サトシと翼の王   作:ヴィット

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ポケモンセンター襲撃事件

 

 旅立ちの日になった。現在、サトシは10歳の少年である。彼はコライドンに騎乗し、オーキドの下へ向かった。途中、研究所で管理されているドードリオが彼らの姿を見てギョッとしたが、コライドンは特に気にしなかった。

 

「やっと来たのか……。シゲルたちは(すで)に旅立った後じゃぞ」

「俺の旅は俺だけのモノだ。あいつらがどう動こうとも関係ないな」

 

 ポケモン研究所に到着したが、オーキドから他の子供たちは図鑑とポケモンを貰って旅に出たという。しかしサトシには関係のない話だ。

 

「世話になったから顔を見せるのもあるけど、やっぱり図鑑は必要だ。それが無いと手持ちがどんな技を覚えているのかが解らないだろ? 」

「もう少し言い方があるじゃろう……。儂のポケモン図鑑を渡すから、できる限り(・・・・・)多くのポケモンをゲットするんじゃぞ」

 

 流石のオーキドもサトシが図鑑を完成させてくれる(はず)が無いと解っていたからか、発言に溜息が混ざっている。良くも悪くも、サトシは自分に正直だ。だから彼に対してやって欲しいことを口に出した。

 

 特にサトシが勝手にゲットしたコライドンは新種だ。どうしてそういう名前にしたのかは不明だが、発見者である彼に命名権があるのは当然だろう。だがそれを差し引いても、オーキドは特に期待してなかった。肝心のサトシのやる気が10割全て、ポケモンリーグに向けられていたからだ。

 

 研究所を後にしたサトシはコライドンに再度騎乗し、トキワシティへと向かった。途中で雨が降ったので傘を差してコライドンから降りる。このまま走り続けたらサトシが風邪を引くので、彼は安全と健康を選んだ。コライドンにも四足歩行のポケモン用のレインコートを被せてあるので、防雨対策もバッチリだとのこと。

 

「最初はトキワシティだが、ジムには挑まない」

「アギャス? 」

「手持ちがお前だけじゃ俺が成長しないからな。森の中で扱いやすいポケモンをゲットする予定だ」

 

 当然本音は違う。この時期、サカキに目を付けられたくないからである。コライドンの稀少性と強さを考えればその選択は正しい。更に言えば特性ひひいろのこどうは天候を変えるだけでなく、攻撃力も過剰に上昇させる効果を持っている。

 

 コライドンの強さにおんぶ抱っこでトレーナーの実力が伴っていない。そう思っていたサトシだからこそ、トキワジムを避けた。

 

「トキワジムは最後に挑もうか。セキエイ高原の近くだし、バッジ7個の時に挑むのが時間的に一番安全だ」

「アギャ! 」

 

 コライドンはサトシが効率を重視していると判断して、特に疑問に思うことは無かった。

 

 やがて時間が経ち、雨雲が晴れる。空に美しい虹と、にじいろポケモンの姿があった。光輝く伝説のポケモン、ホウオウである。

 

「とりあえずだ。……えいっ! 」

 

 ホウオウ目掛けてモンスターボールを投げる。プロ並みの剛速球だ。しかも距離が大きく離れている筈なのに、にじいろポケモンの身体にクリーンヒットした。

 

 しかし捕獲は失敗。にじいろのはねを地面に落とし、西へと去っていった。

 

「まあゲットできるとは思ってねえよ。目的のブツは手に入った」

 

 羽根を拾うサトシ。これがあれば伝説の三犬との遭遇も容易になる。貴重品なため、持っていても損は無い。

 

 サトシは傘とレインコートを鞄の中にしまい、コライドンに騎乗する。そして彼らはトキワシティを目指して駆けていった。

 

 

 * * *

 

 

 ポケモンセンターに辿り着き、サトシはコライドンの健康診断をお願いした。レインコートを被せてあったから雨で身体が冷えるなんてことにはなってないが、念には念を入れるつもりで彼は頼んだ。

 

 待っている間、サトシは『グミ』を作っていた。コライドンの好物である。その上大食いなため、定期的に作っておかないと無くなってしまうからだ。

 

 ゼラチンやグラニュー糖、水飴は近くのフレンドリィショップでも買える為、材料に困っていない。流石にチイラのみとかは売ってないが、それでも「わざを受けたとき、1度だけダメージを1/2にする」効果を持つきのみは他の店で購入できる。

 

 そんなこんなでサトシがポケモンセンターに戻ってみると、何やらトラブルが発生した様だ。駆け寄ってみると何と見覚えのある連中が登場した。

 

「銀河を駆ける、ロケット団の二人には」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ! 」

「ニャーんてな! 」

 

 例の口上を述べるロケット団の姿。それを見たサトシは思わず身構える。普通だったら感動こそしてはいたが、今の彼はそれどころではない。

 

 サトシはなるべく目立たぬように陰に隠れた。そして相棒のコライドンを探す。万が一パラドックスポケモンを変な機械で捕縛されようものなら一大事だ。だから慎重に行動せざる負えなかった。

 

 意気揚々とアーボとドガースを繰り出すロケット団。そんな彼らの前に1人の少女が現れた。ハナダシティのカスミである。彼女はボールの中からトサキントを出して応戦しようとした。

 

 だが哀しいかな。トサキントは陸の上では思う様に戦えない。ドガースの『どくガス』で毒状態となり、アーボの『どくばり』を喰らって戦闘不能になってしまった。

 

「邪魔が入ったと思ったら、とんだザコじゃない! 」

「そんな実力でよく俺らの前に現れたな! 」

「無様だニャー! 」

 

「な、何ですってぇ!! 」

 

 ロケット団の罵声に対してカスミは真っ赤に怒る。いくらジムリーダーの資格があるとはいえ、トサキントを正しく運用できなかった彼女に非がある。

 

 しかし一度ボコボコにされたくらいで屈する(はず)が無く、カスミはヒトデマンを出した。このポケモンなら陸の上でも戦えるが、それでも1対2の状況では不利を強いられる。

 

「ヒトデマン、ドガースに『みずでっぽう』よ! 」

 

 カスミの指示を受けてヒトデマンは攻撃する。幸いにもドガースのとくぼう値は低いので、それなりのダメージは与えられた。

 

 しかしコジロウとドガースは特に怯むこともなく、反撃とばかりに『ヘドロこうげき』を仕掛けた。アーボの『へびにらみ』によるアシストも相まって、ヒトデマンは戦闘不能になってしまった。

 

「ざまあないわね! 」

「へっ! ロケット団に盾突くからだ! 」

 

 調子に乗るムサシとコジロウ。トレーナー1人に完勝したせいで周りが見えていない様だ。その証拠に、いつの間にかニャースがいなくなっているし、彼らはそのことに気付いていない。

 

 何故なら、サトシが既にニャースを仕留めたからだ。暗殺者みたいに隠密行動をし、標的に気付かれることなくさっさと気絶させた。

 

「さて、ポケモンを奪うわよ! 」

「おう! ……って、ちょっと待てムサシ! ニャースが居ないぞ!? 」

 

 ここでようやくムサシとコジロウは異変に気付く。大事な仲間の存在を忘れ、そして今になってようやく思い出す。サトシからしてみれば酷く滑稽(こっけい)だ。

 

「お探しのポケモンはこれか? 」

 

 そう言ってサトシは姿を見せた。ニャースの首を左腕使ってヘッドロックした状態のままで。

 

「ちょっと!? 人質なんて卑怯よ! 」

「そうだぞお前! 俺たちですらやらねーことをガキがやりやがって! 」

 

 ムサシとコジロウは少年の非道に対してケチをつける。どうやら彼らはサトシがニャースを人質にしていると思い込んでいる様だ。

 

「はっはっは! こいつの命が惜しいんだったら、そのアーボとドガースをボールの中にしまいな! 」

「く、くそぉ……」

 

 明らかに最低な行動だが、その行動によってポケモンセンターが守られている。医師のジョーイや他のトレーナーたちは何も文句は言わなかった。しかし彼らのサトシを見る目は非難の色を帯びている。

 

 ロケット団の2人は仕方なくポケモンをボールの中に戻す。仕事よりも仲間の安全を優先する辺り、仲の良さは本物だろう。彼らは性根まで外道に成りきれてはいなかった。

 

「ようし、ボールに戻したな。……やれ、コライドン! 」

「「えっ? 」」

 

 サトシは自ら手を下すことなく、相棒ポケモンに頼った。間抜けなことにムサシとコジロウは思考が停止してしまう。それが致命的な(すき)だった。

 

 彼らは背後から強烈な一撃をぶつけられた。なんてことはない、コライドンの『ドラゴンクロー』が2人の意識を刈り取っただけだ。ムサシとコジロウはうつ伏せの状態で倒れてしまった。

 

「コライドン、よくやった! 」

「アギャス! 」

 

 種明かしをするが、単純明快だ。『こうそくいどう』ですばやさを上昇させたコライドンが猛スピードで敵の背後を取っただけ。作戦なんてものは無い。

 

 コライドンの姿を見たトレーナーたちは見慣れないポケモンに目を輝かせている。……が、カスミは違った。自分を囮にしたサトシに対してキレている。

 

「こらぁ! 見てたんなら助けなさいよ! 」

「いや、そんな義理は無いし」

 

 彼女のビンタをサトシは難なく躱す。サトシからしてみればロクに鍛えてもいない女子の暴力など簡単にあしらえる。

 

 やがてジュンサーたち警察がやってきて、ロケット団の2人とニャースが逮捕された。ポケモンセンター襲撃事件を起こした以上、流石に刑務所行きは免れないが、どうせサカキによって釈放されるのが目に見えている。またどこかで彼らと鉢合わせするのではないか。

 

「奴ら、ロボット造れるくらいには技術力高いからな……。こっちも色んなポケモンをゲットしておかないと不味いか」

 

 オーキドから言われているが、それ以上に戦力強化は必須だと再認識した。サトシはフレンドリィショップで買っておいたモンスターボールの数を確認すると、トキワの森へと足を進めた。

 

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