・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-4
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道、閃堂
試合進行:後半19分(64分)、BL11傑の連続攻撃、冴カウンター
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)
最初、糸師冴は日本サッカーに全く期待していなかった。
冴が興味を持っていたのは
この試合もこの目で確かめるだけで、汗をかこうなど全く思わなかった。
だが、この戦場は日本史上かつてないほど熱くなり、その余波は選手全員を加速させ、エゴを引き出した。
冴もまた、少なからず
冴は自分の色を出さない。超絶な技術は、あくまで相手の能力に合わせてその長所を封じるために使われる。それは《美しく壊すサッカー》だ。
高度な技術はそれだけで強力な武器となる。相手の呼吸を読み殺す──裏をかこうとする自分の裏を付いてくるのだ。一定のパターンなどない。故に脅威となる。
冴──というより連動する
このカウンターを止めなければ、
烏旅人 VS. 糸師冴
「止めるで。何度でも」
愛空のスーパーセーブから閃堂に出し抜かれた光景が蘇る。
冴の技術に、士道の圧力に、閃堂の根性に、1点を奪われた。
閃堂に逆襲されたのは二子。だが、腸が煮えくり返っているのは彼だけではない。
(元チームメイト。僕だって、キレ散らかしてるねん)
1点を奪われたこと、それを許してしまった自分たちこそ、殺してやりたくなる。
(やったるわ。二子くんの代わりにな)
次は、絶対に止める。
それだけでなく、氷織がしっかりと
「クソ……!」
「次は輝かせへんで、シャドウストライカー」
閃堂、氷織。互いの距離は遠い。会話ができるような声量でもない。
それでも、二人は偶然か必然か、言葉を交わしていた。
「それでも、何度でも走るんだよ……!」
U-20代表がどんどん前へ。近づくたびに膨れ上がる緊張感。
その中で、もっとも重圧を受けるはずの玲王は、それでもどうしてか笑みを浮かべることができた。
(助かる、氷織)
氷織が閃堂を視てくれている。おかげで、自分は士道に集中できる。
先のマッチアップでは、ほとんど士道に負け越した。けれどまだチャンスはある。
(士道を、下せる……!)
御影玲王 VS. 士道龍聖
突っ込んでくる士道は迷わない。地力は明らかに士道が上。格上が小手先に頼る必要はない。再びスピードとパワー、身体能力を駆使して玲王を抜きにかかる。
玲王の眼に幻視される、数秒先の未来。先のように、いや先以上に完璧に士道に下される未来。
そんなことは、許さない。
滴る汗。玲王の瞳孔が大きく開く。
士道を倒すために、士道の全てを捉える。それは戦場と少なからず連動しているために、士道の周囲総てを視ることと同意だった。
だから、玲王は視えた。士道の後方を。
もう、そこに
(──凪)
(──玲王)
凪はもう、ベンチにいた。
確かに1点は奪った。開幕の1点だ。会場の盛り上がりを生み出した張本人。
だが凪は退場の間際、どこか悔しさを覚えていた。自分の力で奪ったゴールとは思えなかったから。
宵越のプレーを起点にした、その一連の躍動の中の、おこぼれに過ぎなかったから。
悔しさが残る。
玲王と凪。近くにいなくても、二人は確かに共に戦い、互いを意識している。
それは今、玲王の力になる。
自陣中央から、冴のパスが放たれようとしている。士道はそのコースをほとんど見ない。それでも、士道の最高のパフォーマンスを理解する冴は士道へ必要なボールを寸分違わず供給した。
今の玲王にそれを防ぐ手立てはなかった。どれだけ
玲王は解決策こそ思い浮かばなかったが、その弱点を理解していた。
どうする。どうすればいい。今、この瞬間に士道に勝つために。
刹那。加速する玲王の思考。
シナプスが発火し、燃え広がる。
走馬灯のようにフラッシュバックする過去の光景の中、一つだけが玲王の脳を刺激した。
──だから玲王は、
氷織が、士道が混乱する。敵味方問わず、意味不明な行動。
「は……!?」
「カメレオン……!?」
向かうのは、冴が供給したパスそのもの。
士道がP・Aの内側右翼側に走るのに対し、玲王はより前へ。冴の高度な──この試合何度も放たれた冴のボールの軌跡、その一点に向かって、一直線に。
その本意をコンマ数秒で理解した者がいる。
カウンターの攻防を見届ける潔世一。
ベンチで戦いの行く末を見届ける千切豹馬。
そして、凪誠士郎。
「そうだよ、玲王」
何人かは知っている。それは凪・潔が3rdステージで見せたもの。パサー・ストライカーの連携に勝てないと見切って、パスを直接奪う
つまりは、潔・凪のプレーそのものの
それを理解したから。潔はあの時凪にかけた言葉を、かつてのパサーに向けて放った。
「届け」
玲王が、冴のパスに向かう。飛ぶ。スライディング。
届け。
届け──!
「まじ──紙一重だなオイ!」
一心不乱だったから、めちゃくちゃなことを叫んだ。玲王にその自覚はなかった。つま先がボールを掠めた。
ボールに熱が届く。弾かれたボールは、右翼自陣へ。
「ええやんけカメレオン」
氷織がボールを受ける。選ぶのはノーガードの殴り合い一択だ。
氷織の冷徹な左脚が閃く。血液が血管を介して流れる。
速攻カウンター。
玲王が叫ぶ。今度は意志を持って。また、ストライカーとして世界一になるために。
「いけ、
ボールは
(来た──カウンターチャンス!)
U-20代表のFW陣──冴や士道、閃堂までもが前のめりに動いていた。
速攻カウンターであれば戻る暇はない。純粋なBL11傑FWとU-20代表DFの対決となる。
紛れもない好機。潔はもちろん、
そして、もう1人。この状況においても、馬狼は潔のボールをカットしようと動く。
潔は気づいていた。もちろん宵越もだ。
(あのバカ、この決定的好機になにを──)
それでも、敵もただ混乱するだけではない。
合理性など欠片もなく、潔に執着したプレーをする。いち早く理解した
だが、馬狼は諦めるつもりなど毛頭ない。
(挑戦を切り替えろ)
稲妻走行、馬狼は蛇来を剥がそうと、潔から離れる。
潔の創る光を利用して、馬狼のみが輝ける闇を探す。
いや、それだけではない。このフィールドはもう、宵越の熱によって誰もが燃え上がっている。
(上等だ。4thで潔を、
今度は、
馬狼が離れたことで、潔は余計な緊張から解放された。潔もかつて馬狼と互いのゴールのために味方を利用する──
潔は凛・宵越との堅実な
「来るよ! 連動警戒!」
「わーってる! 任せろオラァ!!」
何度も攻撃し、その度にゴールを阻まれてきた布陣。潔は迷う。まだ、自分が奪えるゴールへの道筋が見えない。
「潔!」
左翼敵陣で
それでも。
(宵越・凛とだけじゃ守備にやられる! だったら、やるしかないだろ!)
作り出せ。連動のない雪宮との連携。その中の、読めない一瞬に反射する。使えなかった馬狼を邪王道の道に立たせたのは、馬狼を喰うことで利用した潔のマインドに他ならない。
雪宮をも、利用するのだ。
潔は雪宮にパスを出した。左翼に回ったボール。雪宮は再度、細かなタッチで音留を躱す。
音留は食らいつく。守備として、二度負けはしない。
互角の攻防。ボールが跳ねる。誰のものでもない球は、P・Aラインの中央へ。
その偶然に反応する、潔と宵越。膂力で勝り、宵越が先ボールを受ける。愛空とのマッチアップ。
ぶつかる強者たち。ボールは再度誰のものでもなくなった。
潔は、心の中で拳を握りしめた。
(この時を待ってた──!)
雪宮と音留の戦い。外れる可能性をケアする。連携経験から、宵越は反射するだろう。
互角の彼らが戦う中、仁王は凛を注視していた。
攻撃偏重による、怒涛の連続攻撃。この一瞬を無駄にするな。
潔は抜けた。ゴール前、GKと一対一に。
(完ッ全に読み通り!)
仲間の力を利用し、増幅させ、最後には自分が喰らう。潔の真骨頂とも言える動きだった。
それでも、強者は強くなる者に反応する。
「不倒だけじゃねぇか。
潔世一 VS. 糸師冴
「いい脳ミソしてんじゃねーか」
これだけは、潔の計算に入っていなかった。
例え前半から冴が能動的に動いているとしても、その冴が攻撃にいた瞬間に玲王が刈り取ったのだ。冴が戻れない程度のカウンターだったはずだ。
(なのに……なんで!!)
「不思議か? 俺がどうしてここにいるのか」
冴が潔にぶつかる。
「俺は、正常なストライカーには平等だ」
冴もまた、熱に反応する。宵越の熱に。宵越がくべた敵味方の熱に。
同じように、潔世一というエゴに反射したのだ。潔の視野から消えたまま、潔のベストプレーを潰しに来た。
わずかに汗を滴らせながら。
糸師冴の本気──と呼ぶにはまだ温い。ただ、目的とする場所に誰よりも早く加速しただけ。
ただ、冴も望んでいた。自分が本気を出してもなお、それを越えようともがき、進化するストライカーが現れることを。
潔は、もがいた。
(いや、まだだ……!)
全部読まれたとしても、ゴール前の一瞬が残っている。現状は辛うじて五分と五分。
(届け! つま先でもいい! 俺の最後の一歩──)
「──早まったな、
冴が、潔の肩を
「軸がぶれりゃ、
進化を望んでいる。だが、甘いプレーなど許さない。
期待しながら全力で破壊しにかかる。それは愛空と同じ壁としてのふるまい。
『潔!』
凛の、宵越の声が重なる。それぞれ、守備を引きずりながら、それでもわずかに動こうと。
潔世一のベストプレーを信じて動いているのは、糸師冴だけではない。
辛うじて潔がボールに触れる。シュートではない、ただ撫でただけだった。
宵越と凛、その中間に向けて繋がれたボール。エゴイストたちに向けた潔からの挑戦状。自分が奪うはずだったゴールだ。
(せめて──喰ってみろよ! 宵越、凛!!)
守備が、攻撃がボールに群がる。
とどめを刺したのは。
宵越・凛VS. 愛空・仁王
「貪るぜ──クソ野郎共」
──VS. BL11傑 馬狼照英
右翼から飛び込む、スライディング。擦過傷など関係ない。
餓えた百獣の王に、刺し傷など行動を止める動機にはならない。
喰え。咀嚼しろ。味わえ、その熱と光を。
潔世一だけでは空腹など満たせないのだから。
「全部──
勢いそのまま、右脚を振り上げる。ボールすら、ゴールネットを貪り狂う。
餓え滾る熱が、全てを呑み込む。
スコア、4‐4。
・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :4-4
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道、閃堂、馬狼
試合進行:後半23分(68分)、馬狼ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)
灼熱カバディ本編における「熱」のタイトル
・無機質な熱
・透き通る熱
・偽物の熱
・負けて得た熱
・隠し切った熱
・灼熱