サトシと翼の王   作:ヴィット

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 5番道路、ハナダシティとヤマブキシティの間に位置する。

 

 現在、サトシはコライドンの背に乗って南へと向かっている途中だった。しかし何故か森の中で彷徨う羽目になっている。……原因は野生のニャースを見かけたから、サトシはついでにゲットしようと思ってしまったからだ。

 

 逃げようとするニャースに近づき、近くに落ちている石を投げる。そしていざボールを投げようとしたところで、親だと思われるペルシアンが怒りの表情浮かべて襲い掛かってきた。

 

 当然ながらノーマルタイプのペルシアンではコライドンに勝つことなど不可能だ。彼の『ドレインパンチ』を受けてシャムネコポケモンは遠くへと吹っ飛ばされる。……これでニャースをゲットできると思っていた時に、なんと逃げられてしまったのだ。

 

 止せばいいのに、サトシはニャースをゲットすべく片っ端から森の中を散策し始めた。トキワの森でビードルを諦めたのはスピアーの群れに警戒されていたからであり、別にペルシアンは群れて行動するポケモンではない。

 

 だからゲットできるのなら捕まえてようの感覚で彼は時間をかけた。しかし残念なことにニャースは見つからなかった。恐らくあの親子以外にニャース系統は居なかったのだろう。

 

 無我夢中になっていたので、彼らは道に迷ってしまう。これには手持ちのポケモンたちも(あき)れるしかない。

 

「やっぱりロケット団から直接奪い取るか? でもバッジの数とか関係なく、すっごい反抗されそうなんだよな……」

 

 ポケモンはゲットした際のレベルが高過ぎると言うことを聞かない。だがジムバッジを持っていれば特定レベルまでのポケモンが言うことを聞くようになる。……しかしこの世界ではそれは「自分の手でゲットしたポケモン」にのみ適用される。

 

 交換して得たポケモンか無理矢理他所から奪ったポケモンではどうしても悪感情を持たれてしまう。例えどんなにトレーナーが優秀だったとしても、それは変わらない。いくつジムバッジを持っていようと無意味だ。

 

 ロケット団のニャースは、多分「おや」がサカキなのだろう。それ以外のトレーナーの指示など聞く耳も持たない筈だ。例えムサシとコジロウに特別な感情を抱いている場合でもそこは変わらないと思われる。恐らくサカキが事故で死亡したとかでもない限り、鞍替(くらが)えは無い。

 

「そう考えればジムバッジ作った奴は偉大だよな。8つで確かレベル60以下で捕まえたポケモンがトレーナーの指示を無条件に聞くんだったか」

 

 ハナダシティで購入した「おとくなざっし」というアイテム。これはフレンドリィショップで販売していたトレーナー専用の雑誌だ。育成論やジムリーダーの情報なども書かれてあるが、サトシが一番注目しているのはジムバッジのことだ。

 

 ゲットした時のレベルが61以上のポケモンは矜持(プライド)が高過ぎていうこと聞かない。理由は諸説あるが、「命令されるのが一番嫌い」だと思われるから。そして伝説のポケモンのレベルは殆どが65から70くらい。

 

 ……例えジムバッジを8つ集めてもウネルミナモは指示など聞かないだろう。上記の情報を知った時、判明した最悪の事実にサトシはげんなりしてしまった。

 

「今は別のこと考えよう。ヤマブキシティへの方角は」

 

 嫌な現実から逃避すべく、サトシは気持ちを切り替えようと周囲を見渡す。太陽の位置さえ分かればどこが南なのか知ることができる。……しかし空は(くも)りどころか雨が降るかもしれないという悪天候。

 

 ……サトシは諦めて道を探すことにした。今日の彼はダメかもしれない。

 

「……ん? あれは」

 

 サトシは岩の上に何かを見つけた。コライドンもそれに習って彼の視線の先を見る。

 

「コライドン、俺はどうすりゃいいんだ? 」

「グググ……? 」

 

 カントー御三家が1匹、ヒトカゲ。オレンジ色の皮膚を持ち、尻尾に炎を灯している。

 

 アニメに登場した「トレーナーに捨てられたポケモン」だ。当然サトシは覚えていた。ヒトカゲを弱いから捨てたトレーナーの名前は、……今はどうでもいい情報だ。

 

 サトシは岩に近づく。最初はヒトカゲも不審がったが、彼が手に持っているモノを見て不思議に覚えたのだろう。そんな彼らをコライドンは納得の表情で見守っている。

 

「風邪、引くなよ」

 

 サトシは折り畳み傘を開き、それをヒトカゲに持たせた。とかげポケモンは尻尾の炎が消えると死んでしまう。……雨が降りそうな天気だ。だから見捨てることなどしない。

 

 ヒトカゲの意思はある程度(おもんばか)ってのことだ。無理矢理連れて行こうとしても駄目だ。あくまでも迎えが来るまで待つことがヒトカゲの望みだからだ。

 

 お節介はこれで済んだ。森の中にはきのみなどの食料もある。少なくとも生存は可能だ。

 

「行くぞ、コライドン」

「アギャ」

 

 彼らは先を急ぐ。それをヒトカゲは呆けた表情で見ていた。

 

 

 * * *

 

 

 森の中を彷徨(さまよ)っている途中で雨が降る。だがコライドンのずば抜けた視力のお陰でポケモンセンターを見つけることができた。

 

 コライドンと共に室内で休む。その際、サトシは夕食を取ることも無く、ある方向を見ていた。

 

 ガラの悪い不良の集まりだ。机の上に大量のモンスターボールを置いており、大声で騒いでいる。

 

「さすがダイスケさん」

「でもヒトカゲは持ってないんだろ? 」

「そりゃ持ってたさ。でもオレのヒトカゲってさ。めちゃ弱っちいでさ。ニョロモ相手に全く手足も出ねぇの」

 

 頭にサングラスを乗せた男。ダイスケ。原作通りであればヒトカゲを捨てたトレーナーである。

 

「それで、そのヒトカゲはどーしたんだ? 」

「ああ、(とうげ)に捨ててきちゃった。馬鹿なヤツだよ。捨てても捨てても着いて来やがるんだよ。だから―――」

 

 おもしろおかしくポケモンを捨てた話をする連中。そんな彼らにサトシは苛立つ、どころではない。強く(こぶし)を握りしめる。彼は静かな激情を抑えていたが、とうとう我慢できなくなってしまった。

 

「全力だ。やれ、コライドン」

 

 サトシの指示をコライドンは即座に実行する。『こうそくいどう』によるすばやさのランク上昇をした後、超スピードで不良共に接近する。

 

「な、何だコ―――」

「ギャオオオオオオオオッ!!!! 」

「がっ……!? 」

 

 咆哮(ほうこう)と共に放たれる一撃、『げきりん』。現在コライドンが覚えている技の中で一番火力があり、大抵のポケモンは瀕死(ひんし)にまで持ってかれるだろう。

 

 しかもこの『げきりん』という技は使っているコライドンが混乱するまで自然に止まることも無い。つまり、相手が戦闘不能になってもこの攻撃は終わらない。『げきりん』を止める手段はトレーナーがボールに戻すことのみ。

 

 だからサトシは今の今までコライドンに全力を出させなかった。相手を倒すだけなら『ドレインパンチ』や『ドラゴンクロー』だけで充分だったからだ。

 

「ああっ!? ダイスケさ、ぐぼぁ!? 」

「て、テメェ何しやが、ひぎゃっ!? 」

 

 コライドンを止めようとして周囲の不良たちも取り押さえようとするが、暴力の波が彼らを吹っ飛ばした。無慈悲なことに()()のみを集中して攻撃しまくっている。

 

 ジョーイさんが止めに入ろうとするが、サトシは彼女を羽交い絞めにした。この状態のコライドンに近づけば死んでしまうかもしれないからだ。

 

 ようやく『げきりん』は終わり、コライドンは混乱状態になる。このタイミングでサトシはボールに戻し、急いで外に出た。

 

 大雨の中をたった1人で走る。布面積の広い傘を持たせたから生存率は上がっているが、それでも命の危機には違いない。雨水は防げても身体が冷えてしまったら死ぬのに変わりないからだ。

 

「要らぬお節介はしないって思ってはいたけど、気が変わった。俺は救うぞ! 」

 

 逃げ足も速ければ走ることも得意にはなる。サトシは全力で駆け抜けた。

 

 峠の岩に辿り着き、雨風に耐えているヒトカゲの下に駆け寄る。そしてボールからコライドンを出して騎乗した。

 

「混乱から回復してばかりで悪いが、頼むぞ!! 」

「アギャス!! 」

 

 悪路なんて関係無いと言わんばかりにコライドンは疾走(しっそう)した。ライドポケモンの中で1、2を争うレベルのスピードだ。サトシは傘を盾にヒトカゲを守る。槍のように襲い掛かってくる雨水を一生懸命防ぎ、己の身体でとかげポケモンの体温を保つ。

 

 ようやくポケモンセンターに辿り着いたサトシは直ぐにポケモン回復マシンに駆け寄る。ジョーイさんが憤怒(ふんど)の表情でサトシに近寄ろうとするが、弱っているヒトカゲを見て悲鳴を上げる。

 

 すぐさまサトシからヒトカゲを奪い、ジョーイさんは弱っているポケモンの治療を始めた。

 

 

 * * *

 

 

 朝になり、サトシはジョーイさんに駆け寄る。当然、助けたヒトカゲの安否を確認するためだ。しかし彼女は凄く怒っていた。

 

「昨日のあなたのポケモンの行動は何なの!? テーブルも椅子も、床も滅茶苦茶! 他のお客様に被害が出てしまっているし、どうしてこんなことしたの!? 」

 

 この一件で一番の被害者はジョーイさんだ。自分が運営しているポケモンセンターでポケモンが暴走したという事故が起こってしまった。下手すれば閉鎖もありえる。だからコライドンに怯えつつも、サトシに怒りをぶつけていた。

 

「申し訳ありません。俺が悪かったです」

「ならちゃんと手持ちのポケモンを管理しなさいっ! 」

 

 形だけでもサトシは反省する。周囲を見れば、隠れてこちらを見ている不良たちの姿もあったのだろう。彼らの冷えた視線は全てサトシとコライドンに向けられていた。当然だが、彼らの中にサングラスの男の姿は無かった。

 

「ところで、ヒトカゲの様子は? 」

「ああ、あの子なら外に出て行ったわよ」

 

 それを聞いてサトシは全速力で外に出る。そのままコライドンに乗り、峠まで駆け抜けた。途中でロケット団の3者を()いてしまったが、どうせ彼らは無事だろうから、降りずにそのまま向かうことにする。

 

 道を走っているとヒトカゲの姿が見えた。当然、コライドンは立ち止まる。

 

「ちょっと待ってくれないか? お前と話がしたいんだが」

「カゲ? 」

 

 声をかけられてヒトカゲは頭を(かし)げる。無視しなかったのは、サトシに恩があったからだろう。渡された折り畳み傘が無かったら命を落としていたのかもしれない。だからとかげポケモンは話くらいちゃんと聞こうと思っていた。

 

「お前は、自分のトレーナーを待っているんだよな? 」

「カゲ」

 

 彼の問いにヒトカゲは頷く。それを見たサトシはポケットからボイスレコーダーを取り出した。

 

『でもオレのヒトカゲってさ。めちゃ弱っちいでさ。ニョロモ相手に全く手足も出ねぇの』

『それで、そのヒトカゲはどーしたんだ? 』

『ああ、(とうげ)に捨ててきちゃった。馬鹿なヤツだよ。捨てても捨てても着いて来やがるんだよ』

 

 あったのは昨日のポケモンセンターでの会話。不良たちは騒いでいたので、ボイスレコーダーはちゃんと録音できていた。聞いているだけでイライラする会話内容だったが、サトシからしてみればヒトカゲをゲットできる名分を手に入れたようなものである。

 

「カ、カゲッ!? 」

「残酷なことを言うが、お前のトレーナーはお前を見捨てた。迎えに来てはくれないぞ」

「カ、ゲ……」

 

 当然、ヒトカゲは落ち込んだ。本気でトレーナーのことを信じていた様だ。

 

「その証拠に今になってもやって来ない。姿すら見せねぇ。そんな奴をお前はこれから先ずっと待つのか? 」

「……」

 

 サトシの話にヒトカゲは黙って項垂(うなだ)れる。もう何を信じればいいのか解らないのだ。人間に裏切られたポケモンは他の人間に悪感情、猜疑心を抱く。

 

 原作アニメのリザードンがサトシの指示を聞かなかった最大の理由は「不信感」にあった。ボールの中から彼の行動を見ていたヒトカゲは何度もショックを受け、リザードンになった頃にはトレーナーであるサトシを見限っていた。

 

「俺はポケモンマスターになりたい」

「カゲ? 」

 

 いきなり自分語りを始めるサトシを見てヒトカゲは困惑する。

 

「とある四天王が言っていた。……強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てるように頑張るべき。……ポケモンマスターになるためには、色んなポケモンを育てて勝たせることができるトレーナーにしかなれない」

 

 サトシは力説する。まず自分が何を目指しているのかを話しておかないと意味がないからだ。

 

「なあ、俺の夢に着いて来てくれるか? 痛くて苦しくて、そんな怖い思いをするかもしれないけど、最後には笑い合えると思うんだ。俺たちは他の誰よりも強くなれたんだって。お前も、俺も」

 

 そして勧誘に入った。他にも言いたいことは沢山あるが、頭の中で整理することは苦手だった。だから彼は自分の気持ちに正直になる。恐れず、真正面からぶつかっていく姿勢はサトシにとっての理想だ。それを目の前のポケモンに見せようと胸を張る。

 

「俺の隣りにコライドンという相棒がいるし、フシギソウやバタフリー、ピジョンにオニスズメといった仲間たちも、研究所にもたくさんの仲間がいる。ウネルミナモという問題児もいるけど、これでも俺のポケモンだ。俺は誰も見捨てるつもりはねぇ」

「アギャス」

 

 コライドンも頷く。そんな彼らの姿をヒトカゲは真剣な眼差しで見つめる。

 

「なあ。もう一度だけ、人間を信じてくれないか? 」

 

 ……この後、サトシのポケモン図鑑の「つかまえた数」が1匹増えた。

 

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