手が一つの選択として通ってしまう場所である。
そんな場所にいる自分もまたおかしいのだろうと、雪宮は思った。自分とて3rdステージでは宵越と一緒に鬼ごっこを演じたし、4thでも途中までは自分のために躍起になった自覚はある。
結局、実力と覚悟の問題なのだ。周りを振り回し、戦況を混乱させ、その状況すら利用してゴールを奪えるかどうかという完全な結果主義。なぜなら、サッカーとは点を多く奪ったほうが勝利するから。
規律があり、己の役割に忠実で、連携をこなせるチームが強いのは事実。それを覆すためのエゴイスト集団でもある。
『……』
チーム内で決めたこと、そして馬狼1人にだけ──雪宮も聞いてはいるが──異なる指示を与える。11人の意思統一が必要なチームスポーツとしてはあり得ない所業。
だが。
『それが勝利につながるなら、乗ります。でもただ乗るだけじゃない……俺も俺のゴールのために、馬狼くんや皆を利用するつもりです』
『ああ。それが正解だ』
馬狼照英、雪宮剣優。宵越、潔に敗北し、それぞれの形で個を貫くことで再生した者たち。
『お前たちを投入する時は、戦況を一変させるとき』
潔世一という光を。宵越竜哉という熱を。
『喰らってみせろ』
────
始まるプレー。BL11傑、凛のキックによる鬨の声。U-20代表も油断はない。変化したフィールド。DF陣は新たな両翼を警戒する。
DMF、颯波留。
(さあ……お前たちは何をする?)
左右から、明らかに膂力がありそうな2人が来る。いや、両WGだけでなく先陣・次鋒という
ただ、まず生じたのは颯の予想とは異なる動きだった。潔から凜へ。凛から潔へ。時々宵越を中継する。中央付近での、これまでと変わらないパス回しだ。
(相変わらず
その違和感に慣れてきた頃に、ストライカーたちが動き始める。凛が右後方、RSBとして下がっていた──けれど
奇をてらった一撃。これまで氷織はDMFとして動いていた。そこからのキラーパスもあったが、氷織の本領は
その冷徹なパスが放たれると同時、
当然の判断。より自由な潔へつく。そして潔は、前衛の化け物どもと比べれば純粋な技術や身体能力は劣っていた。
颯の
ボールを奪ったのは、
「そうするよな」と呆れたのは、後方で一連の動きを視ていた
それ以外の全員が、敵味方関係なく混乱する。
ボールを奪われた張本人である潔が何事か馬狼に文句を言う中。宵越もまったく同じ感情に襲われた。
「あのバカ……!」
異端の動きをする馬狼のせいで、右翼に大きな穴が開いた。宵越としてはフォローする他選択はない。
だが、馬狼の実力は本物だ。颯を抜き、前へと猛進する。
馬狼はチームとしては恐るべき選択をした。自分で撃つために
「出せよ馬狼! こんな大事な試合で……!」
「天地がひっくり返っても、お前にゃ出さねぇよ潔──」
宣言。馬狼照英は、まさしく狂っていた。
「俺はお前ごと試合を喰らう!!」
P・A外側右翼、ゴールラインからわずか3mほどの位置。ミラクルでも起きない限り奪えない位置からシュートを撃ち、そして案の定外れた。
ボールはゴールポスト右側に当たり、今日一番の快音を響かせてこぼれる。
全員が思った。あいつはバカじゃないのかと。
ただ1人、絵心を除いて。
「いいぞ。
勝ってみろ。証明してみろ。潔世一、宵越竜哉。
「お前らの光と熱が、本当に俺のエゴより強いなら」
────
そして、馬狼に紛れて混沌を加速させるエゴイストがいる。
ルーズボールを拾った雪宮は、左翼で
「初めまして、よろしく」
雪宮は無言を返事とした。
ベンチから仲間たちのプレーは見ていた。音留がスピード型の守備を得意とする、つまり自分の剛のドリブルを消しうる存在だということも理解した。
(それならそれで、やりようはある!)
音留を躱す。剛ではなく技巧による、密集地帯を囮にするストリートサッカーのスタイルで。
この終盤、雪宮が投入直後で体力差があったということも雪宮の優位に働いた。複数回のフェイント、かつ潔や凛を障害物として音留を躱すことに成功する。
けれど、守備4傑は強固。まだ雪宮は勝ちきれない。即座に
(
雪宮とてエゴイスト。だが馬狼と異なり、邪王とまでにはならない。
己の芯を理解した。俺は俺のゴールで勝ちたいのだと。仮に仁王を抜いたとて、後ろには
蹴撃動作。からのクロスパス。シュートだと誤解させるための、強気な宵越へパス。馬狼が突っ込んだ故に空いた右翼自陣に行く。
驚く宵越。けれど元チームメイトだ。雪宮の機微はそれなりに分かった。
──お前を利用するための
──いいぜ。なら俺を乗り越えてみろよ!!
宵越が中央へ《カット》、さらに前へ《カット》。蛇来を置き去りにする。馬狼、雪宮のドリブルの間に下がってきたU-20代表FW陣もいた。冴をなんとか躱す。
さらに士道も現れた。P・Aの外側、まだシュートには遠い位置で宵越と対峙する。
「あの4対4の再戦と行こうぜぇたっつん!」
「ざけんなよクソ悪魔。でもな、再戦ってのはいい」
てめぇに引導を渡したいのは。
「俺だけじゃないからよ!」
宵越が《回転》しながらパス。またもやのパスだった。
連動して音留を躱した雪宮が受け取り、シュートを撃つ。それでも、まだ決まりきらない。閃堂がゴールを辛うじて止める。
「やるじゃん伏兵エース」
雪宮が口角を引き上げた。
BL11傑、U-20代表。どちらも一歩も引かない。全員で攻め、全員で守る。全力での殴り合いを果たしていく。
灼熱の世界への没頭。
「クソッ」
雪宮が舌打ち。ルーズボールが凛へ。
「クソ……」
凜までは止めきれなかった閃堂も舌打ち。すぐさまシュート。愛空に弾かれる。
「クソ……!」
プレーのために、誰かから放たれる悪言、舌打ち。
笑顔はない。負ければ、今の自分が死んでしまう。背水の戦い。
それでも、この試合を観る誰かは言った。
『楽しそう……』
この試合は……誰かが言った。
熱くて苦しくて怖くて、そして楽しい戦い。
フットボールの最も熱い場所が……ここにあるかもしれない。
楽しい試合は、攻撃だけでは終わらない。
雪宮、凛、馬狼。それぞれが前のめりで攻撃に全振りした結果……決めきれない。
これでも決めきれない。クソほど悔しくて、悔しくて、悔しくてたまらない。
それでも後悔する暇はない。
宵越、潔がほぼ同時に叫んだ。
『来るぞ、カウンター!!』
冴がボールを持った。
蹴ってみせる、何度でも。止めてみせる、何度でも。
だったら。
試すような思考をしているのは、絵心や、宵越だけではない。
「やってみろよ、
糸師冴もまた、本気という楽しさをもって動き出す。
・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-4
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道、閃堂
試合進行:後半19分(64分)、BL11傑の連続攻撃、冴カウンター
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)