青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

60 / 60


・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :3-4
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道、閃堂
試合進行:後半19分(64分)、BL11傑の連続攻撃、冴カウンター
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)





No.60 餓え滾る熱

 

 

 最初、糸師冴は日本サッカーに全く期待していなかった。

 冴が興味を持っていたのは青い監獄(ブルーロック)のみ。U-20日本代表に合流したのは青い監獄(ブルーロック)の実力を確かめられるからで、ヘボゲロゴミストライカーの集まりになど興味はなかった。

 この試合もこの目で確かめるだけで、汗をかこうなど全く思わなかった。

 だが、この戦場は日本史上かつてないほど熱くなり、その余波は選手全員を加速させ、エゴを引き出した。

 冴もまた、少なからず()()を引き出すことになる。

 (OMF)を起点としたカウンター。何度経験しても、BL11傑は慣れない。

 冴は自分の色を出さない。超絶な技術は、あくまで相手の能力に合わせてその長所を封じるために使われる。それは《美しく壊すサッカー》だ。

 高度な技術はそれだけで強力な武器となる。相手の呼吸を読み殺す──裏をかこうとする自分の裏を付いてくるのだ。一定のパターンなどない。故に脅威となる。

 冴──というより連動する士道(CF)を止めるために起用されたのは玲王だけ。馬狼と雪宮の選択に守備の眼は一切ない。

 このカウンターを止めなければ、青い監獄(ブルーロック)に明日はない。

 (DMF)が冴に立ちはだかる。中盤をコントロールする者たちの戦いだ。衝突は必至となる。

 

 烏旅人 VS.  糸師冴

 

「止めるで。何度でも」

 愛空のスーパーセーブから閃堂に出し抜かれた光景が蘇る。

 冴の技術に、士道の圧力に、閃堂の根性に、1点を奪われた。

 閃堂に逆襲されたのは二子。だが、腸が煮えくり返っているのは彼だけではない。

(元チームメイト。僕だって、キレ散らかしてるねん)

 1点を奪われたこと、それを許してしまった自分たちこそ、殺してやりたくなる。

 氷織(RSB)の眼に熱が宿る。かつてカバソスに、二子と併せて『両極端だ』と呼ばれた、攻撃寄りの眼。そんなことは関係ない。攻撃を突き詰めれば守備に、守備を極めれば攻撃となるのが世の常。

(やったるわ。二子くんの代わりにな)

 次は、絶対に止める。

 蜂楽(LSB)蟻生(CB)玲王(CB)の動きは変わらない。それぞれ狐里(RWG)(LWG)士道(CF)を抑える。

 それだけでなく、氷織がしっかりと閃堂(OMF)を補足する。冴・士道を同時に捕捉する。

「クソ……!」

「次は輝かせへんで、シャドウストライカー」

 閃堂、氷織。互いの距離は遠い。会話ができるような声量でもない。

 それでも、二人は偶然か必然か、言葉を交わしていた。

「それでも、何度でも走るんだよ……!」

 U-20代表がどんどん前へ。近づくたびに膨れ上がる緊張感。

 その中で、もっとも重圧を受けるはずの玲王は、それでもどうしてか笑みを浮かべることができた。

(助かる、氷織)

 氷織が閃堂を視てくれている。おかげで、自分は士道に集中できる。

 先のマッチアップでは、ほとんど士道に負け越した。けれどまだチャンスはある。

(士道を、下せる……!)

 

 御影玲王 VS. 士道龍聖

 

 突っ込んでくる士道は迷わない。地力は明らかに士道が上。格上が小手先に頼る必要はない。再びスピードとパワー、身体能力を駆使して玲王を抜きにかかる。

 玲王の眼に幻視される、数秒先の未来。先のように、いや先以上に完璧に士道に下される未来。

 そんなことは、許さない。

 滴る汗。玲王の瞳孔が大きく開く。

 士道を倒すために、士道の全てを捉える。それは戦場と少なからず連動しているために、士道の周囲総てを視ることと同意だった。

 だから、玲王は視えた。士道の後方を。青い監獄(ブルーロック)のFW陣を。

 もう、そこに凪誠士郎(かつての相棒)はいない。

 

(──凪)

(──玲王)

 

 凪はもう、ベンチにいた。

 確かに1点は奪った。開幕の1点だ。会場の盛り上がりを生み出した張本人。

 だが凪は退場の間際、どこか悔しさを覚えていた。自分の力で奪ったゴールとは思えなかったから。

 宵越のプレーを起点にした、その一連の躍動の中の、おこぼれに過ぎなかったから。

 悔しさが残る。

 玲王と凪。近くにいなくても、二人は確かに共に戦い、互いを意識している。

 それは今、玲王の力になる。

 自陣中央から、冴のパスが放たれようとしている。士道はそのコースをほとんど見ない。それでも、士道の最高のパフォーマンスを理解する冴は士道へ必要なボールを寸分違わず供給した。

 今の玲王にそれを防ぐ手立てはなかった。どれだけ複写(コピー)能力が有用であっても、99%という限界があった。

 玲王は解決策こそ思い浮かばなかったが、その弱点を理解していた。

 どうする。どうすればいい。今、この瞬間に士道に勝つために。

 刹那。加速する玲王の思考。

 シナプスが発火し、燃え広がる。

 走馬灯のようにフラッシュバックする過去の光景の中、一つだけが玲王の脳を刺激した。

 

 ──だから玲王は、()()()()()()()

 

 氷織が、士道が混乱する。敵味方問わず、意味不明な行動。

「は……!?」

「カメレオン……!?」

 向かうのは、冴が供給したパスそのもの。

 士道がP・Aの内側右翼側に走るのに対し、玲王はより前へ。冴の高度な──この試合何度も放たれた冴のボールの軌跡、その一点に向かって、一直線に。

 その本意をコンマ数秒で理解した者がいる。

 カウンターの攻防を見届ける潔世一。

 ベンチで戦いの行く末を見届ける千切豹馬。

 そして、凪誠士郎。

「そうだよ、玲王」

 何人かは知っている。それは凪・潔が3rdステージで見せたもの。パサー・ストライカーの連携に勝てないと見切って、パスを直接奪う大博打(ギャンブル)プレー。玲王が千切に向かって放ったパスを、凪が全力疾走とスライディングで辛うじて奪ったのだ。

 つまりは、潔・凪のプレーそのものの複写(コピー)

 それを理解したから。潔はあの時凪にかけた言葉を、かつてのパサーに向けて放った。

「届け」

 玲王が、冴のパスに向かう。飛ぶ。スライディング。

 

 届け。

 届け──!

 

「まじ──紙一重だなオイ!」

 一心不乱だったから、めちゃくちゃなことを叫んだ。玲王にその自覚はなかった。つま先がボールを掠めた。

 ボールに熱が届く。弾かれたボールは、右翼自陣へ。

「ええやんけカメレオン」

 氷織がボールを受ける。選ぶのはノーガードの殴り合い一択だ。

 氷織の冷徹な左脚が閃く。血液が血管を介して流れる。

 速攻カウンター。

 玲王が叫ぶ。今度は意志を持って。また、ストライカーとして世界一になるために。

「いけ、青い監獄(ブルーロック)!!」

 ボールは(OMF)へ。

(来た──カウンターチャンス!)

 U-20代表のFW陣──冴や士道、閃堂までもが前のめりに動いていた。

 速攻カウンターであれば戻る暇はない。純粋なBL11傑FWとU-20代表DFの対決となる。

 紛れもない好機。潔はもちろん、宵越(RCF)(LCF)もゴールに餓えながら走る。

 そして、もう1人。この状況においても、馬狼は潔のボールをカットしようと動く。

 馬狼(RWG)が潔の後ろを走っている。

 潔は気づいていた。もちろん宵越もだ。

(あのバカ、この決定的好機になにを──)

 それでも、敵もただ混乱するだけではない。

 合理性など欠片もなく、潔に執着したプレーをする。いち早く理解した蛇来(LSB)が馬狼を刈りに立ちふさがった。

 だが、馬狼は諦めるつもりなど毛頭ない。

(挑戦を切り替えろ)

 稲妻走行、馬狼は蛇来を剥がそうと、潔から離れる。

 潔の創る光を利用して、馬狼のみが輝ける闇を探す。

 いや、それだけではない。このフィールドはもう、宵越の熱によって誰もが燃え上がっている。

(上等だ。4thで潔を、適性試験(トライアウト)で宵越を喰ったなら──)

 

 今度は、()宵越()を、同時に喰らう──

 

 馬狼が離れたことで、潔は余計な緊張から解放された。潔もかつて馬狼と互いのゴールのために味方を利用する──喰い合う連動(アンチ・コンボ)を仕掛けたことがある。だが、先の馬狼は結果的にゴールを奪えず、結果的にプレーを無駄にした。それは潔も歓迎しない。

 潔は凛・宵越との堅実な三角形(トライアングル)で前線へ上がる。

「来るよ! 連動警戒!」

 音留(RSB)が叫んだ。仁王(CB)が返した。

「わーってる! 任せろオラァ!!」

 守備4傑(カルテット)三角形(トライアングル)を警戒する。彼らも集中の極地にいた。

 何度も攻撃し、その度にゴールを阻まれてきた布陣。潔は迷う。まだ、自分が奪えるゴールへの道筋が見えない。

「潔!」

 左翼敵陣で雪宮(LWG)が叫んだ。馬狼ほどでないにせよ、雪宮もまた個人のために他者を利用しにかかる利己的なストライカー。

 それでも。

(宵越・凛とだけじゃ守備にやられる! だったら、やるしかないだろ!)

 作り出せ。連動のない雪宮との連携。その中の、読めない一瞬に反射する。使えなかった馬狼を邪王道の道に立たせたのは、馬狼を喰うことで利用した潔のマインドに他ならない。

 雪宮をも、利用するのだ。

 潔は雪宮にパスを出した。左翼に回ったボール。雪宮は再度、細かなタッチで音留を躱す。

 音留は食らいつく。守備として、二度負けはしない。

 互角の攻防。ボールが跳ねる。誰のものでもない球は、P・Aラインの中央へ。

 その偶然に反応する、潔と宵越。膂力で勝り、宵越が先ボールを受ける。愛空とのマッチアップ。

 ぶつかる強者たち。ボールは再度誰のものでもなくなった。

 潔は、心の中で拳を握りしめた。

(この時を待ってた──!)

 雪宮と音留の戦い。外れる可能性をケアする。連携経験から、宵越は反射するだろう。愛空(CB)はそれを止めようとするだろう。

 互角の彼らが戦う中、仁王は凛を注視していた。(自分)1人が戦場の穴となる。

 攻撃偏重による、怒涛の連続攻撃。この一瞬を無駄にするな。

 潔は抜けた。ゴール前、GKと一対一に。

(完ッ全に読み通り!)

 仲間の力を利用し、増幅させ、最後には自分が喰らう。潔の真骨頂とも言える動きだった。

 

 それでも、強者は強くなる者に反応する。

 

「不倒だけじゃねぇか。青い監獄(ブルーロック)の心臓たり得る奴は」

 

 潔世一 VS. 糸師冴

 

 (OMF)が、潔に張り付いた。

 

「いい脳ミソしてんじゃねーか」

 

 これだけは、潔の計算に入っていなかった。

 例え前半から冴が能動的に動いているとしても、その冴が攻撃にいた瞬間に玲王が刈り取ったのだ。冴が戻れない程度のカウンターだったはずだ。

(なのに……なんで!!)

「不思議か? 俺がどうしてここにいるのか」

 冴が潔にぶつかる。

「俺は、正常なストライカーには平等だ」

 冴もまた、熱に反応する。宵越の熱に。宵越がくべた敵味方の熱に。

 同じように、潔世一というエゴに反射したのだ。潔の視野から消えたまま、潔のベストプレーを潰しに来た。

 わずかに汗を滴らせながら。

 糸師冴の本気──と呼ぶにはまだ温い。ただ、目的とする場所に誰よりも早く加速しただけ。

 ただ、冴も望んでいた。自分が本気を出してもなお、それを越えようともがき、進化するストライカーが現れることを。

 潔は、もがいた。

(いや、まだだ……!)

 全部読まれたとしても、ゴール前の一瞬が残っている。現状は辛うじて五分と五分。

(届け! つま先でもいい! 俺の最後の一歩──)

 

「──早まったな、潔世一(11番)

 

 冴が、潔の肩を()()()。たったそれだけで、体幹が崩れた。

「軸がぶれりゃ、直撃蹴弾(ダイレクトシュート)は死ぬぜ」

 進化を望んでいる。だが、甘いプレーなど許さない。

 期待しながら全力で破壊しにかかる。それは愛空と同じ壁としてのふるまい。

 

『潔!』

 

 凛の、宵越の声が重なる。それぞれ、守備を引きずりながら、それでもわずかに動こうと。

 潔世一のベストプレーを信じて動いているのは、糸師冴だけではない。

 辛うじて潔がボールに触れる。シュートではない、ただ撫でただけだった。

 宵越と凛、その中間に向けて繋がれたボール。エゴイストたちに向けた潔からの挑戦状。自分が奪うはずだったゴールだ。

(せめて──喰ってみろよ! 宵越、凛!!)

 守備が、攻撃がボールに群がる。

 とどめを刺したのは。

 

 宵越・凛VS. 愛空・仁王

 

「貪るぜ──クソ野郎共」

 

 ──VS. BL11傑 馬狼照英

 

 右翼から飛び込む、スライディング。擦過傷など関係ない。

 餓えた百獣の王に、刺し傷など行動を止める動機にはならない。

 喰え。咀嚼しろ。味わえ、その熱と光を。

 潔世一だけでは空腹など満たせないのだから。

 

「全部──馬狼(オレ)好物(モン)だ!!!!」

 

 勢いそのまま、右脚を振り上げる。ボールすら、ゴールネットを貪り狂う。

 餓え滾る熱が、全てを呑み込む。

 

 スコア、4‐4。

 

 

 






・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :4-4
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道、閃堂、馬狼
試合進行:後半23分(68分)、馬狼ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)



灼熱カバディ本編における「熱」のタイトル

・無機質な熱
・透き通る熱
・偽物の熱
・負けて得た熱
・隠し切った熱
・灼熱

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