青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

63 / 65


・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :5-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
     士道、閃堂、馬狼、士道、宵越
試合進行:後半37分(82分)、宵越ゴール
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)




No.63 仲間がいるから

 

 

 宵越のゴール。これまでも震えていたが、実況と解説はさらに盛り上がっていく。

『ゴール! ゴールゴールゴーーール!!!』

『うはぁ、すごいねぇ!? なに今の動き!?』

『《不倒》宵越竜哉──! 隔世のゴールです!』

『オリヴァ・愛空も仁王和真もちゃんと構えてたよ!? でも抜いたよ!?』

『互いが互いを越え……それでも何度でも立ち上がるBL11傑!』

『ねぇ、なんなんすかこれ!? なんですかこの互角の展開はぁ!?』

 どちらも一歩も引かない。2点以上離されることがない。完全に互角の戦い。

 一方が進化すれば、呼応するようにもう一方も覚醒する。

 最高の試合が、今ここにあった。

 

「宵越くん!」

「宵越!」

 雪宮が、氷織が跳びついてきた。かつて二次選考、そして世界選抜戦までを戦った仲間(ライバル)。その活躍を、この大一番で値千金の1点を奪い獲った栄光を喜ばないはずがない。

 続々と駆けてくるチームメイト。烏が、蟻生が、玲王が──ともに吠えてくる。

に負けないスーパープレーだ。《不倒》宵越」

「ああ、サンキュー。なんか蟻生の声、はっきり聞こえてありがたいぜ」

「やっとやな、《不倒》。復帰と一緒で1点取るのも遅いなぁ」

「黙れよ烏。全部作戦だ」

「雪宮にも言われたやろ。嘘つけボケェ」

 戦いは続いている。まだ同点。けれど、この1点は讃えるべき1点だった。

 そんな宵越やチームを見て、歓喜以外の感情にも震えている人間が2人いた。

 1人は──

 

「宵越……やっぱすげぇよお前」

「潔」

 潔が遅れて近づいてくる。その顔には、喜びだけではないものが張り付いていた。

「今のプレー。俺にはできない。愛空と仁王を真正面からブチ抜くなんて」

「……だろうな」

 潔の眼から見て、宵越は間違いなく強い。だがこれまでと違うのは、頼もしい両翼の一方として機能していた宵越が、今の一連のプレーだけは間違いなく凛を凌駕していたということ。

 宵越自身の《カット》と回転、潔をしのぎ乙夜と同等レベルの気配立ち、冴の股抜きクロスエラシコを模倣したプレー。最初の得点で見せた反射のプレーに、凛と同等レベルの身体能力があった。

 そして何よりも、どうやったかすら説明できないような動きで愛空と仁王を抜いて見せた。一見して守備の2人が手を抜いたようにも見えるが──そんなことはこの灼熱の舞台で起きるわけがない。

 加えて、上を求めて止まない思考力と対応能力。それは間違いなく──潔の上位互換。

 鉄壁が守護するU-20代表を前に、真正面から実力でねじ伏せた。

 潔をして、宵越は間違いなく、天才だった。

「教えてくれ。お前には、何が視えてるんだ?」

「……」

 宵越は潔と、正面から対峙し視た。

 ストライカーの眼を持つ、自分よりも小さい凛の相棒。

 宵越は答えた。

「……すべきことと、憧れを視た」

「……は?」

「それと、一応は仲間もだ」

 潔の眼が瞬いた。

 宵越(こいつ)は何を言っているのか。それが混乱した潔の思考だった。

 世界一のストライカーを目指す場所、青い監獄(ブルーロック)。その中で、楽しむこと。憧れること。あまりにも矛盾に聞こえた。

 現れる敵をなぎ倒し、世界一への捧げものとする。299人の生ける屍の上に立つ頂点。宵越には、間違いなくその場所に立つ資質がある。

 それなのに、楽しむとは。仲間とは。

「絵心の言葉で言うなら、FLOWに入るために思考を切り替えたんだろうな。いや、勝手に切り替わった。燃える世界を、楽しんだ」

「楽しんだって……! そんなこと、できるかよ! こんな大事な試合で──」

「そりゃそうだ。俺とお前は違う。体も、心も、視てきたものも」

 宵越も、潔と自分の似通った部分を自覚している。体格や能力が違うから結果として異なる戦い方をするが、その本質──勝つために己を変えていくという精神性を。

 だからこそ、違うものをはっきりと感じる。

 天才ともてはやされながら、サッカーを辞めて、けれど帰ってきて、恐らく青い監獄(ブルーロック)でも常にトップを走ってきた自分。

 一見して強くは見えないが、この青い監獄(ブルーロック)で少しずつ成り上がってきた潔。

 視てきたものは、絶対に違う。

 宵越は、仲間がいるから戦えるのだ。

 仲間がいるから、今自分はエゴを貫いて戦えたのだ。

「この試合に勝って、青い監獄(ブルーロック)のサバイバルがまた始まったら」

 宵越は立ち尽くす潔を気に留めず、前へ歩く。振り返らないまま、潔に声をかけた。

「話せることもあんだろ。今は最後の1点。獲りきるぞ」

 そのまま、宵越は次のプレーへと意識を向ける。

 潔の会話を半ば強引に打ち切ったのは、他にも理由があった。

(……わかってるよ)

 宵越やチームを見て、歓喜以外の感情にも震えている2人。

 その、もう1人が、宵越をまだ見ている。

 憎悪の感情を向けて、宵越を見ている。

(お前も、化け物だよな。1点獲っただけじゃ満足できねぇ。俺にしてやられて、良い気でいるはずがねぇ)

 

 BL11傑 糸師凛。

 

 伍号棟最終戦で戦った者同士。

 あの時、試合は凛が勝った。

 今は仲間だから、決して単純な勝負とは言えないが。

(お互い、1点獲った。さあ、決着をつけようじゃねぇか)

 そして、敵として立ちはだかる士道にも勝ち切る。

 青い監獄(ブルーロック)に来て、自分が「負けた」と思わされたいくつかの人間に反逆する。

 最後の1点を懸けて。

 

 

────

 

 

 プレーが始まる。U-20代表によるボール回し。

 U-20代表も、死ぬ気で守りきろうとしている。このボールを絶対に渡さない。

 BL11傑も同じだ。死ぬ気で奪うつもりでいる。絶対に勝ち切るのだと。

 閃堂から士道へ。士道から超へ。超から冴へ。

 なんども訪れた冴の進撃。それでも、BL11傑はもう恐れない。例え冴がどれだけの実力を持っていようが、絶対に止めて見せる。その気概と、気概を現実のものにできるだけの可能性があった。

 だが、その熱とは裏腹に、寒々しいまでの悪意もまた、戦場に滾っていた。

 冴と宵越がマッチアップする。少し汗を滴らせる冴は、簡単に宵越を抜けないでいた。

 その裏で。

(どいつもこいつも……邪魔しやがって。俺は1人で戦いたいのに)

 

 糸師凛が動き出す。

 

青い監獄(アイツら)が、俺のサッカーに食らいついてきやがる。俺のサッカーを、越えようとしやがる)

 青い監獄(ブルーロック)は、凛に負けない。凛に1人に負けるような生半可な奴らの集まりではない。

 青い監獄(ブルーロック)が凛を、ひとりにさせてくれない。

 それは宵越に言わせれば仲間だからだ。

 エゴイストだろうが、最後に生き残るのがひとりだろうが。今自分たちはサッカーをしていて、11人が揃わなければならないから。

 仲間がいるから、ひとりになどさせるはずがない。

 だから、凛は悪寒を覚えた。

 

(気持ち悪い……)

 

 復讐は、誰のためのものでもない。他人がそれを為したのでは意味がない。

 この勝利は凛ただひとりのもの。冴への勝利も、自分が世界一となる物語も、自分のもの。

 だから、仲間などいらない。ライバルなどいらない。相棒など、もってのほか。

(死ねよ潔。死ねよ宵越。死ねよ──青い監獄(ブルーロック)

 凛の口が、わずかに開く。

 ぐちゃぐちゃに、シテヤル。

 そのために、まずは。

(自身)を、ぐちゃぐちゃに──)

 

 

────

 

 

 (OMF)ボールから始まった攻撃は、やはり苛烈を極める。

 冴をして、今やU-20代表の()()()()()()()()()士道(CF)だけではなくなっていた。閃堂(OMF)狐里(RWG)(LWG)。それぞれの選手がゴールのために動き続ける。パスの頻度やその位置取りは覚醒した士道が群を抜いているが、警戒対象が増えたためにBL11傑の守備の難易度は跳ね上がっていた。

 馬狼(RWG)も、雪宮(LWG)も、宵越(RCF)(OMF)も、全員で守る。

 冴からのパス。士道を囮にした、右翼自陣にいる超へのそれが放たれた。

 反応できなかった、BL11傑。

 いや、ひとりだけ。(LCF)だけが、そのパスをインターセプトしてみせた。

 驚きはない。凛ならそれが可能なのは誰しもわかっている。

 だが、次の挙動は誰しもが予想外だった。

「いくぞ凛! 三角形(トライアングル)使って──」

 潔の言葉を無視する。1人でドリブルを続ける、しかも中央から左翼への加速だ。試合時間も少ない、もしかしたら最後のカウンターかもしれない。なのになぜ無駄な動きを。

 

 向かう先はRSB──音留徹平

 

「わざわざ来てくれたんだ? 容赦しないよ」

(死ねチビ殺す。てめぇの武器は速度(スピード)──)

 凛はこの極限になって、己のことを少しずつ理解し始めていた。今まで、潔や宵越との戦いで見せた支配的傀儡サッカー。それは周囲の人間全てを計算にいれた合理の果てにある動き。

 それは、あくまで冴の模倣に過ぎなかった。自分のサッカーではなかった。

 自分のサッカーは。計算など関係ない。破壊衝動のままに、敵の最高を引き出しぶち壊すことに快感を覚える──()()()()サッカー。

 凛は音留を抜きにかかる。加速を誘発し、逆への加速で抜き去る。

 そのまま潔や宵越を越して、無様にも、愚かにも右翼側へ。あまりにも合理とはかけ離れた動き。

「なんじゃお前、次はワシか!?」

 

 次はLSB──蛇来弥勒

 

(ミナゴロシ)だ──)

 凛は宵越にパスを出した。暴挙が過ぎる。宵越は逡巡した。凛を躱し潔との連携に転換(シフト)する方針へ。

 けれど、結局は凛へボールを戻した。凛がその手で押さえつけ、裏抜けが得意な蛇来を雄々しく抜き去った──攻撃に成功したのも理由の一つ。

 けれど何よりの原因は。

 

 ──オレニ ダセ。

 

 決意ではなく殺意。

 神々しさなど欠片もない。学ぶ気が起きないのではなく、()()()()()()

 世界に稀にいる存在(モノ)。人の形に収まっているだけの、怪物(ビースト)

 宵越はパスを()()()()()

 凛は動き続ける。破壊衝動のままに。

 

 3体目。CB──仁王和真

 

 体幹という圧倒的な強さが武器の仁王と相対。だがそれすら意に介さない。襲い掛かる肉弾圧肩(ショルダーチャージ)を、低い位置から回転破壊する。仁王は文字通り、飛び転げまわるしかなかった。

 ファウルギリギリで。たった1人で。残り時間や合理など欠片もなく、欲望のままに。

 それは凛の殺意故、決意故。

 糸師冴の弟。青い監獄(ブルーロック)のNo.1。チームの主砲。そんな自分を何かの添え物として縛り付ける称号など、絶対にいらない。俺が俺自身であるための決別のプレーだからこそ、絶対に1人でゴールを奪う。

 同じ『1人で抜く』のでも、宵越とも、冴とも違う醜さがあった。

 残るは1人。

「それがお前の本質かよ。歪んだ性癖してんなぁ、天才の弟ちゃん」

 

 U-20日本代表CB──オリヴァ・愛空

 

 この試合、何度もBL11傑の攻撃を防いで見せた。

 だがその愛空すら今の凛の敵ではない。止められない。1人では抜かされる。

 瞬間の判断だった。愛空の覚醒は、視野の広さと思考の結合。かつて敵対した選手たちとの膨大な経験から、目の前の敵味方の能力を理解する。

 その範囲が莫大に広がる。凛には勝てないことも、その後ろから、トップスピードで駆け上がる悪魔の存在も。

「いいねぇベロ凛! そのエゴぶっ飛びLOVE細胞!」

 士道もまた、覚醒した。いや、士道の本能と言ってもいい。

 爆発する、自分の殻を破る最高のプレーに、敵味方問わず反応する悪魔の微笑み。

 

 凛 VS. 愛空・士道

 

 ──マッチアップ!

 

 愛空は凛に向かって駆けた。士道とのダブルプレスを選択した。

(可能性は五分五分。運命を懸けるには充分……!)

 潔と宵越が左右から動く。凛の殺気に敗北した音留や蛇来を躱し、ゴールを共に奪うために。

 それでも凛は意に介さない。愛空も士道も凜だけを見据える。

 チャージ、ハンドワーク、ものともせず。

 目指すは一つ、ゴールのみ。

 

(逝け)

 

 踏み込む。

 

(壊せ)

 

 蹴り出す。

 

 放たれる。士道の身体を、愛空の脚を掠めたボールは。

 ゴールポストに、永遠に聴こえるような音を響かせた。

 選手のみに許された、その静寂のなか。

 喧噪の中、審判が札を掲げる。

 

 A・T(アディショナルタイム)

 残り、1分。

 

 

 






・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :5-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
     士道、閃堂、馬狼、士道、宵越
試合進行:後半45分(90分)、A・T突入。
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)



 弱すぎる熱が強まった時。
 強すぎる熱が弱まった時。
 奇跡のバランスは生まれる。
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