灰色の町、ニビシティ。ここには博物館があり、ポケモンの化石等が展示されている。特に目玉なのはカブトプスの化石だとのこと。
しかしサトシの目的はポケモンジム。リーグバッジを手に入れる為にこの町にやって来ている。そうじゃなければ特に用が無いからだ。
「それにしても、さっきのアレは何だったんだ? 」
「ギュギュ……」
漬物石を売ろうとしてきた壮年の男。サトシは買わないと言ったら、今度はポケモンセンターへと案内される。彼の考えていることが全く理解できず、困惑するのみ。
一言礼を言った後、ジョーイさんに頼んでポケモンの回復をして貰っていたところである。よってキャタピーとフシギダネは全快だ。……問題は思っている以上に彼らの戦意が低いことだが。
グミで餌付けできて仲間にしたとはいえ、やはり痛いのは嫌だとか。目を見れば何となくそれが解ってしまう。そんな状態でバトルに出そうものなら、指示を無視して勝手に行動する可能性は高い。当然、負ければサトシに不信感を覚えるだろう。
コライドンに頼り過ぎてはいけない理由の1つがこれである。サトシは手持ちの士気を増す手段を得なければならない。その為に、何としてでも信頼を得る必要があった。
ポケモンセンターを出て、そのまま町外れの荒野へと向かう。ここに現れる野生ポケモンはコラッタやポッポ、プリン、そしてオニスズメである。出てくる全てがノーマルタイプだが、同時にポッポとオニスズメが飛行タイプである。
つまりキャタピーは勿論、フシギダネは苦戦を強いられるだろう。『かぜおこし』や『つつく』といった技には滅法弱い。
「よし、出てこい」
サトシはボールから2匹を出す。これから彼らを鍛える為に、特訓メニューを既に考えている。
「まずは野生のコラッタと戦って貰う。すばやさが高いから倒すのに手間取るだろうが、勝てない相手ではない。頑張って強くなって貰うぞ」
なお、コライドンが睨みを利かせているので敵前逃亡はできない。止むを得ず、フシギダネとキャタピーは戦うしか無かった。
10分もしない内に、コラッタは直ぐに見つけられた。サトシはキャタピーに『いとをはく』を命じて、フシギダネに『たいあたり』を指示した。2対1ではあるが、時間がないので2匹同時に戦わせる。1対1はキャタピーがバタフリーになった時からすればいいと判断している。
コラッタ狩りをして3時間が経過した。やはり虫タイプのポケモンは直ぐに進化するらしく、キャタピーはトランセルになった。すばやさこそ下がったが、ぼうぎょのランクを上げられる効果を持つ『かたくなる』を覚えたのは良い収穫だ。
ちなみにサトシは特訓中、コラッタとポッポ、オニスズメをゲットしている。しかしポッポ以外は育てるつもりは無く、コラッタとオニスズメはオーキドの研究所送りとなった。あくまでも図鑑埋めの為に捕まえたに過ぎない。
手持ちに加えたポッポは周囲への警戒を任せることにしている。周囲に狂暴なポケモンはいないとはいえ、万が一のこともある。アニポケみたく唐突にロケット団が現れるという事態がありえるので、サトシは念を入れていた。
「今日はここまでだ。ポケモンセンターに戻って、食事するぞ! 」
コライドンは勿論、フシギダネとトランセルはグミの味を覚えたので喜んでいる。ポッポはそれを食べたことは無いから不思議そうに思っている様だが。
コライドンにはだいだいグミとこんいろグミ、フシギダネにはわかくさグミとももいろグミ、トランセルにはみどりグミ、ポッポにはしろいグミとそらいろグミを与えた。当然、オレンのみ等といったきのみも食べさせてはいる。
「ポポッ! 」
よっぽどグミが美味しかったのか、ポッポがおかわりを要求してきた。コライドンに負けず劣らすの食いしん坊である。サトシはきいろグミを渡すが、ポッポはさっきのグミが良かったらしく、駄々をこねる。
ノーマルタイプはしろいグミを好み、飛行タイプはそらいろグミを好んでいる。しかし好みじゃないグミは味が合わないらしく、嫌がる場合が多い。
きいろグミは電気タイプのポケモンが好むものだ。当然、ポッポは喜ばない。グミの性質上、「グミのタイプが、そのポケモンのタイプに効果抜群」の場合は一致の場合の次に美味となる。だがやはり、タイプが一致している場合が一番好きなのだろう。
「しょうがない。急いで作るからそこで待ってろ」
「ポポポッ! 」
何だかんだで面倒見の良いサトシ。当然、他のポケモンもおかわりを要求してくるため、彼はいつも以上にグミを作る羽目になった。
* * *
修行開始から2日経った。ここでようやくトランセルはバタフリーへと進化した。『かぜおこし』や『ねんりき』のような攻撃技に、『ねむりごな』を初めとした変化技を習得。キャタピーやトランセル時代とは様変わりしたので、バタフリー本人は自信満々だ。
フシギダネも『つるのムチ』と『せいちょう』、『やどりぎのタネ』を習得している。未だ『はっぱカッター』は覚えてはいないが、それでも岩タイプのポケモンに対して強く出られるだろう。
試しにプリンを相手に1対1で戦ってみたところ、両者ともに難なく勝つことができた。士気の低かった初日が嘘の様である。
「明日はジム戦だ。ゆっくり休んで英気を養うぞ! 」
「ダネ! 」
「フリィ! 」
恐らくタケシの手持ちはイシツブテとイワークだろう。使ってくるであろう『がんせきふうじ』によるダメージを軽減できない上に、バタフリーの場合は一撃で
結局のところ、トレーナー初心者が取れる対策なんてそれくらいしかない。少なくともサトシは上手くやれてるので、ポケモンの体調管理さえミスらなければ明日のジム戦は勝てるだろう。
* * *
「ジョーイさんから挑戦者が来るという報告は聞いている。確かここが最初らしいな」
岩タイプのフィールドは砂地にゴツゴツとした岩石を置いたものになっている。岩と地面タイプにとっては天国のような環境だ。
現れた青年の恰好はどう考えても「工事現場の作業員」にしか見えない。腰に携えているピッケルと懐中電灯からして、化石の発掘でもしているんじゃないかって思うくらい。
しかしシンオウにも似た格好をしているジムリーダーが居たため、そこまで変には思われなかったのだろう。まさかそれが岩タイプ使いの正装なのかと疑わしくなるくらい。
「いつもはもっとまともな恰好をしているんだが、生憎オレはおつきみ山から今帰って来たばかりだ。悪いが、このまま戦わせて貰おう」
どうやら仕事帰りだったらしい。思っていた以上に常識人だったことにサトシは安堵する。少なくとも、トレーナーとしての真面目な一面が見たかったからだ。
「改めて自己紹介をしよう。……オレはニビシティのタケシ! 使うポケモンは防御に秀でた岩タイプだ! 」
「俺は、マサラタウンのサトシ! よろしくお願いします! 」
タケシが挨拶をしたので、サトシもそれに習う。
「バトルのルールはシングルバトル! 出せるポケモンは2匹まで! 使える技の制限は無し! 」
審判らしき短パン小僧がルールについて説明する。恐らく「百億光年のことを時間のことだと勘違いしている奴」だとサトシは思ったが、口には出さない。
「礼儀正しい奴は好ましいぞ! だが勝負事に手は抜かん! バッジが欲しいのなら、全力でぶつかってこい! 」
タケシは左手にある発掘用のハンマーを天に掲げ、直ぐにそれを腰のホルダーに戻す。代わりにボールを取り出した。
ジムリーダーの タケシが しょうぶを しかけてきた!
タケシはイシツブテを繰り出してきた。対するサトシはバタフリーをボールから出す。タイプ相性からしてイシツブテが有利だが、それだけでは勝敗は決まらない。
「イシツブテ、『ロックカット』だ! 」
「バタフリー、『ねむりごな』! 」
イシツブテはすばやさのランクを上げることで機動力を増そうとしたが、それをバタフリーは阻害してくる。眠ってしまえば動くことすらできない。まんまと粉を浴びて、がんせきポケモンは眠ってしまう。
「早く目を覚ますんだ! 」
「そのまま『ねんりき』だ! 起きてしまう前に倒しきれ! 」
眼が覚める前に速攻で倒す。バタフリーの瞳が光り、不思議な力によって眠っているイシツブテは痛みに苦しむ。相手の脳にダメージを与える様だが、サトシにはイマイチ理解できなかった。
何度もダメージを受けたせいか、イシツブテは戦闘不能になる。呆気なく倒されると思ってなかったのか、タケシは悔しそうにボールを使ってイシツブテを回収した。
「戦術も悪くはない。……だけどポケモンバトルは小細工だけではやっていけない! 岩タイプの力、その身で受けるといい! 出番だ、イワーク! 」
「オォォォ!! 」
連なる岩石の身体、イワーク。低ステータスではあるが、少なくともすばやさはバタフリーとほぼ互角だ。
「イワーク、『ロックカット』だ! 」
「バタフリー、もう一度『ねむりごな』! 」
バタフリーは眠らせようと鱗粉を飛ばしてくるが、なんとイワークは己の身体を磨きながら余裕で回避する。イシツブテとは比較にならないくらい、動きが素早い。
「言った筈だ! オレのイワークにそんな小細工は通用しない! 」
「ならば『かたくなる』だ! バタフリー、攻撃に備えろ! 」
「だったらこっちは『がんせきふうじ』だ! 」
バタフリーは身を固めるが、流石に4倍弱点の攻撃には耐えられなかったのだろう。ちょうちょポケモンは一撃で戦闘不能になってしまった。
「次はその赤いポケモンか? 」
「いいや、俺が出すのはフシギダネだ! 」
「ダネッ! 」
サトシはボールの中からたねポケモンを出す。小さい身体だが、やる気に満ち溢れている。
「定石通り、草タイプのポケモンで対抗してくるか。……オレのイワークはすばやさが上がっている! そんな相手にお前のフシギダネはどうやって戦うんだ!? 」
「そんなの決まっている。『なきごえ』だ! 」
フシギダネは口から鳴き声を発することでイワークのこうげきを下げた。この技は耳を塞ぐ以外の対処は難しい。イワークはまともにその声を聞いてしまう。
ただでさえイワークのこうげき種族値は低いのに、ランクまで下げられたら『がんせきふうじ』の威力は弱くなるだろう。一見して無駄行動の様に見えるそれが、この場において最も効果が出ている。タケシは思わず舌を巻いた。
「なるほど。……ならばこれはどうだ! イワーク、フシギダネの身体を『しめつける』で拘束するんだ! 」
「グオン! 」
イワークの巨体がフシギダネの小さい身体を束縛しようとする。だがサトシはそれを待っていた。
「はっはっは! フシギダネ、『やどりぎのタネ』だ! 」
「し、しまった!? 」
フシギダネは背中から植物の種をイワークに植え付ける。種は成長し、イワークから養分を吸い取った。そして吸収したエネルギーを使ってフシギダネは自らを回復する。
相手を圧倒させるための大きな体が仇になっている。
「止めだ! 『つるのムチ』! 」
「ダネフシャ!! 」
身体から植物のツルを生やし、それを使ってイワークの身体を叩いた。よっぽど重い一撃だったのだろう、いわへびポケモンは
「い、イワーク戦闘不能! よって勝者、マサラタウンのサトシ! 」
審判の短パン小僧の声によってバトルは終わりを告げた。それを聞いてフシギダネは雄叫びを上げる。
「ダネェ!! ……ソウッ! 」
……フシギダネは光り、そしてフシギソウへと姿を変えた。レベルアップによる進化である。
「勝って、そして進化か! よくやった! 」
「ソ、ソウ」
サトシの声にフシギソウは思わず照れる。キチンと特訓し続けた結果だ。彼は手持ちのポケモンの努力が実ったことに喜ぶ。
「てっきりその強いポケモンを使ってくるのかと思ってたが、まさかバタフリーとフシギダネでオレに勝つとは」
タケシが近づいてくる。彼の右手にあるのは、ポケモンリーグに参加するために必要なアイテム、グレーバッジ。
「このバッジを持っているとレベル25までのポケモンは必ずいうことを聞いてくれる。おまけに岩タイプの攻撃技が少しだけ強化されるぞ」
そう言ってグレーバッジをサトシに渡す。ついでにわざマシンも一緒に渡された。
「これはオレからの餞別だ。『ロックカット』という変化技が記録されている。岩タイプ特有の鈍足という欠点を解消できる素晴らしい技だから、イシツブテなどに使ってみれくれ」
貰ったバッジとわざマシンをそれぞれの専用のケースの中にしまい、フシギソウをボールの中に戻す。
「ありがとうございました! 」
そしてサトシはタケシに頭を下げ、感謝の言葉を口に出した。