雷の怪物は頭部にエネルギーを集中させる。鋭い眼光を以て侵入者たちの姿を捉えた。
「!? エレブー、『ひかりのかべ』でボーイを守れっ! 」
「ガアッ!! 」
マチスの指示を受けてエレブーはサトシを庇うように前に
そして電撃が壁にぶつかった。タケルライコが放ったものだが、どういう原理で飛ばしているのか、サトシには見当もつかない。当たり前だ、彼は電気タイプの技に詳しい訳ではない。
「今のは、一体……? 」
「あれは『でんげきは』だ! 遠距離攻撃の一つで、標的になった相手は絶対に逃げられない! エレブーがいなかったらお前死んでたぞ!! 」
マチスの解説を聞いてサトシは納得した。確かにタケルライコはゲームでも『でんげきは』を「思い出す」という形で習得できる。つまり電気タイプの技に関しては一流のスペシャリストだということだ。……そして同時に彼は理解する。このままコライドンを向かわせても9割こちらが敗北しかねないという状況だということを。
『でんげきは』は勿論、タケルライコには専用技として『じんらい』がある。これは相手が攻撃技を仕掛けようとしている場合、先手を打ってカウンターをするというもの。
つまりコライドンの長所であるすばやさの高さが全く役に立たないということだ。
(つまり電気タイプにおけるテクニシャンってことか? いや特性の話じゃねーけどよ。……じゃあ何でスナノケガワはこいつから逃げ出したんだ? 電気タイプの技は地面タイプのポケモンには全くの無意味な筈なんだが)
相性的にむしろスナノケガワがタケルライコを戦闘不能にしている方が自然だ。少なくとも、あのレアコイルの先祖は『だいちのちから』を覚えていたから、有利に戦えていた筈である。
試してみるか。サトシはボールの中からサンドを出す。非常にかわいそうなことをさせるが、そうでもしないとタケルライコを倒すことができない。相手の情報を得るまで、ねずみポケモンには頑張って貰おうとした。
「よし、まずは様子見だ! 『でんげきは』を受けてみてくれ! 」
「サ、サンッ!? 」
無茶な命令を受けてサンドは悲鳴を上げて驚愕するが、彼に
「サン……? 」
しかし何とも無かった。当たり前だ、地面タイプのポケモンに電撃をぶつけても効果は無い。サンドは不思議そうな顔をして自分の身体を見ている。サトシからしてみれば攻撃を受けても無事ならそれでいいらしく、更に指示を出した。
「よし、今度は『どくばり』だ! 毒状態にしてやれっ! 」
「サンッ! 」
急に自信が出きたのか、サンドは強気になって指先から毒針を射出した。しかしここで思わぬ現象が発生してしまう。なんと放たれた筈の攻撃が渦みたいなモノによって防がれてしまった。
今度はサトシにも理解できる。ドラゴンタイプの技、『たつまき』だ。恐らくタケルライコは小回りの利く技を駆使して向かって来る毒針を叩き落としたのだ。この時点で相手が電気タイプ一辺倒ではないことが分かる。……恐らくだが、スナノケガワはそういった手段によってこの場所から追い出されたのではないかと思われる。
技を防がれて
ここでサトシはボールの収納機能を使ってサンドを戻した。勝てない戦いは避ける主義だ。ドラゴンのブレスはそのままサトシに向かって放たれるが、それをエレブーが防ぐ。
(クソッ、結構戦闘慣れしてやがる。ウネルミナモは火力馬鹿だから対処は簡単だったが、こいつは面倒なことに小手先で勝負を仕掛けてくるテクニカルタイプ。下手にコライドン向かわせてもやられるだけだ……)
幸いにもタケルライコはこちらの様子を
一番良いのはウネルミナモの『りゅうのはどう』を遠距離から連射させることだが、水の怪物はサトシに対して物凄く反抗的だ。指示ガン無視で暴走するのが目に見えている。当然、サトシたちに攻撃することもあり得るだろう。
さてどうしたものか。どうサトシが考えている時だった。
「……ボーイ。ミーにアイデアがある」
「えっと、どんなものですか? 」
マチスからの提案があった。どうやらタケルライコをどうにかできる手段を思いついたのだろう。軍人としての経験から来る知恵か、それとも電気タイプのスペシャリストとしての対抗策か。どちらにせよ、今のサトシにとっては大歓迎だ。
マチスが話す作戦の内容を聞き、サトシは思わず顔を
「コライドン、マチスさんはこう言っているが、お前はやれそうか? 」
「アギャス! 」
コライドンは問題無いと自信満々気に頷く。自分の力量ならどんな相手にも負けないと思ってのことだろう。彼の顔は真剣だ。だからきっと今回も生き残れるに決まっている。
「解りました。作戦通りに動きます」
「オーケー! 子どもは素直が一番だ。ミーの静止を無視してディグダの穴に入ったのはイラついたが、今は不問にしよう」
マチスは腰のホルダーからボールを取り出す。どうやら準備は万全の様だ。
「行くぞ、コライドン! 『こうそくいどう』だ! 」
サトシの指示を受け、コライドンは身体の高速化を実行。タケルライコ相手に意味のない行動でしかないが、狙いは別にある。雷の怪物を相手取り、チャンスが来るまで耐える。
タケルライコは彼らの目論見が解らず、けれどそのままにしておくのは危険だと思った様だ。その証拠に視線をコライドンに向け、『でんげきは』を放つ。絶対に避けられない攻撃だ。……しかし翼の王は
「ギャ、オオオスッ!! 」
コライドンは吠える。効果はいま一つだからまだ耐えられるダメージだ。そして2度目の『こうそくいどう』を行ってすばやさのランクを上げる。チャンスはまだ来ない。
……コライドンが攻撃をしない理由。それは『じんらい』を警戒しているからだ。サトシからしてみれば『ふいうち』と同じ効果を持つ攻撃なんて脅威でしかなく、それなら比較的威力の低い『でんげきは』の方が被害が少ないと見ている。だから必要以上に速度を高めることにした。
タケルライコは何度も『でんげきは』をぶつけているが、コライドンは耐え続けている。サトシはマチスのエレブーが代わりに守ってくれているので、自らが盾になることもない。だから安心して補助技が使えた。
3度目の『こうそくいどう』が終わり、ようやくコライドンはタケルライコに向かって接近する。雷の怪物は迎撃せんとばかりに『じんらい』を行使しようとした。
「オアアアアアアアッ!!! 」
しかし、その迎撃は失敗した。コライドンはなんと『いやなおと』を使ってタケルライコの集中力を
さて、これでコライドンの役目は終わった。そしてこれからマチスと
「『きあいパンチ』!! 」
「ライ、チュウウウウウッ!! 」
ライチュウの拳から放たれる強烈な一撃。受ければ間違いなく大ダメージは確実な攻撃がタケルライコの背中に直撃した。ぼうぎょががくっと下がっているので、よりダメージは加算される。
凄まじい火力を受け、タケルライコは前に転倒した。その様子を見て、マチスはハイパーボールを投げようとする。
「らいごううっ、あああああああああっ!! 」
「GYAFUN!!? 」
「ライッ!? 」
……しかし雷の怪物は憤怒の表情を浮かべ、マチスに対して自らの頭で頭突きをかました。ドラゴンタイプの技、『ドラゴンハンマー』である。アメリカ軍人として鍛えられた身体とはいえ、流石に踏ん張ることはできなかった様だ。
「ライチュ」
「らいごううあああああああああっ!! 」
「チュアアアッ!? 」
トレーナーを攻撃されてライチュウはブチ切れたのか、タケルライコに向かって『10まんボルト』を放とうとした。しかし雷の怪物はそれがどうしたと言わんばかりに『ドラゴンハンマー』で迎撃。ねずみポケモンは吹っ飛ばされた。
タケルライコの眼は今までとは違い、血走っていて正気とは思えない。冷静さを失って暴走しているのだろう。そのまま彼は目に見える相手、コライドンを『ドラゴンハンマー』でなぎ倒そうとした。
「ギャオオオッ!! 」
「ごうあっ!? 」
しかしコライドンは冷静にその攻撃を回避し、隙を逃さんと『ドラゴンクロー』でタケルライコの首に一撃を与えた。思わず悲鳴を上げる雷の怪物。もうこうなってしまえば逆転などありえない。
もう一撃『ドラゴンクロー』でタケルライコをねじ伏せる。そしてサトシを見て己の首をくいっと標的を差した。
「い、いけっ、モンスターボール!! 」
手柄を取ってしまってもいいのだろうか、とサトシは一瞬だけ
しかしこのまま逃げ出される方が面倒なので、さっさと捕まえることにした。パラドックスポケモンは色んな意味で危険だ。私情とかそういうの一切無視して、彼らのことをある程度知っているサトシだからこそボールを投げた。
ボールは雷の怪物を捕縛し、そのまま中に入れる。1、2回揺れたが、3回目の揺れが来る前にボールが壊れ、タケルライコが飛び出てしまった。ゲット失敗である。
「らいごううあああああああああっ!! 」
当然、奴は大激怒。サトシに向かって突撃し、『ドラゴンハンマー』をぶつけるべく、長い首で愚か者に裁きを与えようとした。しかしそれをエレブーが身体を張って何とか防ごうとサトシを庇う。『リフレクター』のような物理攻撃用の壁は作れない為、でんげきポケモンは大ダメージを受けてしまう。
しかし、それで充分だ。コライドンは超スピードでタケルライコに接近し、そのまま『ドラゴンクロー』を使って奴を地面に叩き伏せた。
もう失敗は許されない。サトシは雷の怪物を絶対に捕まえるぞと思って、ボールを投げた。
(今度こそ、今度こそ成功してくれ……! )
タケルライコは再度、ボールの中に入っていく。2、3回揺れる。そしてそのままボールは光って揺れが止まった。
「は、はは……。タケルライコ、ゲットだぜ」
サトシは疲れた顔でキメ台詞を言う。確かに喜びはあったが、これは「やっと戦いは終わった」という思いが
「ボーイ。どうやらお前があのライコウみたいなやつをゲットした様だな」
ボロボロになりながらもマチスは立ち上がった。倒れているエレブーをボールの中に回収し、サトシの近くまで歩く。
「マチスさん、その」
「ミーは大丈夫だ。ライチュウも戦闘不能になってはいるが、無事だ」
マチスが何を考えているのか、サトシには解らない。しかし彼が何かを伝えようとしているのは間違いないだろう。
「それよりも、ここから出るぞ。話はその後でもできるだろ? 」
「わかり、ました」
サトシとコライドン、そしてマチスは疲労していながらも、クチバシティへと足を動かす。途中でディグダやダグトリオを見かけたが、彼らに危害を加えることは無かった。
* * *
「なるほど。パラドックスポケモンというのか」
クチバシティのポケモンセンター。傷ついたポケモンたちをジョーイさんに預け、マチスはサトシから説明を聴く。スナノケガワ、そしてタケルライコの正体を知って彼は難しそうな顔をした。
「現在、お前はコライドンとウネルミナモ、そしてタケルライコを捕まえている。そしてコライドンは仲が良いが、ウネルミナモは反抗的というワケだな? 」
「は、はい」
「ファック。なんてこった……」
額に手を当てて、マチスは嘆く。とてもではないが、少年1人に任せられそうにない案件だ。当面の間、ディグダの穴は封鎖になるが、それだけでは問題は解決しない。
「1つ聞く。お前はミーが運営するジムに挑戦するためにこの町に来たのか? 」
「そうですけど」
「よし、なら3日やる」
マチスの発言を聞いてサトシは不思議そうな顔をする。彼が何を考えていて、これから何を言ってくるのか解らないからだ。
「ジム戦だが、1対1だ。特殊ルールで行う。技の使用制限とかは無いが、使用ポケモンはミーが決めさせて貰う」
嫌な予感がして、サトシは思わず身構える。マチスが何を望んでいるのかが解ってしまったからだ。
基本的にジムリーダーは私情に走らず、常にリーグ協会から指定されたルールの下でバトルをするのが暗黙の掟となっている。それを破った場合のペナルティとかは特に無いが、町の人たちからの評判が悪くなるだろう。
だからこそ、マチスがやろうとしていることはジムリーダーの行動としてとてもありえないことである。
「ミーはスナノケガワ、お前はタケルライコをジムバトルに出すんだ。いわば、パラドックスポケモン限定バトルといったところか」
明らかに無茶苦茶なルールだ。どう考えても発覚すればジムリーダー免職もありえる。しかしマチスの目は本気だ。彼の身体から凄まじい闘気が
「勝負は3日後。それまでにお前はタケルライコと
「今から言うことを頭に刻んでおけ。お前が持つパラドックスポケモンはリーグ協会が管理すべきだと考えている。お前がどう思っていようと、子供が危険に首を突っ込むのはよくないからだ。軍人として、それは見過ごせない」
「このイナズマアメリカンと呼ばれた男に勝って証明しろ。タケルライコに相応しいトレーナーだということを」