・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :5-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
士道、閃堂、馬狼、士道、宵越
試合進行:後半45分(90分)、A・T突入。
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)
破壊獣、糸師凛が生み出した最高のキック。
けれど、無情にもボールはポストを選んだ。
凛を筆頭に、宵越と潔もまた前へ出ていた。
舞い上がったボールは緩やかに落ちていき。
ボールは、糸師冴を選んだ。
喧噪の中、審判が札を掲げる。
ラストプレー。敵陣で、天才がボールを持つ。
カウンターがやってくる。
冴が走る。士道が走る。
潔が冴へ──抜かれる。馬狼が冴へ──抜かれる。
宵越は、能力がある故に守備に出遅れた。それでも走る。
「突っ込むなアホ共! 俺が時間を稼ぐ!」
烏が叫んだ。
「守備人数足りてへんねや! 糸師冴じゃなくてフリーのヤツをケアしろ!」
ひねくれて悪口をこぼすのも忘れて、ただただ指示をまき散らした。
「ここで点獲られたら終わりや! 凌ぐぞボケェ!!!」
守備なんて考えず、攻撃に全てを込めるU-20日本代表オフェンス陣。
何が何でも守る。全身全霊を尽くすBL11傑ディフェンス陣。
仲間たちの成果を願う、U-20日本代表ディフェンス陣。
その中で、異端の者たちがいた。
弟が、兄の前に立ちはだかった。
「お前……」
冴の表情は変わらない。だが、言葉尻から呆れていると分かる。
凛は、もはや人間の顔をしてはいなかった。高校生にして舌を露わにし、涎をまき散らし、しかしその動きは完璧で獰猛なサッカー選手のそれに他ならない。
兄は、子供の頃の弟を知っている。
「そのベロ出してヨダレ垂らすクセ、治ってねぇのか」
「殺す……潰す」
もはや会話ですらない。コミュニケーションではない。凛はうわごとのようにそれだけを吐き続ける。
宵越に
他人と比較された称号は、それだけで縛られる。
だから、ダメなのだ。
宵越を、潔を殺すのでもない。冴を超えるのでもない。
誰かの人生の『何か』になってはいけない。
そんなクソみたいな価値観に侵されるのを拒むために。
壊さなければならないのは、自分自身だ。
「さっきのを決めきれなかったのがお前の原因だ」
うっせぇよ
「もうわかっただろ、凛。お前は世界一にはなれない」
しゃべんな。その手には乗らねぇぞゴミ兄貴。
「俺の影として生きてくカス弟だ」
違う。俺は、俺だ。
「なんだお前。
兄と弟が衝突する。
冴が前へ。凛は横へ広く構える。
超速のシザーズ。構わず、凛は突っ込み左脚で刈り取る。
凛のタックルと言えど、その程度で冴は動じない。
右脚の
凛は切り返す。なぜそれに反応ができるのかという反射の動き。
前進する冴の背中へ
全く突き放されない凛。汗をかく冴の眼に焔が灯った。
弟を突き放し、ゴールへ向かうために。
右脚が
冴の一番得意なステップ。数分前、宵越が模倣したものより完成された動き。
前半、冴が凛を圧倒した動き。
それを──凛は止めて見せた。
紙一重だった。凛がそれを止めたのは、ほとんど無意識だった。
冴が本気を出し、凛がよく知るステップを引き出した。互いの疲労に、凛の覇気。
たくさんの要因があったが──凛が冴を止めて見せた。それが事実だった。
ボールが跳ぶ。
凛が蹴ったことで、U-20代表側の陣地に跳んでいく。
戦場の中。異端の者たちがいた。
U-20日本代表のラストカウンター。絶対に防御に徹するべき状況で、ただ2人攻撃を選択した異端者。
右翼。
BL11傑RCF 宵越竜哉
そして。
左翼。
BL11傑OMF 潔世一
────
勝てない。
それが、潔世一の胸中にあったものだった。
潔はこの試合、常に挑戦者だった。11人に選ばれた自負はあっても、凛を支えるシャドウとしての選出だったのだから。
勝つために、自分がゴールを奪うために、絵心がいうFLOWへと至る挑戦も探していた。自分の
だが加速度的に進化する
馬狼のゴールによって気づいた可能性もあった。ハイパフォーマンスを発揮する、誰かの夢中を信じて動くこと。それも自分がゴールを奪うための糧となると。
けれど。それでも。
宵越の動きは、全てを超越していた。
最初の凪の得点──味方を焚きつける起点のプレー。
次の烏の得点──純粋に烏のシュートチャンスを作り上げたアシスト。
凛の得点──エゴイズムの凛を震え上がらせた動き。
そしてなによりも潔に決定的なイメージを植え付けたのは、宵越自身の得点。U-20日本代表を正面から突破した、《不倒》の称号に相応しい実力。
──状況に適応する。まるで
味方としては頼もしい一方、どこまでも恐ろしかった。
自分がプレーを狙った瞬間には、既に宵越はそこにいた。
完璧に。常に最速で最善に辿り着く能力。どんな道であろうと、一流となりえる資質。
そんな天才が横にいれば、潔も萎縮する。かつて、凛のシュートに魅了されたのと同じように。
それでも。
──俺は、俺のゴールで勝ちたい……!
潔は、最後までこの渇望を絶やさなかった。
試合に勝つ。けれど、ゴールが欲しい。
──俺が、宵越に勝てることは?
──俺にあって、宵越にないものは?
最後に自分のゴールのために、凛や宵越を出し抜くために、試合の最初から無意識に試行していた。後半、宵越の実力をまざまざと見せつけられた後は、明確に考え続けていた。
結局潔は、この90分間で宵越に勝てる部分を見つけられなかった。
それでも諦めたくないから、なんでもいいから勝ちたいと思った。俺のゴールで勝ちたいと思った。この気持ちだけを持ち続けた。
それは「勝つべくして勝て」を是とするブルーロックにおいては、神頼みの思考停止かもしれない。
それでも。
最後の糸師凛と糸師冴のプレーにおいても、チームが勝つことではなく「俺が勝つ」ことを選ぶことができたのは、チームにおいてただ1人であり、宵越ではなく潔だけだった。
宵越はあくまで、「勝ちたい」を渇望していた。それが自他共に認める宵越の根源だった。
自分のゴールのために、仲間の勝利を天秤にかける。清々しいまでのエゴイストの思考。それは確かに、潔にあって宵越にはない思考。
そして、潔は宵越にはない軌跡を持っていた。
──サッカーには、運も偶然もあるんだよ。
二次選考突破の後。それぞれのチームに啓示を与えた絵心。運の女神が微笑むための
──死力を尽くしたなら胸を張れ。その先に待つ偶然の結果を、受け入れて刻む人間になれ。
もちろん、宵越もまた訪れた敗北を受け入れて刻む人間ではある。
けれど。
分岐点は、そこにあったのかもしれない。
(もう、過程なんてどうでもいい。なんでもいいから俺のゴールで──!!)
潔は、凛の前にいた。運の理論をもって、最後まで諦めずに。
凛が冴に勝つことができたことと同じだった。チームの負けを防ぐなど歯牙にもかけず、最後までの己の至上命題のために生き抜くこと。
勝利への執念は、誰もが持っている。
けれど。
スコアは5‐5。後半
凛が弾いたボールを信じ、前へ抜け出した潔。GKと一対一。
右翼には、
全員の期待がかかったそんな場面で──迷わず、撃ち抜く。
『
宵越の言葉は、まさにその通りだろう。やはり、宵越は最速で正解にたどり着く。
生きてきた世界の違い。良くも悪くも、それがここでの勝敗を分かつ原因だったのだ。
────
弾かれたボールは、遠く、遠く跳んでいく。
宵越は、あくまでチームとして自分のゴールを繋げるために動いた。同時、楽しむことも忘れなかった。
故に、動いたのは右翼側。凛が
潔が動いたのは左翼側。凛が冴の
自身の能力、敵の死角、凛の勝利。
すべての条件が重なる場所に反射的に走り、そこに
ボールは地に落ちない。潔が、この
敵味方を問わず。自分のいる未来に、誰にも追いつく時間を与えない、
右脚が閃いた。サッカーがサッカーたる根源。蹴るという、愚直に積み上げられた一撃。
ボールは真っすぐ突き進む。シンプルな回転がかかった、スピード重視の真っすぐな軌跡。ゴールポストの左上角に進む。
GKの時間をも奪い、ゴールネットに突き刺さった。
咆哮。両手を広げ、快哉を叫んだ潔世一の。
怒号。かつてない劇的なラストに興奮した観客たちの。
運命が決したのだ。
潔世一の。
そして、宵越竜哉の運命が。
一瞬とはいえ、赤き灼熱を蒼き灼熱が凌駕した。
日本サッカーの、新しい夢の始まりとなるのだ。
────
U-20日本代表 VS.
スコア、6‐5。
試合、終了。
・結果
スコア:BL11傑(6)-(5)U-20日本代表
得点者:凪、冴、愛空、烏、凛、
士道、閃堂、馬狼、士道、宵越、潔
《青い灼熱の世界へ》。主人公は、宵越竜哉。
けれど、この《ブルーロック》は全員がエゴイスト。
???「あれほど自分に言い聞かせてきただろう……」
「スポットライトが当たっていなくとも」
「カメラが回っていなくとも」
「脇役なんていないと……」
誰一人、脇役なんていない。
決 着 !!!