青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

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・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :4-4
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、士道、閃堂、馬狼
試合進行:後半23分(68分)、馬狼ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)





No.61 あと……

 

 

『と、飛び込んできた青い監獄(ブルーロック)の切り札──』

 

 馬狼が吠えた。勢いのまま跳躍し天を仰ぐ。

 

『馬狼照英のスライディングシュートで、青い監獄(ブルーロック)同点!!』

 

 観客と同調し、暴れ狂う。潔に敗北し、正道の王から邪道の王に変化した馬狼が、久々に観客の目線を奪った瞬間だった。

 進化した愛空や冴──U-20代表を前に、見事得点を奪ってみせた。潔や宵越は悔しさと喜びを同等に抱え込んだ。

 そして仲間として、熱狂に身を投じる。

 烏が、潔が、雪宮が──馬狼を囲んだ。

「馬狼! ヤッべぇ! どうやって決めた今の!? ヤベぇ!」

「……暑苦しいんだよヘタクソども!!」

 馬狼が雪宮たちを振りほどいた。

「どーやってもクソもねぇ。俺はお前らを喰いつくすのが至上命題だ」

「だからって(味方)からボール奪うなよ……」

「黙れ《不倒》。お団子サッカー狂いに言われたかねぇ」

「ぐっ……」

 後ろから面白そうに氷織が突っ込んだ。

「今回ばかりは宵越くんも形無しやね」

「……」

「いや、でも」

 潔が馬狼を問い詰める。周りの茶々を気にしない。彼も彼で立派なエゴイストの1人である。

「めっちゃうまく消えてたじゃん! なのに最後だけ、どーやって狙ったんだよ?」

 潔の問いは、前提から間違えている。

 馬狼の力は戦場から消えたのではなく()()()()。凛や宵越や、冴や愛空──化け物どもが徘徊するこのフィールドにおいて、馬狼程のエゴイストも普通にプレーをしているだけでは有象無象に成り下がってしまう。

 実際、投入直後のプレーで混乱は生み出せたが、蛇来をはじめとした守備陣にすぐさま対策された。

 故に、馬狼は。

「進化する潔たち(お前ら)が生み出すプレーを狩ることにした」

 逆境の中を、青い監獄(ブルーロック)のエゴイストたちは乗り越えてきた。何度も、何度も。

 だからこの場面でさえ、絶対に誰かが進化を起こす。その進化を餌に、自らの獲物(ゴール)を咀嚼する──それが馬狼の成したこと。

「ちっ……俺もそれ、狙ったんだけどなぁ」

「あ?」

 馬狼の肩を叩いた、諸刃の剣の片一方。

「最終的に自分のゴールに繋げる。どんな形でも俺のゴールにするって思ってたんだけどなぁ」

「はっ、お利口に連携なんぞするからだろ。足りねぇんだよ、覚悟が」

「3rdで一緒にボロ負けしたくせに……」

 剣呑とした、だが舐めてはいない言葉。馬狼と雪宮は、少なからず互いを意識している。

 その、青い監獄(ブルーロック)らしいやり取りは、仲間へ活力を与える。潔は思考し、宵越は次へと切り替え、烏たちは準備をする。

 その中で、怒りに満ちた者がいる。

(クソ共が……余計なことを)

 

 BL11傑 糸師凛

 

 凛もまた、先のゴールに絡んだ得点の立役者だ。宵越と共に最後までゴールの道筋を描いたからこそ、馬狼が邪道を貫けたと言っていい。

 だが、その事実は、凛の眼には異なる様相で写り込む。

(どいつもこいつも……バカみてぇに色めきやがって)

 

『結局クソ《不倒》から奪うしかゴールできなかった』

 

 ハーフタイム、凛が言葉が、彼のイラつきを良く表していた。

 

 前半からわかっていた。このゲームは、少なくとも青い監獄(ブルーロック)側にとっては、宵越のゲームとなっていた。1点目(凪のゴール)は宵越が起点となり、2点目(烏のゴール)もまた宵越の支えにより。そして3点目(凛のゴール)もまた、自分が宵越の最後のボールを奪ったものだ。

 得点こそしていないが、すべては宵越のもの。そして、その熱に当てられた敵たちもまた。

 宵越が冴のレベルを上げ、愛空が触発され、士道が暴れ、閃堂が一矢報いた。

 どいつもこいつも、誰も彼も。「俺が俺が」と湧いてきて、そして存在を主張してくる。

 凛は、同じユニフォームを着るただ1人を睨む。11番を。

(それに……潔さえ)

 絵心甚八は、自分をBL11傑の主砲だと称した。だが主砲さえ、きっかけがなくては動かない。銃砲は、引鉄(ひきがね)が引かれなければ着火しない。

 そして、(自分)のシャドウとして見初められた潔さえ、チームの駒として役目は果たしていたが、まさしく死に役にしかなっていなかった。

 だが。

(今のプレーは……)

 馬狼の動き。糸師冴のブロック。それは潔が設計(デザイン)したプレーに動かされたもの。

 宵越を乗り越えようとした雪宮も。その雪宮を想定した潔を前提とした宵越の動きすらも。

 宵越の動きを、(自分)はそれありきの動きで喰うしかなかった。それを、潔は真っ向から崩しにかかっている。意図的かどうかは知らないが。

 進化したフィールドを前に、潔世一が頭角を現しつつある。

(だからあのバカ(馬狼)が動けた)

 雪宮と馬狼。同じ《ゴールを奪う》という混沌(カオス)を期待された人選。

 雪宮が意識したのは、自分のゴールで勝つこと。そして自分を下した宵越への意識は避けられない。

 そして馬狼が固執したのは、自分のゴールを奪うこと、そして自分を喰らった()()()()を喰らうこと。

 雪宮でなく馬狼がゴールを奪えた理由がここにある。宵越だけでなく、宵越に呼応しようとした潔に反応した。

 そして進化した潔に、冴が立ちはだかった。

(このまま喰わせるかよ……)

 まだ試合は終わっていない。

 凛は汗をぬぐった。拳に力が入る。

 次の1点は、絶対に俺が決める。

(これは俺の試合(ゲーム)だ。)

 糸師冴(アイツ)を倒し、(オレ)の名を世界に刻む。

(これは、(オレ)の物語だ──!!)

 

 

────

 

 

 プレーは続く。

 全90分という長い時間。それでも、選手は、一人一人が勝つために動き続ける。

 残り約25分。脚を止めるなどという選択を取る者はいない。

 蹴り続ける。ゴールを生み出すために。

 叫び続ける。仲間を動かすために。

 走り続ける。敵を躱すために。

 フットボールの一番熱い場所へ。青い灼熱の世界へ。

 

 後半25分。残り20分。

 

 フィールドの中央右翼、氷織(RSB)がロングパス。ボールは前線左翼へ。(DMF)がインターセプト。すぐさま前線に繋ぐ。見え見えのパスコース。センターマークのまさに真上で(DMF)が弾き返した。

 ルーズボールを宵越(RCF)が奪う。0から1へ、黄金の両脚が加速する。右翼から駆け上がりつつ中央へ。颯を抜き、スライディングしてくる閃堂(OMF)を躱す。着地地点に冴が待ち構えていた。これ以上は進めない。宵越は次へ託した。

 受け取った、独裁の王。馬狼(RWG)はさらに外側ラインギリギリから駆け上がる。蛇来(LSB)がそれを防ぐ。裏抜けを得意とする彼としては、本試合初めてのチャージを選択した。馬狼は虚を突かれ勢いが弱まった。それでも、P・Aの外側からシュートを選択する。不角(GK)がキャッチングする。馬狼は舌打ちした。他のBL11傑も舌打ちした。

 すぐさま起き上がった不角はロングキックで前線へ。BL11傑に時間を与えない。(OMF)へ狙いを定めていた。だが、その冴に(LCF)がぶつかってきた。U-20代表のほとんどの面々にとって予想外の出来事だった。それでも冴は負けない。飛びあがった兄弟の空中戦。軍配はわずかに冴にあがる。ただ辛勝だった。冴の選択肢は狭まった。

 わずかな死角をついて、冴は右翼の(LWG)へボールを繋げた。すぐさま氷織が立ちはだかる。ドリブルで抜く。だが氷織もただでは抜かされない。体をぶつけて選択肢を狭める。超は辛うじてボールを前線へ繋げた。そこに人が来るかもわからない。これまでのU-20代表には考えられない選択肢。それが勝利につながることを信じて。

 神様はいない。だが悪魔はいた。士道(CF)はゴールを求めてやまない。P・A外側、中央に弾かれた()へと向かって駆ける。そして、それは蟻生(CB)が許さない。

 それでも悪魔は目的(爆発)だけを見据える。蟻生は自分だけでは止められないとわかっていた。だから玲王(CB)と2人でダブルプレスを選択した。

 ボールは浮く。P・A内左翼側。抜け出した狐里(RWG)がストライカーの役目を果たす。

 

 我牙丸(GK)もまた、役目を果たす。左上角への蹴り込みを左の拳が打ち抜く。弾かれたボールは、狐里の頭上を越え、左サイドの端で蜂楽(LSB)が己のものとした。

 カウンター返し。蜂楽がドリブルで駆ける。速度も遅く曲線の動き。それでも追いつこうとする狐里(1人目)を躱す。立ちはだかった(2人目)を突破する。さらに全力で走ってくる閃堂(3人目)もものともしない。

 立ちふさがる4人目、糸師冴。笑みと共に、心が躍るままに、蜂楽は冴を抜きにかかる。脚を左右に振るシザーズ、右から左へ切り返すエラシコ。冴はついてくる。ボールを弾く。蜂楽の思考が止まった。

 が、冴がボールを保持することはなかった。弾かれたボールが誰かのものとなる前に、雪宮(LWG)は動き出しそのボールを奪った。

 剛のドリブル、雪宮という一振りが猛進する。2度目の音留(RSB)との対峙。雪宮は音留に接近し、パスモーション。つられて動き出した音留を、今度は自身の本当の武器であるドリブルで抜いて見せる。

 まだ、敵は控えている。それでも構わない。雪宮は己の勝利のため、狙いを定める。

 その刹那、仁王(CB)が動いた。雪宮のシュートコースを消す動き。

 構わない。自分は剣だ。諸刃の剣だ。

 構うものか。傷ついた結果、己のゴールでストライカーになれるなら。

 雪宮は右脚を強く振り切った。軍配は仁王に上がった。遠くからもゴールを奪おうとするBL11傑に対し、自身の強みであるフィジカルを捨ててまでシュートコースを限定する。それは賞賛される動きだった。

 結果、不角が迷わず右上角へ飛び込む。辛くもボールはポストをかすめ、地を跳ね、高く舞う。

 予測地点、その一点に突っ込む。愛空(CB)(OMF)

 愛空が一瞬早い。ヘディングは高く、ボールを弾く。

 再び後退する。P・A外側中央。だが、ボールに反応したのは、宵越。

 思い出す景色がある。

 酸素が薄くなる。視界に靄がかかる。冬のフィールド、選手が、観客が吐く白い息も。

 燃える世界が。心地よい世界が広がっていく。

 宵越に、冴が立ちはだかった。

 

 宵越竜哉 VS. 糸師冴

 

「いいじゃねぇか、青い監獄(ブルーロック)

「そうかよ、天才」

「ついてこれるバカにだけ、次の景色を見せてやる。そう思ってたんだがな」

 どうやら、この試合はバカばかりらしい。

 雰囲気で冴の言わんとすることを理解した宵越は、吹き出す汗をぬぐうこともなく、ボールを持ちながら不敵に笑った。

「なら、どうするんだよ」

 冴は答えた。

 

「超えて見せろよ。俺の本気を」

 

 いきなりのトップギア。冴が今日最速の動きで宵越の脚元へ襲い掛かった。

 それを、宵越は初見で防いで見せた。伊達に《不倒》とは呼ばれていなかった。

 だが、それでも勝利は冴に譲ることとなった。中途半端な形でボールはあらぬ方向へ──左翼側へこぼれた。それを追う宵越と冴は、どちらも味方含め誰にもそのボールを渡すつもりはなかった。

 身体能力は宵越が優位だった。だが経験と読みが冴との攻防を互角にさせた。冴が辛うじて勝てたのは、宵越が《バック》を使えず、故に冴が真っすぐボールに向かって走れたからだった。

 そのまま冴は駆け抜ける。パスではなく、自分で動く。

 けれど。

「ざけんなよ、クソ兄貴──!」

 凛がスライディング。冴の足元がわずかに狂った。それでも、宵越から奪ったボールは未だ冴が持ったまま、完全にふらつく前に前線(士道)へ繋ぐ。

 再び放たれた、士道への縦一閃のパス。

 凛は冴から目を離すことはできなかっただろう。

(クソが──どんだけ遠いんだよ)

 まただ。また、宵越の動きありきのスライディングによる攻防だった。

 それでも冴を抑制することはできなかった。

 今はもう、追いつかない、冴の思考。

(……誰だよ)

 あいつの思考に追いついているのは。

 潔か? 徐々に戦場に牙をむいているから。

 愛空か? 怒涛の攻撃を防いで見せたから。

 それとも、宵越か? この戦場に熱を生み出したクソ野郎。

 わからない。サッカーIQの高い奴らめ。

 (自分)にはわからない。

 子供の頃は、一緒にいたのに。一緒に世界一を目指していたのに。

糸師冴(アンタ)はどこまで、俺を置いて生きていく……?)

 心の中の問いかけ。冴に届くはずもない。

 冴もまた、ゴールだけを見据える。

 繋がれたボール。士道が躍動する。カウンターの応酬。士道以外の面々も存在感を出した戦場。故に、士道を何度も防ぐことはできなかった。

 咆哮と共に奪われる、士道の2点目。凛は、それを無様に転がったまま視ることしかできなかった。

(あー、クソ……また同じ感情だ)

 あの時。冴に拒絶された時と同じ感情。絶望し、枯れ、何もかもがゆっくりと沈んでいくような。

 それでも。

(ふざけんな)

 それでも。

(もう飽きてんだよ)

 それでも。

(俺は変わる──この試合で、変わってみせる)

 それは、紛れもない執着。

 雪宮が宵越を意識するように。馬狼が潔を貪るように。

 兄に、かけがえのない感情を奪われた弟の、憎悪。

(壊せ、全てを)

 そのために。壊したいものを。糸師冴を、理解する。

(俺たちは兄弟だ。同調(シンクロ)しろ)

 この試合で変わるために。U-20代表に負けないために。糸師冴に勝つために。

 互角の試合。勝つために必要な──あとひとつだけ必要な、冴を壊す。

 そのために。

(俺が糸師冴なら。青い監獄(ブルーロック)をどう壊す──?)

 スコア、4‐5。

 再び絶望の淵に立たされるBL11傑。

 それでも、諦めない。

 諦める者は1人としていない。

 自分たちはストライカーだから。

 ゴールを生む者だから。

 立ち向かえ、何度でも。

 立ち上がれ、何度でも。

 

 残り──あと15分。

 勝利まで──あと2点。

 

 

 






・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :4-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
     士道、閃堂、馬狼、士道
試合進行:後半30分(75分)、士道ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)


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