サトシと翼の王   作:ヴィット

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北風の化身スイクン

 

 水色の町、ハナダシティ。ここには水族館があり、カントー地方に生息している水タイプのポケモンを見ることができるという。

 

 本来ならば立ち寄ることは無いが、図鑑にある「見つけられた数」を増やす為に訪れている。何度も書くが、サトシにとって時間は貴重なものだ。故に滞在する時間は30分くらいである。

 

 大体のポケモンは見終わったので、サトシはバトルフィールドを見ることにした。ここの水族館、実は客を呼び込むためにジムも併設(へいせつ)している。

 

 プールの上に浮袋があり、陸地はそこしかない。つまりここは水タイプのポケモンが最も有利に戦えるフィールドだ。そこでバトルをすることになるため、彼は作戦を考える。

 

 まずフシギソウは論外だ。確かに草タイプのポケモンであれば相手の弱点を突くことができる。しかし足場が悪いので、水中に落下してしまう可能性がある。そうなったら(わず)かな時間でも体力を持ってかれることもあるし、場合によっては戦闘不能になってしまうかもしれない。

 

「出すならバタフリーとポッポか? 場合によっては研究所からオニスズメを転送して貰う必要があるな」

 

 サトシが口にしたポケモンは全て飛行タイプだ。足場を気にする必要もないのが利点だ。……しかし致命的な欠点も存在する。

 

 ここのジムリーダーは確実にスターミーを使ってくる。強力な水タイプとエスパータイプの技も強いが、厄介なのは『10まんボルト』と『れいとうビーム』、そして『パワージェム』である。おまけにすばやさの種族値も高いので、速攻で倒される危険性があった。

 

「水タイプのポケモンで攻めて攻めまくるとはよくもまあ言ったモノだ。確かゲームだと何もできずにボコられてポケセン行きも多かったか? 鬼門だよな、このジム」

 

 特訓メニューは考えた。対策も一応思いついてはいる。しかし勝率は物凄く低い。つまりどれだけポケモンを育てられるかが攻略のカギだ。

 

 サトシはジムから出る。育成方針は定まった。後はポケモンセンターに宿泊の手続きを取るだけ。そう思っていた時だった。何やら町の人たちがざわついていることに彼は気付く。

 

「あの、何があったんですか? 」

「聞いてくれよ! あのカメラマンがスイクンを目撃したって言うんだ! 」

 

 近くにいる人に詳しい話を聞いてみると、何やら興奮した顔で事情を説明し始めた。あのカメラマン? スイクン? サトシはまた面倒ごとが起こったと思い、話を聞くことにする。

 

 とあるエリートトレーナーの女性が彼氏と一緒にハナダの岬へデートしに行った時の話だ。なんと海の向こうからスイクンらしきポケモンがハナダシティへと走っている姿が見えたのだという。

 

 ……ここはカントー地方だ。スイクンの目撃例なんてありえない。少なくとも、当時のハナダシティの人たちは半信半疑の様だった。

 

 だが、ここで事態は一変した。2度目の目撃情報が出てきた。このハナダシティ近辺でカメラマンが走るスイクンの写真を撮ったそうだ。凄くブレてはいるが色合いや(ひたい)らしき部分の形状からみてスイクンに間違いないとのこと。

 

 写真を加工して作った偽物ではないかと疑っている者もいるが、逆にブレていることや加工した痕跡が見当たらないことから本物だと言う人もいる。だから大騒ぎになっていた。

 

「凄い大事件だよ! どこに行ったのかは知らないけど、このカントーの大地をスイクンが走っていること自体、奇跡なんだ! 」

「そ、そうか……。話してくれてありがとな」

 

 サトシにとっては物凄くどうでもいい情報だ。捕捉率の関係上、伝説のポケモンは対策無しではゲットできないからだ。彼は奇跡的に同格のコライドンをゲットできているが、あくまでも餌付けの結果だ。実力で捕まえた訳ではない。

 

 それにHGSSでもスイクンはカントー地方に出没していた。別にありえない話ではない。希少価値がどうとか言われたとしても、前世の知識を持っている彼からしてみれば「砂漠の中から砂金一粒を探す」ようなモノでしかない。

 

 サトシはさっさとポケモンセンターに入る。そして研究所からオニスズメを転送して貰い、手持ち全員に食事をふるまった。

 

 

 * * *

 

 

 特訓初日。バタフリーはもちろん、ポッポも大分(だいぶ)強くなってはいる。オニスズメはもうすっかりヘトヘトになっていた。

 

 しかし、これではジム戦に挑んでも返り討ちにされるだけだ。バタフリーは4倍弱点の『パワージェム』を受ければ即瀕死もありえるし、ポッポは耐久に不安がある。

 

 サトシは嘆いた。こんなことならオニスズメを鍛えておけばよかったと。タイプが被るという理由で研究所に送ったのが(あだ)になった。

 

 ……だが修行したことで収穫も得られた。サンドにアーボ、ナゾノクサ、マダツボミをゲットできたのは大きい。どれもハナダシティで捕まえられるポケモンで、保護指定もされていない。これでオーキドから文句を言われることも無いだろう。

 

 ただしどのポケモンもハナダジムでは戦えそうにないのがアレだが。つまり、さっき捕まえた4匹は研究所に転送である。

 

「確かシゲルはもっと捕まえてて、もっと鍛えてるって話だよな。バッジの数も既に4つって聞くし……。あいつのフットワークはどうなってるんだ? 話聞く限りじゃカメールでジュゴンを倒したって聞くが」

 

 RTA走者みたいなことをしているシゲルに対して恐れ(おのの)くサトシ。アニメの内容を見てた限りでは、見栄を張るような人間ではないのは知っていた。

 

 時間が経過し、夕方となる。バタフリーたちはもう動けないようだ。何故か一緒に修行していたフシギソウもすっかりくたびれている。向上心のあるポケモンは良き隣人だ。サトシはそういうポケモンを大切にしていきたいと改めて思う。

 

「よし、今日はここまでだ。続きは明日にしよう! 」

 

 そう言って彼らをボールに戻した。……しかし、ここでコライドンは険しい顔で何処かを見ている。

 

「えっと、どうした? 」

「……ア、ギャオオオオオオオオオッ!!! 」

 

 古代のパラドックスポケモンは急に雄叫びを上げる。サトシを無理矢理背中に乗せ、凄まじい勢いのまま走り始めた。

 

「わっ!? な、なんだ急に! 」

 

 何とか両肩の青い突起部分を握り、態勢を立て直す。明らかに様子がおかしい。これは、どういうことだろうか? サトシは言いようのない恐怖を感じた。

 

 やがて辿り着いたのは洞窟。入口から見ても解るくらい、壁や地面が結晶だらけになっている場所。ゲームではミュウツーが固定シンボルで(たたず)んでいた、危険地帯。その名も、ハナダの洞窟。

 

「ま、まさか入るのか!? こんなあっぶねぇ場所に!! 止めろ馬鹿野郎!! 」

 

 サトシは悲鳴に似た声でコライドンに言うも、全然止まる気配はない。入口から内部へと駆け抜け、ゴローンやユンゲラー、ゴーリキーといった明らかにヤバい連中を全速力で()ねのける。

 

 コライドンはどんどん奥まで進み、ついに最深部へとやってきてしまった。……そうして、サトシは異変に気づく。

 

「何だ、これ? 」

 

 結晶でできた大木(たいぼく)。そしてスイクンに似た姿を持つ水の化け物。そいつは何かを無我夢中でバリボリ食べており、こちらに気づいてすらいない。

 

 そしてサトシは周囲を見渡す。結晶に映っているのは自分たちの姿。なのにサトシの後頭部が見えてしまっている。

 

「何で、気づかなかった……! ここもテラスタルの結晶だらけじゃねえか! 」

 

 恐らくアニポケでは1度も描写されていない場所。あったとしても、それはオリジンでの話である。本来ならばサトシが訪れることもなかった(はず)

 

 オーキドに頼んでここを調査して貰った方がいいのではないか。そう考えてしまうくらい、ここには厄ネタが多過ぎる。そしてコライドンは何かヤバい気配を感じ取って、この最深部にまで駆けつけた様だ。

 

 そして、水の怪物はこちらに気付いた。黄金の瞳はコライドンの姿を映しとる。

 

「すいりゅおおおおおッ!!! 」

 

 やせいの ウネルミナモが あらわれた!

 

 水の怪物は青白いオーラを纏っている。どうやら何かを食べたことによってステータスが強化されている様だ。そしてどうやらこちらを逃がしてはくれなさそうでもある。

 

 そしてサトシの手持ちの中で戦えそうなポケモンはコライドンのみ。他は特訓の疲れで参加できそうにない。まあボールの中から出そうものなら死んでしまうかもしれないので、待機してくれた方が彼の心情的にありがたいことだろう。

 

 そしてウネルミナモに味方する野生のポケモンはいない。彼らは排他的故に水の怪物のことを不快に思っているからだ。縄張りを荒らし、自分たちの食料を貪る害獣など敵以外の何者でもない。だから彼らは遠くで静観している。

 

 つまり、1対1の状況が完成しているのだ。コライドンかウネルミナモ、どちらかが倒されるまでこの闘いは終わらない。

 

 サトシは地面に降り、コライドンは完全形態となる。手加減なんて甘いこといってられない。彼らは全力で水の怪物を相手どり、勝利しなければならないからだ。

 

「コライドン、まずは『こうそくいどう』だ! 」

 

 サトシの指示を受け、コライドンはすばやさのランクを2段階上昇させる。相手が非常に強いポケモンであるため、回避できるようにしておかないと不味い状況にある。

 

 そんな彼らに対してウネルミナモは口から『ハイドロスチーム』を放ってきた。普通の『ねっとう』よりも非常に高温な熱湯がビームのように噴出される。だがコライドンはそれを難なく回避する。

 

 すばやさは圧倒的にウネルミナモよりもコライドンの方が上。攻撃さえ(かわ)せれば対処は可能だ。しかし問題は相手が覚えている技である。

 

「よし、接近して『ドラゴンクロー』だ! 」

「ギャオース! 」

 

 サトシの指示を受け、コライドンはウネルミナモに接近する。そして自慢の爪で相手の身体に強烈な一撃を叩き込んだ。……しかし相手のウネルミナモはその攻撃を利用し、自ら後ろに吹っ飛ぶ形で距離を取った。そして反撃するぞと言わんばかりに『りゅうのはどう』をコライドンに向けて放つ。

 

「『かえんほうしゃ』で相殺しろっ! 」

 

 流石に弱点を突かれるのは不味い。そう思ったサトシは火力が低いにも関わらず、特殊技を指示した。コライドンは言われた通り、口から炎を吹いて相手の『りゅうのはどう』を防ぐ。

 

 しかしそれは罠だった。ウネルミナモは攻撃を防がれること承知の上で、なんとサトシに向かって突撃し出した。指示を出すトレーナーさえ無力化してしまえば形勢逆転できると判断したのだろう。

 

「俺を、舐めるなぁーッ! 」

 

 だがサトシは普通じゃなかった。なんとウネルミナモに向かって特攻。余りの無謀さに水の怪物は一瞬戸惑う。そして考える時間は与えないと言わんばかりに、コライドンは『ドラゴンクロー』を相手の背中にぶつけようと迫った。

 

 どう考えてもコライドンの方が脅威だ。ウネルミナモはサトシに対する攻撃を止め、強いポケモンの対処を選ぶ。選んだ技は『ハイドロスチーム』。それを口から放とうとした。

 

 ……それは間違いだった。サトシはウネルミナモの足にローキックをぶつけた。あくまでも人間の格闘術だが、その巨体には効いたのだろう。水の怪物は痛みで転倒してしまった。おまけに放とうとしていた『ハイドロスチーム』は中断されてしまう。

 

「す、すいぎゅ」

「アギャオオオオオオオオッ!!! 」

 

 渾身の一撃がウネルミナモの(ひたい)に放たれた。急所に当たった。効果は抜群だ。とてつもなく膨大なダメージが発生する……!

 

 重い一撃を受け、水の怪物は倒れた。もうこうなってしまえば反撃することも逃げることもできない。野生のポケモンたちから物凄く嫌われているせいで、彼らの助力を得ることもできない。四面楚歌だ。どれだけ強くても、トレーナーを味方につけたポケモンには絶対に勝てない。

 

「今だっ! モンスターボール!! 」

 

 背後からボールが投げられる。昏倒しているせいでウネルミナモはまともに抵抗できない。こちらもクリティカルヒットだ。1回揺れただけで捕獲が完了した。

 

「はっはっは……。ウネルミナモ、ゲットだぜ」

 

 スイクンのような神秘的で美しい姿という訳ではない。どちらかといえば凶暴で荒々しい古代からやって来た怪物というイメージがある。……それがいい。サトシにはそういうポケモンがお似合いだ。

 

 この後、サトシとコライドンはさっさと洞窟から急いで脱出した。何故なら、野生のポケモンたちから向けられている敵意を感じ取ったからだ。ウネルミナモとの戦いでは静観していた彼らだが、問題が収まった今はトレーナーである彼が邪魔だ。

 

 縄張りに入る余所者には絶対に容赦しない。それがハナダの洞窟に棲むポケモンたちの総意だ。

 

 外に出てみればもうすっかり夜だ。サトシのよく知る平和な世界であり、野生のポケモンたちも可愛いモノばかり。洞窟の中にいる狂暴な連中とは大違い。

 

 命の危機から脱した彼は急いでポケモンセンターに向かう。……ハナダの洞窟の奥地にあった大木と食べ物のことは頭から抜けてしまった。

 

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