サトシと翼の王   作:ヴィット

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古代のパラドックスポケモン

 

 カントー地方南西部に位置する町、マサラタウン。ポケモン研究の権威たる博士であるユキナリ・オーキドの居住地だが、それ以外は何の特徴も無い田舎町でしかない。

 

 その町の小さな医院の産婦人科で一人の赤子が誕生した。特に何の変哲もない容姿だが、内面に異常があった。

 

(なんだ、これ……? )

 

 この赤子には既に確固たる自我が存在していた。地球と呼ばれた世界から転生した男の魂が赤子の身体に宿っていたからである。そのせいか、産まれてばかりなのに泣き喚くこともしなかった。

 

 母であるハナコは凄く心配した。体力的にしんどかった筈なのに、自分のことよりも子供のことで頭がいっぱいだったからだ。

 

 医師曰はく、「性格が穏やかで、感情の起伏があまりない」とのこと。実際は違うが、第三者視点ではそう見えたのだろう。ハナコは安心して我が子を抱いた。

 

 その後、この赤子は父親から『サトシ』という名前を授かる。

 

 

 * * *

 

 

 9年の歳月が経った。件の少年であるサトシは本を読んでいた。なんてことは無い、前世の記憶だけではポケモンマスターになれないと判断したからである。

 

 今の彼はポケモンバトルのルールについて勉強していた。何をしたら反則になるのか、勝利条件は何か、等々。覚えることは沢山あり、解らないことがあればオーキド博士に尋ねることが多かった。

 

 そんな彼の行動を面白く思わなかった少年がいる。オーキドの孫、シゲルだ。

 

 最初は何とも思わなかったシゲルだったが、サトシが自分が知らなかったことを知っていると解った今、不快感の感情が芽生えてしまった。ポケモン博士の孫である自分よりも、何処にでもいる同年代の男子の方が優秀だと周りが認識してしまうのが嫌だった。

 

 特に、サトシがシゲルのことなんて眼中に無いという態度を取っていたのが不味かった。

 

 それが発覚したのは2人が偶然同じ川で釣りをしていた時のことだった。どうしてそんなことになったのかといえば、同じ日に親から「釣り竿」を貰ったからだとしか言いようが無い。

 

 シゲルは大喜びで、サトシは貰ったからには仕方ないなと言わんばかりに使おうと思っていた。

 

 この2人がばったり出くわし、目的が同じだと知った。そしてシゲルから釣りで勝負しようと持ちかけた。これに対してサトシは苦笑しながらも乗ったそうだ。

 

 問題は釣りの最中に起こった。互いの釣り竿にモンスターボールが引っかかってしまった。最初、シゲルは「これはボクのモノだ」と主張したが、サトシは「何だ欲しいのか? だったらやるよ」と言って譲ってしまった。

 

 シゲルの熱意を見てサトシは「譲ったほうがいい」と思ったのだろうか。無駄に時間をかけたくなかった様で、口喧嘩に発展する前にさっさとボールを手放すことにしようと彼は思っていた。

 

 サトシの考えと行動、それが良くなかった。

 

「な、何でキミから貰わなきゃいけないんだ! 」

 

 今までのサトシの常に上から目線の態度、そして自分が欲しかったモノに対してどうでもいいと言わんばかりの行動。これにシゲルは怒り、渡されたモンスターボールを地面に叩きつけてしまい、そして直ぐにこの場から去ってしまった。

 

 こればかりは同年代の子供との交流を避け続けたサトシが悪かっただろう。社交性の無さが産んだ結果だ。

 

 「全く、捨てる奴があるかよ……」

 

 なお、サトシはシゲルのことを「マナーと教養の無い奴」と認識した。

 

 ……このボールは故障してはいるが、材料さえ揃っていれば説明書を読みながらも修理はできるものだった。機械式だから時間はかかるが、できてしまえばポケモンを捕獲することも可能なはず。

 

 なのにシゲルはボールをポイ捨てしている。無知故の行動だ。それか怠け者のどっちかだろう。少なくともサトシは彼をそういう人だと思ってしまった。

 

 この一件以降、彼らの仲がより悪くなった。

 

 

 * * *

 

 

 釣りの一件から一ヶ月が経った。この日はサトシにとって最後のポケモンキャンプである。なのに誰とも関わろうともせず、彼は1人で黙々と作業に取り掛かっている。

 

 同年代の子供たちはサトシに関わろうともしなかった。声をかけづらいというか、話しかけたら面倒だと思われていたからだ。

 

 これでは友達できないのは当たり前だ。何処までも陰気なサトシは常に1人で行動している。

 

 そんな彼だが、仕事の最中に足元を見ていなかったせいで(つまず)いてしまった。痛みで思わず顔を(しか)めるサトシだが、ここで不運にも持っていたモンスターボールがポケットの中から転がり落ちてしまった。

 

 あの一件以降、モンスターボールを持っていたままだった。ちゃんと修理し、使えるようにしたアイテム。それをこのキャンプに持ち込んだのは、何でもいいからポケモンを1匹捕まえてみようと思ったからである。

 

 最初こそボールをシゲルに渡そうかと考えたことはあった。だがあの日からシゲルと会話をする機会が無くなってしまい、どうにもならなくなった。他に渡せる人がおらず、結果的にサトシの手元に残っている。

 

 これがバレたらオーキドに叱られるのは解っていた。だが最初の1匹はどうしても自分の手で捕まえてみたかった。だからサトシはやってはいけないことをやろうと思った。

 

 やらなきゃいけない作業をサボることになるが、彼は森の中へと転がるボールを追いかけることにした。まるで「おむすびを追いかけるお爺さん」の様に。

 

 しかし不運は更に続く。なんと転がった先は(がけ)だった。サトシは立ち止まろうとするが、うっかり足を滑らせてしまう。結果、ボールと共に彼は転落してしまった。

 

 ……気がつけばサトシは妙な場所にいた。周りが結晶だらけで、木々が一切生えていない洞窟の中。上を見れば広大な穴があり、どうやらそこから落ちたのだと理解する。

 

「マジかよ……。ポケギアとか持ってねーし、どうやって助け呼べばいいんだ? 」

 

 身体だけは丈夫なのが取り柄だったので、サトシは難なく立ち上がれる。痛みはあるが、我慢できる程度だ。

 

 近くにあるボールを拾い、出口を探そうと足を動かす。そして奇妙なことに気付いた。結晶に映っている自分の姿だが、それが背を向けている。普通は鏡の様に顔が映る筈なのに。

 

「これって、テラスタルの結晶か? だとすれば不味いな、こりゃ」

 

 サトシの前世だが、彼はポケモンのゲームに限っていえば経験者だ。だからこそ解る、これはパルデアのレイドバトルやエリアゼロで見られる結晶だと。

 

「もし狂暴なポケモンと遭遇したらやべぇぞ……! 」

 

 オーリムまたはフトゥーの様に殺されるかもしれない。そう思ったら背筋が急に寒くなった。このサトシは例のアニメでは何度も危機から生還し続けていたが、自分がそうだとは限らない。だから彼は死ぬかもしれないという恐怖に襲われているのだ。

 

 しかし、出口を探さないとどうしようもない。故にサトシは動く他はなかった。周囲を見渡しながら、道を歩く。なるべく足音を立てず、慎重に先を進む。

 

 そんな時だった。彼はポケモンに遭遇した。

 

 ……いや、見つけたという表現が正しいか。地面に倒れているポケモン、それにサトシは既視感を覚えた。

 

 赤い鱗を持ち、そしてタイヤの様な喉袋がある。外見は竜人の様な姿。そして瞳の色は黄金。

 

 古代のパラドックスポケモン、コライドン。ポケットモンスタースカーレットに登場する、伝説のポケモンだ。原作ゲームでは主人公の相棒ポジションにいた存在でもある。

 

 しかし本来のコライドンは非常に狂暴で、背中に人を乗せるのを嫌っている筈だった。事実、2号と呼ばれたもう1匹の個体は主人公に対して喧嘩腰だった。

 

 ……もしこのコライドンが他のパラドックスポケモン同様、狂暴な個体だったらサトシは殺される筈。

 

「とりあえず、倒れてはいるんだよな? 気が進まないけど、近づいてみるか」

 

 賭けとか、そういう考えは無かった。サトシは近づき、コライドンを観察する。特に怪我は見当たらず、このポケモンの腹から音が鳴っているのみ。どうやら空腹で倒れているだけの様だ。

 

 サトシはポケットの中から幾つか『グミ』を取り出す。野生のポケモンを餌付けする為に毎日作っていた食べ物だ。

 

 ポケットモンスターにはスピンオフ作品が存在しており、その中の1つである「不思議のダンジョン」シリーズは前世で何度もやったことがあった。鬼畜ダンジョンを攻略するのに1週間はかかった様で、彼は相当やりこんでいた。

 

 その作品に出て来た『グミ』というアイテム。これはポケモンの賢さを上げる為に存在しており、『グミ』の色とポケモンのタイプによってはボーナスが加算される。

 

 サトシはこの『グミ』の仕様について日々研究しており、市場で買える『きのみ』を材料に『グミ』を調理していた。

 

「腹、減ってるんだろ? これ食べてくれよ」

 

 サトシは持っているグミを全てコライドンに食わせることにした。ゲームのイベント丸パクリだが、ここで空腹のポケモンを見捨てたらトレーナーの(こころざし)を失うかもしれない。だから助けることにした。例え、(あだ)で返されることになったとしても、それで目の前のポケモンが元気になってくれるんだったら。

 

 コライドンは差し出されたグミの匂いを嗅ぎ、そして食べ始める。すると急にムシャムシャガツガツと早食いし始める。

 

「アギャス!! 」

 

 そして倒れていた筈のポケモンは立ち上がった。そしてサトシの顔を舌でベロベロ舐めてくる。

 

「はっはっは。……なあ、俺と共に来ないか? 」

 

 確信した。こいつは大人しい個体だ。鳴き声といい、どう考えてもパラドックスポケモン特有の凶暴さが全く無い。それに、このまま野生にいてもロクなことにならないだろう。

 

 サトシは仲間に引き入れることにした。ボールを差し出し、コライドンの捕獲を試みる。目の前のポケモンは不思議そうにサトシを見ると、そのままボールに触れた。

 

 2、3回ボールが揺れ、そのまま捕獲完了となった。

 

「よし、コライドンゲットぉ!! 」

 

 最初に捕まえたのが伝説級のポケモン。色んな意味で苦労することになると思うが、それでもサトシにとって初ゲットは嬉しいものだ。

 

 早速、サトシは落ちて来た場所へと戻り、ボールの中からコライドンを出す。そして彼は天上の穴を通って外へと脱出する様、コライドンに頼んだ。

 

「ギャオースッ!! 」

 

 流石はパラドックスポケモン最強格。サトシを軽々と抱え、凄まじい脚力で結晶の洞窟から脱出してみせた。

 

「ありがとよ、コライドン! お前のお陰で俺は助かったぜ! 」

 

 そういってサトシはコライドンをボールの中に戻そうとするが、何故かコライドンは戻りたがらない。スイッチから出る赤いビームを手で遮ってしまう。

 

「……もしかして、このままついて行きたいのか? 」

「アギャス」

 

 どうやらボールの中にいるのが嫌だったらしい。サトシは仕方なく連れ歩きすることにした。第四世代でもポケモンを外に出していたので、すんなり受け入れている。

 

 その後、キャンプ場に戻ったサトシはオーキドから物凄く叱られる、……のと同時にコライドンについて色々と質問された。

 

 「伝説のポケモン」という情報はカントー地方には伝わっていないのか? それとも情報規制がかかっているのか。サトシは疑問に思ったが、口には出さない。

 

 パラドックスポケモンの存在は人間の手で管理できる状態じゃないと色んな意味で危険な為、オーキドの行動はある意味正しい。だからサトシは何一つ文句は言わなかった。……仕事サボってボール拾いに行こうとしたことも自分が悪いって思ってもいた。

 

 その後、母のハナコから説教を受けることとなった。10にも満たない年齢で親の目を盗んでボールを直したこと、それ使ってポケモンを捕まえたこと。とにもかくにも、サトシの行動は非常識かつ大問題だ。

 

 コライドンは、サトシの家族となった。毎日おいしい『グミ』を食べて幸せそうにしている。特にだいだいグミとこんいろグミが好物だとのこと。そのせいか、サトシは毎日市場に赴いてそれらの『グミ』の材料であるヨプのみとハバンのみを大量買いする羽目になった。

 

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