サトシと翼の王   作:ヴィット

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超能力者の聖地

 

 太陽の色の街、ヤマブキシティ。ここにはカントー地方の経済を支配する大手企業の一角、シルフカンパニーが存在する。それ以外にもジョウト地方を繋ぐ駅があり、リニアに乗ることで移動できる。

 

 そんな街の北側、格闘道場にてサトシは修行していた。マチス曰はく、心身共に鍛えて貰う必要があるとのこと。パラドックスポケモンのこともあり、彼は真面目に(はげ)む。

 

「破ぁ!! 」

 

 うなる(こぶし)がサンドバッグに強烈な一撃を与えた。その衝撃は岩であれば砕かれ、滝であれば真っ二つに裂かれるくらい、サトシの筋力は鍛えられている。修行の成果だ。

 

「ブギャア!! 」

「アギャス!! 」

 

 隣でコライドンが格闘タイプのポケモンたちと組み手をやっている。少し前はゴーリキーと殴り合いをしていたが、今はオコリザルを相手にしていた。レベルやステータスに差があり過ぎるせいでここの格闘場のポケモンでは敵わないが。

 

 ……さて、この場には相応しくないポケモンたちが修行している。それはバタフリーとゴース、そしてスリープだ。主にここの街のジムリーダーを相手するのに必要な面子を鍛えているといったところか。

 

「フリィ、フリー! 」

「ケケケ……」

「リィープ……」

 

 バタフリーは『むしのさざめき』を、ゴースは『たたりめ』を、スリープは『ずつき』の練習をしている。スリープだけ得意なタイプの技ではないが、それはこの町のリーグ公認ジムがエスパータイプの使い手ばかりだからだ。

 

 エスパータイプのポケモンに超能力は効きづらい。サトシのスリープは活躍できそうにないが、それは向こうも同じだ。バタフリーやゴースでは相手の素早さ次第では返り討ちにされてしまう。だからスリープを育てることにした。

 

 ……このスリープ、11番道路で修行していた際についでにゲットしていたポケモンであり、きちんと真面目に育てていなかった。時間の都合もあったが、それ以上に戦い方や育て方が解らなかったというのもある。スリーパーをポケモンリーグに出してもサトシは上手く扱える気がしなかった。

 

 そんなトレーナーの考えを察していたのか、スリープはやる気が無い。一応修行自体はしているが、それはサトシが怖いからだ。表立って反抗する気は無いが、意欲の無さは隠しきれていない。

 

 同じくゴースも元々の性格が不真面目だった。サトシの前では従順な態度を見せるが、彼の目を盗んでは鍛錬をサボろうとすることが多々ある。

 

 なんともチグハグなことか。バッジ3つあったとしても、手持ちの士気を向上させるには至らない。従順なだけではポケモンとの信頼関係は得られないのだ。それが現在のサトシの悩みである。

 

「……という訳なんですが、どうすればいいんでしょうか? 」

「ボーイ、グミやきのみだけではそう簡単にポケモンのやる気を引き出すことはできない」

 

 行き詰ったので、サトシはマチスに意見を求めた。ジムリーダーであり米軍少佐でもあった男の考えはとても頼りになる。何か作業をしていたらしいが、サトシの為に彼は手を止めてくれた。

 

「確かに美味しい食べ物はポケモンを死なせないためには必要なものだ。しかし戦わせるために育てるのであれば、他のご褒美が必要になってくる。ミーたち人間だってパンだけでは生きていけないだろう? 」

「パンと、サーカスでしたっけ? 」

「博識だな。娯楽が無ければポケモンたちはストレスを溜め込むだけだ。ボーイと一緒に旅をしているコライドンはそれほど不満を抱えてはいないが、他は違う筈だ。特にあまり可愛がっていないスリープや捕まえたばかりのゴースは何時暴走してもおかしくない」

 

 心当りはあった。スリープとゴースは何処か疲れた顔をしており、修行ばかりで全然楽しそうでは無かった。サトシがトレーナーとして未熟者であったのなら彼らは怒りをぶつけてくる可能性もありえたが、良くも悪くもジムバッジはポケモンの反骨精神を削ぐ効果を持っている。

 

 トレーナーに逆らわず、不満を溜め込んだポケモンがバトル中に暴走し、相手のトレーナーに大怪我をさせるなんて事件があったくらいだ。もうそうなってしまえばそのポケモンは一生人間に猜疑心(さいぎしん)を持つことになる。

 

「ジョーイさんに映画鑑賞して貰えるように頼んでみるといい。普段は使われていないだけで、ポケモンセンターには2階にシアタールームがあった筈だ」

 

 そう言ってマチスは何かの作業に戻った。サトシには理解できなかったが、きっとどこかで必要になるのだろう。

 

 少年はその場でジョーイの下に行く。シアタールームの利用料を確認した後、彼女に声をかけた。

 

「あの、すみません。シアタールームを利用したいのですが」

 

 

 * * *

 

 

 5日かけて道場で修行を終え、サトシたちはヤマブキシティジムを訪問した。ちなみにマチスはポケモンセンターで待機している。サトシが彼にそう頼んだからだ。

 

 ……だが入り口の前に作業着を着た中年の男が立っている。その人物にサトシは心辺りがあった。

 

「ヤマブキジムに挑戦しに来たのか? 」

「そうですけど」

「悪いことは言わない。ジムバッジが欲しいのなら他所の町に行け」

 

 男の物言いにサトシは苛立つ。忠告しに来ている様だが、少年にとっては余計なお世話である。この時点で礼儀を取り(つくろ)う気が失せてしまった。

 

「どうせ超能力者には勝てないだの、そんなふざけたこと言うんだろう? 」

「……君の隣にいるポケモンは非常に強い力を持っている。それは認めるし、彼女のポケモンたちに勝つことだって楽にできることも解ってる。……だがそうじゃない。このまま君が勝ってしまうと彼女は発狂してしまうかもしれない」

 

 そう言って男は鋭い目つきでサトシを睨み、腰からボールを取り出した。

 

「ポケモンバトルだ。私が勝ったら、この街から出て行ってくれ」

「ふざけんなおっさん! 俺に何のメリットもねーだろうが! 」

 

 得られるモノが一切無いバトルなど、サトシからしてみれば避けたいものだ。特にこの街のジムリーダーよりも強い男が相手なら、下手すればコライドンでも負ける可能性が高い。

 

 何故そんなことがサトシには分かるのか。それは原作ゲームやアニメに出てくる人物の素性を理解しているからだ。エスパーおやじ、とある少女の父親である。

 

「……私に勝てた場合の話か。我が家宝、わざマシン『サイコキネシス』をあげよう。それで文句は無いだろう? 」

「スロットでコイン貯めればゲットできそうなモノを賭けるって? 俺を馬鹿にしてんのか!? 」

「子どもはギャンブルなどに手を染めるべきではない。ちゃんと真っ当な仕事をして、真っ当に稼ぐんだ。それにこのわざマシンは我が祖父が一生懸命稼いで買ったモノ。侮辱は許さん」

 

 エスパーおやじの目は(くら)い。これはサトシが彼を怒らせた結果である。虎の尾を踏んだ愚か者に待っているのは過酷な試練。

 

「行け、フーディン」

「ディー……」

 

 エスパーおやじが繰りだしたのはエスパータイプ上位のポケモン。ケーシィを頑張ってレベル16に成長させてユンゲラーに、そこから特殊な進化を得てフーディンとなる。

 

 このポケモンに勝つ手段として、虫タイプのポケモンを出すのがセオリーだ。しかし虫タイプのポケモンはバタフリーのみ。ビードルとパラスは諸事情により捕まえていない。

 

 貴重な虫タイプのポケモンはジムリーダー戦で取っておきたい。そう考えたサトシが繰りだしたポケモンは、雷の怪物だった。

 

「頼むぞ、タケルライコ! 」

「らいごうああああ!! 」

 

 落雷の化身(ライコウ)の古代の姿らしいが、エスパーおやじにとってそんなことはどうでもいい情報だ。彼にとって最も重要なのはサトシの考えていることでしかない。

 

 生意気な少年の思考を読み取り、この街から追い出す。それが少女の為になると思い、心に鬼を宿らせる。

 

「先手必勝だ、『サイコキネシス』で苦しめろ」

「ディーオ!! 」

 

 サトシが口を開くよりも先にエスパーおやじはフーディンに指示を出した。超能力者の戦いでは「相手に何もさせない」ことが大事である。心を読み取れる力を持っているからこそ確立された戦術だ。

 

 フーディンは両手のスプーンの先をタケルライコに向けようとした。

 

 ―――しかし雷の怪物に対してその攻撃は全く意味を成さない。超能力が飛ぶよりも先に、タケルライコの眼光が雷となってねんりきポケモンの身体を貫いた。

 

「フーッ!? 」

「ば、馬鹿な。少年の心は読み取った筈だ。なのに何故」

 

 サトシの考えていることは「『りゅうのいぶき』でまひ状態を狙う」というものだった。しかしタケルライコの行動はサトシの戦術など知ったことかと言わんばかりの行動。

 

「ま、まさか。そのポケモンはいうことを聞かないのか? 」

 

 思いもよらぬアクシデントのせいでエスパーおやじは動揺してしまう。コライドンが従順だったので、他の手持ちも同じだろうと思い込んでしまった。それが彼の誤算である。

 

 確かにタケルライコはサトシの指示を無視することもある。だからといって戦わない訳ではない。雷の怪物がトレーナーに要求することは一つ、「ルールに従って暴れてやるから、俺の好きにさせろ」というもの。当然、納得できなければシカトである。

 

 サトシもそれが分かっている為、的確な指示を出すことに心掛けている。パラドックスポケモンに「トレーナーの言うことを聞いていれば勝てる」と思わせることに成功すれば万々歳だ。

 

「『りゅうのいぶき』だ! 」

「ごうああああっ!! 」

 

 タケルライコの口からドラゴンブレスが吐き出される。それをフーディンは浴びてしまい、まひ状態となった。シンクロの特性を持っていようとタケルライコは電気タイプの為、無意味。

 

「ディ、ィ……」

 

 痺れのせいで自慢のすばやさも失われ、時々行動できなくなる。この時点でフーディンに勝ち目は無くなった。タケルライコの強烈な一撃で止めを差され、戦闘不能となる。

 

 先祖代々から受け継がれてきた超能力が裏目に出た。エスパーおやじの(ひざ)は崩れ落ちる。

 

「ありがとな。……さて」

 

 サトシは勝者の特権を貰うべく、エスパーおやじに近寄る。敗北したトレーナーは負債を払うしかない。例えそれが家宝のわざマシンだったとしても。

 

 ……そんな時だった。

 

『待ちなさい』

 

 急にジムの建物の入り口が開き、中から女の子が現れた。しかし顔は不気味で、何処かシオンタウンのアイツーを連想させる。嫌な予感がしたため、サトシは敢えて口に出さなかったが。

 

「あなたが、ジムリーダーですか? 」

『ええ、そうよ』

「このおっさんからわざマシンを徴収したいのですが」

『駄目よ。こんな冴えない男でも私の父親だもの。普段だったら見捨てても良かったけど、私を守ろうとしてくれたからね。今回だけは特別に助けてあげようって思ったわ』

 

 心を閉ざしている癖に、この少女は父親を助けようとしている。ただし彼女の口ぶりからして和解する気ゼロだが。

 

 そんな少女を見てサトシは(ひたい)から冷や汗を流す。このジムリーダーはアニメでは人間を人形に変えてドールハウスに閉じ込めるサイコパスだ。できることならさっさとゴールドバッジを貰ってヤマブキシティから立ち去りたいと彼は考えている。

 

 だが残念なことに少女は本体を隠したままだ。恐らく部屋にいるのだろうが、もし彼女の土俵で戦うのなら今までのポケモンバトルの常識が通用しない。

 

『わざマシン「サイコキネシス」はゲームコーナーで購入することね。そいつから貰うことは勿論、奪うのも駄目よ。もしそんな真似をするようなら、永久に立ち入り禁止にするわ』

 

 まるで家族の愛情よりも価値のある家宝が大事だと言わんばかりだ。子どもの癇癪(かんしゃく)かどうかは解らないが、少なくともこのままではヤマブキシティは滅茶苦茶になるだろう。

 

『それに、……マサラタウンのサトシだっけ? あなたが5番道路のポケモンセンターでやらかした事件のせいでリーグ協会から責任を負わされたのだけど』

 

 少女の口から怒気溢れる声がした。5番道路、リーグ協会、責任。身に覚えがあり過ぎる話だった。サトシが初めてコライドンに「人に向かって『げきりん』を使わせた」場所。

 

 ジムリーダーはリーグ協会から特定のエリアの治安維持を任されている。そしてヤマブキシティのジムリーダーは隣接する4つの道路を管理し、問題を起こさぬようにする義務があった。

 

『読みたくも書きたくもない書類とにらめっこ。電話越しに老害の叱り声を聞く羽目になって、お陰で胃に穴が開きそうになったわ。あんなの、二度とごめんなの』

 

『……ゴールドバッジが欲しいのでしょう? 私とバトルがしたいのでしょう? ならば怖気づく前にかかって来なさい』

 

『この私が徹底的に叩き潰してあげるから! 覚悟しなさい、このクズ男! 』

 

 完全に少女を敵に回した。操り人形であろうそれは一瞬でテレポートする。そしてジムの扉は開く。

 

「……やべぇ、滅茶苦茶怒ってるじゃねぇか」

 

 こればかりは自業自得である。ここのジムリーダーは油断も(すき)も与えてはくれないだろう。相手を見くびらないのは良いが、今回ばかりはサトシも勘弁して欲しいと思っていた。

 

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