ウネルミナモとの死闘から翌日、サトシは4番道路の
「……出てこい」
サトシはボールからウネルミナモを出す。……自由になったと思ったらしく、水の怪物はサトシに向かって技を放とうとする。しかしそれを見抜いていたコライドンによって攻撃が阻止される。強い握力によって抑え込まれ、やがて大人しくなる。
ウネルミナモは敵意剥き出しであり、どう考えても友好的ではない。試しにグミを食わせようとしても、目の前のポケモンはそれを食べようとすらしなかった。
「俺、というより人間が信用できないのか? 」
サトシはとりあえず質問をすることにした。まさか対話拒否ということは無いだろう。そう判断し、ウネルミナモの真意を探る。
……そっぽを向いた。そのまさかの対話拒否だった。
コライドンを見ると、彼は険しい顔で水の怪物を見ている。ただの人間不信ではない。まるで「自分以外の全てが敵」という考えだったらしい。何が駄目なのかというより、ウネルミナモ自身に問題があるように思えた。
余りにも社交的ではない。というより、この時代にいること自体が間違っていたのだろう。古代の世界が居場所か。生存競争に勝つ為に、気性が荒くなったと考えれば、仕方が無いのかもしれない。
「……いいや! 無理にでも食べて貰うぞ! ネグレクトとかトレーナー失格だ! 食べろ馬鹿野郎!! 」
「りゅおッ!!? 」
口から攻撃技を放とうとする相手に、サトシは無理矢理食べ物を与えるつもりだ。「朝から何も食ってない」ポケモンなんて彼は許容できない。例え対応としては間違っていたとしても、トレーナーの
どっちにしろ、このまま野生に戻すのはありえない。パラドックスポケモンは生態系を狂わせる。だからこのまま手持ちに加えたままじゃないと不味いことになる。
オーキドの研究所に転送するという考えもあった。しかし、狂暴なウネルミナモの暴走を抑えられるのかという問題がある。原作アニメでもベトベトンを相手に泣き言吐くほど根性無かったので、サトシは彼を信頼していない。
暴れようとする怪物の口にグミやきのみを入れ、そのまま飲み込ませる。これで空腹は収まっただろう。攻撃してくる前にさっさとボールの中に戻した。
「コライドン、悪いがお前もウネルミナモの面倒を見てくれないか? 俺だけじゃどうにもならないんだ」
「アギャス……」
今回ばかりは乗り気じゃない様だ。面倒な仕事で、下手すれば殺される危険性もある。だったら何でハナダの洞窟に向かったのかという話になるのだが、考えてみればそれもありえない。
このままウネルミナモがハナダの洞窟に棲みついた場合、他の野生のポケモンが居場所を求めるべく外に出てしまうからだ。縄張り争いに負けた方は
だから険しい顔でウネルミナモと戦うことを覚悟したのかもしれない。場合によっては水の怪物を殺めていたのだろう。しかしサトシがゲットしてしまったことで新たな問題が発生してしまった。
現在、理論上はウネルミナモはサトシのポケモンとなっている。彼は不服かもしれないが、どうしても人間の管理下におかなければならない。
「前途多難だな、こりゃ……」
今はボールの中で大人しくしてもらう。サトシにとって食事の時間が一番
* * *
特訓開始日から4日後、サトシはハナダシティジムにやって来ていた。もう充分なレベルにまで鍛えることに成功できた。
途中でロケット団に襲撃されることもあったが、フシギソウたちの活躍によって何とか撃退できている。アーボとドガース、ニャースの3匹を相手できる程に彼らも成長した。
「あのー、すみません! ジム戦しに来ました! 」
とりあえず受け付けやってる人に要件を伝えようとした。水中ショーの受け付けをやっている人でしかないので、まさかジム戦しにくるトレーナーが現れるとは思ってもいなかったのだろう。直ぐに電話機で何処かに連絡を入れていた。
数十分経ち、3人の女性が現れる。容姿こそ良いが、性格的にサトシとは相いれないと思われる。
「キミがジム戦しに来たっていうトレーナー? 」
「はい、そうですけど」
サトシがそういうと、彼女たちは顔を見合わせる。そして一番年上らしき女が事情を説明し始めた。
「悪いけど、私たちはもう戦う気は無いのよ」
「……事情を説明して貰えませんか? 」
向こうにだって訳がある。だからサトシは詳しい話を聞くことにした。彼だって納得できる事情さえあれば諦めようと考えるからだ。
「あなたよりも前にマサラタウンから来たトレーナーが来たのよ。それも3人」
「彼らとバトルしたのだけど、戦えそうなポケモンはみんなやられちゃったわ。ポケモンセンターで療養中よ」
「残っているのはトサキント1匹だけ。公式戦って確か2匹以上いないと駄目でしょ? だからジム戦はできないのよ」
それを聞いてサトシは成る程と頷く。彼女たちの言い分は最もだ。ポケモンに無茶をさせるのはトレーナーとしてやってはいけないことであり、ルールを破るのはジムの名誉に関わる。
「事情は分かりました。俺は他のジムに行きますので。……それと、貴女方のポケモンたちを労わってやって下さい。怪我を負ったのは他の誰でもない、トレーナーの為ですから」
そういってサトシはこのジムから立ち去ろうとした。彼は療養しているこのジムのポケモンたちの為に身を引いた。トレーナーの責務とか
……しかし、ここのジムトレーナーは3人だけじゃない。
「待ちなさいよ! ここに戦えるジムトレーナーはいるわ! 」
バトルフィールドに入って来たのは1人の少女。トキワシティでロケット団を相手に敗北したトレーナー。サトシはその姿を覚えている。
「誰かと思えば、あの時のトレーナーか」
「そういうあんたはあたしの手柄を横取りしたオジャマムシ! 」
急に罵倒されて頭にきたのか、サトシの表情はみるみる強張っていく。人のことをオジャマムシ扱いするのはゲーム通りだが、こんなところまで再現しなくても良かったのではないかと思わずにはいられないだろう。
「随分と酷いこというじゃないか。なんだ、あの時勝てなかったのがよっぽど悔しかったのか? 」
「く、悔しいですって!? あんな卑怯なことしてよく偉そうなこと言えるわね!! 」
ケンカ腰のサトシに対して、カスミは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「サクラ姉さん! ジム戦はあたしがやるから、このバトルフィールド使わせて! 」
「別にいいけど。それよりもカスミ、貴女確か立派なトレーナーになるまで帰って来ないって言ってたじゃない。なのにどうしてこんな早く帰ってきたのかしら? 」
「それは、その……」
何やらこの4姉妹には事情があったらしく、今まで末っ子のカスミは家出中だったとのこと。
「どーせカスミのことよ。スイクンの目撃情報を聞いてここに戻ってきたんじゃないの? 」
「ありえるー! 私たち美人3姉妹よりも水タイプのポケモンに目が無いのよねー! 」
「そそそ、そんなワケ無いじゃないっ!! 」
サトシは聞かなかったことにした。下手にウネルミナモのこと喋ってもロクなことにならないのは解り切っている。だからさっさとバトルに移ることにした。
「おいおい、姉妹喧嘩なら後にしな! そっちのメスガキが俺の相手をするんだろう!? 」
「ふ、フン! 威勢だけは一人前のようね! あんたバッジはいくつ!? 」
「1個だ! 」
「なら3対3よ! 使う技の制限は無し! シングルバトルで相手のポケモンを全て戦闘不能にした方が勝ちになるわ! 」
「上等だ! 」
サトシとカスミ、それぞれが向かい合うようにプールの端へと移動する。この時点で彼女はジムトレーナーとしての役目を理解していないように見えるが、今の今まで修行していたらしいからサトシは大目に見ている。
「手加減は一切抜きよ! あたしのポリシーは水タイプのポケモンで、攻めて攻めて、攻めまくるのだから! 」
カスミは背負っていたバッグを床に投げ捨て、両手で自らのほっぺたを叩く。そしてポケットからボールを取り出した。
ジムトレーナーの カスミが しょうぶを しかけてきた!
ここのバトルフィールドは広大なプール。泳げないポケモンは水の上に浮かんでいる足場を利用して戦うしかない。しかし両者は関係無いと言わんばかりにポケモンを出す。カスミはトサキントを、サトシはオニスズメをボールから出した。
「トサキント、『みずのはどう』よ! 」
「オニスズメ、『つばめがえし』で真っ直ぐ突っ込め! 」
飛んでいる相手に遠距離攻撃をする為か、トサキントは角から『みずのはどう』を放つ。それに対し、オニスズメは被弾しながらも真っ直ぐ突き進んだ。
「馬鹿じゃないの? わざわざ攻撃にぶつかってくるなんて」
「クケーッ! 」
「――うっそ!? 攻撃は当たったはずよ!? 」
ダメージを受けてもなお、オニスズメはトサキントに向かって突き進む。サトシからしてみれば特に何の問題も無い。そもそもトサキントのとくこう値が低いから、『みずのはどう』を受けても大したダメージにならないだけだ。
そしてオニスズメのクチバシがトサキントの身体に直撃し、切り捨てるように
「今だっ! 『みだれづき』! 」
「コカーッ、クケケケッ!! 」
オニスズメの容赦ない連続攻撃によってトサキントは弱っていく。
「つ、『つのでつく』よ! 」
「『つばめがえし』で止めだ! 」
カスミの指示でトサキントは反撃しようとするが、それよりも早くオニスズメは速く攻撃する……!
一撃が入ったのか、トサキントは戦闘不能になった。急所に当たったとかではない、単純にオニスズメの攻撃が強かっただけだ。
「な、何でよ!? 何でオニスズメの方が」
「速く動けるか、って? オニスズメの方がすばやさが高いってのもあるが、同時に得意なタイプの技を使ったからでもある。まあお前の判断ミスもあるけどな」
トサキントのタイプは水。水タイプの技の『みずのはどう』を放つのは得意だが、ノーマルタイプの技を使うのはそうでもない。練度とかそういう話じゃなく、単純にタイプ一致ボーナスが入るかそうでないかの違いだ。
オニスズメはノーマルと飛行の複合タイプ。そして『つばめがえし』は飛行タイプの技、『みだれづき』はノーマルタイプの技だ。元からそこそこあったすばやさにタイプ一致ボーナスが入った結果、トサキントよりも速く動くことができた。
流石にタケシのイワークより速く動ける訳ではないが、それでもオニスズメはサトシの期待に応えられている。特訓の成果は実っていた。
「だったら! 出番よ、ヒトデマン! 」
カスミが次に出したのは星型のポケモン、ヒトデマン。さっきと同じ水タイプのポケモンだが、問題はそこではない。オニスズメよりもすばやさが高いことだった。
「ヒトデマン、『みずでっぽう』よ! 」
「ヘアッ! 」
さっきのトサキントよりも高い火力の技が放たれる。『みずでっぽう』よりも『みずのはどう』の方が火力は出るが、それを抜きにしてもヒトデマンはとくこう値が高い。おまけにすばやさにボーナスが入っているので、技の速度もケタ違いだ。
「ヤバいぞ、全力で避けるんだ! 」
「クケッ、ケェッ!? 」
サトシの指示もむなしく、オニスズメは重い一撃を受けてしまう。ヒトデマンは『みずでっぽう』を連射していた。頑張って避けようにも水の塊は何度も飛んでくる。
やがてオニスズメは戦闘不能になった。サトシは急いでボールの中に戻す。
「これで1体目。このカスミ様が全力を出せば、あんたのポケモンなんて簡単に倒せるのよ! 」
「だったらプランBだ! 行け、バタフリー! 」
次に出したのは虫と飛行タイプのポケモン、バタフリー。本来ならカスミは虫ポケモンが苦手だが、ちょうちょポケモンにはそれほど嫌ってはいない。
「どんな相手でも楽勝よ! 構わず『みずでっぽう』よ! 」
「バタフリー、『ふきとばし』だ! 」
技は被弾するものの、バタフリーはサトシを信じて耐え忍ぶ。そして強い力で相手のヒトデマンをボールの中に吹き飛ばした。代わりにスターミーがカスミの持っているボールから飛び出す。
「な、何を狙っているのかは知らないけど、無駄よ! スターミー、『みずのはどう』! 」
「『しびれごな』だ! 」
トサキントが使っていたものよりも色濃い波動がスターミーの赤いコアから放たれる。尋常じゃない速さで放たれている為、バタフリーは躱すことを諦め、根性で耐える。
そしてお返しとばかりに
カスミは再度『みずのはどう』を指示し、スターミーの攻撃はバタフリーに直撃した。ちょうちょポケモンは戦闘不能になる。
「これであんたのポケモンは後1匹! もう降参したらどうなの!? 」
「いいや、これで俺の勝利は決まったも同然だ!! 」
そうしてサトシはボールからポッポを出す。ことりポケモンは意気揚々と姿を現した。
「な、何でポッポなのよ!? その赤い奴出しなさいよ!! 」
「そんなの、俺が決めることだろうが!! 」
カスミはコライドンに指を差す。バトル中もずっとサトシの隣で大人しくしていたため、彼の相棒ポケモンではないかと思っていたからだ。
確かにコライドンはサトシの相棒だ。だからといって、古代のパラドックスポケモンを出すかどうかは彼の勝手である。どれだけ相棒が強くても、トレーナーが弱かったら何の意味もない。
サトシにとってこのジム戦は自分が成長するための試練でもある。
「こ、の! スターミー、『みずのはどう』よ! 」
「へ、へ……」
「な、何で動いて」
カスミは指示を出すが、スターミーは身体が痺れて動けなかった。おまけに身体の動きが鈍くなっている。
「ポッポ、まずは『すなかけ』だ! 」
「ポポッ! 」
何故かポッポの足に砂が生じる。そしてその砂をスターミーにかけた。
スターミーの赤いコアは視界を映す役目を持っているため、それを遮られると致命的だろう。やっと出せた『みずのはどう』も見当違いの場所に放っていた。
「し、『しびれごな』は動きを鈍らせるためのものだってこと!? 」
「そして『すなかけ』は命中率を下げるために使った! 俺が何の意味もなく、バタフリーとポッポを出す訳ねーだろ! 」
『ねむりごな』ではなく『しびれごな』だった理由。それはスターミーの長所であるすばやさの高さを殺すためだ。それにねむり状態だと目覚めてしまう可能性があるため、確実に行動させなくする必要があった。
後はなぶるだけ。サトシはポッポに『かぜおこし』を指示し、スターミーを戦闘不能にまで持って行った。
そして、ポッポの身体が突如として光る。これは、進化だ。ことりポケモンはピジョンへと姿を変えた。
「行けるな? 」
「ピジョ! 」
体力は万全。相手のヒトデマンも無傷だが、倒せない相手ではない。
「まだ、まだあたしは負けてない! お願い、ヒトデマン! 」
「へ、ヘアッ! 」
フィールドに出たヒトデマンは動揺を隠しきれていない様だ。尊敬していたスターミーが戦闘不能になってしまったので、心が恐怖に染まっているのだろう。
「ヒトデマン、『みずでっぽう』よ! 」
「『でんこうせっか』で吹っ飛ばせ! 」
ヒトデマンは攻撃しようとするが、ピジョンの行動は速かった。元より『でんこうせっか』は先制攻撃技。この状況においてタイプ一致ボーナスとか関係無く、相手のヒトデマンよりも先に先手が撃てる。
水中なんかに潜らせない。ピジョンは全力で相手にぶつかった。ヒトデマンは宙に吹っ飛ばされたせいで無防備になる。
「今だピジョン! 『かぜおこし』だ! 」
「ピジョオオオオッ!! 」
飛行タイプの特殊攻撃技、『かぜおこし』。この技には「相手が空を飛んでいる状態の時でも攻撃が命中し、ダメージ量も2倍になる」という効果がある。『そらをとぶ』や『とびはねる』を使っている相手ならば火力も期待できるが、この技を好んで使わせているトレーナーは少ない。
しかし、この状況において『かぜおこし』は「宙に飛ばされているヒトデマン」を戦闘不能にまで追い込める必殺技と化していた。それをピジョンは全力で行っている……!
結果、ヒトデマンは戦闘不能になった。この時点でサトシの勝利が決定した。
「う、嘘よ。あたしが負けるなんて……! 」
まさかの大敗北にカスミは腰を抜かしてしまったのか、へたりと倒れる。これには姉2人も慌てて駆け寄った。そしてもう1人がサトシに近づいてくる。
「サトシくんだったかしら? 良い勝負だったわね」
「えっと、妹の心配とかしなくていいのですか? 」
「問題無いわよ。アヤメとボタンがなんとかしてくれるわ。……それよりも、これとこれ」
渡してきたのはブルーバッジとわざマシン。ジム戦で勝利したトレーナーに対するごほうびだ。しかしサトシとしてはカスミの様子が気になる。あのままだとロクに成長できない気がするが……。
とりあえず、気にしないことにした。関わり過ぎて下手な火傷をするよりは、一刻も早く他所に移動すれば安全だろう。そう思って彼は今後のプランについて考える。
「バッジは2個ね。ならレベル30までのポケモンならいうこと聞いてくれるわ。それにブルーバッジは持っているだけでも、水タイプの技を少しだけ強化してくれるの」
「あ、ありがとうございます」
「それとこのわざマシンをポケモンに使えば『みずのはどう』を覚えさせることができるわよ。運が良ければ相手を混乱させられるから、とても便利な技なの」
義務だからか、ジムトレーナーの女性はブルーバッジとわざマシンの説明をした。知っている内容だったので、彼は話半分で聞いている。『みずのはどう』は、……今の所使い道が無いので死蔵になる可能性は高いが。
「最後にカスミのことだけど、気にしなくていいからね? 」
「わ、分かりました。……それでは、これで失礼します」
これでハナダシティに用は無くなった。貰ったアイテムをそれぞれのケースに入れる。この時のサトシは疲れていたのか、速足でポケモンセンターに向かった。