青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

62 / 65


・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :4-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
     士道、閃堂、馬狼、士道
試合進行:後半30分(75分)、士道ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)





No.62 青い監獄(ブルーロック)11傑“不倒”宵越竜哉

 

 

 青い監獄(ブルーロック)メインスタジアム。

 特別壮行試合、青い監獄(ブルーロック)11傑 VS. U-20日本代表。

 スコア、4‐5。U-20日本代表が1点リード。

 後半30分。残り15分。

 試合の開始から、退屈さとは無縁の展開が続いた。互いが1点以上突き放すことのないシーソーゲーム。

 今までの日本サッカーの常識を覆すような攻撃を繰り返すBL11傑。それに呼応するように、攻守ともに限界までの進化を余儀なくされるU-20日本代表。

 どちらも一歩も引かない。負けるつもりなど毛頭ない。けれど、1点リードしたとしても油断はない。

 ここはもう、ただのサッカーフィールドではない。

 フットボールの一番熱い場所。命を懸けて1つの球を奪い合う戦場。

 

 青い灼熱の世界。

 

 宵越は歓喜する。この世界に身を投じることに。

 引き金を引いた。宵越の熱は、BL11傑に、冴に広がった。愛空に、士道に、閃堂に、U-20日本代表全員に。

 凪・烏・凛・馬狼。その攻撃の全てに、宵越は絡んでいた。

 今や脅威は主砲だけでない。全員がストライカーなのだ。

 故に、宵越の気配もまた、わずかに霞む。

(けどよ……)

 この戦場の全てを灼熱に変えた。

 それでも、まだ足りない。

 宵越は、勝つことを何よりの信条としている。

 青い監獄(ブルーロック)のエゴイストを体現するわけではない。宵越は燃える世界が好きで、けれど仲間との連携や絆を肯定する。ただ、宵越自身は「絆などくだらん」と言う。

 宵越竜哉。《不倒》と呼ばれ、日本サッカーを背負う未来を望まれながら、高校進学を機にサッカー界から姿を消した男。

 他人に厳しく、何よりも自分に厳しい宵越は、周囲の空気を読み、合わせることが苦手だった。そもそも個人の思考や能力は違う。望んだ場所にパスの受け手は現れないし、望んだタイミングでパスが来ることもない。

 

 違う。

 足りない。

 遅い。

 合わない。

 

 だから連携は嫌いだった。

 

 いつか、宵越はチームメイトと言い合いになったことがある。

『なんでパス出さねーんだ!! 俺が前に走ってんだから──』

『ああ、いつも突っ走ってるよお前は。1人で、俺たちの追いつけない速さでな』

 そんな──スポーツ嫌いな宵越がカバディを始めた理由はいくつかある。

 先輩に脅されたり、約束事のために仕方なかったり。

 けれど、一番の理由は。絶対的な契機は。

 

 ──負けっぱなしの相手がいて、そいつに勝ちたいからだった。

 

 宵越にとって、絆なんてくだらないものだ。自分を負かした、カバディをはじめるきっかけとなった男は、最初から最後まで──そしてカバディを辞めた今でも、負けたくない相棒(ライバル)だった。

 けれど、人はそれを絆というのだろう。

 宵越はそいつらと一緒に戦って、頑張って──最後は勝って、バカみたいに喜ぶためにスポーツをしているのだから。

 そんな宵越は、サッカーに帰ってきた。これにも理由はある。

 かつての自分を反省したからだ。最善を尽くしていなかったと。

 カバディで仲間から学んだ。チームとどう向き合うべきかを。

 独りよがりで、ついてこれない人間と壁を作って、腐っていった自分ではなく、最善を尽くして最高の結果を得たいのだ。

 

 だから、宵越は震えあがる。

 

 日本一になったカバディを蹴って、最善のために選んだ俺が土俵のサッカーで。

 得点もできずに負けるかもしれないなんて

(そんなことは許さねぇよ)

 たったの2点でチームを延長戦に持ち込んだ先輩(井浦慶)に。

 俺に負けを認めさせた、カバディの愛を唱えて絶対王者を全滅させた憧れ(王城正人)に。

 先輩・同輩。たくさんの試合を共に戦った頼れる仲間に。

 不倒を初めて倒した相棒(畦道相馬)に。

(顔向けできねえよな、このままじゃ)

 カバディで体験した自分の感情が、サッカーに回帰する。

 

 ──果敢に戦った先輩たち、同輩たち。ここまでのプレーは間違いじゃなかったと──

 ──俺が一度逃げたこと。カバディを楽しんだこと。何一つ間違いじゃなかったと──

 

 ──証明してやる!!──

 

 青い監獄(ブルーロック)11傑“不倒”宵越竜哉が。

 能京6番“不倒”宵越竜哉が。

 

 動き出す。

 

 

────

 

 

 士道のゴール。最高潮に盛り上がるU-20日本代表。

 BL11傑は、欠片たりとも恐怖を覚えない。

 自分たちが勝つことを、何一つ疑わないから。

 再開するプレーでも、プレーの精彩は欠かない。全員がもう1点を奪うために動き続ける。

 多くの人間にボールが流れる。誰もがボールを求める。奪い奪われ、カットしカットされ、カウンターしカウンターされの応酬。一歩も引かない。

 その中で、宵越は変化を感じ取った。ただでさえ灼熱となったこの戦場(フィールド)で、またさらに変わったものを。

 

 ──超えて見せろよ。俺の本気を──

 

 熱いものが滴り始めた糸師冴。そして、それと呼応するように。

 

 ──あの雪の日の言葉は、戯言かよっ!──

 

(わかってるよ。天才の弟)

 お前だって、天性のエゴイストだ。

 逝こうぜ、一緒に。天才を乗り越えるために。

 U-20代表の攻撃から、辛うじてボールを奪取した蟻生(CB)。汗を流し、それをいつものように払うことなど忘れている。それこそ、蟻生の美しさが際立つ。

 パスを繋げ、ボールは氷織(RSB)に。氷織による(LWG)の一瞬の隙をついて、(OMF)を飛び越す長距離供給弾(ロングパス)。中央右翼の宵越がボールを持った。

 これまでのパターン、宵越が使ってきた選択肢は多い。両WG(馬狼・雪宮)に繋げもした。基本は潔・凛との三角形(トライアングル)だった。そして、宵越は単独突破もできる。凛と比べても遜色ない攻撃力。チームの方針によっては宵越が単独CFを担うこともあるだろう。

 この場面、宵越はパスを繋げやすい潔へ、すぐさまボールを回さなかった。

 潔が、U-20代表DF陣が。その変化をかぎ取る前に、宵越は(LCF)へとボールを繋げた。

 両翼の主砲による組み立て(ビルドアップ)。前半終了間際、宵越のシュートを凛が奪った景色とは異なる、本物の連携。

 普段の凛であれば、受け入れられない動きだっただろう。だが、今の凛はいつもと異なると、宵越にはわかった。

 凛は思考していた。同調(シンクロ)していた。糸師冴を越えるために。

糸師冴(アイツ)に思考を重ねれば、どこがヤバいのかを、感じる)

糸師凛(アイツ)の気持ちを考えて、守備(糸師冴)の感覚を少しでも読む)

 ボールを持った宵越が、前へ。敵陣中央の凛へボールを繋ぐ。

 凛が、それを受ける。内心は怒り、滾っていた。単なるチームメイトとしての繋ぎではない。凛には宵越の意図が、多少なりとも感じ取れた。

 冴に執着し、乗り越えようとするが故の、一瞬の精神性(メンタリティ)の変化。それは攻撃の気に響く。

 故に、宵越はここ一番の我を出した。

 

 ──俺に出せ。

 ──やってみろよ、クソ《不倒》。

 

 中央で、宵越と凛が確実に敵を制し前進する。ドリブルにおいて、恐らくこのフィールドで最も突破力を持つ不倒の動き。誰にも止められない。冴はまだ後ろにいた。

 (DMF)が立ちはだかった。

「止めるよ、《不倒》」

「アンタにも教えてやるよ。()()の怖さって奴を」

 宵越竜哉は止められない。

 右脚が(アウト)から(イン)へボールを絡めながら左脚のさらに左へ。凛の一瞬の隙を突き右後ろ脚からの股抜き──クロスエラシコ。

 颯は反応できなかった。冴の技。例え宵越の模倣が不完全であっても、颯には止められない。

 次。宵越は後ろを振り向かない。相対するは、愛空と仁王(CB2枚)

 蛇来(RSB)の少し前まで走った(OMF)へパスを出し、自身は敵の回避を狙う。潔のダイレクトプレーを促す。

(ここで俺を使うのかよ……!)

 これまで見せなかった宵越の独善的な動き。その動きは他の青い監獄(ブルーロック)のエゴイストとも隔絶している。潔に自身のゴールのために動く隙を与えなかった。

 蛇来の前でボールを受けた潔は、宵越を見た。ドリブル速度、オフ・ザ・ボール、負けん気、戦術眼。練習の時からわかっていた。だがまざまざと実感させられる。宵越の実力を。

 けれど敵は鉄壁の2人(CB)。宵越も、潔も、凛さえも、これまでの何度も防がれてきた。

「咲いてみせろよ、《不倒》」

「こい!!」

 仁王の咆哮。潔が右翼側からボールを蹴る、ほんの一瞬前、潔は状況を注視する。

(どうするんだ、宵越!?)

 

 宵越は、殺気を消した。

 ただ1人、愛空が驚愕していた。

 

(コイツ……こっちを見てない!?)

 

 サッカーには適さない動き。ゆらりと揺蕩うような。

 愛空と、仁王に背を向ける。それは逃げでも回避でもない。

 全員、サッカー経験者。思考には浮かばずとも、全員が経験によって敵の動きを読んでいる。目線、四肢の動き、気迫、体の向き。

 宵越のIsolation(アイソレーション)技術は熟練そのもの。通常の先読みではまず理解できない。敵はあらゆる方向への《カット》の可能性を読んでいた。

 愛空と仁王は、コンマ数秒の中で思考を停止させざるを得なかった。

 

(これは……)

(気配が、消えた──)

 

 

────

 

 

 どこか、絵心と対抗するように、自分だけでなくチームのことも考えて──果てはサッカー界のことすら思考していた宵越。

 それは宵越がカバディを経て得たものであるが、チームへの献身性はまだ成長途中に他ならない。

 今、フィールドは誰も彼もが熱くなっていた。宵越が何に気を付けるでもなく、選手一人一人が同じ目標のために死力を尽くすようになっていた。

 だから、宵越は自分のことだけに集中できた。

 この灼熱の世界へ没頭する。

 サッカーに復帰して以来、ぎこちなく在ったその思考が解きほぐされる。

 楽しさへ、身を投じる。

 

 気づけば、宵越は愛空と仁王の後ろにいた。

 

(あっ……)

 

 それは昔から気づき、持っていたモノ。真剣に、楽しむ者にのみ訪れる……イメージ(王城正人)現実(サッカー)が繋がる理想の感覚。

 

 今までの自分を、越える瞬間。

 

 カウンターというサッカーでは使えない超技術。その根幹をなしていた、敵の呼吸を読み利用する技術。

 それを用いて、いつの間にか敵の背後に回り込む。

 否、見えてはいる。それでも動けないのだ。王城正人のカウンター技術は、愛空にさえも通用する。

 状況を全て視ていた潔が震えた。

(化け物……!)

 悪寒がした。こいつは、どこまで進化していく……!?

 二人を躱した。前へ進む。

「やっぱり化け物かよ──《不倒》!!」

 愛空が付いてきた。辛うじて、維持だけの転回だった。

 

 ──《カット》。愛空を突き放す。最後は、俺のまま(自分の技)で決める。

 

 遠ざかる守備。ゴール前、不角(GK)との一対一。

 不角の脳裏に映る前半ラスト。想起される無拍子蹴弾(ノービートシュート)

 カバディでは初心者だった。数ある強者の技術を学び、考え、敵の何万の積み重ねを自分の1に変えてきた。

 今はサッカー。何万の積み重ねも、たった1の発想も、すべて《不倒》の下に積み重ねに還元させる。

 強者のシンプルな1点を刻み込む。

 スコア、5‐5。

 歓声は怒号となる。宵越が天へと腕を掲げた。

 怒号の中から、微かに聴こえる声があった。

 

 ──いいぞ、ヨイゴシー!!

 

 それは誰の声か。宵越には聞こえなかった。

 その声の主が視界に入るよう振り向いたのも、偶然だった。

 だが、宵越は最善を尽くそうとしている。だから観客へ向けて指をさしたのは偶然ではない。

 今の宵越の活躍は、サッカーだけではなくカバディの世界にいたからこそ。

 相棒の、ライバルの、仲間の、強敵たち。カバディの繋がりによって蒔かれた種だ。

 

 不倒は今、ここにいる。

 

 

 






・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :5-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
     士道、閃堂、馬狼、士道、宵越
試合進行:後半37分(82分)、宵越ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)


能京サッカー部監督と部員は全員号泣してます。
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