青い灼熱の世界へ   作:迷えるウリボー

64 / 65


・現在の状況:BL11傑 VS. U-20日本代表
スコア :5-5
得点者 :凪、冴、愛空、烏、凛、
     士道、閃堂、馬狼、士道、宵越
試合進行:後半45分(90分)、A・T突入。
残交代枠:BL11傑(0)、U-20日本代表(2)





No.64 蒼熱

 

 

 破壊獣、糸師凛が生み出した最高のキック。

 けれど、無情にもボールはポストを選んだ。

 凛を筆頭に、宵越と潔もまた前へ出ていた。

 舞い上がったボールは緩やかに落ちていき。

 ボールは、糸師冴を選んだ。

 

 喧噪の中、審判が札を掲げる。

 A・T(アディショナルタイム)に突入する。残り1分。

 

 ラストプレー。敵陣で、天才がボールを持つ。

 カウンターがやってくる。

 冴が走る。士道が走る。

 潔が冴へ──抜かれる。馬狼が冴へ──抜かれる。

 宵越は、能力がある故に守備に出遅れた。それでも走る。

「突っ込むなアホ共! 俺が時間を稼ぐ!」

 烏が叫んだ。

「守備人数足りてへんねや! 糸師冴じゃなくてフリーのヤツをケアしろ!」

 ひねくれて悪口をこぼすのも忘れて、ただただ指示をまき散らした。

「ここで点獲られたら終わりや! 凌ぐぞボケェ!!!」

 守備なんて考えず、攻撃に全てを込めるU-20日本代表オフェンス陣。

 何が何でも守る。全身全霊を尽くすBL11傑ディフェンス陣。

 仲間たちの成果を願う、U-20日本代表ディフェンス陣。

 その中で、異端の者たちがいた。

 

 弟が、兄の前に立ちはだかった。

 

「お前……」

 冴の表情は変わらない。だが、言葉尻から呆れていると分かる。

 凛は、もはや人間の顔をしてはいなかった。高校生にして舌を露わにし、涎をまき散らし、しかしその動きは完璧で獰猛なサッカー選手のそれに他ならない。

 兄は、子供の頃の弟を知っている。

「そのベロ出してヨダレ垂らすクセ、治ってねぇのか」

「殺す……潰す」

 もはや会話ですらない。コミュニケーションではない。凛はうわごとのようにそれだけを吐き続ける。

 宵越に戦場(フィールド)を支配され、冴や士道に熱狂を奪われ、そして潔に追随された。苛立ち続け、そして仲間の存在を感じて初めて理解した。

 他人と比較された称号は、それだけで縛られる。

 だから、ダメなのだ。

 宵越を、潔を殺すのでもない。冴を超えるのでもない。

 誰かの人生の『何か』になってはいけない。

 そんなクソみたいな価値観に侵されるのを拒むために。

 壊さなければならないのは、自分自身だ。

 

「さっきのを決めきれなかったのがお前の原因だ」

 うっせぇよ糞反吐(クソヘド)マウントお(にい)が。何様だてめぇ。

「もうわかっただろ、凛。お前は世界一にはなれない」

 しゃべんな。その手には乗らねぇぞゴミ兄貴。

「俺の影として生きてくカス弟だ」

 違う。俺は、俺だ。

 破壊者(エゴイスト)糸師(いとし)(りん)なんだよ。

「なんだお前。()()その表情(カオ)できんじゃねぇか」

 

 兄と弟が衝突する。

 冴が前へ。凛は横へ広く構える。

 超速のシザーズ。構わず、凛は突っ込み左脚で刈り取る。

 凛のタックルと言えど、その程度で冴は動じない。

 右脚の外側(アウトサイド)で外へ転がし、足底とピッチでボールを圧縮、短く跳ねさせ──即座に踵で凛の頭上へボールを繋げる。紛れもない天才の、新世代世界11傑(ワールドイレブン)の動き。

 凛は切り返す。なぜそれに反応ができるのかという反射の動き。

 前進する冴の背中へ圧潰(タックル)。お互い、弾かれないために、手で押し合い──弾き合う。

 全く突き放されない凛。汗をかく冴の眼に焔が灯った。

 弟を突き放し、ゴールへ向かうために。

 右脚が(アウト)から(イン)へボールを絡めながら左脚のさらに左へ。凛の一瞬の隙を突き(後ろ)脚からの股抜き──クロスエラシコ。

 冴の一番得意なステップ。数分前、宵越が模倣したものより完成された動き。

 前半、冴が凛を圧倒した動き。

 

 それを──凛は止めて見せた。

 紙一重だった。凛がそれを止めたのは、ほとんど無意識だった。

 冴が本気を出し、凛がよく知るステップを引き出した。互いの疲労に、凛の覇気。

 たくさんの要因があったが──凛が冴を止めて見せた。それが事実だった。

 

 ボールが跳ぶ。

 凛が蹴ったことで、U-20代表側の陣地に跳んでいく。

 戦場の中。異端の者たちがいた。

 U-20日本代表のラストカウンター。絶対に防御に徹するべき状況で、ただ2人攻撃を選択した異端者。

 

 右翼。

 BL11傑RCF 宵越竜哉

 

 そして。

 

 左翼。

 BL11傑OMF 潔世一

 

 

────

 

 

 勝てない。

 それが、潔世一の胸中にあったものだった。

 潔はこの試合、常に挑戦者だった。11人に選ばれた自負はあっても、凛を支えるシャドウとしての選出だったのだから。

 勝つために、自分がゴールを奪うために、絵心がいうFLOWへと至る挑戦も探していた。自分の直撃蹴弾(ダイレクトシュート)を、愛空はじめ守備の届かない場所で撃つ、という挑戦。

 だが加速度的に進化する戦場(フィールド)で、潔の能力は埋もれていった。

 馬狼のゴールによって気づいた可能性もあった。ハイパフォーマンスを発揮する、誰かの夢中を信じて動くこと。それも自分がゴールを奪うための糧となると。

 けれど。それでも。

 宵越の動きは、全てを超越していた。

 最初の凪の得点──味方を焚きつける起点のプレー。

 次の烏の得点──純粋に烏のシュートチャンスを作り上げたアシスト。

 凛の得点──エゴイズムの凛を震え上がらせた動き。

 そしてなによりも潔に決定的なイメージを植え付けたのは、宵越自身の得点。U-20日本代表を正面から突破した、《不倒》の称号に相応しい実力。

 

 ──状況に適応する。まるで()みたいに。

 

 味方としては頼もしい一方、どこまでも恐ろしかった。

 自分がプレーを狙った瞬間には、既に宵越はそこにいた。

 完璧に。常に最速で最善に辿り着く能力。どんな道であろうと、一流となりえる資質。

 そんな天才が横にいれば、潔も萎縮する。かつて、凛のシュートに魅了されたのと同じように。

 それでも。

 

──俺は、俺のゴールで勝ちたい……!

 

 潔は、最後までこの渇望を絶やさなかった。

 試合に勝つ。けれど、ゴールが欲しい。

 

 ──俺が、宵越に勝てることは?

 ──俺にあって、宵越にないものは?

 

 最後に自分のゴールのために、凛や宵越を出し抜くために、試合の最初から無意識に試行していた。後半、宵越の実力をまざまざと見せつけられた後は、明確に考え続けていた。

 結局潔は、この90分間で宵越に勝てる部分を見つけられなかった。

 それでも諦めたくないから、なんでもいいから勝ちたいと思った。俺のゴールで勝ちたいと思った。この気持ちだけを持ち続けた。

 それは「勝つべくして勝て」を是とするブルーロックにおいては、神頼みの思考停止かもしれない。

 それでも。

 最後の糸師凛と糸師冴のプレーにおいても、チームが勝つことではなく「俺が勝つ」ことを選ぶことができたのは、チームにおいてただ1人であり、宵越ではなく潔だけだった。

 宵越はあくまで、「勝ちたい」を渇望していた。それが自他共に認める宵越の根源だった。

 自分のゴールのために、仲間の勝利を天秤にかける。清々しいまでのエゴイストの思考。それは確かに、潔にあって宵越にはない思考。

 そして、潔は宵越にはない軌跡を持っていた。

 

 ──サッカーには、運も偶然もあるんだよ。

 

 二次選考突破の後。それぞれのチームに啓示を与えた絵心。運の女神が微笑むための論理(ロジック)を学んだのは、1stクリアチームのみ。

 

 ──死力を尽くしたなら胸を張れ。その先に待つ偶然の結果を、受け入れて刻む人間になれ。

 

 もちろん、宵越もまた訪れた敗北を受け入れて刻む人間ではある。

 けれど。

 

 青い監獄(ブルーロック)に、一番先に進んだ人間。サッカーに挫折した時、スポーツを辞めた人間。

 分岐点は、そこにあったのかもしれない。

(もう、過程なんてどうでもいい。なんでもいいから俺のゴールで──!!)

 潔は、凛の前にいた。運の理論をもって、最後まで諦めずに。

 凛が冴に勝つことができたことと同じだった。チームの負けを防ぐなど歯牙にもかけず、最後までの己の至上命題のために生き抜くこと。

 勝利への執念は、誰もが持っている。

 けれど。

 スコアは5‐5。後半A・T(アディショナルタイム)

 凛が弾いたボールを信じ、前へ抜け出した潔。GKと一対一。

 右翼には、宵越(味方)が一人。パスを出せば確実に1点(勝利)が奪える場面。

 全員の期待がかかったそんな場面で──迷わず、撃ち抜く。

 

(宵越)お前()は違う』

 

 宵越の言葉は、まさにその通りだろう。やはり、宵越は最速で正解にたどり着く。

 

 生きてきた世界の違い。良くも悪くも、それがここでの勝敗を分かつ原因だったのだ。

 

 

────

 

 

 弾かれたボールは、遠く、遠く跳んでいく。

 宵越は、あくまでチームとして自分のゴールを繋げるために動いた。同時、楽しむことも忘れなかった。

 故に、動いたのは右翼側。凛が()()冴の()()()()()()()、凛あるいは他の誰かから()()()()()()()()()場所。

 潔が動いたのは左翼側。凛が冴の()()()()()()()()、自分が()()()()()()()()()

 

 天運(ボール)が舞い降りたのは──潔世一。

 

 自身の能力、敵の死角、凛の勝利。

 すべての条件が重なる場所に反射的に走り、そこに()()ボールが降ってきた。

 ボールは地に落ちない。潔が、この青い監獄(ブルーロック)でずっと続けてきた動きは。

 敵味方を問わず。自分のいる未来に、誰にも追いつく時間を与えない、直撃蹴弾(ダイレクトシュート)

 右脚が閃いた。サッカーがサッカーたる根源。蹴るという、愚直に積み上げられた一撃。

 ボールは真っすぐ突き進む。シンプルな回転がかかった、スピード重視の真っすぐな軌跡。ゴールポストの左上角に進む。

 GKの時間をも奪い、ゴールネットに突き刺さった。

 

 咆哮。両手を広げ、快哉を叫んだ潔世一の。

 怒号。かつてない劇的なラストに興奮した観客たちの。

 笛音(ふえのね)。この試合の決着を告げる審判の。

 

 運命が決したのだ。

 青い監獄(ブルーロック)の。U-20日本代表の。

 潔世一の。

 そして、宵越竜哉の運命が。

 一瞬とはいえ、赤き灼熱を蒼き灼熱が凌駕した。

 日本サッカーの、新しい夢の始まりとなるのだ。

 

 

────

 

 

 U-20日本代表 VS. 青い監獄(ブルーロック)11傑。

 

 スコア、6‐5。

 

 試合、終了。

 

 

 






・結果
スコア:BL11傑(6)-(5)U-20日本代表
得点者:凪、冴、愛空、烏、凛、
    士道、閃堂、馬狼、士道、宵越、潔




《青い灼熱の世界へ》。主人公は、宵越竜哉。
けれど、この《ブルーロック》は全員がエゴイスト。

???「あれほど自分に言い聞かせてきただろう……」
「スポットライトが当たっていなくとも」
「カメラが回っていなくとも」
「脇役なんていないと……」

誰一人、脇役なんていない。


決 着 !!!
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