・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :4-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
士道、閃堂、馬狼、士道
試合進行:後半30分(75分)、士道ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)
特別壮行試合、
スコア、4‐5。U-20日本代表が1点リード。
後半30分。残り15分。
試合の開始から、退屈さとは無縁の展開が続いた。互いが1点以上突き放すことのないシーソーゲーム。
今までの日本サッカーの常識を覆すような攻撃を繰り返すBL11傑。それに呼応するように、攻守ともに限界までの進化を余儀なくされるU-20日本代表。
どちらも一歩も引かない。負けるつもりなど毛頭ない。けれど、1点リードしたとしても油断はない。
ここはもう、ただのサッカーフィールドではない。
フットボールの一番熱い場所。命を懸けて1つの球を奪い合う戦場。
青い灼熱の世界。
宵越は歓喜する。この世界に身を投じることに。
引き金を引いた。宵越の熱は、BL11傑に、冴に広がった。愛空に、士道に、閃堂に、U-20日本代表全員に。
凪・烏・凛・馬狼。その攻撃の全てに、宵越は絡んでいた。
今や脅威は主砲だけでない。全員がストライカーなのだ。
故に、宵越の気配もまた、わずかに霞む。
(けどよ……)
この戦場の全てを灼熱に変えた。
それでも、まだ足りない。
宵越は、勝つことを何よりの信条としている。
宵越竜哉。《不倒》と呼ばれ、日本サッカーを背負う未来を望まれながら、高校進学を機にサッカー界から姿を消した男。
他人に厳しく、何よりも自分に厳しい宵越は、周囲の空気を読み、合わせることが苦手だった。そもそも個人の思考や能力は違う。望んだ場所にパスの受け手は現れないし、望んだタイミングでパスが来ることもない。
違う。
足りない。
遅い。
合わない。
だから連携は嫌いだった。
いつか、宵越はチームメイトと言い合いになったことがある。
『なんでパス出さねーんだ!! 俺が前に走ってんだから──』
『ああ、いつも突っ走ってるよお前は。1人で、俺たちの追いつけない速さでな』
そんな──スポーツ嫌いな宵越がカバディを始めた理由はいくつかある。
先輩に脅されたり、約束事のために仕方なかったり。
けれど、一番の理由は。絶対的な契機は。
──負けっぱなしの相手がいて、そいつに勝ちたいからだった。
宵越にとって、絆なんてくだらないものだ。自分を負かした、カバディをはじめるきっかけとなった男は、最初から最後まで──そしてカバディを辞めた今でも、負けたくない
けれど、人はそれを絆というのだろう。
宵越はそいつらと一緒に戦って、頑張って──最後は勝って、バカみたいに喜ぶためにスポーツをしているのだから。
そんな宵越は、サッカーに帰ってきた。これにも理由はある。
かつての自分を反省したからだ。最善を尽くしていなかったと。
カバディで仲間から学んだ。チームとどう向き合うべきかを。
独りよがりで、ついてこれない人間と壁を作って、腐っていった自分ではなく、最善を尽くして最高の結果を得たいのだ。
だから、宵越は震えあがる。
日本一になったカバディを蹴って、最善のために選んだ俺が土俵のサッカーで。
得点もできずに負けるかもしれないなんて
(そんなことは許さねぇよ)
たったの2点でチームを延長戦に持ち込んだ
俺に負けを認めさせた、カバディの愛を唱えて絶対王者を全滅させた
先輩・同輩。たくさんの試合を共に戦った頼れる仲間に。
不倒を初めて倒した
(顔向けできねえよな、このままじゃ)
カバディで体験した自分の感情が、サッカーに回帰する。
──果敢に戦った先輩たち、同輩たち。ここまでのプレーは間違いじゃなかったと──
──俺が一度逃げたこと。カバディを楽しんだこと。何一つ間違いじゃなかったと──
──証明してやる!!──
能京6番“不倒”宵越竜哉が。
動き出す。
────
士道のゴール。最高潮に盛り上がるU-20日本代表。
BL11傑は、欠片たりとも恐怖を覚えない。
自分たちが勝つことを、何一つ疑わないから。
再開するプレーでも、プレーの精彩は欠かない。全員がもう1点を奪うために動き続ける。
多くの人間にボールが流れる。誰もがボールを求める。奪い奪われ、カットしカットされ、カウンターしカウンターされの応酬。一歩も引かない。
その中で、宵越は変化を感じ取った。ただでさえ灼熱となったこの
──超えて見せろよ。俺の本気を──
熱いものが滴り始めた糸師冴。そして、それと呼応するように。
──あの雪の日の言葉は、戯言かよっ!──
(わかってるよ。天才の弟)
お前だって、天性のエゴイストだ。
逝こうぜ、一緒に。天才を乗り越えるために。
U-20代表の攻撃から、辛うじてボールを奪取した
パスを繋げ、ボールは
これまでのパターン、宵越が使ってきた選択肢は多い。
この場面、宵越はパスを繋げやすい潔へ、すぐさまボールを回さなかった。
潔が、U-20代表DF陣が。その変化をかぎ取る前に、宵越は
両翼の主砲による
普段の凛であれば、受け入れられない動きだっただろう。だが、今の凛はいつもと異なると、宵越にはわかった。
凛は思考していた。
(
(
ボールを持った宵越が、前へ。敵陣中央の凛へボールを繋ぐ。
凛が、それを受ける。内心は怒り、滾っていた。単なるチームメイトとしての繋ぎではない。凛には宵越の意図が、多少なりとも感じ取れた。
冴に執着し、乗り越えようとするが故の、一瞬の
故に、宵越はここ一番の我を出した。
──俺に出せ。
──やってみろよ、クソ《不倒》。
中央で、宵越と凛が確実に敵を制し前進する。ドリブルにおいて、恐らくこのフィールドで最も突破力を持つ不倒の動き。誰にも止められない。冴はまだ後ろにいた。
「止めるよ、《不倒》」
「アンタにも教えてやるよ。
宵越竜哉は止められない。
右脚が
颯は反応できなかった。冴の技。例え宵越の模倣が不完全であっても、颯には止められない。
次。宵越は後ろを振り向かない。相対するは、
(ここで俺を使うのかよ……!)
これまで見せなかった宵越の独善的な動き。その動きは他の
蛇来の前でボールを受けた潔は、宵越を見た。ドリブル速度、オフ・ザ・ボール、負けん気、戦術眼。練習の時からわかっていた。だがまざまざと実感させられる。宵越の実力を。
けれど敵は鉄壁の
「咲いてみせろよ、《不倒》」
「こい!!」
仁王の咆哮。潔が右翼側からボールを蹴る、ほんの一瞬前、潔は状況を注視する。
(どうするんだ、宵越!?)
宵越は、殺気を消した。
ただ1人、愛空が驚愕していた。
(コイツ……こっちを見てない!?)
サッカーには適さない動き。ゆらりと揺蕩うような。
愛空と、仁王に背を向ける。それは逃げでも回避でもない。
全員、サッカー経験者。思考には浮かばずとも、全員が経験によって敵の動きを読んでいる。目線、四肢の動き、気迫、体の向き。
宵越の
愛空と仁王は、コンマ数秒の中で思考を停止させざるを得なかった。
(これは……)
(気配が、消えた──)
────
どこか、絵心と対抗するように、自分だけでなくチームのことも考えて──果てはサッカー界のことすら思考していた宵越。
それは宵越がカバディを経て得たものであるが、チームへの献身性はまだ成長途中に他ならない。
今、フィールドは誰も彼もが熱くなっていた。宵越が何に気を付けるでもなく、選手一人一人が同じ目標のために死力を尽くすようになっていた。
だから、宵越は自分のことだけに集中できた。
この灼熱の世界へ没頭する。
サッカーに復帰して以来、ぎこちなく在ったその思考が解きほぐされる。
楽しさへ、身を投じる。
気づけば、宵越は愛空と仁王の後ろにいた。
(あっ……)
それは昔から気づき、持っていたモノ。真剣に、楽しむ者にのみ訪れる……
今までの自分を、越える瞬間。
カウンターというサッカーでは使えない超技術。その根幹をなしていた、敵の呼吸を読み利用する技術。
それを用いて、いつの間にか敵の背後に回り込む。
否、見えてはいる。それでも動けないのだ。王城正人のカウンター技術は、愛空にさえも通用する。
状況を全て視ていた潔が震えた。
(化け物……!)
悪寒がした。こいつは、どこまで進化していく……!?
二人を躱した。前へ進む。
「やっぱり化け物かよ──《不倒》!!」
愛空が付いてきた。辛うじて、維持だけの転回だった。
──《カット》。愛空を突き放す。最後は、
遠ざかる守備。ゴール前、
不角の脳裏に映る前半ラスト。想起される
カバディでは初心者だった。数ある強者の技術を学び、考え、敵の何万の積み重ねを自分の1に変えてきた。
今はサッカー。何万の積み重ねも、たった1の発想も、すべて《不倒》の下に積み重ねに還元させる。
強者のシンプルな1点を刻み込む。
スコア、5‐5。
歓声は怒号となる。宵越が天へと腕を掲げた。
怒号の中から、微かに聴こえる声があった。
──いいぞ、ヨイゴシー!!
それは誰の声か。宵越には聞こえなかった。
その声の主が視界に入るよう振り向いたのも、偶然だった。
だが、宵越は最善を尽くそうとしている。だから観客へ向けて指をさしたのは偶然ではない。
今の宵越の活躍は、サッカーだけではなくカバディの世界にいたからこそ。
相棒の、ライバルの、仲間の、強敵たち。カバディの繋がりによって蒔かれた種だ。
不倒は今、ここにいる。
・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :5-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
士道、閃堂、馬狼、士道、宵越
試合進行:後半37分(82分)、宵越ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)
能京サッカー部監督と部員は全員号泣してます。