サトシと翼の王   作:ヴィット

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おつきみ山の研究員

 

 おつきみ山。ここには宇宙からピッピがやって来たという話があれば、ポケモンの化石が埋没しているという話もある。

 

 歴代ニビシティのジムリーダーは古生物学者を副業にしている者が大半だった。その為か、化石発掘事業を行う際はタケシが呼び出されることが多かった。しかし彼は考古調査士の免許を取得していない為、あくまでアルバイトとして働いている様だが。

 

 現在この山は学者が研究しに来ている。大半は化石の発掘や地層調査だが、サトシの目の前にいる人物は違った。

 

「君たちは素晴らしい! 人間とポケモンはモンスターボールがなくても解り合える! しかもライドポケモン! 感動で涙が止まらないぃ……! 」

「は、はぁ……」

「グギュ……」

 

 白衣を着ている男、リカオという男はさっきからサトシとコライドンを褒めてばかりだ。聞けば彼はニビシティの博物館で働いている研究員で、パトロールをしているとのこと。

 

「見てくれよ。パラスは棲みやすい環境が欲しくてキノコを植えているし、サンドは干からびて倒れてしまっている。もう滅茶苦茶だ」

「さっきのズバットは? 」

「誰かが壁に電灯を取り付けたせいで混乱してたんだろう。おかげで人間に敵意を向けるようになってしまった。今じゃズバットに襲われたという被害報告が後を絶たないんだ」

 

 洞窟内が明るい理由、サトシには心辺りがあった。ゲームやアニメではほぼ100%ロケット団の仕業だと考える。目的は化石かつきのいしか、もしくはピッピの乱獲といったところだろう。

 

「へぇ。……つまりこの山で何かあった時はあなたの責任になるのですか? 」

「そうだよ。だから毎日パトロールをして、異常がないかどうかを確認しているんだ。そうしないと他の研究員や学者たちが困るからね」

 

 モンスターボールを1つも持っていないのに危険な仕事を毎日やっている。立派ではあるが、同時に無謀だ。さっきもズバットの群れに襲われているので、サトシからしてみれば頼りない奴でしかない。

 

「じゃあこいつら捕まえる許可とか」

「駄目に決まってるだろ!! 」

 

 図鑑埋めの為にポケモンゲットの許可を貰おうとしたが、リカオは顔を(しか)めてサトシを(とが)める。何か理由があるのではないかと思い、耳を傾ける。

 

「いいかい? ここは保護区だ。そしてここに棲んでいるポケモンは保護指定されている。バトルもゲットも法律違反だ。もしここで密漁している奴がいたらボクはジュンサーさんを呼ばなければならない! 」

 

 リカオの口から情けない発言が聞こえた。思わずサトシは苦言を(てい)する。

 

「だったらパトロールはそのジュンサーさんに任せればいいのでは? 」

「山の環境を全く把握していない人にパトロールなんて任せられる訳ないだろう。それにジュンサーさんは町の治安を守るためにいるのであって、おつきみ山のような自然保護区は管轄外(かんかつがい)だよ」

 

 サトシは思わず頭を抱えそうになる。確かにこの研究員はポケモンの生体に詳しいのかもしれない。だがポケモンを連れておらず、腕っぷしも無い。そんな奴にパトロールできるのか不安に思った。

 

「それとつきのいしを拾うのも止めて欲しい。ポケモンの進化に関わるアイテムだということは研究報告で解っているんだけど……」

 

 進化の石はタマムシシティで販売されているアイテム。そしてつきのいしは入手できるかどうかすら怪しいもの。サトシは思い出す。貴重なアイテムほど闇市に出回る可能性が高いことに。

 

「拾ってしまった人が犯罪の被害に遭ってしまうかもしれないんだ。ポケモンだけでなく、ボクたち人間もそれで困っている」

 

 貴重なアイテムを持っているせいでロケット団に襲われるかもしれない。シオンタウンのガラガラもそのせいで殺された。ゲームフリークの闇の一端をまさかここで聞くことになるとはサトシも思っていなかった。

 

 この後、ピッピが宇宙からやって来たという眉唾物(まゆつばもの)みたいな話を聞かされてサトシはげんなりする。彼自身、ピッピに用はないからだ。どうせ育てるならベイビィポケモンのピィから進化させればいいと考えていたからである。

 

「それにしても、コライドンだったかな」

「そうですけど。それがどうかしました? 」

「確か昔読んだ紫色の本の表紙に「トカゲの様な姿のポケモン」のシルエットが描かれてあったんだ」

 

 リカオの発言を聞いてサトシは思わず身構える。どうやら彼はバイオレットブックを読んだらしい。

 

 ヘザーが著した奇書、その内の1つがバイオレットブックである。彼がパルデア地方のエリアゼロを探検していた時の話が書かれてあった。だがその本の表紙に描かれているのはミライドン、テツノオロチだ。コライドンではない。

 

「あのポケモンの姿と、君が連れているコライドン。何だか姿が似ていると思ってね」

「……違うポケモンなんじゃないですか? 」

「さあ? ボクがパルデアのグレープアカデミーに留学していた時に読書していたものだったから、よく覚えてないんだ」

 

 サトシが持っている記憶が正しければ、つまり現時点でエリアゼロを管理しているのはフトゥー博士の様だ。ますますオーリム博士が実在していたかどうか怪しくなる。

 

 そして月刊オーカルチャーの存在。原作ゲームの、あのオカルト雑誌にはパラドックスポケモンの情報が書かれてあった。グレープアカデミーの雑誌には「未来のポケモン」のことが記載されている。

 

 ……ここでバイオレット時空における古代のパラドックスポケモンの扱いについてサトシは考える。不思議な結晶の力によって現代に召喚された彼らだが、それを雑誌記者が目撃している訳だ。そして「イダイナキバ」や「サケブシッポ」といった仮称を宛がわれている。

 

 バイオレット時空のジニア先生はフトゥー博士のミライドンを知った。そして何処かでツバサノオウを見て、「コライドン」という正式名称をつけた。理由は多分、「古代から来たミライドンっぽい何か」だから、コライドンなのだろう。無理矢理理屈を当てはめるのなら、そうなる可能性は高い。

 

「リカオさん。フトゥー博士って知っていますか? 」

「何を突然。……ええっと、エリアゼロの奥地にある研究所で働いている人だよね? テラスタルについて研究しているらしいけど」

「じゃあオーリム博士って知っていますか? 」

「……ごめん。聞き覚えが無いんだけど。誰なんだい? 」

 

 どうやらリカオは本気で解らない様だ。つまりオーリム博士は有名になっていないか、この世界線には存在していないということになる。

 

「……オーリム博士はコライドンの名付け親です」

「なるほど。パートナーポケモンのルーツを知りたくてボクに質問したのか」

 

 これ以上聞くことは無くなったのだろう。サトシは質問するのを止めた。

 

 

 * * *

 

 

 山道の途中でサトシたちは食事をすることにした。もう夕方であり、コライドンたちはお腹を空かせている。

 

「アギャス! 」

「フリィ、フリィー! 」

「ソウ、ソウッ! 」

「ポポッポ! 」

 

 手持ちのポケモンたちはグミときのみを食べている。色とタイプに合ったグミなので特に不満は無い様だ。一方でサトシはフレンドリィショップで購入した弁当で食事を済ませている。

 

「ところで、君のポケモンたちが食べているそれってグミかい? 」

「そうですけど、何か? 」

「ポロックやポフィンに似ているって思ったんだ。ポケモンたちはああいうおかしが大好物だろう? 」

 

 ポロックとポフィンはきのみを材料にして料理するとできあがるおかしだ。特にポロックはカビゴンやゴクリンといった食欲のあるポケモンのエサである。

 

 ブリーダーであればポケモンフーズを食べさせるのが普通だが、サトシはそれをしない。何故ならグミを食べさせた方がポケモンの「かしこさ」を上げられるからだ。

 

 不思議のダンジョンにおける「かしこさ」とは知恵や技能を身に着けるためのステータスであり、高ければ高い程やれることが増えていく。実際、コライドンは毎日グミを食べていることで飛行能力を取り戻している。だからサトシは毎日グミを作っている。

 

「という訳で、俺はグミを作ってます」

「どうりでポケモンたちが君に(なつ)いている訳だ。誰だって美味しいモノは欲しがるからね」

 

 そういって、リカオは周囲を見る。サトシも彼の行動にならって見てみると、木陰や岩陰からピッピたちがこちらを羨ましそうな目を向けていた。

 

「匂いにつられてやって来たってところかな。……でもあげちゃ駄目だよ? 」

「解ってますって」

 

 保護区で野生のポケモンに餌付けをするのは犯罪行為だ。人間にエサをたかるようになったら問題が起こる。サトシたちはさっさと食事を切り上げて、ハナダに向かうことにする。

 

 ……しかし、ピッピたちが「とおせんぼう」し始めた。本来ピッピはその技を覚えられないが、複数集まっているので自然と道を塞ぐことができてしまっている。つまり疑似的に「にげられない」状況が生まれてしまった。

 

「ピッピィ……」

 

 なんと彼ら全員がサトシに対して頭を下げた。よく見るとピッピたちはやつれていて、ロクに食べ物を口にできていないことが解る。おまけにパラスやサンド、ズバットといったポケモンまで混じっている始末。どう考えても普通ではない。

 

「どうするんですか? 俺にはこいつら全員の食料なんて(まかな)えませんよ」

「そ、それは……」

 

 異様な光景を前にしてリカオは戸惑っている様だ。無理もない、こんなことは初めてなのだろう。

 

「アギャ、アギャス! 」

「ピ、ピピィ? 」

 

 困っている彼らを他所に、コライドンが前に出る。どうやら話し合いをしている様だ。そして数分経ち、彼はサトシたちに振り向く。

 

「アギャス! 」

 

 山の頂を首で差した。どうやらコライドンは「着いて来い」って言っている様だ。

 

 サトシたちは言われた通り、山の頂を目指して足を進める。そしてコライドンは立ち止まった。視線を追えば、そこには大量の食糧。そしてロケット団の三者だった。

 

「ニャハハハ! サカキ様に怒られた時はどうしようかと思ったケド、これだけ大量のごはんがあればニャンとかやれそうニャ! 」

「野生のポケモンこき使ってつきのいしを拾わせる作戦、上手くいきそうだよな! 貴重な道具は高く売れるから資金増えるし、アポロ様も大喜びだろ! 」

「あのジャリボーイが人質やったのを見て卑怯って思ったケド、実際にやってみると楽できていいわねぇ! 食べるモノ抑えておけばあいつらはあたしたちのいいなりになるし、逆らいもしない! 」

 

「「「任務成功、幹部昇進、イイ感じィー!! 」」」

 

 ついに外道行為に走ったロケット団。野生のポケモンたちが食うに困っていたのは彼らの仕業である。山の食料を人質にとって働かせようとしたらしい。

 

「……コライドン、『こうそくいどう』を3回やった後、『ドラゴンクロー』だ。あいつら全員叩きのめせ」

「アギャス……! 」

 

 これにはサトシもコライドンも怒り心頭だ。指示通りにすばやさのランクを最大限まで上げる。そしてロケット団に何もさせることなく、一撃で意識を刈り取った。

 

「す、すごい。悪いことしてた連中全員を一撃で」

「あいつらが弱いだけですよ」

 

 コライドンの強さがあれば大抵のトラブルは難なく解決できる。こういう面倒な連中の相手は力でねじ伏せればいい。

 

 サカキだけでなくアポロの名前まで聞こえたのは気になったが、今はどうでもいい情報だ。ロケット団のアジトに潜入なんて話にならない限り、当面の相手はムサシとコジロウとなる。

 

 その後、ピッピたちはサトシたちに感謝し、食べ物をムシャムシャ食べ始めた。数えきれないくらいの食料だが、その辺りの管理はリカオの仕事だ。山から食べ物が無くなりそうになったら彼がどうにかしなければならない。洞窟内の電灯も後で撤去するとの話だ。

 

 サトシとコライドンは彼らに別れを告げ、ハナダシティへ向かう。ジムリーダーは既に面識のある少女だ。水タイプのポケモンの使い手なので、色々と準備が必要になるのは間違いない。

 

 時間が欲しい。そういったサトシの焦りが伝わったのか、コライドンはなるべく早く走り始めた。

 

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