「それで、貴様等はこの私の手を煩わせたと。それも、よりにもよってこの町で」
トキワジム。とある一室でムサシとコジロウ、ニャースはガタガタ震えていた。彼らは戦闘員の中でもエリートであり、幹部であるアポロからの信頼を得てもいる。そして何時か幹部に昇進し、ロケット団による世界征服を果たすつもりで動こうとしていた。
そんな彼らはハナダのジムリーダーであるカスミがトキワシティにいるという情報を得た。彼女の手持ちを奪えば戦力の強化に繋がると思っていた。だからポケモンセンターを襲撃した。
しかし一人の少年によって警察に逮捕されるという失態を犯した。今彼らがここにいるのは男の政治手腕によって秘密裏に釈放されたからだ。
現在、幹部たちは全員がタマムシシティに集結している。故にジムの運営をしていた一人の男が単独でこの不祥事を解決するしかなかった。自らの正体を隠すために、必要最低限の団員しか配備されていない。
「それは、すみません! 私たちにとって予想外なことが起こりまして」
「言い訳を聞きたくて貴様等を呼んだ訳ではない。……何故私が怒っているのか、本気で解らないのか? 」
男の鋭い眼差しを受け、2人と1匹は本気で解らないという顔を見せる。彼らはロケット団として務めようとしただけだからだ。
「私はトキワシティのジムリーダーだ。当然、治安を守るために私自ら動かねばならない時もある。……もしこの町で事件が起こり、殺傷沙汰にでもなってみろ。リーグ協会からこの私が無能だと思われるだろうが!! 」
「「「ひぃ!? 」」」
怒り狂った男は右手に持っていたワイングラスを握力で粉々に粉砕する。流血するが、激情のせいかあまり痛みを感じていない様だ。
彼は腐ってもジムリーダーだ。そして物凄くプライドが高い。それも自分の名声を
今回、そのケジメをつける相手は末端の下っ端だ。アポロからエリートと認められようが、男からしてみればただの役立たずである。
「だからこそ問う。貴様等がやらねばならぬことは何だ? 」
「「「ロケット団に刃向かう愚か者を粛清することです!! 」」」
それを聞いて男はフンッ、と鼻息を鳴らす。模範的な回答で無ければ、今すぐにでも目の前の愚か者どもを粛清しただろう。
「解っているのならさっさと動け。私とて遊んでいる時間はない」
「「「はっ! 」」」
ムサシとコジロウ、ニャースは必死だ。何故なら、二度目の失敗は許されないからである。
* * *
トキワの森。そこはトキワシティとニビシティの間に存在する森、迷いやすい地形故に天然の迷路とまで称された。虫タイプのポケモンの生息地として知られているが、まれにピカチュウの目撃情報があったとのこと。
しかしサトシが探しているポケモンはピカチュウではない。彼にとってそのポケモンはピチューから進化させるつもりで育てればいいと考えているからだ。後にジョウトで野生のピチューが出てくるから、その時に捕まえればいいと考えていた。
では何を捕まえようとしているのか。それはキャタピーとビードルである。早い段階で進化する上に、最終形態であるバタフリーやスピアーはバトルでも活躍させられるポテンシャルを有している。特に前者はキョダイマックス、後者はメガシンカできるので、彼にとっては是非ともゲットしておきたいのだろう。
ちなみにコライドンは道に落ちている道具を拾っている。オレンのみやクラボのみ、モモンのみが拾える為、サトシはありがたいと思っていた。
「……よし、早速見つけた」
いもむしポケモン、キャタピー。このポケモンは原作でもサトシがゲットしており、一応バタフリーまで進化させてはいた。しかし途中でさよならバイバイしてしまっており、それ以降は最終回まで出てきてすらいない。
ここでサトシは泥団子を投げてキャタピーを怒らせることにした。ヒスイ式の捕獲手段である。泥の塊をぶつけられて怯んだ
「へへっ。キャタピー、ゲットだぜ」
続けてビードルの捕獲に移ろうとした時だった。急にコライドンは何処かの方角に首を向ける。
サトシは少し時間を待って様子を見ることにした。すると、木陰から一人の短パン小僧が現れる。しかもおかしなことにその男子は上半身に日本式の鎧を身に着けており、どう考えても変人でしかない。
「そこのお主、マサラタウンからやって来たトレーナーか!? 」
「そうだが、俺に何の用だ? 」
相手の目的が何なのか解っている
「そんなの決まっているでござる! 目と目が合ったらバトルの合図! 」
「……いいだろう。完膚なきまでに叩きのめしてやる」
いきなり始まったポケモンバトル。こればかりはゲームにもあったとおり、唐突に行われるものだ。少なくともサトシはそう認識している為、何も不満は無い。
「ゆけ、カイロス! 」
「……」ガシッ、ガシッ!
くわがたポケモン、カイロス。虫タイプであり、高いこうげきとぼうぎょが自慢だ。そして汎用技である『シザークロス』と有用な特性『かたやぶり』を持っている。
ただしこの手の大型ポケモンの入手は限られており、サファリゾーンや自然公園といった場所以外では目撃情報が非常に少ない。故にレアポケモンとして闇市場で取り引きされることが多い、という黒い噂があった。
今回の、このカイロスは恐らくサファリゾーン辺りでゲットしたものだと思われる。事実、このカイロスから高い戦意が見られるので、トレーナーとの信頼関係はあると考えていいだろう。
「行くぞ、コライドン! 」
「アギャス! 」
そんな彼らに対抗してサトシが出したのはコライドンだった。……ちなみに現在のサトシの手持ちは相棒ポケモンとさっき捕まえたキャタピーしかいない。故にコライドン一択である。
ここでカイロスが現れたことにより、サトシはポケモン図鑑を開く。データこそ入手はできないものの、「見つけられた数」を増やすことはできる。だから無駄な行動だったとしても、やっておくことに越したことはない。
「カイロス、『はさむ』! 」
「コライドン、『ビルドアップ』で守りを固めろ! 」
攻撃してくるカイロスに対し、コライドンはマッスルポーズを取る。パラドックスポケモンの筋肉が一時的に増幅され、こうげきとぼうぎょのランクが上がった。
「そのまま『ニトロチャージ』だ! 」
「な、なんと!? 」
カイロスの『はさむ』を受けてもコライドンは平気な顔をしている。更にサトシの指示を聞き、全身に炎を纏った。
虫タイプのポケモンに対して炎タイプの技は効果抜群であり、コライドンのこうげき値は凄まじく高い。更に『ビルドアップ』の補正もあるため、火力も増幅されている。
もうこうなってしまえばカイロスに勝ち目は無い。圧倒的な力でくわがたポケモンを戦闘不能にした。
「そ、そんな。拙者のカイロスがこうもあっさり倒されるとは……」
主力だったのだろう。それがまさか一方的に倒されるとは思っていなかった様だ。
とりあえずサトシは身構える。相手の手持ちのことを考えればバトルがまだ続く可能性があったからだ。しかし短パン小僧は何も繰り出してこない。つまり向こうの負けということになる。
「おい、そっちの負けでいいのか? 」
「え、あ、……そうでござるよ」
腰にあるボールを見る限り、まだ元気な手持ちはいると思われる。しかしサトシはそのことに関して口出しはしなかった。残りの手持ち、戦えそうにないポケモン、トランセルやコクーンの可能性がある。
「なら俺はもう行くぞ。この森にいるビードルを捕まえないといけないからな」
ならば無理に戦いを続ける必要はない。そう考え、サトシはビードル探しを再開する。本来の目的を忘れてニビに行くような真似はしなかった。
少し時間をかけ、ようやくビードルの生息地らしき場所を見つけた。……しかし、同時にスピアーの大群と遭遇してしまった。
彼らはこちらを警戒しており、何時でも『どくばり』や『ダブルニードル』を放てる様に構えている。直ぐに攻撃して来ないのはコライドンの強さを本能的に感じ取っているからか。勝てない相手に無策で突っ込む無謀さをスピアーたちは持ち合わせていなかった。
恐らくだが、これは原作にあったコクーンの一斉進化だろう。スピアーが大量発生しているのはそれが原因だとサトシは理解する。
ポケモンのタマゴは食料よりも大事な命。見ず知らずの人間にタマゴを渡すポケモンなど絶対にありえない。敵意剥き出しの彼らを見て懐柔は無理だと判断し、直ぐにその場から去ることを決めた。
「ついてねぇ……。別の場所でビードルを捕まえるか? 」
今の群れではなく、単独で行動しているビードルが捕獲しやすいと解り、そのことにサトシは嘆く。そんな都合のいい虫ポケモンなどいるかどうかすら解らないからだ。
「ギュ、ギュル……」
「ああ、さっきの戦いで体力を消耗したからな。ほれ」
ここでコライドンの腹が鳴る。どうやらお腹が空いたらしい。サトシは持っているこんいろグミとオレンのみを手渡した。それをガツガツと食べ、ようやくコライドンの空腹は収まる。
目当てのポケモンを探す時間は無くなったと考え、そろそろニビへ向かうサトシ。捕まえたキャタピーをバタフリーにまで育成しなければならないため、チンタラしている余裕はなかった。その為、コライドンの飛行能力を使って森から脱出することを考えてはいた。
しかし、思わぬポケモンの姿を見てサトシは固まってしまう。
「ば、馬鹿な。何故ここにフシギダネが……? 」
たねポケモン、フシギダネ。カントー御三家が1匹。恐らく図鑑を見ても生息地不明と表示されるであろうその存在は、茂みの中からじっとサトシを見ていた。
いや、正確にはサトシが持っている鞄だろうか。どうやらコライドンの食事を見ていたらしい。『グミ』が欲しいのだろうか?
サトシの視線を浴びて、ようやくフシギダネは自分の存在に気付かれたことを自覚した。そして直ぐにサトシの目の前に現れる。
ここでサトシは鞄の中からわかくさグミとももいろグミを取り出し、それをフシギダネの足下に投げてみる。いつもの餌付けだ。タイプは草・毒の複合なので2つのグミを与えればいい。
フシギダネは鼻でグミの匂いを嗅ぐと、それを口に入れる。そしてムシャムシャと美味しそうに食べた。
「なあ、良かったら俺と一緒に来るか? 」
捕捉率の低さ故に、普通にゲットしようとしても捕まらないポケモンだ。なので餌付けによる友情ゲットを狙う。
研究所にあったボールは3つとも開封済みだった。そういうことがあったからサトシはオーキドにポケモンをねだることなく、さっさと図鑑を貰って旅立った。故に彼は他の誰かに御三家を取られたと思っている。
ここでチャンスを逃せば後は進化嫌いの個体のみになってしまう。サトシはフシギバナが欲しいので、どうしても目の前のポケモンをゲットしておきたかった。
「ダネッ! 」
フシギダネは笑顔でサトシの手に触れた。そしてボールの中へ入る。数回揺れて、そして光った。
「はっはっは。……フシギダネ、ゲットだぜ! 」
「アギャス! 」
ニビジムを攻略するための主力を得られたのは嬉しい。何せそこのジムリーダーは岩タイプのスペシャリストだ。バタフリーだけでは倒される危険があったため、サトシは確実に勝てる保障が欲しかった。
サトシはウキウキ気分でコライドンの背中に乗る。もうこの森に用は無くなった。
「ビードルをゲットできなかったのは悔しいが、それ以上に収穫はあった。後は鍛えて、タケシに勝つだけだ! 」
古代のポケモンは翼を広げて空を飛ぶ。そして北へと向かった。